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間借りします

おじ様のお部屋で寝泊まりなんてどうなることかと思ったわ。

書斎用なのかゲスト用なのか分からないけど寝室のほかに小さめのお部屋があってね、そこを私に使わせてくれるのですって。

間取りとしては2Lってことね。さすが団・隊長用のお部屋だわ。

一般の団員用のお部屋はワンルームだもの。


今、ロンさんとクルスさんが私用の簡易ベッドを組み立ててくれているの。

妖精を使って連絡したのね。おじ様の部屋に来たときには、もう2人ともドアの前で待っていたわ。

ベッドと書き物机と小さいけれどクローゼットもある。

持って来たものを手早く片付けてリビングに戻るとローテーブルに食事が広げられていたわ。

クルスさんが持っていた紙袋の中身はこれだったのね。

今夜はここでみんなでご飯?


唐揚げにサラダ、ピラフにグラタン、そして大人組はビール。

いいな、ビール…。


話題は、当然だけど「私」。


「驚きました。いろいろ規格外だと思っていましたが、ここまでとは」

うん? クルスさんが微笑みを浮かべて私を見ているわ。

「そうっすよねー。魔法の書が全部読めるってちょっと意味がわからないっす」

…おじ様?

見つめると、小さく息をついて、おじ様が私の頭をぽんぽんと撫でたわ。

「魔法士長殿には了解を取ってる。そんなに睨むな」

ああ、そう言えば何かお話されていたわね。

お前を守るためだって目を細めて言われたら、文句なんて出ないわ。

「誰にも言いませんよ。安心してください」

クルスさんもロンさんも優しい笑みを見せてくれる。

そうね、信じているわ。疑ってるわけではないの。私自身が、ことの重大さをあまり良く分かっていないし。2人に知られたくないと思っているわけでもないわ。


でも、やっぱり2人とも、普通じゃない、と思うのね?


「第6師団の者に話を聞いてきました。地面から巨大な鎖が現れスコルを拘束し、やはり巨大な槍が大地に張り付けられたスコルを貫いた、と」

「うわ、えぐいっすね…」

…ロンさん。

だって、的を固定しなくちゃ槍は当たらないわよ?


「まあ、やり方は6歳の少女にしては(いささ)か合理的過ぎると思わなくもありませんが、問題はそこではありません。霊槍グングニルの前に発動させた魔法はグレイプニルだったのではありませんか?」

「クルスさんは魔法に詳しいのね…?」

「私は妖精を見ることができる程度で魔法が使えるわけではありません。ですが、妖精が見えるので、子供の頃から魔法に興味があるのですよ」

ふうん? やっぱりクルスさんには妖精が見えているんだわ。


「で、それはそのグレイプニルという魔法なのか?」

「いいえ、おじ様。グレイプニルは必要な材料を用意しないといけないの。とっさに使えるものではないわ。手間がかかる分、強固ではあるけれどね。アレは地獄の鎖という簡易的な拘束魔法よ。短時間しか保たないけれど簡単に発動できるわ」


「地獄の鎖…」

「簡単に発動…?」

「…………(はあ)」


なあに? どうして額を押さえているの、おじ様。

クルスさんはため息をついているし。ロンさんだけがニッコニコで楽しそうに私を見ているのよ。


「甘かったですね」

「地獄の鎖は俺でも知ってる」

「俺も知ってます。簡単に発動出来るんっすねー」


みんなも知ってる魔法なのね? 良かった。私、変なことしてないわよね?


「いいえ、ルナ。地獄の鎖はさらに高度な魔法です。いいですか。今後間違っても簡単に発動できるなどと口に出して言ってはいけませんよ?」

「…ハイ」

怖いわ、クルスさん…。麗しいお顔の方が目を釣り上げると本当に怖い。


「隊長、これは思っていたよりも問題は深刻です。気軽に大魔法を使わないよう、良く言って聞かせなければ」

「でも、どれが大魔法かって判別、出来るんすかね? 地獄の鎖が簡単なんでしょ?」

「………ルナ。あとで使ってもいい魔法を指定する。命の危険があるような緊急事態にならない限り、指定以外の魔法は使うな」


分かったわ、おじ様。

神妙に頷く私に、おじ様は笑みを見せてくれたわ。

目元に少しシワの出る優しい笑みを。



おじ様との同居生活は、思いのほか穏やかに始まったの。

お仕事の忙しいおじ様とはすれ違うことも多いけれど、朝食を一緒に食べたり、夕食後の時間を一緒に過ごせる日もあるのよ。とっても幸せ。


「…。コーヒーか?」

香った? 新聞を読んでいたおじ様が顔を上げたわ。

「ええ。おじ様もいかが?」

「貰おう。ありがとう」

芳ばしいいい香り。今日買ってきた豆はすごく好みの香りがするわ。

はい、どうぞ。

「美味い…。ルナはコーヒーを淹れるのが上手だな」

ふふふ。

好きなひとと一緒に好きなコーヒーを飲む。

それだけのことだけど、本当に幸せなの。



「ルナはそのおじ様が好きなのね」

授業の合間にモカが言ったわ。

ぽ、とほっぺたが熱くなる。

「ええ、そうよ?」

「いいんじゃない。素敵なひとよね、騎馬隊の隊長さん。だいぶ歳上だから両想いになるのは難しそうだけど」

「う…」

でも、とモカが微笑むの。

「キス、してもらえるようになるといいわね」

「…………」


そうだった。一緒にコーヒーが飲めて幸せ、なんて暢気に言ってる場合じゃ無かったんだわ。

もうすぐ2月が終わってしまう。一年のうちの十二分の二が。



好きななひとに好きになってもらうにはどうしたらいい?


騎士団内病院でのお仕事の休憩時間、私はまた人生の先輩たちにアドバイスを求めたの。


ローザさんは、

「そおねー、そのひとの好みのタイプを調べて寄せるわね」

好みのタイプに寄せる、か。そうね、私がおじ様の好みのタイプだったら好きになってもらえる可能性、あるわよね。


アスールさんは、

「でも、無理して自分を偽るのは後が辛いですよ。ありのままを好きになってもらえるのが一番いいですけど」

ありのまま?


イスラ先生は、

「ありのままでも好きになってもらえるくらい元から素敵ならいいけれどね。自分磨きを疎かにしてはダメよ。好きなひとが好きになってくれるくらい素敵にならなくちゃ。ルナちゃんは十分可愛いわよ♡」

自分磨き…。


なんだか、今日はとっても参考になる意見をもらえている気がするわ。


今日はもうひとり、男性のスタッフがいるのよ。ブラン・クラークさん。看護師さんよ。

ブランさんの意見は?

「うーん、そうだなぁ。見た目や性格が好みの女性にはもちろん惹かれるけれど、好きになるきっかけってそれだけじゃないですよね。ちょっとした気づかいとか、頑張ってる姿とか。ルナちゃんがそのひとを好きになったきっかけを思い出してみたらどうかな。優しいところに惹かれたのなら同じように優しくするとか、スマートな態度に惹かれたのなら同じように振る舞えるよう頑張ってみるとかね。ああ、そうだ。これは実体験なんだけど、好みの女性じゃなくても、自分のことを好きだって言ってくれる子は、不思議と可愛く見えてくるんだよね。だからルナちゃんも好きって気持ちを隠さずにどんどんアピールしてみたらいいんじゃないかな?」

ふむふむ。それは貴重な情報よ、ブランさん!

好きをアピールね。

なんだか、頑張れそうな気がしてきたわ!

ありがとう、みなさん。

今度お礼に何か作ってくるわね!!


とっても盛り上がったのよ。なのに。

「引き際も大事よー」

ローザさんがしっかり釘を刺してくれたわ…。


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