閑話1 ミーシャの妄想
ショウがドアから出ていくのを見送ったあと、私はしばらく恋愛小説を読みふけっていた。けれど、ふと彼が残していった手紙のことを思い出す。
……お父さん宛の“秘密の文”、気になる、気になるわ。
ここまで気になってしまえば、もう中身を確認しないことには気が済まない。
私はそっと鍵付きの引き出しへ近づく。そこは重要な書類を保管するための場所で、この鍵を持っているのはお父さんと、彼がもっとも信頼する技術者――ショウだけ。
ふふ、まったく、お父さんって甘いんだから。
私は薄く笑いながら、密かに作っていた合鍵をポケットから取り出す。型を取って、こっそり作ってもらっておいたのだ。
きっと、あの手紙にはショウとお父さんの関係がわかる手がかりが書かれている。
ショウは「ただの上司と部下だよ」と言っていたけど、そんなはずはない。
私と年齢がほとんど変わらない彼が、なぜあそこまで信頼されているのか――。
鍵穴に手をかけながら、私はある感情に気づく。
それは、たぶん嫉妬だ。
私は物心がつく前に母を亡くし、父に男手ひとつで育てられてきた。
仕事が忙しい父に代わって、ショウが遊び相手になってくれたこともある。だから私は、二人と長い時間を過ごしてきた。
けれど――その二人が、自分に何かを隠している。
その事実が、胸の奥をチクチクと刺してくる。
鍵を回すと、カチャリと錠が外れる音がした。
引き出しに手をかけると、自分の手が緊張で汗ばんでいることに気づく。
緊張……緊張? ――まさか、これって……“寵愛”?
頭の中に、さっき読んでいた恋愛小説の影響で、ピンク色の妄想がわき上がる。
ちょうどポトフとショウくらいの年齢差のラブシーンだった――。
私の妄想は加速する。
まんまるに肥えた狸腹の中年――父であるポトフと、鍛えられた肉体を持つ若者――ショウ。
ピンク色の背景にサックスの音色が流れる中、ふたりは裸で煽情的に見つめ合い、ゆっくりと距離を――。
ダメだってば!
ボフッと顔が熱くなり、頭の中に湯気が立ちのぼる。
引き出しの持ち手にかけた手が動かない。
もしかして中にあるのは、父への恋文のようなものだったら――。
鍵を開けたのは良いけれど、本当に見ていいの?
もし本当にそうだったら、私はこれから父の顔をどうやって見ればいいの?
……でも、やっぱり見たい。
ここで引き下がってはダメよ。
もしもショウが本当に父の“特別”な存在だというなら、娘として止めなきゃ。
お父さんが愛していいのは、妻だったお母さんと、娘である私だけなんだから!
ええい、ままよ!
高鳴る鼓動を抑えながら、私は勇気を出して引き出しを開き、震える手で手紙を取り出す。
――これって……。
中身に目を通した瞬間、ピンク色の妄想は一瞬で吹き飛んだ。
見覚えのある名前がずらりと並んでいる。私は、目を細める。
Tips ミーシャ・フラウラ
153cm 43kg 肩までかかる綺麗な青い髪を持ち、エメラルドのような透き通った瞳を持つ。
アルマス社ミスターシャ支社長ポトフの一人娘であり、アルマス社の非常勤社員(という名のニート)。
社員たちからは、マスコット的な存在として扱われている。
母親は、彼女が3歳になるときに亡くなった。




