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不死の少女は旅をする  作者: マリィ
1章 旅の始まり
27/77

26.とある姉弟の物語









 果たして彼の旅は終わりを告げた。

 これはとある怪物の物語。

 いつか、残酷な真実として語られる御伽話。

 しかし物語としては余りにも醜悪で、


 けれども、幸せな、話だった。









※※※※※※※※※









 姉さん。貴方はきっと、私のことを許してはくれないだろう。どれだけ言い繕うと、私は――――僕は、貴方を貪り食った。恐怖に敗北し、皿の上に飾られた貴方を平らげた。


 あの時から、僕は怪物と成り果てた。

 貴方は言った。アリオスは、人だと。アリオスは、怪物ではないと。


 ごめんなさい姉さん。結局、僕は怪物だった。人を喰らう、人の敵だった。


 どこまでも――――どこまでも――――どこまでも、アリオスは怪物だった。


 けれども、怪物として生きることは僕自らが選んだ道だ。


 決して、決して貴方の所為ではない。

 貴方は僕を人へ導いた。僕は怪物の道を選んだ。ただ、それだけのことだ。


 嗚呼――――愛しき姉さん。貴方が僕を呪うなら甘んじて受け入れよう。ありとあらゆる憎悪を受け入れよう。苦痛も受け入れよう。


 だが、もしも、もしも貴方が僕を生み出した咎を背負っているというのなら、貴方は無実だ。裁かれるべきは僕であり、貴女は幸せに過ごしてほしい。死後まで苦しむのは僕だけでいい。


 姉さん。愛する姉さん。貴方に罪は無く、弟は穢れている。神が居るのなら、どうか。どうか聞き届けほしい。


 この醜い怪物こそ、裁かれるべきだと。清廉な姉さんは、幸福な死語を享受する権利があると。どうか――――聞き届けてほしい。


『くすくす。傲慢な怪物ね。でもいいわ。貴方が強く願うのなら、私は叶えましょう』


 声が聞こえた。

 同時に懐かしい声が聞こえる。


「アリオス」


 その声は、どこか疲れていた。

 姿は見えない。けれども僕には彼女が――――姉さんが笑っているように感じた。


 これでいい。姉さんは幸福になる。僕は地獄に落ちる。怪物の末路としてこれ以上、相応しいものはない。


 さあ――――地獄の責め苦を。

 咎から逃れるつもりはない。

 怪物として生き、怪物として死んだ。

 地獄こそ、僕に相応しい寝床だ。


 目を閉じる。

 そして――――


「アリオス」


 声が、聞こえた。

 聞こえてはいけない声が、聞こえた。


「貴方にだけ背負わせたりしない。私は貴方のお姉ちゃんだもの」


 優しい、声だった。


 涙など、既に枯れ果てたと思っていた。

 眼前に佇む白い光へと手を伸ばし――――


「仕方のない弟ね」


 伸ばした手を、彼女は掴んだ。












 果たして彼等の旅は、始まった。

 これは、とある姉弟の、物語。


 ――――幸せな、物語だった。









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