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秋の味覚

秋も深まった10月の初め。

すっかり寝静まった深夜のこと。

非常事態を告げる警報が鳴り響いた。


「っ!?」


びっくりして飛び起きたわ。

リサとして勤めていたときも、訓練でしか聞いたことないもの。こんな警報。

何事なの?


そのすぐ後よ。

どぉん! と物凄い轟音が響き渡ったのは。


急いで着替えて部屋を出るとおじ様も着替えながら出て来るところだったわ。

「ルナ…」

おじ様は私を見て一瞬躊躇ったようだったけれど、

「行くぞ!」

そう言って手を差し出してくれたの。

大きく頷いて、その手に飛びつくと、おじ様と一緒に廊下を走った。


現場は本部棟だったわ。東側の端っこ、最上階の7階から6階にかけて、まるで裂けるように建物が崩れていた。

あの場所って…。


団長寮は比較的本部棟から近いから、まだあまりひとが来ていなかったわ。おじ様と一緒に7階まで上がると壁を失った端っこの部屋から風が吹き付けていたの。


資料が舞っている。

部屋はひどい有様よ。屋根は吹っ飛んでいるし、天井にも床にも大きな穴が開いているし、壁は裂けているし。設置されていたはずの机や椅子はひしゃげてしまっていて、もう使えそうもないわ。

そして問題なのは…。

おじ様が深刻な怖いお顔でそちらを見ている。

駆けつけて来た他の団長さんもその様子に息を飲んでいるわ。


その部屋は資料庫だったの。

さまざまな資料がしまわれていたわ。より重要なものは金庫に保管されていた。

今、その金庫は。

観音開きの扉が開かれ、中身を露わにしていたの。



すぐにたくさんの人が集まって来たわ。

いったいなにが起こったのかって、みんな口々に言っているの。

隕石が落ちたんじゃないか、とか。爆弾が仕掛けられたのではないか、とか。砲撃されたのではないか、とか。魔法攻撃を受けたのではないか、とか。


爆発物が無い、ということだけ念入りに確認がされて、穴の開いた天井と裂けた壁を複数の魔法士が簡易的に塞いだ。外に飛び散った書類を手分けして集めて、いったん解散となったわ。

深夜だったこともあって、近くにひとはいなかった。巻き込まれて怪我をしたひとがいなかったのは良かったけれど、目撃者もいなくて。


でも、怪我人が全くいなかったわけじゃないわ。正門の警備員さんが昏倒させられていたの。

すぐに手当てを受けて大事には至らなかったけれど。



2日が経って、資料庫が破壊された事件については調査が進められていたわ。

「………………」

事件についてもんもんと考えながら病院の周りを掃き掃除して、集めた枯葉で焼き芋を焼いていたらおじ様がいらしたのよ。


おじ様がおひとりなんて珍しいわ。いつもクルスさんかロンさんが付いているのに。


「おじ様も召し上がる?」

ほくほくに焼き上がった焼き芋を差し出すと、おじ様は一応受け取ってくれたけれど、お芋を手に持ったまま私の隣に腰を下ろしたの。


パチパチと燃える火をしばらく眺めていたおじ様は言ったわ。

「資料庫の件、何か気付いていることがあるんだろう?」

って。

「う…」


ああ。やっぱりバレているわよね…。

でも、これ、難しいわ。

うっかりすると余計なことを喋ってしまいそう。


「今のうちに話せ、ルナ。また、団長会で査問にかけられたいのか?」

「…もう、そこまで話が?」

おじ様はそうならないように言って下さっているのね。

「あれは魔法による攻撃だと調査結果が出た。あれだけのことが出来る魔力の持ち主は限られている。お前にしか出来ない、ということはないだろうが、お前なら容易に出来るだろう、という意見が出ている」

そうか。私が疑われているのね。

「ルナ?」


どうしよう。どう話したらいいかしら。

私もすべてが分かっているわけじゃないし…。


「なんて説明したらいいのか分からないのだけれど」

躊躇いつつ話始めると、おじ様は優しく先を促してくれたわ。

「ああ」

「あれは、白雷の魔女の仕業よ」

「…なに?!」

おじ様はぎょっとしたように私を見たの。

俯く私をしばらく見つめた後、おじ様は大きなため息をついた。

「なぜ魔女が?」

「それが分からないの。ただ、規則上、国に敵対する行為はしないはずなのよね。だから、何か目的があったとしても、国に対する攻撃ではないと思うの。狙ってやったのか、何かの事故なのか…」

それも分からないし。


「ひとつ、聞いてもいいか?」

おじ様がなんとも言えない表情をしているわ。

聞いてもいいのかどうか、本当に迷っているのね。

答えられることを聞いてくださるといいのだけれど。

「なぜ、白雷の魔女がやったと分かる?」

「…………」

それよね。

実は私、白雷の魔女には会ったことがあるの。

お師匠様のもとで修行していたときのことよ。お師匠様に何か用があったらしくて尋ねて来たの。


そのときの用件は分からないけれど、私が修行中だって知って、魔法を見せてくれたのよ。白雷の魔女は名前にもある通り雷を操るのが得意なの。

彼女独自の、雷の魔法を使うわ。

あれはあのとき見せてくれた「雷華撃閃(らいかげきせん)」という魔法だと思う。

可愛らしいけれど浮世離れした方で、あのときも、珍しい魔法を見せたお礼にと私の心臓の血を要求したのよ。

にこにこと微笑みながらね。

あれ、絶対に冗談とかじゃなかったわ。

とても恐ろしかった。


だけどね。

会ったことがある、とか、魔法を見せてもらったことがある、とか、話して平気なものかしら。

お師匠様が誰かは言えないし、それに10年以上も前の話よ。時間経過が不自然になってしまったら困るわ。

加えて、私、白雷の魔女に再会してしまうことは避けなければいけないと思うの。

だって、いくらなんでも魔女にはバレちゃうわよ。

私にかけられた魔法のこと。

私が10年以上前にお師匠様のところで会った少女だということもね。


おじ様は答えない私の頭にぽん、と優しく手を置いたわ。


「とりあえず、魔法士長殿に報告する。いいな?」

おじ様の言葉に私は頷いたわ。そうするべきだと私も思うから。



「白雷の魔女?!」

おじ様と2人で魔法士長さまの執務室を訪ねて白雷の魔女の話をすると、魔法士長さまはそう言って絶句してしまったわ。


少ししてから魔法士長さまはゆっくりと息をついて、

「白雷の魔女については、「少し前から奇行多し」と他の魔女から報告を受けたばかりです」

と言ったわ。


奇行多し?


「どういうことです?」

おじ様に問われて魔法士長さまは首を横に振った。

「よく分からないのです。ただ、こちらに好意的な魔女の情報では、何か悩んでいるようだ、と」


悩んでる? 悩んで、そして本部棟を破壊したの?


魔法士長さまは私を見て言ったわ。

「ルナは、白雷の魔女と交流があるのですか? 直接話をすることは出来ますか?」

ぶるぶるぶるっ。

勘弁してください、魔法士長さま。

勢いよく首を横に振って言ってしまったわ。

「心臓の血を寄越せと言われたことがあります。恐ろしくてお会いしたくありません」

魔法士長さまは痛ましそうに私を見たの。

「小さな子になんてことを。白雷の魔女のことは例の魔女にもう少し詳しいことを教えてもらえないかお願いしてみましょう」


嫌なことを思い出させてすみません、と魔法士長さまはおっしゃって、温かい紅茶を出してくれたわ。

柔らかな紅茶の香りは心を落ち着かせてくれた。


「目的はなんだろう」

おじ様がぽつりと呟いたの。

そうね、それが分かれば、対策も出来そうよね。


うーむ、と三者三様、考え込んだそのとき、魔法士長さまとおじ様の妖精が、同時にそれぞれに何かを告げたわ。

2人とも、とっても険しい顔になった。

なに? なんの報告?


「資料庫が破壊された件で、紛失した資料が無いかを確認していた部隊から作業が終了したと報告があった」

おじ様が険しい表情のまま教えてくれたわ。


「王宮の警備に関する資料が無くなっていたそうだ」



王宮の警備に関する資料が無い…?

盗まれたってこと? 白雷の魔女に?

それってすごく大変なことよ。騎士団の威信に関わるわ。


だけどそれよりもなんだかすごくもやっとする。なんだろう、これ。なんか、デジャブ…?


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