その13 自宅デートでリベンジ
「おや、喧嘩でもしたのかい」
昼休憩に俺の教室へやってきた新御堂は、開口一番そんなことを言った。
「なんでそうなる」
「昼だというのに白野かなたとご飯を一緒していないからだよ。どうしてここにいるんだい?」
「今日は白野が委員会の集まりだからいなくてさ。というかお前もなんでここに来た?」
「今日は部活の集まりがなくてね。お前がいないかと確認に来た」
椅子借りるよ、と俺の前の席にいる井上君にひと言告げて新御堂は腰かける。
机の上に昼飯の菓子パンを四つ並べ、横にある俺の弁当を見ると――なにやら視線の圧を強めた。
「……ん? お前なにか……弁当の中身が変わっていないかい?」
「変わったってなにがだよ」
「具体的にこう、とは言いづらいのだけれどね。なんというか……レベルが、上がっている?」
「なにが見えてんだよお前。こわいわ。なんで食べもしないでわかるんだよ」
「ということはやはり腕を上げたのだね」
僕の目にまちがいはなかった、と言いながら新御堂はふんと気取って腕組みしていた。異常な視野角といい、こいつの目にはなんの力が宿ってるんだろう。
ともあれ、正解だ。俺は少しずつ腕を上げている。
あの放課後デート(仮)からまだ十日ほどだが、日々鍛錬中だ。持ち運ぶ弁当、ゆえに冷めてもおいしく時間経過で劣化しにくいものを……ということで試行錯誤を重ねている。
「よくやるよ、普段の家事もあるだろうに」
「白野に食べさせる弁当なんだから、手抜きできないだろ」
「ああ、だからもうそういう胸やけがするようなことを言うのでないよ、いまから食事なのだから。ノロケダイエットなどやりたくはない」
「不思議なダイエット法を生み出すな」
言いつつ俺は弁当を開けてもぐもぐと口にした。新御堂も、封を開けた菓子パンを端からかじり出す。
「しかし、仲良くやれているようで大変結構なことだね」
「うん。いまのとこ喧嘩もないし平和そのも……」
「なぜ言いよどんだのかな」
「……三日に一回くらいのペースでなんかやらかして、気絶した白野を介抱してるから……平和ってのとはちょっとちがうかなって」
「そうだね。お前もすっかり白野かなたが倒れるのに慣れてしまったけれど、本来そんなの慣れるものではないからね」
「だよなぁ」
自然と対処ができるようになってしまったけど。冷静に考えてひとが頻繁にぶっ倒れるのを目にしてるって異様な状況だ。
「しかしまあ、介抱している姿が目にされて噂になってきているようだよお前」
「そうなの?」
「ああ。お前が、というよりはどちらかというと白野が有名で、それに付随してお前が知られてきたのだろうけれど」
「へえ。どんな風に知られてんだろ」
「『白野とは釣り合わない』という意見が大勢を占めているね」
「お前オブラートって言葉知ってる?」
「良薬口に苦しという言葉はご存じかい?」
「べつに良薬ではないだろいまの言葉は」
もさもさとメロンパンをかじり、それもそうかと新御堂はぼやいた。
「ただ、まあ。周囲の率直な意見はそういう感じのようだよ」
「そういう感じってつまり」
「文武両道才色兼備、高嶺の花オブ高嶺の花の白野かなたには釣り合わない、と」
「あー。とくになんも取柄のない俺みたいなのと付き合ってるのが変だ、と」
「変というより気に食わない奴が多いのだと思うよ」
「そりゃまたどうして」
「たぶん、自分が圧倒的に勝てない、と思うひとが価値を見出す対象は、同じく自分が圧倒的に勝てないひとであってほしいという暗い願望によるものだね」
達観したような物言いで、新御堂はむぐむぐとアンパンを頬張った。
俺はちょっと箸を止めたが、すぐに「そっか」と言って食べつづけた。
「ま、どうあれとくに俺は変わんないけどな」
「あいかわらず、周囲の人の目を気にしないねお前は」
「顔も知らない他人からの評価より、白野がいま楽しそうかどうかが大事だ」
言い切った俺に、新御堂はふっと笑って応じた。
「心配するまでもなかったかな」
「心配してくれてたのか?」
「ああ。『ただのやっかみだ、すぐに収まるしそうなるように僕も動く』くらいは言ってあげようかと思っていたのだけど」
「いや、動けるならそこは動いといてくれよ。気にしないとはいえ心証悪くない方がいいとは思ってるよ俺も」
「そうかい。ではまあ、それなりに動いておくとしよう」
「よろしく。というか、どうやってお前は噂を消すんだ?」
「お前と親しくしている奴は僕くらいしかいないのでね。周りからよく訊かれるんだよ、どうやって浦木とかいう冴えない男があの《鉄壁》の白野を射止めたのかー、などとね。だからそのときに適当にお前への視線を逸らすような噂でも流す」
「なるほどな……ん? その、鉄壁、とかってのはなんだ?」
「白野のクラスでの態度が由来のあだ名だそうだよ」
ご存じないのかい? とおどけたように言うが、俺の知る白野はそんな壁があるような仕草はない。黙って首を横に振ると「恋人の前ではそんなものなのかもしれないね」と言葉を切って、新御堂はケールドリンクを飲んだ。
「白野、クラスではそんな浮いてんの?」
「浮いている、というか。あまり協調性はないようだともっぱらの噂だね。会話は最低限で静かにそこにいるだけ、休み時間になるとすぐに姿を消す……というのはたぶんお前に会いに出かけているのだろうけれど」
「へえ」
そういえば最初一組を訪ねていったときにも「休み時間になると姿を消す」というのはクラスメイトの女子から聞いたが、それだけでなくクラスの人間とあまり交流をしないレベルだったとは知らなかった。
新御堂は空の両手を前に突き出し、バリヤーを張るような動きをして言う。
「だから《鉄壁》。スペックの異様な高さも相まって、近づきづらい御仁と化しているようだね。というわけで、そんなひとをお前がどうやって射止めたのかと皆疑問に思っているのさ」
「そう言われても。俺から仕掛けたわけじゃないしな」
「どこにきっかけがあったのだろうね。お前のその顔では、一目惚れとは考えづらいし」
「さあ。でも、きっかけはきっかけに過ぎないだろ」
「それはお前が外見きっかけで好きになったことへの自己弁護かな?」
「べ、べつにいいだろきっかけがなんでも……」
「まあそうだね。結果さえよければなんでもいいだろうさ」
からかい半分な言葉を放って、新御堂はむしゃむしゃとパンをかじる作業に戻る。
結果ねぇと思いながら、俺は机に頬杖ついて弁当をつついた。
+
放課後になり、新御堂は部活へ。
俺は白野と帰るために昇降口を出て、校門の辺りで待「おひさしぶりです!」たなかった。またしても不意に現れる白野だった。さっきまで影もかたちも気配もなかったのに、いったいどこから出てくるんだろうこのひと。
「う~、浦木くん。一日ぶりの再会で、感動もひとしおです!」
「昼に会ってないから計算上たしかに一日ぶりだけど、それだけで感動までいくのか……」
「浦木くんは感動しませんか?」
「うれしくはあるけど感動までは」
「うれしいと、そう思ってくださるのですか……」
両サイドの髪をつかんでうつむき、うれし恥ずかしという顔をしていた。いやここでそう思わないようならそもそもお付き合いとかしないからね?
しかし、まあ。
昼に新御堂とあんな話をしたせいか、なんとなく観察してしまう。
少なくとも俺との間には距離があるだけで壁はないし、とてもそんな『周囲との会話は最低限で済ませる』というようなキャラには見えないのだが。
「ど、どうかされましたか? なにやら熱い視線を感じます」
「え、あーいやうん。とくになんかあるわけではないんだけど」
「なにもないのにそんなに見つめられますと、照れます……」
「照れられるとこっちも照れるんだけど……」
面はゆい感じになった俺たちは互いに視線を逸らし、まっすぐに帰り道の方を見た。
「んじゃ、帰りますか」
「まいりましょー」
そうしていつも通り、俺たちは縦一列に並んで二歩半の距離を置き、歩き出した。
俺たちにとってのいつも通り。普通の。
普通の、一日の終わりだ。
「そういや、昼の委員会ってなんだったの?」
バス停までの道をなるべくゆっくり歩きながら、俺は振り返りつつ問う。白野は肩にかけたカバンの紐を両手で握りしめながら、箒で掃くような動作をしてみせた。
「美化委員です。所属人員が少ないのに私物化されている部室がいくつかあるようで、そこの清掃についていろいろ話をしておりました」
「へー。面倒くさそうな」
「実際面倒ではありましたね。各部室を見て回るのに時間を取られ、おかげさまでお昼もそこそこといった状態で。昼はパンを二つかじった程度です」
「そりゃまたおなか空いてそうだな」
毎日弁当をつくってきているので、いまは白野の食べる量もだいたい把握している。
ユズのスペアの弁当箱を使っているので最初はあいつと同じ量だったが、それだと物足りない顔をしていることが多かったためいまはちょっと量を増やした。
白野の方も俺の食べる量はだいたい把握しはじめている。……あいかわらず味付けが浦木家方式と大差ないのでとても不思議な感じがしているけれど。自分の好みとかないのかなこのひと。
力ない様子でうなだれた白野は、やはりおなかが空いているらしく脇腹をさすっていた。
「浦木くんのお弁当を食べ損ねた一日でしたので、今日はもう午後いっぱいやる気が出ませんでした……」
「ならいつも通りつくってきて、朝のうちに会って渡しときゃよかったな」
「そんな、浦木くんの朝の貴重な睡眠時間を削っていただくだなど恐れ多い!」
「気にしなくてもいいよ。どうせ俺朝は弁当つくるためにそこそこ早起きしてるんだし」
「な、なんと……すでに浦木くんのお時間を奪ってしまっていたとは……!」
「いや普段からユズと父さんの分もつくってるし、ついで程度の時間しか使ってないってば。というか、時間を奪われるとか言うなら」
「言うなら?」
「……いや。やっぱなんでもないです」
「えっなんですか疑問を残されますとこわいです! 教えてください!」
「なんでもない、なんでもない」
俺は歩く速度を少し早めて白野の追及から逃れた。
うん。
白野に時間を奪われるとか言うなら、俺の場合こう、ね。
日々、種々雑多な白野への妄想やらなんやらで気を取られてるとか、そういうので時間をだいぶ奪われてるというか。ね。
それこそ円グラフのタイムスケジュールにすると相当な時間にのぼるんじゃなかろうか……なんてこと、当人に向かって言えるはずもないんだけど。
「ま、その話はひとまず置いといて」
受け取った小包を横に置くようなジェスチャーをしてみせると、後ろを歩いているためその空間に追いついてきた白野が受け取るような仕草をした。
「置き忘れです」
「親切か。それはいいから、忘れて。それよりなんか食べようよ、俺も腹減ったから」
「ではどちらにまいりましょう?」
ぽいとジェスチャーの小包を投げ出して白野は言う。俺が要望を述べるとそっちを最優先してくれるというのが、この二週間ばかりの付き合いで読めてきた白野の性向である。
「コンビニでチキンでも買おうかと。表で食べてればそんなに距離も近づかなくて済むだろうし」
「お供いたします!」
少しだけ帰り道から逸れた俺たちは、牛乳の缶がロゴマークのコンビニへ入るとチキンを買って表に出た。辛い味のと旨塩味のとひとつずつ。
車が突っ込むの防止用らしき柵に腰かけるようにして、封を開けた。
「揚げ物は好きだけど、家じゃ手間だしあんまやらないからなぁ」
はふはふと肉を頬張っていると、白野ははっとした顔つきでなにやらスマホをいじった。
少ししてからこほんと咳払いして、なぜか改まって俺に訊ねてくる。
「……揚げ物、お好きなのですか?」
「? うん、好きだよ」
言い終えたところで白野はまたスマホをいじる。
そして悶えた。なんなんだ。
口許を手の甲で押さえてはあはあ息を漏らしながら、白野はつづけて訊ねてきた。
「ほ、ほかに……『好き』なものは?」
「なんで急に……そうだな、揚げ物以外だとべつに煮物も好きだし……単品の料理だったら脂のった奴でつくるブリ大根とか、好きだな」
弁当のメニューでも考えてくれるのだろうかと期待しながら答える。
白野は素早くスマホを操作していた。
メモでもしているのかと思って体を伸ばすようにのぞきこむと、画面はメモ帳ではなかった。
あ、これ録音モードだ。
「……部分的に音声を切り取ってなんか自分が楽しむ用の音声つくろうとしてない?」
「な、なぜおわかりになったのですか! エスパー?!」
「この状況見てればだいたいわかるわ! ……いやべつに消さなくてもいいけど。しょんぼりしながら削除ボタンに指かけるのやめなよ」
「お優しい……」
えへ、と笑って言う。くそっ、可愛い。しかしだんだんこのひとも俺の扱いわかってきてないか? 盗撮を申し訳なさそうに自己申告してきた頃から考えるとずいぶん厚かましくなってきた。べつにいいけど。
「というかそんな小細工して音声つくらんでも、頼んでくれれば言ってほしいことくらい言うのに」
「いえそれはその。さすがに勇気が出ないと申しますか……」
「気ぃ遣わなくてもいいよ」
「そうですか? でも……浦木くんのお口からそんな過激な……ではなく、言いにくいお言葉を賜るのは、さすがに恥ずかしいと申しますか」
頬をかぁっと赤く染めて、白野はもぐもぐと言葉を飲み込んでいる。
……過激で言いにくいことって、なに? 聞いた側が恥ずかしくなるようなことなの?
疑問は浮かぶが言葉にならず、そのうち白野はきりりとした顔で決意表明のように言い切る。
「いまのところは聞きたいという気持ちより、恥ずかしさで死んでしまうかもしれないという気持ちの方が強い。そんな感じです」
俺いったいどんなヤバいこと言わされそうなの?
気になるけど、俺も聞きたいという気持ちより白野のいまだ知らない部分へのこわさという気持ちが勝った。「そう……」と流しておくことにした。
いやヘタレたんじゃないよ。
一歩一歩ね。進んでこうって。そう決めてるだけだからね。
「……まあ気持ちが固まったら言って。考えておくから」
「はい!」
これから共に歩む道の先に地雷を埋めたような気がしてならないけど、いまが乗り切れればそれでいいやと俺は未来から目を逸らした。
いつかの自分がいつかがんばってくれるだろう。がんばれ。
そうしているうちに食べ終えてしまったので、雑談を切り上げて俺たちはまた歩き出した。
寄り道した分わずかに一緒にいられる時間が延びたが、あとはバス停までの道をまっすぐ歩くだけである。
あー。
金曜日が終わっていく。
お別れの時間が迫ると思うと気が滅入ってきた。
少しずつRUINでのやり取りにも慣れてきたようだけど、どうしても白野はたどたどしいというか返事をくれるまで時間がかかることも多いし。
やっぱり直接、会って過ごしたいなぁ。
……明日明後日は土日か。
白野は、予定とかあるのかな。
「?」
振り返って白野の方を見ると、なぜそっちを見たかわかっていない顔で彼女はうれしそうにもじもじしていた。
……うー、でもな。改まってデートに誘うのは、緊張する。
この前は流れで寄り道しよう、と向こうから言い出してくれたからよかったけど自分から切り出すのって勇気要るんだな。心臓にみしみし負担かかってるのを感じる。
でものろのろ歩いていてもバス停は近づく。
どうしようどうしようと迷っているうち、無意識に足は止まっていた。
「おとと、浦木くんっ、急に立ち止まりますととこちらの心臓が止まります!」
「あ、ごめん」
「どうなされたのです? 具合でもよろしくないのですか」
「そういうことじゃないんだけど。んー、その。えーと」
まごまごしているとバスが彼方に見えてきた。
どうしよう、困った。どうしよ。
あ。
もうとりあえずここは「じゃ!」って帰宅して、家についてからRUINで「土日は暇?」って訊けばいいのでは? おお、なんか追い込まれたところでベターな案が浮かんだじゃないか。よしこれでいこう。
「あのー、浦木くん」
と思ったところで歩き出そうとした出鼻をくじかれる。つんのめった俺は無理やり元の位置に戻ると、白野に向き直った。
「な、なに?」
俺の軽い問いかけに、じーっと擬音が聞こえてきそうな視線が這い上がってくる。
真剣な目でこちらを見上げ、何事か考え込んでいる。
……これはひょっとして、俺がデート誘おうと考えてることがバレたかな? ほら、俺って顔に出やすいらしいし。
あいかわらず目を合わせるのが苦手なのか喉元の辺りをにらんでいるが、白野は強い光をたたえた目で俺を案じている様子だった。あーこれは間違いなくそうだ。心を読まれている。
「もしかして、ですが」
「あー、うん」
「浦木くん……そのように足を止めていらっしゃるのは」
「うん、じつはね、」
「ご自宅に帰るのが、お嫌なのですか?」
「そうその通…………んん?」
あれ?
一生懸命察してくれようとしたみたいだけど、だいぶ見当はずれの方に話が飛んだな……。
だが白野の中では曖昧な俺の返事が確たる返答に聞こえていたようで、「なるほど」と納得した風にひとりうなずいている。おいなにを読み取ったんだ。
「浦木くん、近場で少し休憩いたしましょう」
「え、休憩ってなんで」
「『今日は家に帰りたくない』と殿方がおっしゃったら、休憩するところへ行きなさい……と」
「またくぎちゃんとやらになんか吹き込まれてる!?」
「すごいです、よくおわかりで」
掌を打ち鳴らして白野は感心している。
あのご友人、厄介過ぎる。要注意対象だ。っていうか家に帰りたくないってセリフは終電間際に女子の方が言う殺し文句じゃないのか普通。
「なあ白野、意味わかって言ってる? 『休憩にならない休憩』の」
「へ? 『楽しい時間は休んでいるうちに入らないからだ』とくぎちゃんが言っておりましたが。ちがうのですか?」
「うーん、うーん、ちがわないんだけど、根本的なとこでズレが」
絶妙に間違ってなさそうに聞こえる言葉選びだ。策士。策士と呼ぶほかないだろう。なんて無駄なとこに頭が回るんだくぎちゃん。
いつかくぎちゃんとはきちんとしたかたちで対決しなくてはならないかもしれない……。
「ともかくも、休憩はいいから!」
「よろしいのですか。ではいったい、どのような理由で足を止めていらっしゃったのです?」
「それはぁ――」
言ってる間にぶおんと横を通り過ぎていくバス。あ、行っちゃった。
……まあこれで時間には追われなくなったな。そんなら、もう開き直るしかない。
気持ちを落ち着かせて、俺はすぅはぁと深呼吸し、白野に向き直る。
「明日、暇?」
「暇、と言いますと」
「とくに予定とか無いか、を訊いてんの」
これでなにかすでに予定が入ってるようなら、とんだ緊張し損だ。
ドキドキしながら回答を待つと、白野は焦らすようにんー、と顎に手を当て首をかしげた。
「いつも通りの休日を過ごす予定でしたが」
「いつも通りってどんな」
「え、それはそのぉ……調べものですとか、お散歩とか」
人差し指同士をつんつんさせながら言ってるけど(俺の個人情報や嗜好等についての)調べもの、(俺の家の周囲を)お散歩している、という真実がどこからか副音声で聞こえた気がした。
いったいどこから情報を得ているのか。そしてどんな散歩コースをとっているのか。真相は不明なままだ。
「……ひとの休日にケチつけるつもりはそんなにないんだけどさ。ほかにやりたいこととかないの?」
「やりたいこと、ですか。むぅ……そ、そうですね。もしも叶うのなら、ですが」
「可能な限り希望には沿うよ」
「本当ですか? 言質取りましたからね? では、ですねぇ……う、浦木くん」
「うん?」
足元の方を見つめたまま固まった白野があせあせと、上向けた右掌で俺を示す。
震えた声で、望みを告げる。
「浦木くんっ、の、おうちに……行ってみたいです!」
おうちデートになった。