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暗黒騎士さん、受難再び

「ずるいずるいリナリィったらずるい!!」

「ずるくない! ドナティが寝てたのが悪いんでしょ!?」

「悪くないもん! お姉ちゃんだからってずるい!」


 暗黒騎士さんが去って行って、しばらくしたら本当に病気が治っていた。村の人たちも、次々に起き上がり、今ではすっかりいつもの活気を取り戻していた。

 ドナティもすっかり元気になって、ずるいずるいと繰り返す。


「だいたいドナティも助けてもらったんでしょ!? 一緒だよ!」

「一緒じゃないもん! ドラゴンと戦うなんて本でしか見たことないもん!」

「むーっ!」

「ふーんだっ!」


 二人ともうるさいわよーっ、と母親の声。

 揃ってはーいっ、と返す。

 そんなどこにでもある普通の、幸せな光景。

 二人は互いに顔を近付け、ひそひそと話す。


「でもでも、騎士さま、かっこよかったね」

「ねー、ちょっと鎧は怖いけど」

「やっぱり? あれ、すごい悪役っぽい」

「中身はそんなことないのにねー」

「ねー」


 鎧は禍々しくて怖いけど、それでも自分たちの為に、騎士さまは戦ってくれたのだ。

 少女たちにとって、それは物語の中の体験そのものだ。実際に病気が治ったとなれば、それは最早信仰の対象だろう。幼い少女たちにその自覚はないかもしれないけど。


「また会いたいねー」

「ねー」

「今でも誰かを助けてるのかな?」

「きっとそうだよ」


 顔を見合わせて、少女たちは笑う。

 あの騎士さまが、今もかっこよく戦ってるのを想像しながら。










「う〜ん……」


 一方その頃、暗黒騎士さんは悩んでいた。

 即ち、自分の鎧をどうするか、だ。

 魔族を下してしまった。この噂は、きっとすぐにでも広まるだろう。

 自分はもう魔王軍には帰れない。

 けれど自分は魔族であるから、人間側にもつけない。


 幸いにも、暗黒騎士の中身を知る人間は殆どいない。

 鎧さえ身に付けなければ、その姿は人間に近い。

 地面に置いた鎧を見詰める。

 けれどこの鎧はーー


「ずっと、使ってきたし……」


 訓練時代から、ずっと使ってきた鎧。体に馴染んでるし、手離すのも嫌だ。しかし、手離さなければ、自身は前へと進めない。


 暗黒騎士さんは決めた。


「埋めるか……」


 どことも知れない森の中。ここがあなたの墓場だ。さよなら思い出、こんにちは新しい世界。

 せめて、と手甲と足甲だけ残して、後はさようなら。スコップ代わりに使っていた木の板を放り投げて、暗黒騎士さんは手を払う。

 随分軽装になってしまったが、これで問題はないだろう。


 暗黒騎士さんは歩き出す。

 どこかでゆっくりと過ごせたらいいなぁっと思いつつ。


「きゃああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

「……またか!?」


 森を劈くような叫び声。

 前にも似たようなことがあったなぁ、と思いつつ、人間たちはこんな治安の悪い中、どうやって暮らしてるんだ、と走り出す。

 好きなように出来なかった以前と比べて、今は自由なのだから。

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