15.傷だらけの手
果たして何時間、こうしていただろうか。
最初は暗闇に包まれていた外は、いつの間にか明るくなっていた。カーテンの隙間から射し込む陽の光がベッドに横たわる青年の顔を照らし出す。
青年は眠りに就いていた。
傷を治療したベアトリーチェの予想では、暫くは目を覚まさないだろう、とのことだった。惨たらしい傷もそうだが、何より消耗が激しい。我が身を顧みない戦い方は、青年の体を着実に破壊していた。
このまま戦いを続ければ、彼は――――死ぬだろう。
それは、誰よりも分かる。何故なら蓮華も、彼と同じだからだ。傷付くことを厭わずに、勝利へ向けて抗う醜い戦い方。だが彼とは違う部分もある。
痛み、だ。『奇跡』の力で痛みを封印出来る自分とは違い、彼は痛みを消すことは出来ない。常に苦痛と共に前へ進まないといけない。
「どうして……?」
痛いのに、苦しいのに、何故彼は進むのだろう。
足掻き、藻掻き、戦うのだろう。
「……分からない。私には、貴方のことが」
思えば、あの時から彼の考えは理解不能だった。
弱く、人を切り捨てることしか出来ない蓮華に、手を伸ばしたあの時から。
憎い筈だろうに。殺したいと、思った筈だろうに。
それすら許容して、彼は蓮華の手を握り締めた。
果たして彼は、何を思ったのか。
「…………」
そっと、手を握る。
こうすれば彼の思いが分かるのではないか。有り得もしないのにふと、そんなことを思ったからだった。
傷跡が生々しく刻まれた手は、陽光のように暖かい。かつて手を引かれた時も感じた温もりが、蓮華を満たす。
こうしてまじまじと見てみると、秋の手は蓮華と殆ど変わらなかった。
所々に傷が有り、大きさも秋の方が少し大きい程度。爪は蓮華の方が長いだろうか。指も若干蓮華の方が細いかもしれない。
それでも、似た手だった。
弱々しくちっぽけな、蓮華の手と同じだった。
「あ……ああ……」
涙が、頬を伝う。
今、理解出来た。
彼もまた、同じ。
月宮秋は、弱いのだ。
だが、守りたいものが、彼にはあった。
だから、足掻いた。弱いから、そうした戦いしか出来なかったのだ。傷付くことを受け入れ、それでも進むしかなかった。
それだけの単純なことだ。
しかし弱く、足掻くことすら出来ない蓮華には分かる。彼の行いが、どれだけ尊く、難しいことなのか。
「月宮くん……」
未だ秋に対する感情は分かっていない。
しかしそれより、今は、彼の思いに報いるべきだろう。
約束はした。キース・ブライトを倒すと。
なら、これ以上の言葉は要らない。
最後に強く秋の手を握り締め、蓮華は立ち上がる。
次にここへ来る時は、勝利した時だ。
どうかそれまで、安らかに。
「お休みなさい」




