11話 森人
街の上空での空戦から数日経った。
シュラが撃墜したナイツは、3人共生存しており、運送屋で治療されたあと、監禁されている。
帝都や大都市には警察や司法が存在しているのだが、樹海に散らばった僻地の街は、帝国の行政に取り込まれておらず放置されたまま。
マニューバでなければ行き来もできない、深い樹海に囲まれている僻地の面倒まで見ていられないということなのだろう。
強引に占領して統治したとしても、行政に金がかかるだけで実入りは少ない。
それに地方の街は、マニューバという強力な戦力を持っている。これが馬鹿にならない。
特に、ゼロに搭載されている魔砲を使えば、帝国の軍艦にすら深刻なダメージを負わせることができるのだ。
その上、森の深くにはある種族が住んでおり、帝国もそれらとの争いを避けている。
加えて虫や竜種の脅威。街を支配するためには、それらとも戦う必要がある。
そんな苦労をするだけ、金と時間の無駄。僻地は僻地で好きにしろ――と放置されているわけだ。
このような理由から、犯罪者の処罰には街独自の私刑が行われている。簡単に言うと――街の掟。
物騒に聞こえるのだが、あまり無茶な掟があると住民が逃げてしまうので、常識的な範囲なことが多い。
敵のナイツは生きていたが、シュラが撃墜した輸送機のコクピットにいた連中は全員死亡。
彼にとって初めての殺人だが、彼に動揺はなかった。ナイツになれば、このようなことは日常茶飯事。
その上、空賊に負ければ全てを失う――マニューバも、その日の生活も、父親から受け継いだ意志も夢も。
手加減はできない。ナイツになる――と決めた時から、その覚悟はできていたのだ。
ギュオール運送の輸送機によって、シュラが撃墜したマニューバと輸送機が回収されて――早速、レオナが修理を始めた。
「レオナさん、なんとかなりそうですか?」
「まぁねぇ。駆動機関は大丈夫だし、森に落ちたから、そんなに派手な壊れかたはしてないよね」
最後に撃墜したモヒカンが乗っていた機体は、プロペラの破損だけで、修理すればすぐに飛べる状態である。
「あはぁ~こんなに沢山のマニューバが好き勝手できるなんてぇ――まるで夢のよう」
そのうちの1機は話し合いの結果、複座に改造される予定である。
シュラとレオナがマニューバ談義に花を咲かせていると、親方の輸送機が出先から帰ってきた。
巨体がゆっくりと、輸送屋の駐機場に降りてくる。
巨大な機体が停止すると、降りてくるリフトの上には、見慣れない種族の姿が。
金と緑色のワンピースのようなドレスを着た背の高い金髪の男女。
(多分男女だよなぁ。どちらも凄い美人に見えるけど……俺も初めて見た)
男女共、陽の光にきらめく金色の髪をなびかせている。見た目も人間とは違うのであるが、身体的な特徴で目立つのは、長くて大きな耳。
周りにいた輸送屋の従業員からも、この世のものとは思えない風景に、ため息が漏れる。
彼らは森人。魔法という奇跡を使い、森の奥深くに住む神秘的な種族だ。とても寿命が長く、噂によると1000年以上生きる個体もいるという。
それが事実ならば、消滅した前史文明の頃からいたことになるが――彼らはその頃から森の中に住み、文明とテクノロジーからは隔絶した暮らしをしていた。
そのために前史文明のことは何も把握していないらしい――という建前だと、人々は噂しているのだが。
真偽は不明。本当のことは、誰にも解らない。
「レオナさん、彼らは森人ですよね?」
「そうよ」
「そうなると――捕まえたあいつらのためですか?」
「その通り」
僻地には警察機構がないので、住民による裁きが行われるが――殺してしまうのは簡単だが、それでは償いにならない。
森人の魔法によって、奴隷契約を結び、街のために働かせ償いをさせるのだ。
その償いの日々のあと、働きによっては解放されることもある。一旦、魔法による奴隷契約を結ぶと、マスターの命令には逆らえなくなり、嘘もつけなくなる。
その奴隷契約を罪人たちとの間で結ばせるために、彼ら――森人が里から呼ばれたのだ。
親方に案内された森人たちが、そのまま捕らえられているナイツの所へ行くのかと思いきや――真っ直ぐにシュラの所へやって来た。
彼の目の前に佇む、人ならざる者たち。面長の白い顔に、切れ長の目と美しい青い瞳。
森人は黙って手をかざす。これが彼らの挨拶らしい――シュラも真似をする。
(目の前までやってくると、同じ生き物とは思えないぐらいの違いがあるなぁ)
森人の見た感想を思い浮かべるシュラの鼻腔に、漂ってくる森の香り。
(何の匂いだろう)
彼が、そう考えていると、シュラから見て左側の若干背が高い森人が口を開いた。
「貴方は素晴らしい魔力をお持ちのようだ」
「え? 俺ですか?」
「そう――親方のお話では、理力砲を使ったそうで」
「それは昔の呼び方ですよね?」
「昔――まぁ、そうですね。只人の感覚ではそうなりますか」
シュラが失礼を承知で彼らに近づくと、ひそひそ話をする。森人たちは、大きな耳のせいで聴力も優れている。
「あの……もしかして、マニューバと話せたりします?」
「……これは興味深い」
森人は口に手をやり、切れ長の目を閉じて何かを考えている。そして口を開いた。
「仕事が終わった後に、貴方の飛行機械を見せていただいてもよろしいかな?」
「もちろんです」
シュラと話終わった森人たちは、親方に案内されて、輸送屋の事務所の地下へとやって来た。
倉庫の前を抜け、コンクリート製のジメジメした通路を通った果てに、小さな部屋がある。
鉄でできた頑丈な扉で蓋をされて、小さな覗き窓が開いている。
重い扉を開けて中に入ると、そこにいたのは、シュラが撃墜して地面に落ちたナイツたち。
添え木や包帯でグルグル巻きになっている無頼な彼らだが、森人の姿を見て青ざめた。
森人は、樹海が支配するこの僻地で、中立と公平を司る存在として畏怖されているのだ。
「げっ! 森人!?」
「はっ! 俺たちのために、森人まで担ぎ出すとはご苦労なこったな」
「許してくれぇ! 勘弁してくれぇ」
へたり込むナイツの前に、親方が歩み出た。
「奴隷契約して街のために働けば――命だけは助けてやる」
「解った……」
そして、もう一人のナイツも黙って頷いた――だが。
「けっ! 御免こうむるねぇ」
その言葉を聞いたエルフの男が、親方にどうするか尋ねる。
「無理やり従わせることもできるが――」
「止めましょうや、その必要もないですし」
奴隷契約して命令に従わないと、大変な苦痛に襲われるのだが、その苦痛に逆らってでも、サボタージュをしたりする人間相手では処理が面倒になる。
「承知した」
「モヒカン、お前の望み通りに森の中へ放してやるからな。運が良けりゃ生き残れる。どうだ? そっちの2人もやってみるか?」
「そ、そんなの絶対に無理だぁ! おとなしく働くから勘弁してくれぇ!」
男2人は縛られたまま、泣きながらコンクリの床に頭を擦りつけた。森の深層で装備も何も持たずに放置されたら、生き残れる可能性はゼロに等しい。
当然、マニューバが故障したり、水欠になって不時着しても同様――森の中では、かなりの危険が伴う。
奴隷契約を受け入れる2人に、魔法を使った儀式が行われた。
森人が呪文を唱えると、周囲から青い光が集まってくる。
「ひ……」
恐れ慄く男2人。儀式が終わり男たちの縄が解かれると――その両手首に黒い鎖状の痣が刻まれていた。
「ふん……」
それを見たモヒカンが、不満そうに横を向く。
「ありがとうございました」
親方が森人に向かって礼をした。
「さて、我々はあの少年の所に戻ろう」
「はい」
彼らの仕事はタダではないし、ボランティアでもない。
神秘的な存在と認識されている彼らでも生活のための物資を必要としている。
経済活動のための糧が必要なのだが、森人たちは帝国の経済の恩恵を受けていない。
当然、帝国貨幣も使わないため取引は物々交換が基本である。彼らが必要としている、塩や調味料などを、輸送機で森人の里へ運ぶことで代金代わりにしているわけだ。
特に森の中では塩が全く入手できないので、外から輸入するしかない。
森人の男女がその場を去ると、奴隷になった男たちが運送屋の厳つい面々に囲まれて、早速仕事が言い渡される。
「真面目に働けよ」
「……へい」
仕事の内容は雑用だ。要するに何でも屋。汚れ仕事だろうが、3Kだろうが真面目にやらないとダメ。
贖罪のための仕事だが、彼らの態度いかんでは、まだマニューバに乗れることすらあるのだ。
彼らはナイツだ――マニューバに乗りたくてナイツになったはず。また空を飛べる日を望んで真面目に働けば、更生の余地がある、ということになる。
「おい、マニューバに乗って数ヶ月の坊主に、まとめて落とされた気分はどうだ?」
運送屋の従業員が、意地悪な質問をする。
「とんでもねぇ……あの動きはベテランの中でもエース級だろ?」
「……どう足掻いても、勝てる気がしなかったな……」
男2人が、がっくりと肩を落として答える。
「まぁ、相手は発掘マニューバの特級品だからな。性能の違いもあったろうよ」
彼らが牢から引き出されて最初の仕事――それは空賊のアジトを吐くことである。
空賊の本拠地を殲滅する情報を得る――これが森人まで連れてきて奴隷契約を結ばせた理由の一つである。
空賊の尋問が始まった頃、マニューバが駐機してある格納庫にシュラとレオナがいた。
そこに森人たちもやってきた。風に流る金髪がやってくると――いつも飄々としているレオナが緊張した面持ちだ。
(この人でも、こういう場面では緊張するんだな)
つまらないことを考えつつ、シュラは森人に話しかけた。
「あの――お仕事は終わりましたか?」
「ああ、これが君の飛行機械か――」
そう言った森人だが、彼にはこの機体に見覚えがあったようだ。
(まさか、この機体は……)
『君は確か――ゼロだったか? 前の主人――ファルゴーレはどうなったのだ?』
『――まさか、1000年たって、再びあのエルフに相まみえるとは……』
『私の質問が理解できなかったのか?』
『エルフの質問などに答える義理はない――と言いたいところだが、前のマスターは――エルフの言う只人だ。死んだに決っているだろう』
「そういうことを言ってるのではない!」
声を荒らげた森人に、お付きの女性が驚いた顔をして耳を立てた。
「族長様――?」
「いや、すまない。久しく忘れていた感情とやらを思い出してしまったよ」
『これ以上、エルフなどと話すことはないな』
ゼロのつっけんどんの反応に、森人も会話を諦めた。
「森人様――どうしたのですか?」
訝しげなシュラに、取り繕うな会話を森人が続ける。
「実に美しいものだね。我々はこういった文明の利器とは無縁の生活をしているが、この美しさは解る」
「ありがとうございます」
「……」
(この私に、こんな感情が残っているとは……)
森人が久しく忘れていた昂ぶりを、懐かしみや気恥ずかしさとともに、噛みしめる。
「ふむ……この飛行機械は、『ゼロ』というらしいね」
「え? やっぱり言葉が解るんですか?」
「え~っ! そのマニューバ喋るの?」
隣で話を聞いていた、レオナが驚いた。
「君は潤沢な魔力をもっているせいで、この機械との会話が可能なのだろう」
「それじゃ、シュラ君も森人様みたいに魔法が使えるようになるってこと?」
「只人が魔法を使うには才能が必要であるし、訓練も必要だ。魔力を持っていても、全く魔法を使えない只人が樹海の広さ程いる」
そのぐらいに魔法を使える人間は少ないのだ。前史の血が濃い皇族や貴族は血統の故か、彼ら魔法を使える人間を輩出する。
「いやぁ――俺はマニューバで飛べればいい人なので、魔法までは望んでいません。魔砲が使えれば十分ですよ」
「え~? だって魔法よ、魔法!」
シュラの言葉を聞いた、レオナが驚いた声を上げる。
「普通の人間で魔法を使える人なんて殆どいないじゃないですか。どうせ俺もそうですよ」
「それは、そうなんだけどさ。シュラ君ならできるかなぁ――と思って」
「それよりも、マニューバの操縦技術を磨くほうが先決ですよ」
「――だが、君であれば魔法を正しいことに使ってくれるだろう。魔法のことを知りたくなったのであれば、森人の里を訪ねなさい」
「ありがとうございます」
シュラは気をつけをして、深々と礼をした。
『シュラ、エルフなどに久々に会ったよ。あの排他的な種族が多少は丸くなったのかね?』
「エルフ? それはそうと――ゼロ、そんなことを言っちゃだめだよ」
聞こえないようにひそひそ話をするが、耳の良い森人には聞こえている。
森人たちが、そのまま輸送機に乗り込むと出発準備が行われる。
彼らが仕事している間に、代金となる交易の品物は既に積み込まれていた。
続いて、輸送機にはモヒカンの男も詰め込まれ――途中の森の深層で解放されるのである。
勿論、生き残れる可能性は極めて低い過酷な刑だが、それは本人が望んだこと。
皆を乗せて大きく長い飛行機械はゆっくりと空に向かって上昇を始めた。
薄暗い輸送機のコクピットに佇む森人の男が、下で手を振るシュラたちを見下ろしている。
「族長様、なかなか面白そうな若者でしたね」
「うむ、あのような子供がいると、惰眠を貪る我が人生に活力が湧くというもの」
「只人は、あっという間に死んでしまいますけど」
「それが問題だ」
森人の寿命からすれば、人間の50年~60年の人生などあっという間に過ぎてしまう。
彼らにとって、それが悩みのタネだ。
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――森人と荷物を積んだ輸送機は、半日ほど樹海の上を飛び、森の深層部を低空飛行をしている。
輸送機の乗務員が、何かを探すように下の森を眺めている。
「親方! 右の前方に降りられそうな所がありやすぜ」
「よし、進路2時の方向」
「ヨーソロー」
転進した輸送機は森の裂け目にできた空間に、ゆっくりと降下を始め――接地するぎりぎりの所で下部のハッチを開いた。
森が開けているといっても、身の丈程ある草がボーボーで、正に前人未到の地。
「おらよ!」
そこへ捕まっていたモヒカンの男が、輸送機の乗務員から蹴落とされた。
モヒカンは盛大に落っこちたが、草がクッションになっており、怪我などはしてない様子。
すぐに立ち上がって、叫び始めた。
「てめぇら覚えてやがれ! ぶっ殺してやるからな!」
「ははは! そこから、生きて出られたらな」
叫んでいるモヒカンだが、足元がズブズブと沈み始めた。どうやら湿地帯だった模様。
「うわぁ!」
「ははは!」
ジタバタするモヒカンを見て、輸送機の上から従業員が笑っていると、5m程ある巨大な管虫が姿を現した。
「ち、畜生!」
逃げまわるモヒカンを、コクピットから親方が見ていた。
「意外と、しぶといな」
「親方、あの管虫は使えますぜ?」
「そうだな、中々の大きさだ……森人様!」
「何か?」
下で起こっていることに、全く興味がなさそうに佇んでいた森人が答えた。
「あの管虫を仕留めてもいいですかね? そうすると、ちょっと到着が遅れることになっちまいますが……」
「こちらは構わないよ。別に急ぐ旅でもないし、我々には無限ともいえる時がある」
森人に許可をもらったので、管虫を仕留めることになった。
「さて――奴が食われてから仕留めてもいいんだが
「親方、それだと解体するときに、奴の死体とご対面することに……」
「そうだな」
親方は従業員に指示を出し始めた。それが、ハッチの所まで伝わると、男の1人にライフルが手渡される。
黒く長い、ボルトアクション式の大口径単発銃である。
「え? あの管虫を仕留めるんで?」
「奴が食われてから、解体すると中から奴が出てくるだろ?」
「あ、そりゃそうか!」
ライフルを受け取った男が、リフトに片膝をついて銃を構えた。
ゆっくりと銃身の先にある照星と、目の前にある凹型の照門を合わせて引き金を引く。
巨大な管虫は鎌首をもたげ、モヒカンに食いつく寸前であった。
轟音と共に発射された弾丸が、管虫の口から1m程の所に命中した。
その場所に管虫の脳があるので、弱点ということになる。生き物の弱点というと他に心臓があるが――管虫の心臓は長い胴体に複数存在しているので、胴体を撃っても効き目が薄い。
この大口径のライフルは、主に外皮が柔らかい管虫や大型哺乳類用だ。
硬い鱗や甲殻を持った竜種や大型甲虫には全く歯がたたない。
「やったぜ!」
それをコクピットから見ていた親方から労いの言葉が伝導管で届く。
『やったな! 帰ったら酒を奢ってやるぞ』
「ひゃっほう!」
輸送機が地面へ接地すると、ゾロゾロと乗組員が降りてきて、管虫の解体を始めた。
巨大な敵に追い回されたモヒカンは、上から下までビッショリの濡れネズミだ。
「おい、早く乾いた地面へ上がらないと、沼ビルの餌食になるぞ?」
「ははは」
「くそっ! 覚えていろよ!」
モヒカンは、水の中を太ももまで浸かって対岸へ辿り着くと、森の中へ消えていった。
「生きていたらな」
乗組員の1人がつぶやいた。
管虫は、ギザギザの歯がついた口と尻が切断され、輸送機で釣り上げられる。
すると尻から中身が、ごっそりと流れ出るのだ。
これは管虫が大きくても小さくても解体の仕方は同じ。料理に使うような小さな管虫でも同じように処理される。
乗組員が戻った輸送機は、管虫をワイヤーで吊り下げたまま、森人の里へ向かう。
輸送機のコクピットの中で、親方と森人が話す。
「森人様にゃ、銃なんて無粋なものの極みでしょうが、我慢してやってください」
「いや、只人には只人の暮らしがあるのだ。我々の口出しすべきことではないので、気になさらず」
「ありがとうございます」
さすがの親方も、森人には敬意を払っているようだ。
乗組員と森人を乗せた輸送機は、深い樹海の上を進む。
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――それから数日後。
シュラとギュオール運送は空賊の本拠地を急襲した。奴隷契約を結ばせたナイツの男から敵のアジトを特定したのである。
マニューバに乗るシュラの眼下には、樹海に突き出たギョヨという突起がある。
そこに開いた穴をねぐらにしているらしい。穴から滑走路も伸びている。
それと同じ光景を、輸送機のコクピットから親方も見ていた。
「こんな所にいやがったのか――上手く隠れやがって……」
「眼下、上空に敵影なし! 下の対空砲も動いている様子はありやせん!」
「よし! 威嚇で一発、炸裂弾を撃ちこめ!」
『了解!』
伝導管で復唱が聞こえてくると同時に、機体を振動が襲う。ギョヨの露出した岩肌に、40mm砲弾が打ち込まれて炸裂したのだ。
白い煙が上がると――穴らしき所から白旗が上がった。
「なんでぇ、もう終わりかよ?」
腕を組んでいる親方であるが、あまりの呆気無さに拍子抜けしたようだ。
滑走路にゆっくりと輸送機が着陸すると、穴から空賊の仲間が白旗を上げてゾロゾロと出てきた。
輸送機の乗組員が、彼らに銃を向ける。
「た、助けてくれ!」
「なんでぇお前ら! ちっとは抵抗しやがれ!」
「無理だぁ! 輸送機もマニューバも出たっきり戻ってこねぇ」
親方が辺りを見回すが、ここに他の飛行機械は見当たらない。こんな森の奥地で取り残されたら、補給もできずに待つのは死。
「お前らが送り出した輸送機やマニューバも、全部あいつに落とされた」
親方が上空を旋回しながら警戒している白いマニューバを指さす。
「……親分や、あいつらも楽勝だとか言ってたのに……」
残った空賊の連中が、膝をつき肩を落とす。どうやら敵の輸送機に空賊の親玉も乗っていたらしい。
それを丸ごと、シュラが吹き飛ばしてしまったわけだ。
「とんだ見込み違いだったな。まぁ普通は良いカモだと思うよなぁ、わっはっは!」
親方が上空のシュラへ発火信号を送るように指示。それを受けたシュラとゼロのコンビが、すぐに滑走路に降りてきた。
帰りのために、ここで水を補給しなければならないが、輸送機には空中給水の機能もあるので、いざとなれば飛びながらでも給水はできる。
ギュオール運送の面々が、アジトの中を物色し、使えるものを選別して輸送機の格納庫へ放り込む。
運びきれないようならもう一度くればいい。もう敵はいないので安全だし、燃料代が掛からないので経費も掛からない
売れるものなら、なんでも回収して売ればいいのだ。
「親方、どっちが空賊だか解らないね」
「わっはっは! ちげぇねぇ」
シュラの言葉に親方が大笑いをした。
「だが、壊されたウチの対空砲の代金を回収しないとな」
「落とした輸送機とマニューバで十分に回収できてると思うけど……」
「ありゃ、お前が落としたもんだろ」
「でも運用は親方に任せるものだし」
捕虜にした空賊は街で強制労働させる。ナイツではないので奴隷契約は必要ない。
逃げてもどうってことはない雑魚ばかり。
それに周りを森に囲まれている街から飛行機械無しで逃げられる場所はどこにもない。
装備もなしで森に逃げ込んでも、近隣の街まで数百Kmあるのだ。
辿り着くのは不可能だが、ナイツは違う。マニューバを奪ったりすれば、逃げられるのだ。
それを防ぐために、森人による奴隷契約を行った。
これにて街を襲った空賊事件は全て片付いたことになる。