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4月の終わり、毎年恒例のお祭が開催されたの。

騎士団と市民の皆さんとの交流を図るイベントなのよ。この日だけは特別に騎士団の施設が一部だけ解放されるわ。

開場の時間に少しだけ受付のお手伝いをしたの。

不審者の侵入を防ぐためのチェックをしているのよ。


解放されるのは広い前庭部分。食べ物の屋台やミニゲーム、バザーなどの催し物をするのよ。

危険な魔物についての研究発表の展示もあるし、「もしも魔物に出会ってしまったら」の実技付き講習会は人気があるわ。


受付のお手伝いのあと、少し見て回っていたらモカが今日のイベントマップを配っていたわ。

トイレの場所とか立ち入り禁止区域とか、野外ステージのタイムスケジュールも載ってるのよ。

ウインクしたら手を振ってくれたわ。


騎馬隊は毎年子供向けの乗馬体験会をしているのよね。最後に子供を乗せて全力疾走してくれるんだけど、泣きだす子供続出の絶叫アトラクションよ。でもね、泣きながらもう一度並ぶ子供がたくさんいるの。子供って不思議ね。

馬場の脇を通ったら、ロンさんが馬の乗り方をレクチャーしていたわ。ロンさんは子供の相手が上手だから、こういうイベントはうってつけね。


私たち病院チームは健康相談会と応急手当の講習会を午前と午後に一回ずつ行うのよ。

対応するのはイスラ先生やローザさん達で、私はお茶を出したり片付けたり、細々とした雑用をしてお手伝いしてるの。


あら? イスラ先生、なにを飲んでいらっしゃるの?

「ルナちゃ〜ん! 相変わらず可愛いわね♡ よく働くし本当にイイコ」

「わっ…!」

ぎゅうううっ、って。

もう、先生、いつのまにかお酒を飲んだわね?

午後の相談会が終わるまでダメって言ったのに。

あん。そんなにぎゅうぎゅう抱きしめたら苦しいわ。


どうしたのかしら、先生。ちょっと浮かれてる?

いつもお仕事忙しいものね。

病院はイスラ先生がメインで取り仕切っていらっしゃるけれど、ドクターはほかに4人いらっしゃるわ。

夜勤担当のドクターが3人と、イスラ先生がお休みのときに代わりに日勤されるドクターが1人よ。


今日は病院のお仕事はまるっと代わりの先生にお願いして来ているから、昼間からお酒が飲めるって朝もおっしゃっていたものね…。


「こんにちは、イスラ先生。賑わっていますね」

この声。

イスラ先生の、大きなバストの圧迫攻撃から助けてくれたのは。

「ルナ、頑張っていますか?」

やっぱり、クルスさん!

そして、おじ様! 2人とも来て下さったのね?


「いらっしゃいませ、おじ様、クルスさん。どうぞ、お掛けになって。健康のご相談をお受けしますわ。イスラ先生が♪」

私はお茶を入れてきますね。

イスラ先生が足元に隠していたビールのグラスをこっそり回収して、4人分の紅茶を淹れたわ。


テントを張ったご相談受付スペースに戻ると、ずいぶんとお話が弾んでる様子だったわ。

「ありがとう、ルナちゃん。本当に、よく気がつくコね〜」

いたたた。

ヘッドロックやめて、先生。催し物が終わったら、お酒、飲んでもいいから!


「先生、ルナの働きぶりはどうですか?」

おじ様に問われて、イスラ先生はにっこりと微笑んだわ。

「頑張ってくれてますよ。病院の仕事にもすぐに慣れてくれたし、とても働き者です。ねえ、ルナちゃん。今日も朝からウチの仕事だけじゃなくて、受付も手伝ってきてくれたんでしょ?」


イスラ先生が私のほっぺたの手触りを楽しむように指で突っつきながらそう言うの。

「ええ、先生。ご招待のお客様にお花をお配りしたのよ」

「ちゃんと配れたのか?」

おじ様が優しく目を細めるわ。


「もちろんよ、おじ様。お花、キレイだったから、みなさん喜んで下さったわ」

「コサージュのように加工されているんですよね? ひとりひとりに付けるのは大変だったんじゃないですか?」

「ワンタッチでつけられるようになっているのよ、クルスさん。それにご招待のお客様だけだったから、そんなに大変じゃあなかったわ」


おじ様やクルスさんが背中を向けている方向で、カイトとトールがバルーンアートのクマやプードルを作っているのが見えたわ。子供たちに配っているのね。

2人とも案外器用なのね、と思ったら空気の加減を間違ったのかバルーンが割れたわ。


あちゃーって顔のトールと肩をすくめるカイト。

私はふと、もっと向こうの建物に目を向けた。


「おじ様、今、向こうの立ち入り禁止区域の方へ入っていく人影が…」

「なに?」

おじ様が鋭く振り返ったわ。

クルスさんも立ち上がった。

「どこです?」

「あっちよ。あの向こうは、女性の団員さんの更衣室がある方向じゃないかしら」

きゅ、と眉根を寄せてクルスさんが言ったわ。

「確認してきます」

「俺も行こう」

お願いします。

おじ様とクルスさんが足早に向かうのを見送って、私も立ち上がった。

「ルナちゃん?」

「先生、私も様子を見てきます」

心配そうなイスラ先生を残して、私も駆け出した。



男がひとり、足音を殺しながら建物に近づいていく。

中が見えない加工がされた窓ガラスに顔を寄せ、中の音に耳を澄ましているみたい。

鍵がかかってなかったのか、男が手を伸ばすと窓が少し開いた。


中を覗こうとした瞬間。

「何をしている」

おじ様の静かな迫力のある声に、男がびくりと身体を震わせたわ。

「痴漢行為は重罪ですよ」

クルスさんも氷のような冷たい表情で男を見ているの。

その瞬間、影に隠れていた男が2人、それぞれおじ様とクルスさんに殴りかかった!


でも、大丈夫。だって、おじ様だもの!

おじ様は窓に忍び寄っていた男を捕まえつつ、殴りかかってきた男を長い脚で蹴倒していたし、クルスさんもまったく動じることなく男を羽交い締めにしていたわ。


やった!

隠れて見守っていた私とモカ、カイトにトール、そしてミーアは顔を見合わせて喜んだの。


そのときよ。

頭上から呆れた様子のおじ様の声が降ってきたのは。


「お前たち。詳しい話を聞かせてもらうぞ」


あらららら…。



事の起こりは2週間前。

授業の前に、モカがみんなに相談があるって言ったのよ。


「この4月に第5師団に入団したミーア・ニコラスのことなんだけど」

モカはちょっと首を傾げながら、どう話そうか迷っている様子だったわ。

「先週のお仕事で、モカが仲良くなったって言っていたひとね?」

「…ああ、眼鏡のボブカット」

カイトは新人さんたちを早々に把握しているのよ。

「ああ! あのちょっと鈍臭、えーっと、おっとりした感じのな!」

鈍臭いと言おうとしたわね、トール。

すぅっと冷たい視線をモカから受けて、慌てて言い直していたけれど、少し遅かったわね…。


でも、モカも思い当たることがあるのか小さくため息をついただけで、話を続けたわ。

「その、ミーアなんだけれど、脅迫されてるって言うの」

「えっ?!」

脅迫? それは穏やかではないわね。

私は驚いたけれど、カイトとトールは驚くというより不思議そうに首をひねっていたわ。

「なんでさ」

なんで…?

そうね。脅されるような「何か」があるのよね?

カイトに言われて、モカは困ったように首を振ったの。

「誰にも知られたくない秘密を知られてしまったって言うの。その秘密が何かはどうしても言えないって。だから何を知られてしまったのかは分からないんだけど…」

まあ、そうね。

秘密をオープンにして話せるのなら、脅迫のネタにはならないものね。


「で? 何を要求されているの?」

脅迫というからには秘密を明らかにしない代わりに何かをしたりとか逆にしないように求められているのでしょう?


「騎士団の戦力とか王宮の警備とかそう言った機密情報よ」


私とカイトとトールは素早く視線を交わし合ったわ。

だってそれ、とっても大変なことだもの。

奪われること自体あってはならないことだけれど、問題はその先よ。


その脅迫者は、その情報を手に入れて、何をするつもりなのか。


「それで、ミーアはどうしたんだ?」

今度はトールが聞いたわ。

「無理だって言ったって。それは団員であっても簡単に閲覧できる情報じゃないし、まして入団したての者に持ち出せるものじゃない。施設内の警備も強固だからって何度も説明したらしいわ、そうしたら」

そうしたら?

「2週間後にお祭りがあるでしょう? 一般の市民が施設内に入れるわ。そのときに自分たちが盗みだすから手引きしろって」


「盗み出す? 出来るわけねーじゃん」

トールが呆れたように言うわ。

そうよね。お祭りだからってそうゆうものの警備が緩くなるわけじゃないわ。

「でも、協力しないと秘密をバラされてしまうわ」

「盗み出すなんて無理だって分からせればいいんじゃないか?」

「どうやって?」

「う〜ん」

「普通に盗みに入らせたって、どうせ盗めないんじゃねーの?」

「それはそうだろうけれど、それじゃあミーアが共犯になってしまうわ」



それでね、考えたのよ。

協力するフリをして施設内に入らせ秘密の情報がある場所として嘘を教えるの。

女性更衣室が秘密情報を保管した倉庫であるとね。

そうして女性更衣室にそいつらが近づけば覗きをしようとしている不審者に見えるでしょう?

そこをおじ様たちに見ず知らずの痴漢として捕まえてもらおうって寸法よ。


睥睨(へいげい)っていうのはこういうことを言うんじゃないかしら。

おじ様がとっても難しいお顔で私たちを見回しているわ。


「不審者を見かけたからお知らせしただけよ、おじ様。痴漢の被害が出る前に、捕まえてもらえて良かったわ」

おじ様はじっと私を見つめているわ。私の言葉を見極めるようにね。

おじ様は静かな、はっきりとした口調でおっしゃったわ。私の嘘を許さないと言外に言っている。

「ルナ、お前のいた位置からは、この場所に入る入り口は見えない。立ち入り禁止区域に入る人影を見た、というのは嘘だな?」

そうよ、おじ様。ちゃんと気づいてくれて、嬉しいわ。

おじ様は、この場所への入り口と私のいた位置との対角線上にいらしたわ。おじ様の位置からは入り口が見えなかったでしょう? 当然、私のいた位置からも見えないわ。

黙ったまま微笑む私と私をじっと見つめるおじ様。

その緊迫感に耐えかねたのか、ミーアが声をあげたわ。


「わ、私のせいなんです! ルナちゃんたちは悪くありません!!」


おじ様はミーアをちらりと見て、私を見て、そうしてミーアに向き直ったわ。

「話を聞こう」


捕まえた男3人を警備担当者に任せ、私たちは病院のテントに戻って事情聴取を受けたわ。順番にね。

最後に私を呼んだおじ様は、まるで言うことを聞かない問題児を見るような目で私を見たのよ。

なんだかちょっと不本意だわ。


「要するにどういうことなんだ?」

おじ様の言葉にちょっとだけ肩をすくめてみせたの。

「ミーアが脅迫されていた、という話は?」

「聞いた。その部分だけを隠して、脅迫者を捕まえようとした、ということは分かった。具体的にはどうやった?」

若干、疲れて見えるわね、おじ様。

「まずね、ミーアに犯人が来る時間を指定するように言ったのよ。招待客に紛れるようにね。招待客にはコサージュをつけるから、犯人が来たらミーアに教えてもらって、コサージュに魔法をかけたの。徐々に青く光るようにしたのよ。それを目印にして、モカが嘘の地図を犯人に渡したわ。それを見て、犯人たちが更衣室に向かったことをカイトとトールが私に教えたのよ」

「どうやって?」

「カイトとトールはバルーンでクマを作っていたわ」

「…あのとき、風船の割れる音がしていたな」

ご名答よ、おじ様。

にっこり笑うとおじ様はため息をついたわ。

「解せないことがある」

あら、なにかしら?

「そこまでやっておきながら、結局お前はその計画を成功させる気が無かった。違うか?」

……ええ、そうよ。だから、バレるであろう嘘を混ぜたの。

「なんでもお見通しね、おじ様」

「なぜだ?」

「…犯人が狙っていたのが、王宮の警備に関する機密情報だったからよ、おじ様。それを盗もうとする者がいる、ということは秘匿するべきではないと思ったの。捕まった3人の男たちの他に、犯行を指示した別の人間がいるかもしれないわ。もしももっと大きな事件に発展してしまったら、きっとミーアは秘密を知られるよりもずっと困った立場になってしまうでしょう?」

報告義務違反で責任を問われることは間違いないわ。


ミーアはきっと秘密を話さなければいけなくなるわ。

可哀想なことをしたなとは思っているのよ?

おじ様は終始、呆れたように私を見ていたわ。

そうして最後に、仕方のない奴だなって笑って頭を撫でてくれたの。



事情聴取を終えると、モカが待ち構えていたわ。

「ちょっと聞いてよ、ルナ!」

え? なになに? どうしたの?

「ミーアの秘密よ。なんだったと思う?!」

あら、聞いたの? 良かったの?

「やだ、モカちゃん、声が大きいわ!!」

ミーアが慌てて、しー、しー、って人差し指で唇を押さえているの。

「アンドリュー第1王子のファンクラブに入ってることだっていうのよ! いくら団の規則で禁止されてるからって、あり得ないわよ。ファンクラブなんて脱退しなさいよ!」

「だってぇ。ファンクラブの会員じゃないと手に入らないグッズや会報があるんだもの。逃したくないじゃない」

「知らないわよ、そんなこと」


あはは…。王子様のファンクラブね。確かに団員は禁止されてるわ。王家の方にヨコシマな感情を持つものは王家を守護する者として相応しくないとかなんとか…。


「それよりルナちゃんはすごいわ。あのベル隊長と普通にお話していて」

うん? どういうこと?

モカもふう、と息をついたわ。

「そうね、離れたところから見てる分にはステキなオジサマだけど、迫力があってちょっと怖いわ」

怖い? そんなことないと思うけど…。

でもね、ミーアもモカに同意するように大きく頷くのよ。

「ハンサムだから余計に凄みがあるわよね。二度と叱られたくないわ」

そりゃあ、叱られるときは怖いかもしれないけれど、とっても優しく笑ってくれるわよ?

「笑うのはルナにだけでしょう。ベル隊長って、いつもにこにこしてるって印象のひとじゃないわ。さっきだって、私たちには微笑んだりしなかったし」


モカはそう言って、ふふっと笑ったわ。

なんだか嬉しそうに。

「信頼されてるのね、ルナ」


そうかしら。そうだとしたら、ちょっと、いいえかなり嬉しいわ。


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