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不死の少女は旅をする  作者: マリィ
2章 純白の魂
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03.弱者の守護者、或いは傲慢なる殺戮者









 ベアトリーチェが蓮華達に遭遇したのは、決して偶然ではない。


 『騎士団』。奇跡所有者によって構成された組織の一つ。

 『教会』、『図書館』といった名高い組織と肩を並べる彼らの存在意義は、他の二つとは大きく違う。


 『騎士団』の役割は、弱者の保護。


 一般人を奇跡所有者から守る。

 捨てられた奇跡所有者を拾い、育てる。


 そういった『奇跡』に関わる弱者を保護するのが『騎士団』の役割だ。


 しかし、もう一つ『騎士団』には役割が存在する。


 奇跡所有者の処刑だ。


 とはいえ誰彼構わず殺したりはしない。人に害を及ぼす者を、一般的に言えば犯罪者限定で、彼等は処刑を実行する。


 そう。例えそれが疑わしい者であろうと、彼等は殺す。一切容赦無く、処刑する。世界の平穏を建前に、『奇跡』という異端を処断する。


 だから彼等は奇跡所有者達から嫌われているのだ。関われば殺されるとも、まことしやかに噂されている。

 とはいえ、それは狂信者の集まりである『教会』と、異常者の巣窟である『図書館』も大して変わりはしないが。


 『教会』、『図書館』、『騎士団』。それぞれ巨大な三大組織の中でも特にベアトリーチェが嫌悪しているのが『騎士団』だった。


 その身に宿した『奇跡』の特異性、消して老いず朽ちぬ肉体から、ベアトリーチェは様々な事件に関わってきた。当然、何かしら『奇跡』に関係した事件が起きれば『騎士団』が関わってくる。その中で、何度彼等とベアトリーチェは敵対しただろうか。


 それこそ数え切れない。疑わしきは罰する。その理念な従い、果たして何度対峙したことか。


 今回も来るだろうとは予想していた。アリオスとの一件で、ベアトリーチェは後始末を彼等に頼んだからだ。当然の如く『騎士団』はやって来る。


 結果、蓮華が襲われた。ベアトリーチェは事前に街全体へ展開していた使い魔からその報せを受け、直ぐに助けに向かい、そして現在に至っている。


「…………」


 鎧を身に纏った男を、ベアトリーチェは睨め付ける。

 『騎士団』の奇跡所有者は殆どが戦い慣れた猛者だ。蓮華が追い詰められていたことから考えても、中々の実力者であることは間違いない。


 しかし臆するつもりはない。


 ベアトリーチェは何度も、何度も、彼等と戦ってきた。今更恐怖など抱く筈もない。


「もう一度だけ訊くわ。……何の用」


 毅然とベアトリーチェは問い掛ける。しかし男は答えない。ゆっくりと、剣を上段に構え、


「――――ッ!」


 地を、蹴った。


「――――『蝶々』」


 当然、予想している。

 ベアトリーチェは冷静に事前に組み上げていた術式を起動させる。


 背に展開された巨大な術式。複雑怪奇な紋様で構成されたそれはベアトリーチェが長い生の中で磨き上げた技術の結晶だ。


 光が弾け、広がるのは蝶々の翅。薄い紫色をした翅は優しくベアトリーチェを包み込む。


 男は攻撃の手を止めることはしなかった。振り上げた剣を全力で振り下ろす。翅はいとも簡単に切り裂くことが出来た。


「何――!?」


 しかし翅の先にベアトリーチェは居ない。男は周囲を見渡すが、白髪の少女の姿はどこにもない。――――それが間違いだということに気付かない。


「――――『隻腕』」


 女の声が、男の耳に届く。

 刹那、衝撃と共に吹き飛ばされた。


「――ッ! 何が――――!」


 視界が二転三転する中、男は巨大な片腕と、その隣に立つベアトリーチェの姿を見る。


(成る程。認識を誤魔化されたか……!)


 ベアトリーチェの立ち位置は最初から変わっていない。翅の後ろに居ないと思わせ、実はそこに居たのだ。


(噂通りだな)


 『騎士団』と対峙して尚、生き残り続けた女。


 これならば、申し分ない。


 立ち上がり、男は鎧を解除した。剣を腰の鞘に収め、そして深く頭を下げる。


「……何のつもり?」


 冷徹な声音。仕方がない。これまで『騎士団』はそれだけのことをベアトリーチェに対して行ってきた。今更許されようとは思っていない。


 しかし、これは通さねばならない。

 勝利(・・)の為に。


「これまでの非礼を詫びようベアトリーチェ。許してくれとは言わないが、せめて謝らせてほしい」

「……私が許すと思って?」

「だろうな。多少なりとも確執を解消してから臨みたかったが、仕方ない」

「何の話かしら?」


 問い掛けに男は少しだけ間を開け、


「協力しろベアトリーチェ。俺達―――『騎士団』と」


 厳かに、そう告げた。









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