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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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4 街下り①(ショウが棺に入る10日前)

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

人は誰しも“堪忍袋かんにんぶくろ”というものを持つ。


怒らない人間などいない。大きな堪忍袋を持つか、その尾をきつく縛っているかの違いでしかない。


ショウは後者のタイプだ。


閉鎖された空間の中で、ショウは仲間からの印象がよくないという悪環境で過ごしてきた。

堪忍袋にストレスが積み上がっていくものの、「二週間は耐え、これ以上の関係を悪化させないよう努める」と尾をきつく縛り、内勤技術者としての職を全うしてきた。


しかしこの日、ボロボロになった魔法剣を見て、ショウの堪忍袋がはじけようとしていた。


「ま、また壊れたのか……」


「ごめんなさい」


魔法剣は壊れやすい。

というのも持ち手の部分に魔装回路を宿しており、打ち合っているとその回路がずれ、途端に不調を引き起こすからだ。


近接戦闘術と魔術を兼ね備えた魔法戦士──聞こえはいいが、器用貧乏から万能へのハードルは高く、不具合も多い。


習熟した魔法戦士なら、なるべく魔法剣に負荷を与えないよう立ち回るのだが、レイはお世辞にも太刀筋が良いとは言えず、無理な方向への荷重が続き、彼の魔法剣は二日で壊れてしまった。


初めは「しょうがないなぁ」と半ば嬉しそうに、ショウは徹夜して修理したのだが──

次はたった一日でまた壊れ、そして今日の朝、新品に替え、不良品でないことをしっかり確認した。


そして、目の前にあるのはガラクタと化した魔法剣である。


信じて送り出した新品魔法剣が、レイの手によってたった半日で朽ちてしまったのだ。


「きちんと調整をしていないからこうなるんだ。昨日、ちゃんと教えたじゃないか」


「う、うん……」


「魔物が怖くて、剣に余計な負荷をかけないように立ち回ることができないというのはわかる。けれど、道中でメンテナンスができないということはないはずだ」


ショウは不愉快を露わにしており、レイは俯いている。


ショウが怒る原因はもう一つあった。


それは、レイ自身の魔法剣士としての心の持ち方である。


何度も魔法剣が壊れるのは、魔法剣が精密機械だという理由もあるが、レイの剣さばきにも問題がある。魔法剣に負荷をかけすぎなのだ。


ゴルードもそのことは理解しており、剣に負荷をかけない方法をレイに率先して教えてはいるが、恐怖が完全に拭われておらず、魔物の前となると型が崩れてしまうという。


ならば──と、新品の魔法剣を託す前夜、ショウは少しでも長く持たせるようにと、道中での調整手法をみっちり教えた。


そのときレイは「わかった」「つまりこういうことなんだね」と理解してくれていたようで、ショウも夜を潰して教えた甲斐があったと思っていた。


が、今日聞いてみると、レイは道中のメンテナンスを怠るどころか、昨日教えたことすら忘れてしまっていたという。


レイは理解したものの、実行には移さず、結果として忘れてしまったのだ。


だからこそ、ショウの堪忍袋が破れ、怒りを露わにしていたのだ。


「それ、おかしいんじゃないの?」


不意の声にショウは身体を震わせる。

説教をしている間に口を挟んだのは、ガーネットだった。


「壊れたものを直すのが、あなたの仕事でしょ。レイさ──レイは一生懸命頑張って、それで魔法剣を壊してしまったのよ。そこまで怒ることないじゃない」


「限度がある。新品を半日で壊されたんだ。注意しなければ、また同じことを繰り返す。そうなれば、レイは武器を失って死ぬことになる」


「それをなんとかするのが、貴方の役目じゃない」


「き が る に い っ て く れ る な ぁ。魔法剣はそんな簡単なものじゃない。魔装具だ。精密機械なんだぞ!」


「知らないわよ!」


「知ってくれ!」


──元来、魔導師は魔装具技術者を目の敵にしている節がある。


なぜなら、魔導師の特権を脅かす存在だからだ。

才があり、家柄があり、富もある者が努力に努力を重ねて習熟できる魔法・魔術を、何の努力もなく誰でも使える装置を魔装具技術者は開発している。


さらに、魔装具技術者は「魔法を極められなかった魔導師の成れの果て」と見なされ、敗北者と蔑む者すら少なくない。


一方で魔装具技術者も、魔導師の保守的すぎる態度に腹を立てているのは確かであり、両者の溝は深い。


「やめろ、二人とも!」


いがみ合う場を制したのは、ゴルードだった。

重圧のかかった鋭い一声に、二人の背筋が伸び、言葉が詰まる。


「レイの魔法剣が壊れてしまった以上、今日の魔物討伐訓練は中止だ。ショウ、どのくらいで直せそうなんだ」


「予備パーツがないから、明日になる。ミスターシャの町に降りればあるはずだ。物資も少なくなってきているし、街まで行ってくるよ」


ショウはなるべくガーネットと目を合わせないようにしながら、荷車を引いてミスターシャの街へと降りていった。

Tips 魔法と魔術、魔導

「魔術」とは、《火炎(ファイア)》などの技を表し、

「魔法」には「魔術」になる前の仕組み、概念や要素が含まれる。

「魔導」には、「魔法」を使う人の心構えなど、哲学的な意味も込められている。


「魔導」と「魔術」「魔法」の違いは、人がいるかいないかで区別できるが、

「魔術」「魔法」の区別は難しく、誤用する人も多いが、二つの言葉の区別を理解している人は少ないので、気にされにくい。


例えば魔装具技術者の「魔術にくらい」という言葉は、自身が魔術をまるっきし使えず才能もないという意味で。魔術の仕組みや概念、要するに「魔法」について理解していないという訳ではない。

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