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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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23 俺の失敗

「レイーシャを…斬る!」


傭兵集会所に入ると同時にクリノスはそう言い放つと、立てかけてあった自分の鎧つけ始めた。


(おさ)、一体どうしちまったんだい!?」


長斧の戦士が尋ねた。


「…ウルサイ」


「ひっ」


この世の恨み全てを込めたようなドスの効いた声に、長斧の戦士は怯えた子犬のように後ろに下がった。他の傭兵達も、切れモノに触れぬというようにクリノスを怯えながら眺めている。


「ショウ、これは一体どういうことじゃ?」


「………」


ショウはうつ向いたまま答えない。


「何を黙っておる! ショウ、お主知っておるのじゃろう!?」


「………」


身体を揺らされても、ショウは押し黙り、状況を整理しようとしていた。


「もともと我らが光の戦士、レイーシャ・ミスターシャとの仲が悪かったのはご存知の通りでしょう」

レントス工場長の疑問に答えたのは、クリノスの後から集会所に入ってきた青年魔導師であった。


「それは、そうじゃったが……だからといってあれほどまでに怒る事ではないじゃろう」


「今日、議事堂から通達があったんですよ」


彼の話によると、クリノスという火山が大爆発する引き金を引く原因を作ったのは、前の魔導砲破壊事件であった。レイーシャがレントス内に侵入した魔物を軽やかに倒した事により、光の戦士の実力がレントスの国民たちに認知されるようになった。


一方で、クリノスの傭兵部隊は早朝だった故に対応が遅れ、さらに悪いことに前日夜、酒を飲みどんちゃん騒ぎを起こしていた。このことは、クリノス傭兵集団の評価を下げることになり、代わりに光の戦士レイーシャに好感が集まっていた。


「レイーシャが無償で魔物を討伐していることがレントス高官の耳に入ったらしく、レントス傭兵集団に回していた魔物討伐の仕事をレイーシャへ回そうという会話を、クリノスさんはうっかり聞いてしまったんです。それで……」


「そんな噂程度で起こるなど、ありえんわい」


「実際に今起きているんですよ! もしこのままレイーシャを斬る事があったら、本当にクリノス傭兵集団への仕事が消え、僕らは路頭に迷います。とにかく止めないと」


青年魔導師は臆せず、剣を抜き、いざレイーシャを討ちにいかんとするクリノスの前に立った


「クリノスさん、今からどこにいくつもりですか?」


「今からレイを斬りに行く」


「今からですか? 不意打ちになりますよ。それは卑怯だ」


「……」


クリノスの動きが止まる。


「ならば…決闘だ。決闘をレイーシャに申し込む」


「……わかりました」


「さっそく果たし状を書き上げろ。レイーシャが犯した罪を全て記せ」


彼女の普段よりも強い口調からは殺気が漏れ、皆震えあがっている。青年魔導師も平然と対応しているが、腕がガタガタと震えていた。


「ならば、ここの皆の恨みを集め、代表としてクリノスさんが決闘に赴くというようにしましょう。彼への不満は、傭兵集団皆が抱いている事です、皆で一筆書きましょう。そうだろう!? みんな?」


青年魔導師は辺りを見回す。一瞬間が空いた後、青年魔導師の意思をくみ取った傭兵達は「そうだそうだ」と歓声が沸き上がった。それを見たクリノスは一度頷き、抜いていた剣を収めると、来たる決闘に備えるため長斧の戦士の肩を叩き「戦闘訓練だ。つきあえ」と連行した。


「へ?」


助けてくれと言わんばかりに周りに目配せする長斧の戦士に、その場にいた者一同が―レントス工場長でさえも―同情の眼差しを送った。クリノスが去った後、魂が抜けたように青年魔導師は膝を落とし、他の傭兵達が「大丈夫か?」「お前はよくやったよ」と抱え起こした。


「疲れているところすまない」


青年魔導師の前に、ショウが


「あなたは確か……専品部のショウ・アキミネ……」


「ああ。ミスターシャから出向という形でやってきている。そして俺は、レイーシャを良く知っている。少し、話がしたい」


ショウは落ち着いた力強い声で言ったものの、青年魔導師を見ておらず、まるで後ろめたいことがあるかのように、視線が地に吸われていた。





青年魔導師は議事堂にあるショウの執務室に招かれた。中には青年魔導師とショウの他に、カース、ミーシャがいる。アテナは既に就寝しているようだ。議事堂の部屋は、風魔装具のパネルを用いた吸音構造になっており、魔力を流せばパネル間の空気が乱れ、喋り声が全てノイズとなり、秘密の話をするにはもってこいなのだ。


「困ったわね……」


事の詳細を聞いたミーシャそう漏らした。部屋に魔力を流すため、裸足になっている。


「けれど、レイさん……レイーシャ王弟殿下はミスターシャの王族よ。彼を斬るだなんて、レントスからしてみれば相当な大問題じゃない?国が総出を挙げて止めに来るわよ」


レイーシャはミスターシャの王族であり、レントスで叩き斬られてしまったのであればミスターシャとの外交問題は必至。同盟は解かれ、最悪の場合、北のミスターシャと南の魔物の軍勢に挟み撃ちにされ、レントスという国は確実に滅んでしまうのだ。


「暴れだした彼女を誰にも止めることはできません。誰が内輪もめで命を捨てることができますでしょうか?」


「そ、そうなの」とミーシャ震えた声で言った。


「どのくらい持ちそうだ?」


執務机の席に座るショウが聞いた。視線は机に吸われたままだ。


「今は剣を収めてもらっていますが、その場しのぎです。せいぜい持って今夜まででしょう」


「それまでに怒りが収まって冷静な思考に戻るということは、ありそう?……」


ショウが聞く前に、ミーシャが質問を飛ばした。


「ないと思います。クリノスさんがあれほどに怒るのは2回目です」


「1回目ってのは、不正を働いたレントス高官を叩き斬ったとき?」


「いえ、あれとは比べ物になりません。1回目はクリノスさんを慕っていた世話係の女の子が、クリノスさんの目の前で無残に殺されてしまった時でした。クリノスさんの怒りは3日間続き、ようやく収まった時には、感知しただけでも100は超えていた一帯の魔物が全て斃されていました」


「そうなると、なんでクリノスが、仕事が奪われるかもしれない、っていうことだけで怒るのかわからないわ」


「積もり積もった怒りというものがったのかもしれません」


「怒りは時が経てば必ず風化していく者よ。納得がいかないわ。ねえ、クリノスってどういう人なの?」


「そうだな、クリノスは例えれば猛獣。ピンクのたてがみのような髪で、身長はカースにもひけを取らず、あと、所々に傷があったかな」


ショウがクリノスについての特徴を述べてくと、ミーシャの顔がみるみる青ざめていく。


「ミーシャ、大丈夫か?」とショウはミーシャの震える肩に手をやり、声をかけた。


「もしかして、()()()()()()って背中とかに傷とかあったり……」


「何故それを知っているのですか? それは、クリノスさんがもっとも秘密にしたいことであるのに」

ミーシャは「ウソ……」と声にならない言葉を漏らし、頭を抱えてソファーに沈み込んだ。


「だ、大丈夫ですか?」


「ミーシャ、一体どうしたんだ?」


今まで口数も少なく机に視線を落としていたショウは急に座り込んだミーシャを心配し、これまでじっと影に紛れて会話を聞いていたカースも影から身を乗りだしてミーシャを見た。

そして、数時の沈黙が流れた時、ミーシャはばっと起き上がり急いで靴下と靴を履き始めた。


「いったいどこにいくつもりだ?」


「どこって、クリノスのところに決まっているでしょう? 説得しに行くのよ」


ミーシャの返答に、ショウは困惑の色を浮かべた。何故なら、ミーシャはクリノスと面識がない筈もなく、話術があるわけでもないのだ。今のミーシャは、ショウには蛮勇そのもので、まるで昔のレイのように見えた。


「死ぬ気ですか?今のクリノスさんは危険です。女性と言えども、関係無く斬られます」


青年魔導師がミーシャを力づくで止めようと懐から杖を取り出す。だが、青年魔導師が《凍れ》と唱える前に、ミーシャの右手から放たれた魔生糸が青年魔導師の腕を縛り付けた。


ミーシャはバン!と大きな音を立てて廊下に出ると、窓を開けて飛び降りた。


「待て、カース」


カースがミーシャの後を追いかけようとしたのをショウは手で制し、代わりに機械仕掛けの小盾を窓に向かって投げた。


「い、行っちゃいましたよ。あのままだとクリノスさんに斬られます!追いかけましょう!」


「大丈夫、デス。()()が向かったので」


「え、でもあれは、ショウさんが動かしている小盾(バックラー)でしょう?」


「メカバックはしっかりしているから、大丈夫だ」


困惑している青年魔導師にショウはもう一度「大丈夫だから……」と言い、執務室の机の椅子に座り、また視線を机に落とした。


「これは、俺の失敗でもある」


「どういう、ことですか?」と青年魔導師は聞いた。


「クリノスの危険性は全て知っていたし、レイと争っている事も俺は知っていた。だが、俺は他の仕事が忙しいからと、その対処をサボっていたんだ」


「それは、私も同じですよ!」


「それは違う!」とショウは立ち上がった。


「俺は二人の仲を取り持つことができたのかもしれなかったからだ。クリノスの兄、いやクリノス傭兵集団を作り上げたゴルードは、レイに戦闘術を教えていたからだ」


「そうか……そうだったのか……」


と青年魔導師は後ずさる。


「だから、レイーシャはクリノスさんと同じ型を使っていたのか……けれど、一切弟子を取ろうとしなかったゴルードさんが、何故……」


はっと気づいた「光の戦士、だからですか……?」


「それも違う。ゴルードがレイの人柄に惹かれ、真の魔法戦士に育て上げようと誓ったからだ。ゴルードは、そんな宿命程度のモノで動くような安い男ではない」


苦い思い出に耐えるよう、ショウは拳をぎゅっと握って続ける。


「そしてゴルードは、レイを守るために死んだ。ゴルードの妹が、レイを殺そうとしている。弟子同士の殺し合いなど、あってたまるか」


そして、ショウは力の抜けたように再び椅子に座った。


「俺は、クリノスとショウが弟子同士だと、ゴルードがショウを大切に思っていたこととを知りながらも、何もしなかった。できなかった。二人が怖かったからだ……」


まるで、取調室で罪を告白する罪人のようにショウは言い、ショウの執務室に鉛の沈黙が落ちる。外では、問題を知らないレントスの国民たちが、宴会をしている様子が微かに聞こえてきた。

暫くして、その沈黙を破ったのは、カースだ。


「ダンナ。慰めてもらうために、言ったわけではないんでショウ?」


すっと、カースはショウの肩に手を置いた。


「ああ、もちろんだ、もしそうなら、わざわざミーシャがいなくなった時を狙って言い出さない。けれど、そうとう参っていたのは事実だよ」


「ゲ、案外素直ですネ。もっと面白い反応が見れると思ったのですガ」


「事実だからな。素直に受け入れることにしたんだ。それに、まだ打てる策はある」


そういうと、ショウは引き出しから紙とペンとインクを取り出し、何かを書き始めた。


「策があるんですか?」


青年魔導師の問いにショウは答えず、恐るべきスピードで何かを書き上げ、カースに「このリストにある品を急いで買ってきてくれ」と紙を渡した。


カースは書かれている内容をみると、驚いたのか、細い目をかっと開き、そして目をすうっと細めてショウを見た。


「随分とまあ、分の悪い賭けにでました、ネ」


「ああ、柄じゃない。けれど、この騒動を穏便に済ますには、これしか今思いつかったんだ」


「既に店は閉まっていると思いますが、店主を叩き起こせ、と?」


「無理を承知で頼む。その分の手当ては出す。パンテヌを始め、他の斥候を狩りだしてくれ」


カースは「へい」とだけ言い、闇夜に消える。

何が起きようとしているのか全く見当がつかず、あたふたしている青年魔導師にショウは向き「貴方には、クリノスについて詳細に教えて欲しい」と頼んだ。


「具体的には戦い方だ。そういう型を使っているのか、どういう武器が得意なのか、とにかく見たままを教えてくれ」


「クリノスさんとの決闘を進める、ということですか」


「ああそうだ。カースにはその為の道具を大急ぎで集めにいかせた。こちらから果たし状で日時を指定すれば、もう少し時間の猶予が稼げる」


青年魔導師の唇が震え、青筋を立てた。


「それではただ時間を伸ばしているだけですよ、何の解決にもなっていません。レイーシャとクリノスさんが決闘すれば、僕たちはおしまいです。穏便に済ますとは、僕たちに犠牲になれ、ということだったのですか!」


「違う、そうじゃない! 誰がレイとクリノスを戦わせると言ったんだ!」


「へ?」


青年魔導師の頭に、「(はてな)」マークが浮かぶ。そしてそれが理解を表す「(びっくり)」マークに帰るのに、青年魔導師持つ聡さがあれば数秒かける程度ですんだ・


「ショウさん……まさか……」


「最初に言っただろう。これは俺の失敗だと。だから、俺が責任を取るんだ」

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