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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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5.主人公失格②

次の日、またレイたちが魔物討伐に出てしばらくした頃を見計らい、ピップとポールの二人の純戦士がショウのいるキャンプを訪ねてきた。


「よう坊主、しっかりやったか?」


ショウが返答をする前に、ポールは置いてあった袋を乱雑に引き寄せ、中から武具や防具を取り出した。すべて、ショウが一日のうちに修理したものである。


「ほう、まあ合格だな」


「お代は?」


「あぁ?」


ピップは気だるげな顔で首をかしげ、後頭部を掻いていた。


「これから取りに行くんだよ。ちょっと待ってろよ」


ショウは黙り込む。


「細かいことを言うなよ。お前、どうせ新人だろ? 修行のために俺たちが仕事をくれてるってわけだ。逆にこっちが金を取りたいくらいさ」


ピップは怒声まじりの調子で脅し、ポールはショウの首元に短剣を突きつけ、鋭い目つきで睨みつけてきた。


「………」


「けっ、何も言い返さねえのか。小せぇ野郎だな。じゃあ次はこれ、よろしくな」


白い袋に入った新たな武具と農具が、金床の上にどさりと金属音を立てて置かれる。


結局この日も料金は支払われず、ピップとポールはそのまま去っていった。


ショウは「やっぱりか」とため息交じりにつぶやくと、押し付けられた武具や防具の修理を静かに始めた。この日のことも、レイたちには報告しなかった。


そして、ショウがピップとポールに会ってから三日目。ついに、「こと」が起きた。


「ふん、合格だな?」


ピップが袋から武具と防具を取り出し、チェックをしていく。


「あの、お代は……」


「お前、まだ言うか」


ポールが短剣を抜き、脅す構えを取った。


「お代をもらえないと困ります。もう二日も未払いなんです」


いつもなら引き下がっていたショウが、はっきりと反論を始めた。


ピップは一瞬気圧されたが、大げさに一歩踏み出し、高圧的な態度で返す。


「お前、俺たちの“合格”って言葉に調子づいてるんじゃねえだろうな? いいか、合格ってのは俺たちが新人に優しいからだ。こんなもん、市場じゃ価値ねえんだよ」


「それは本当でしょうか」


「あぁん? まだ言うか?」


「それにしては、僕の鍛え直した武具を市場で、地元の鍛冶屋と遜色ない値で取引していますよね?」


「なっ……お前、どこでそれを……」


「そのことに関しては問いません。ただ、報酬はいただきたい。技術に対する賃金がもらえないと困るんです」


ピップの額に青筋が浮かぶ。


「お前、何度も言わせるなよ。俺たちの指示どおり修行してりゃいいんだ。経験を積ませてもらってんだぞ。これを続けていれば、大きな仕事も請け負えるだろうさ」


「……払う気はないということですか」


「………どうやら、痛い目を見ないとわからねえらしいな」


「そうですか……交渉は」


――決裂ですね、とショウが言ったその瞬間、草むらから現れた傭兵たちがピップとポールに弓を向けて取り囲んだ。


「なっ!?」


「そこまでだ、二人とも」


傭兵たちの背後から現れたのは、ミスターシャ傭兵ギルドのギルドマスターだった。


「聞くところによれば、お前たちは彼に不当な労働を強い、市場で売り捌いて相場を荒らしていると聞く」


身長2メートル近く、全身を筋肉で覆われたギルドマスターが放つ威圧感に、ピップとポールはすっかり気圧され、拘束にも抵抗を見せなかった。


「さらには元となった武具は、亡くなった傭兵たちの遺品だという。罪は重いぞ」


「な、なぜ……それを」


ピップがショウの方を振り返る。


「おい! お前!」


拘束されながらも暴れ、怒声と罵声を上げるピップに、ショウは答えず、ただ無表情に地面を見つめ続けていた。


「お前が鑑定して、ギルドに通報したんだろ!!」


ミスターシャの巨体ギルドマスターも加わり、地に押さえつけられながらも、ピップは泥に汚れた顔を上げ、叫び続ける。


「姑息なことしやがって!!! 卑怯だぞ、ふざけんな!!」


「………」


いくら抑えられ、殴られても、ピップは罵倒をやめようとしなかった。


――キィィィィィンッ!


突如、甲高い金属音が鳴り響いた。


「キエエエエエエェェェェェェェエエイ!!!!」


拘束を振り払ったポールが短剣を握りしめ、ショウに向かって突進する。


ピップの拘束に人手を割かれたことで、他の傭兵たちの対応が遅れ、無防備なショウに短剣が迫った。


「しまった!」


弓を構えていた傭兵が矢を放つ。


ショウの近くにあった円盤――機械仕掛けの小盾が作動し、矢を防いだ。


だが、短剣はそのままショウに迫る。


刹那、ショウは身を屈め、ポールの長い腕を肩に乗せ、背負い投げを繰り出した。


「ぐふっ」


勢いを利用されたポールは地面に叩きつけられ、口から液体を吐き気絶。


それを見たピップもおとなしくなり、二人は傭兵たちに連行された。


「ご協力、感謝します。彼らは日頃から問題を起こしていたので、国が動く前にギルドで身柄を押さえたかったのです。おかげで証拠も得られました」


ミスターシャ傭兵ギルドのギルドマスターが、連れて行かれるピップとポールを見送りながらショウに礼を述べた。


ショウは、彼らに渡された武具を一つひとつ精査・記録し、ギルドに提出していた。

亡くなった傭兵たちの遺失物と一致し、盗品と認定されたのだ。


「彼らはどう処分されますか?」


「一応初犯という扱いなので、降格処分と罰金です。従わなければ永久追放でしょう」


「そうですか……」


「未払い分も、彼らの財布からきちんとお返しします」


「いえ、いいです」


「え、いいのですか?」


「ええ。なんだか、受け取る気分じゃないんです。それに、彼らに罪があっても、道具に罪はありません。元の持ち主に返してもらえれば、それで」


「は、はぁ……」


ギルドマスターは釈然としない様子で頷き、もう一度礼を言うとその場を後にした。


***


「一苦労だったな」


「ゴルード……」


傭兵たちがピップとポールを連行し終えた頃、ゴルードが姿を現した。


「キャンプに何かいるかもしれないと、ガーネットから報告を受けてな。気になって来てみたんだ」


「……見ていたのか」


ショウは視線をそらす。


「安心しろ。お前のやり方を非難するつもりはない。奴らを懲らしめるには、最も穏便で効果的な方法だった。もっとも、レイやガーネットが見たら“卑怯だ”と言うかもしれんがな」


対話を拒み、裏で証拠を集めて強制排除する。悪役が選びそうな手法であり、胸を張れるやり方ではない。


だが、そもそも話し合いとは、相互の尊重と対等な立場があって初めて成立する。


現実として、ピップとポールにはショウの言葉は届かなかった。


「でしょうね。レイなら、あの二人にも対話を試みそうだ」


「間違いない。レイは優しいからな。だからこそ、ガーネットもレイの元に付いたのかもしれんな」


「……」


ガーネットとの喧嘩を思い出し、ショウの表情が曇る。


「ガーネットのことだが、気を悪くしないでくれ。彼女は常にあんな感じだ。魔術の素養が高すぎて、魔力と一緒に相手の感情まで読めてしまうんだ」


「……まさか、そこまでとは」


「言葉の裏に隠された本音、怒りや憎しみの感情……彼女は幼い頃からそれにさらされ続けてきた。人を信用できなくなるのも仕方のないことだ」


その副作用で精神を病む魔導師も多い。


「ガーネットには、俺からもよく言っておく。二人が仲直りできるようにな」


「すみません……」


「俺に謝るな。その言葉は、彼女にとっておけ」


「はい……」


その後、ピップとポールは罰金刑を受け、大して苦しまずに釈放された。


彼らがショウに復讐することはなかった。


理由は定かではないが、ショウが正式に工賃を請求せず、重い処罰も望まなかったことを知り、張り合う気持ちが失せたのだろう。


こうしてショウは、穏便かつ確実に問題を解決することに成功した。


――もっとも、それは「主人公らしい」やり方ではなかったのだが。

Tips 傭兵ギルドの面倒な仕事

傭兵達の中には不正を働き犯罪を犯すものもいる。

傭兵ギルドは、そのような不届き者を拘束し、国に引き渡す面倒な仕事もしている。

治安が悪い国では、国から一部警察権を与えられている傭兵ギルドもあり、

牢屋が隣接していたりする。

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