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澤村愛はめんどくさい

金曜日のルビ

作者: 末摘花

  川とか山とか、小学一年生で習うその漢字たちに、ルビが振られていることは少ない。それが不思議だ。

  国語の教科書の中では、中学二年生レベルに合わせられた噺が所せましと印刷されている。太宰治の走れメロス、村上春樹のバースデイ、江國香織のデューク。授業で取り扱われたのは走れメロスだけだった。残りふたつは最後のページで一括りにされていて、もったいないなぁと思った記憶がある。国語ができない人は人の気持ちがわからない人だ。これは誰にも言ったことがないだけで、実はずっと昔からそう感じていた。

  何故言わなかったのと問われても、誰にも分からないだろうし反感を買うからに他ならない。国語のテストで思うように点数が伸びない人とは、できるだけ会話をしたくないということもだ。話のレベルが合わなくて悲しい。私の言っていることを難しいとか、よく分からないと思考を放棄してしまえる人たちとは、絶対に分かり合えない。

  だからクラスメイトに共感したことは一度もなくて、最近はたった一単語で会話ができる女子生徒たちを、ぼんやり聞き流している。共感されないと死んでしまうような女子の方がおとこのこは好きなんだよと、愛されるなら誰でもいいのは誰でも同じなんだなと分かった。個性を求めるのに、少し可愛いとかスポーツができるとか、そんなことで簡単に人気者になる。漢字のルビみたいにパターン化された教室では、うまく息が出来ない。

「澤村さんってかわいいよね〜」

  語尾が不快に伸びた言葉に、耳を塞ぎたくなるのはおかしいことだろうか。かわいいってなんだよなんて悪態を付くことは、果たして悪いことなのだろうか。私にそう言った彼女の裏側に、醜いものが見え隠れしていてめんどくさい。それでも愛想笑いだけはうまいから、あまったるい声を出してありがとうと告げる。女子特有のこういう会話もわずらわしい。だから必要最低限にしか関わってこない、雪名のそのスタンスが好きだ。

  ひとりぼっちも今はぼっちとかなんだとか、なんでも略しすぎてどうなのかと思う。私の前の席の彼女は、拒絶が読めなくて四苦八苦していた。きっと四苦八苦の意味でさえ、曖昧にも分からないのだろう。

  おとなたちの、本を読みなさいという忠告はあながち間違っていない。漢字を覚える、人の気持ちを知る、国語の点数をとる。いちばん手っ取り早いのは本を読むことだ。デジタル化、携帯普及率が高まる現代社会を悲しいと思わないのか聞きたい。今の日本を支えるおとなたちに。

  人が日々になにを感じ、思って生きているのかを知りたい。だから書き手の心情が伺える、感情描写が多い本が好きだ。少なくともその描写には、書き手の想いが投影されている。書き出しの3行が本の命だと思う。本を買うときはその3行を読んで決める。あくまで私の基準。

  犯罪者が出版する手記を手に取り、真面目に読んでいたら狂っているとか、それらの批判をする奴らのほうが狂っている。なんてことは思ったこともない。はず。

「……雪名は、名前の漢字いつ習った?」

「あー? えー、名前は小一だけど苗字はまだ全部揃ってない」

「……あぁ、あのめんどくさい、」

  金曜日にもルビが振られない。狂っているとは思わないけど、それが少しだけ寂しい。

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