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暗黒騎士さん、魔王軍からリストラされる


 暗黒騎士。

 魔王に忠誠を誓い、暗黒の力を用い、人類軍を襲う騎士の総称である。

 その漆黒の鎧は人々に恐怖を与え、卓越した剣技は王国の騎士さえも容易く葬る。

 魔王軍の象徴とまで言われ、絵本でも語られ、幼子も名を出されれば泣き止む存在が今ーーーー小さくなって震えていた。


 黒檀の巨大な机の向こうで、そのサイズに相応しい威容を誇るのは死の恐怖、魔王である。

 闇色の衣を身に纏う骸骨。まるで死神のような存在が、肩を怒らせながらコツコツと机を人差し指で叩いていた。


「君さぁ、なんで呼ばれたか分かってる?」


 コツコツ。


「それは……」

「君さ、魔王軍に来て何年だっけ?」

「産まれた時からですが……」

「ふぅん。君、幾つ?」

「今年で二十歳になります」

「そうだよね、もう二十年だよね」


 コツコツ。


「それなのに君さぁ、全然暗黒系の魔法覚えないじゃん。君のお兄さんはあんなに活躍してるのに」

「あ、兄上は……」

「ん? どうしたの? 関係ないって? ないことはないでしょ。僕は君のこと言ってんの」

「う……」


 コツコツ。


「魔王軍もね、物資、有限じゃないの。使えない奴置いておくほど、裕福じゃないの。わかる?」

「わ、わかりますけど……」

「けど? 君、自分の立場わかってるの? 君と同時期に入った子は立派に部隊長務めてるのに、君はどうよ?」

「わ、たしは……」

「ね、わかるでしょ? 親の七光りで、いつまでも置いとけないの。都合のいい物語じゃないんだからさ。君も大人だろ?」

「はい……」


 コツコツ。


「はい、それじゃ、これにサインして。君、明日から来なくていいし、どこへだって行きなよ。どうなっても、もう関係ないし」

「それは、つまり……」

「うん。除隊してって言ってるの。簡単に言えばクビだよ。ク、ビ」


 暗黒騎士は、その時、初めて目の前が真っ暗になるという体験をした。震える手で用紙にサインして、頭を下げた。

 自分はもう見捨てられたのだと理解した。

 ふらふらと兵舎に戻り、ほとんどない荷物を纏めた。

 ふらふらと覚束ない足取りで魔王城から離れる。


 遠い所に行ってしまった同期が、兵士達の指導をしているのを見て、駆け出した。

 がしゃりがしゃりと、自前の漆黒の鎧が音を立てる。

 無性に悲しくて、兜の隙間から涙が溢れた。


 ーーーー暗黒騎士さん、本日、クビになりました。

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