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暗黒騎士さん、少女の為に

「騎士さま、どうもありがとうございます……こほっこほっ……失礼、どうも最近体調が優れなくて」


 ドナティとリナリィに案内されて、彼女たちの家に暗黒騎士さんはやってきた。村は静かで活気がない。そして何より見知った嫌な気配を感じながらも偶然だろうと思っていた。

 

 けれど暗黒騎士さんは彼女の様子を見て確信に至る。


「いえ……私は」

「ああ、すみません。いつまでもこんな所にいては病が移ってしまいます。けほ……ドナティ、お茶でも出してあげて」


 ベッドに横になったまま、暗黒騎士さんに話しかけるのは彼女たちの母親だろう。見るからに痩せ細り、健康ではないのは明らかだ。

 そして、暗黒騎士さんはこの状態を知っている。


「……すみません……こほっ……本来なら私がおもてなししないといけないのに……けほっ、けほっ……」

「いえ……そのままで、大丈夫」

「そう……ですか、けほっ……すみません……」





「おかーさんね、ずっとあんな調子なの」


 リビングに通され、暗黒騎士さんはドナティに話を聞く。

 ドナティはテーブルの下で脚をパタパタさせながら、心配そうな顔。


「ほかの人たちもずーっとよ、どんどん動ける人がいなくなってる」

「…………」


 暗黒騎士さんは気付いていた。

 この慣れ親しんだ暗黒の気配に。

 そう、この村に蔓延してるのは呪いだ。

 それも、じわじわと真綿で首を締めるかのようなやり方。

 暗黒騎士さんの一番嫌いなやり方である。


「遊べる子もみーんなおかーさんとかおとーさんが倒れてて付きっ切り。つまんないったらないわ」


 と、リナリィはテーブルに突っ伏して呟く。言葉とは裏腹に、心配そうである。


「ねぇ! 騎士さま! 騎士さまはどうにかできないの?」


 ドナティが、暗黒騎士さんを見つめ、口にする。真っ直ぐな瞳は不安に揺れている。それはそうだろう、母はあの状態で、不安なのだ。

 暗黒騎士さんはくしゃり、とその頭を撫でた。


「……安心、して」

「……えへへ、やっぱり騎士さまだぁ……」


 安心した、と言うように笑い、ドナティは椅子から転げ落ちるように倒れた。


「!? ドナティ!?」


 リナリィは椅子を蹴飛ばすようにして、ドナティの元へ駆け寄る。

 顔は赤く、無理していたのだろう、冷や汗が身体中を伝っているのがわかる。

 そして、暗黒騎士さんは気付いた。

 その呪いの気配を。

 ドナティ、ドナティ、と話しかけ続けるリナリィをよそに、暗黒騎士さんは立ち上がる。


「騎士さま?」

「大丈夫。任せて」


 語る言葉は短く、それでもなるべく安心させるように言って、暗黒騎士さんは踵を返す。

 飛ぶようにして、家を飛び出した。

 目指すのは、鎧の場所。


 暗黒騎士さんは暗黒であっても騎士なのだ。暗黒騎士さんは見た。この村の寂れた様子を。母を思う子を、見た。

 それは守られるべきものだ。

 騎士とは弱き民のもの。例えそれが敵対していた種族だとしても変わらない。

 だから暗黒騎士さんは走るのだ。


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