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僕は今日、――をやめる。

作者: 虚月

僕はつまらない人間だ。そうさ、認めよう。僕以外の人はずっとそう言い続けてきたのだから。

もうそろそろ認めたっていいだろう。


僕にはどうも、感情が少し欠落してるらしい。自分にはどこが欠落しているか分からないけど。


僕はつまらない人間でいるのが、嫌で嫌で仕方なかった。だから、今の今まで認めたくなかったんだ。認めたら、それで止まってしまう気がして。


つまらない人間に人は関心を持たない。普通すぎる人間は、物語のモブキャラクターと同じように、ただの風景と化す。僕は誰かに存在を見て欲しかった。認めて欲しかった。


つまらない僕に、人がよってくるはずもなく、だから友人は少なかった。周りの友人は、本当に個性豊かで、自分が無個性だということを一緒にいると嫌でも突きつけられる。



つまらない人間を辞めたいのなら、面白い人間になれ。簡単な話、一番手っ取り早いのはそれだ。


でも、できない。薄っぺらい平凡な人生を送っている僕はそんな濃い人間にはなれない。


なら、もっと経験しろと、そう周りの大人たちは言った。


でも、それも出来ない。我がままなのかもしれないけれど、無理やり吸収したものは、深く深くまで知ることはできない。


僕の心はどうやら、これでもかというくらいに乾ききっていて、空っぽなんだと思う。


だから、僕の心に引っかかる物しか吸収されない。


乾いているなら潤うことができる。空っぽなら注ぎこめる。そう言った人がいるそうだ。


でも、それは僕には当てはまらない。


乾いていてもその心が防水されていればほとんど意味はない。空っぽでも、その心の底に大きな穴が空いていれば、どれだけ入れたところで、心が埋まるわけがない。


だから、僕はどこか冷めていて人に冷たい印象を与える。




いつからか、僕は新しい人格を作るようになっていた。


そうすれば、多少は面白い人間になれるのではないかと思って。


そんなことはなかったけれど。中途半端なものでは周りを不快にするだけ。むしろからまわって僕の周りからはどんどん人が離れて行った。


離れたくないから、どんどん新しく性格を作っていく。


いつしか、自分の性格が分からなくなっていて。毎日毎日、心に大穴をあけ、どろどろと血を垂れ流して、仮面の笑顔を顔に張り付けて過ごしていた。




正直、僕はもう人間関係というものを諦めている。


人間というのは自己中心的な生き物で、誰だって自分が一番好きで。


深く人と付き合うと、離れられなくなる。そして、裏切られた時のつらさは倍増する。


人間不思議なもので、深くつきあえばつきあうほど相手の嫌な部分が露出して、一緒にいるのがいやになってくる。


それが自分は嫌で、だから人と深く付き合うのをやめた。




自分が分からなくなって、自分を定義付けてくれる人もどんどんいなくなって。


ふと、一人でいる時、我に帰る。


その時の心は鉄のように重く、冷たい。金属のようでも、開いた穴は埋まることなく更に空き続ける。


バカみたいに、趣味を心に注ぎ込んでも、それはポロポロと心からこぼれおちて行く。


だから僕はその趣味なしには生きられなくなる。それがないと、僕は僕でなくなってしまう。


どうしたって、こんな僕がおもしろい人間になれるわけがないだろう。


だから、僕は辞めた。



人間関係という、実際は単純なこの世界を複雑にして、不幸しかふりまかない重い鎖を。


性格という、僕という人間を定義付けるだけで、いくらでも作りかえることができ、忘れることさえたやすい重い鎧を。


心という、あるだけで苦しくなり、生きづらくさせる重い重い、重りを。




こんな世界を生きるのに、みな一様に背負っているそんな重い装備たちを、僕は捨てた。


僕はそんな装備をつけて生きるのには、向いていないから。なら、その絶対に変えることのできない装備を外してしまおう。


そうすれば、この世界から、消えることも容易いだろう。




もし、もしもまたこの世界でその装備をつけることになったのなら。


その時は、その時こそは。




人間らしく、生きたいと思った。





全ての装備を脱ぎ捨てた僕は、今までの重い身体がウソのように軽くなって。


周りにいる人たちがどんどん小さくなっていく光景を見降ろしていた。


見上げると、そこにはどこまでも高く、吸いこまれそうなほどに澄んだ青が広がっていて。


僕はそれを見て、目を閉じた。




























じゃあね、僕のつまらない人生。次は、もっとちゃんと生きていけるような装備を、頂戴。










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