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暗黒騎士さん、竜と対峙する

 手早く鎧を身につけた暗黒騎士さんは山を駆け抜けるように登っていた。

 暗黒騎士が恐れられる所以の一つに、その強靱な身体能力が挙げられる。暗黒属性の魔法などなくとも、暗黒騎士は人々にとって十分な脅威なのだ。


 暗黒騎士さんにはわかる。どんどん呪いの発生源が近付いていることに。何故ならそれは見知った気配。暗黒属性の魔法の一つだからだ。

 そして、このような弱者を甚振るような魔法は、暗黒騎士さんは嫌いだった。


 そしてーーこのような呪いを使う種族は、暗黒騎士さんの知る中で一つ。

 弱らせた人々を食い物にする醜悪極まりない習性を持つ種族。その陰湿な種族はーー


「……やはり、呪竜か」


 ぽつり、と暗黒騎士さんは呟き、足を止める。

 山の丁度中腹辺りだろう。そこに、いた。

 巨大な体を地に這わすようにしたそれは、とても竜には見えない。体に比べて不自然なくらい大きな頭部は、凡そ歩くのに適さない。

 彼らに歩く必要などないのだから。

 朽ち果てかけた体を揺らして、巨大な口部を開く。真っ黒な粘液が垂れ落ち、地面が蒸発するようにして、小さな穴を開ける。


「んだよォ……誰が来たのかと思ったら暗黒騎士サマじゃねぇか……んの用だよォ」


 暗黒騎士が騎士道であるのと同様に、呪竜は外道である。故に、その仲は良いとは言い難く、むしろ敵対しているといってもいい。

 そう、暗黒騎士さんも例外ではなく、彼らの外道を許容することはできない。


「呪竜が……こんな所で、何を……」

「決まってんだろォ? じわじわと弱らせてからよォ……食うのが楽しいんじゃねェか」


 吐息混じりの粘ついた声音は、不快感を刺激する。


「外道か……」

「なんとでも言えよォ。暗黒騎士サマは相変わらずの騎士道だなァ……気に入らねェな、相変わらず」

「そうか……」


 ちきり、と鍔鳴りの音。引き抜かれる刃は殺意に揺れて。


「おっとォ……暗黒騎士サマ? 俺たち、同じ魔王軍だろォ? 仲間を斬るってのかァ?」

「すでにリストラされた身だ……」

「リス……トラ……? ひゃははははッ! お前あれかァ、暗黒魔法が使えないから魔王軍から追放された暗黒騎士かァ!? ひひははは!!」

「何がおかしい……?」

「おかしいに決まってんだろォ? 暗黒魔法を使えない暗黒騎士なんざ、もう同士でさえねェ。心置き無くぶっ殺せるってもんだ!」


 短い四肢をバタつかせ、呪竜は立ち上がる。地面が黒く染まり、草花は枯れ落ちる。暗黒騎士さんの体が重くなり、思わず崩れそうになる。


「ひははっ、だいたいお前ら種族は気に入らねェ……! 魔王軍の癖に騎士道だ正々堂々だのと俺らのやり方にケチ付けやがって……お前をぶっ殺せば、少しは良くなるだろうよ」

「元より」


 切っ先を竜の鼻先に合わせ、構える。

 失うものはなくなって、ただ自分の命のみ。生きる意味はなく、ただ、それでも。

 小さな少女が、倒れている。

 知らなければ、自分はまだ彷徨っていた。

 けれど知ってしまったから、自分は外道を倒さなければならない。


 弱きを助け、強きを挫くのが騎士であるのなら。

 元より引くことなど考えない。


「じゃあなァ、暗黒騎士サマ……いんや、ただの騎士サマかァ? ひひひゃははははっ」


 暗黒騎士さんの足元から真っ黒な粘液が絡みついて、その体を飲み込んだーーーー

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