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暗黒騎士さん、少女と出会う


 とぼとぼと暗黒騎士さんは森を歩いていた。どこをどうやって歩いてきたのか、もうわからない。

 ただ、自分の感情のままに走り続けてきたのだから。

 荷物は背負ったバッグだけ。他はなにもなかった。


「はぁ……これからどうすればいいのだ……」


 兜でくぐもった声は、その恐ろしい外見とは裏腹に透き通った声。

 暗黒騎士さんにはなにもなかった。友達も、自分を置いて先に行ってしまったし、家族も、もはや手が届かない。

 拠り所もない。

 ないない尽くしである。


「お前も応えてはくれないしな」


 ため息混じりに腰に佩いた剣を撫でる。

 暗黒騎士は、生涯に一度、自分の魔力を織り込んだ魔剣を作る。持ち主と共に成長し、覚醒すれば、他のどんな剣よりも手に馴染み、特殊な力と名前を持つ。

 しかし、暗黒騎士さんのそれは、未だ覚醒せず。名無しの魔剣のままであった。


「私は今、どこにいるんだろう……? 海は渡っていないから、マルハナ大陸のどこかだとは思うが……」


 戦場に出してもらえない暗黒騎士さんには、如何せん地理に疎かった。

 戦場にも出されず、訓練を受けて、タダ飯を食い、給料を貰う。クビになっても仕方ないな、と暗黒騎士さんは乾いた笑いを漏らした。


 その時、ぎゃぎゃぎゃぎゃ、と異形の鳴き声が響いた。暗黒騎士さんはびくりと身体を震わせた。訓練ばかりしてきた暗黒騎士さんは自分の実力がわからない。

 戦場に出してもらえないということは、簡単に死んでしまうのではないか、と思う。


 死ぬのは嫌だった。

 自分はまだ、何者にもなれていないのだから。何にもなれないまま死ぬのは、御免だった。


「ううう……怖いなぁ……早く安全な所に行きたい……」


 それでも、ヘタレてしまうのは仕方ない。

 それでもーーーー


「きゃああああああああああああああああぁっ!!」


 悲鳴が響いた。

 年端もいかぬ子供の声。

 思わず、腰に手をやる。暗黒騎士さんは腐っても騎士である。自身の正義は持っている。

 暗黒騎士さんは荷物を投げ捨て駆け出した。


 森の中という悪路を疾走する。

 慣れない獣道だが、その鍛えられた足腰が速度を落とすことはない。

 あっという間に声の元へたどり着く。


 緑色の肌の小人ーーゴブリンだーーが武器を持ち、少女を囲んでいる。

 見た所、少女に戦う力はなく、ただその両手に抱えた袋を抱き締め、へたり込みながら目に涙を溜めているだけだ。


 暗黒騎士にも騎士道はある。それは普通の騎士となんら変わることない。即ち、強きを挫き、弱きを助ける。

 それが例え、人間であろうと、暗黒騎士さんの中では変わりない。


 そもそも、魔王軍はクビになったのだ。今更失うものなどありはしない。


 下卑た笑みを浮かべるゴブリンの群れに、暗黒騎士さんは突撃する。構えた剣は大上段に。一刀の元、斬り伏せる。

 ずだん! とまるで紙切れのようにゴブリンを両断し、その姿を晒す。

 漆黒の鎧を身に纏う暗黒騎士さんの威圧感は中々のものだ。暗黒騎士の中でも小柄な暗黒騎士さんでもそれは変わらない。


 予測不能な事態に加え、自分たちより圧倒的強そうな存在にゴブリンたちは震え上がり、逃げ出した。


 後に残るのは、こちらを呆然と見上げる少女と暗黒騎士さんだけだった。

 このような事態は初めてだ、と暗黒騎士さんは思い、少しばかり考える。

 そして。


「無事だったか?」


 と、中性的な声で、問い掛ける。

 少女の瞳が焦点を取り戻し、小さな口が言葉を紡ごうと震える。


「ーーーーさま」

「ん?」

「騎士さま!」


 がば、と少女は立ち上がり、暗黒騎士さんの手甲に包まれた手を握り締めた。

 真っ直ぐなきらきらした目を向けられ、暗黒騎士さんは目を白黒させるのだった。

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