第一話 【まずは確認からするのが基本だよね】
光が消え、目を開けると草原に横になっていた。
上半身を起こし、周囲を見渡すが人の姿は無い。
少し離れた所に道が見えて、さらに遠くに森が見えるぐらいの、ホントにただの草原にいるようだ。
「今は昼ぐらいか?とりあえず、近くの街に行って寝床を確保しないとかな?しっかし、ろくに説明してくれなかったな」
とりあえずは見えている道をどちらかに進めば街があるだろうけど………。
放り出された感がハンパない。
「と、その前に所持金の確認とかしとかないと。持ち物も何を持たされたか詳しくは教えてもらってないし」
ポケットを探ったり、すぐ近くを見回してみるが………。
あれ?カバンの類も無い?
「どういうことだ?服装はそのままだけど、元々持ってた財布とかも無いし………。ホントにお金とか持たせてくれたのかな?」
早速途方に暮れそうになっていると、目の前に何かの画面が出て来た。なんだこれ?前に友達の家で見せもらった事があるオンラインゲームの画面みたいな…………。
「ていうか、まんまゲームで見る様なアイテムボックスの表示だ、これ。アイテム指定したら取り出せるのかな?」
試しに『ポーション』と表示されているアイテムにタッチしてみた。
<指定:ポーション 個数:1(+/-)>
なんか表示が出て来た。とりあえず一個取り出してみよう。あれ?OKとか決定のボタンが無い?
どうやって決定するのかと思ったが『取り出してみよう』と思っただけで決定の扱いになった様だ。目の前の画面からビンが一個出てきたので、慌てて手に取る。
「っと!………なるほど、こうやってアイテムを取り出せるのか」
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それから10分ほどこの不思議な画面について試してみた。
僕の意思で出したり閉じたりする事が出来るのはすぐに確認できた。それで試した結果がこんな感じ。
1.画面を開く事で個数などを確認出来るが、出し入れする時は、画面を開かなくても目の前の適当な空間に手を突っ込んだり、ポケットに手を入れたりすると出し入れ出来る。
2.入れたアイテムの詳細を知りたい時は、画面を開いた状態でヘルプ機能を使う必要がある。取り出した状態ではヘルプ機能は使えない。
3.お金も(1)と同じ方法で取り出せるが、ヘルプ機能を参照しても100枚ごとに上の金額になる事が書かれているぐらいで、物価については不明。
「これがこの世界のお金か。500円玉よりはちょっと小さいぐらいの大きさかな?」
お金に関しては枚数でしか表示されないから、通貨単位みたいなのは無いのかな?種類も下から『銅貨/銀貨/金貨/純金貨』の四つしかないし。
すべて同じ大きさで『銅貨/銀貨/金貨』は同じ柄が彫られてる。ヘルプで見ると、銅貨を元に銀メッキと金メッキで分けてるみたいだ。純金貨だけは名前の如く純金で出来ていて、金貨と分けるために違う柄になってるみたい。
まあ基本が銅なのと純金なのとじゃ、比重が違うからな。重さを量れば誤魔化せない訳だ。
「国によって通貨が違うとかで為替とか面倒が無いのならそれに越した事は無いけど、それぞれ1万枚ずつ入ってるな。物価が判らないからなんとも言えないけど、絶対適当に枚数決めたろ。あの神様。四つしかない貨幣で、一番上も1万枚って………」
絶対にもらい過ぎな気がする。
アイテムボックスで持ち物を管理できるから、荷物が嵩張ったり重さを気にしなくて済むのは良かったけど。
でもなぁ………。
「アイテムボックスに入れられる量がハンパなく多いんだけど!10×10のマス目ごとにアイテムを入れられて、ページ数が10って!千種類まで入れられるのかよ!!しかもヘルプ参照してみたら、一種類のアイテム欄に対しての上限個数は無いらしいし!!!」
いくらなんでもやりすぎな気がする。だって最初の実験で取り出したポーションですら、個数を確認したら1万個あるし…………。
異世界に飛ばされたばかりの人間に持たせるような数じゃないだろ?これ。どう考えてもバランスブレイクしてると思う。
「………はぁ、もういいや。神様の適当さ加減にツッコんでてもしょうがない。アイテムに何が入ってるかちゃんと確認しよう」
【アイテムボックス】
ポーション×10000
ハイポーション×10000
マナポーション×10000
マナハイポーション×10000
エリクサー×10000
テント
寝袋
調理道具各種
調味料各種
銃×2
ノートパソコン
うん、やっぱり適当すぎる。回復薬系が多すぎるのもあるけど、調味料や道具があって食料がないし。
しかし『マナポーション』?ヘルプで見ても、
<魔力が回復します>
としかない。
………不親切すぎる。おおまかでいいからせめて回復量ぐらいは出して欲しい。でも<魔力>って言うぐらいだから、異世界的に魔法も使えるのかな?
まぁ、調理道具とか調味料とかはひとまとめに扱ってくれるから、種類でアイテムボックスを占拠せずに済んでるけど…………。
ってか『銃×2』って。種類とかは?ヘルプで見てみよう。
<デザートイーグル×2>
もう突っ込む気力も失せてきた。
ヘルプで参照したらアイテムボックス内の名前も変わったけど………、確かにお願いしたハンドガンではあるけど………。
これマグナムじゃん!!えっ?ベレッタとかトカレフとか、9mmの弾を入れるやつじゃなくて、マグナム系?装填する弾の種類によっては、当たった瞬間に人を軽く吹っ飛ばす威力が無かったか?魔物の強さがどんなものかわからないけど、普通の生物的な感じで考えていいんなら、大抵の相手は当たれば一発で仕留められるんじゃないか?
「もうなんか、お約束事とか総無視だよな?『とりあえずチートを与えよう』とかはまだわかるけど『無双できるぜ、ヒャッハーー!!』って勢いじゃないか?いくらなんでもオーバーキルな武器だと思うんだが…………。ちょっとパソコンは後回しにしよう。とりあえず銃から取り出してみるか」
感触とか確認しようと思ってデザートイーグルを1丁だけ取り出した。結構ずっしりした様にも感じる。モデルガンって本物に重量を近づけてるって話だけど、やっぱり実物の方が重いんじゃないだろうか?
とりあえずマガジンを取り出し………て…………?あれ?取り出す時のボタンみたいなのが無い?ひっくり返すようにしてマガジンの部分を見てみると、隙間が無く、一枚板の様なただの『底』になっている。
違和感に首を捻りつつ、遊底部分を引いて弾を装填しようとしてみた。…………?ここにも違和感。もう一度引いてみて違和感の正体がわかった。排夾する隙間が無い。えっ?弾は入ってないの?
そういえば、と気付いてアイテムボックスを再度見るも、回復薬とかはあるが、弾薬の類が無い。
ちょっと混乱してきた。
銃があるのに弾薬が無い。というよりも、たとえあったとしても装填できる仕組みも、撃った後の排夾も出来ない構造になっている?ナニコレ?オモチャ?
いやいや落ち着け。いくらなんでもオモチャ渡すなんて、そんないい加減な事は………………………………。やりかねない。
神様の雰囲気を、人物像を思い出し、あの投げやりな感じだとそうなってもおかしくないと、自分自身の思考に軽く絶望を覚えた。
「はぁ………。とりあえずオモチャかどうかを確かめよう。基本として周囲の安全確認をして、今度は迷惑にならなさそうな的の確保、と」
とりあえずは確認が先決と思い、周囲に人影が無い事を確認。少し離れた所に、隆起して出てきたのか自分の身長ほどのちょっとした大岩があったので、それを的として定めて銃を構えた。
右手で持った銃の、持ち手部分の指を覆う様に左手を添え、中心を狙って引き金を引いた。
ガォンッッッ!!ドゴオオォォォン!!!!
まさかの発射の感覚を感じ取った次の瞬間には、まるで爆発が起きた様に大岩が木っ端微塵になった。
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目の前で起きた事態に、自分でやった事なのに呆然としていたが、我に返ると周囲を見回してひとまず場所を移動する事にした。
結構派手な音したからなぁ………………。まだ手が痺れてるし………。
森の近くで、少しだけ離れた所に大き目の樹が一本あったので、木陰に入りながら改めて画面を出した。
「しかし、何で撃てたんだ?撃った時にブローバックはしてたけど、案の定排夾はされなかったし…………。てかそれ以前に拳銃の威力じゃないだろ?あれ。」
さっき撃ったデザートイーグルは暴発を防ぐためアイテムボックスに戻してある。意味は無いかもしれないけど、もう一度ヘルプを使ってみた。すると、
<デザートイーグル×2:実弾ではなく魔力を弾丸として扱う様に神の手が加えられた神具。威力は込めた魔力量に比例する。>
さっき見た時より説明が増えていた。どうやら使ったりする事で詳細をヘルプで確認出来る様になるみたいだ。情報が更新されるのかな。
神具?いや、今はそれよりも………………魔力で撃てる?しかも込めた量に比例するって………。じゃあさっきの威力はどれぐらい込めたものなんだ?特に意識せずに引き金を引いたんだが…………。
自分の魔力量なんて知らないし、そもそも魔法なんて無い世界からろくに説明も無いまま飛ばされてるから、魔力を込めるとかの感覚なんて判るわけが無い。
「あれ?画面の上にステータスのメニューがある」
どうやら先程アイテムボックスを見た時に見落としていたらしい。
早速自分のステータスを確認してみた。
【ステータス】
名前………新田透
年齢………18
レベル………5
残体力(HP)………100%
残魔力(MP)………97%
スキル………気配察知、魔力感知、精密射撃、格闘術、武器操作、無詠唱、思考加速、自動防御、超速学習
使用可能魔法………火系、水系、風系、光系、闇系
なんか色々出て来た。
よし、どこから突っ込もうか?
銃が撃てたから魔力があるのは予想できた。でも確か威力は『込めた魔力に比例する』だったよな?………3%しか減ってないんだが?あんなのがあと32発も連続で撃てるの?
実際は0に近付くと疲れたりして撃てなかったり、威力が減衰するかもだけど。お約束的に。
しかし、大岩を破壊する威力があるのに3%しか使わないんなら、一人で砦とか要塞を攻められそうだな………。やらないけど。
でももし対魔物とか対人になったら威力がありすぎるな………。
今度は意識して1%に調整して撃ってみよう。ステータスを見ながら、ちょっとずつ水を注ぐイメージで、今度は空へ向けて…………、ガォンッ!!
………………うん。ちょっとした装甲なら砕きそうな感じの、野球ボール大の魔力の塊と思われるものが飛んでいった。
微調整していった結果、魔物であれば0.4%、人であれば0.2%ぐらいが丁度よさそう。0.2%で相手を軽く吹っ飛ばして、0.4%あればちょっとした怪我は負わせられそう。
ま、基準としてこの威力で、相手によってその都度調整してくか。
威力を抑えると発射時のブローバックの感触とかが軽くなるから、ある程度連射出来そうだし。あとは追々慣れていくしかないだろう。
さて次は………、スキルはなんとなく判るが、魔法?レベルはまだわかる。5だから初期魔法みたいなのが並んでる感じかな。っていうか使えるんだ。
右手を前に突き出して、無詠唱のスキルがあるけど、イメージしやすい様に『炎よ、出ろ』と唱えてみた。
ボワッッ!!
「うわっ!!」ゴンッ!
突き出した右手の先にバスケットボール大の炎が出たので、驚いて仰け反ったら、背にしていた樹に頭をぶつけてしまった。意識してない咄嗟の行動だったから、地味に痛い。
「っっっく~~…………。えっと、回復」
痛みが和らげばと思って怪我が治るイメージで魔力を集中したら、すぐに痛みが無くなった。
なんかダサい感じになってしまったが、とりあえず魔法が使える事は確認出来たかな?一回の魔力消費を確認してみよう。
残魔力(MP)………92%
結構大きい火だとが思ったからそれなりに減ってると思ったら、全然だった。
えっと、微調整しながら銃を15~6発ぐらい撃ったから、多分94%ぐらいだったと思う。それで二回の魔法で92%まで減ってるから………、一回1%ぐらいか。多いのか少ないのか、これはちょっと判断に迷うところだけど、様子を見つつ情報を集めていった方がいいな。
スキルの詳細は今は保留しよう。この世界の常識とかも確認しなきゃいけないし、なによりさすがに日が傾き始めてる気がする。今が何時かわからないけど、そろそろ街へ向かった方がいいだろう。宿を取ったりしないと………。いくらテントがあると言っても、現代っ子に野宿はキツイ………。
結局パソコンも未確認だけど、これは宿取ってから部屋で確認しよう。とりあえずヘルプだけ確認しとくか。
<ノートパソコン:様々な情報が扱える様に、神によって手が加えられた神具。魔力で動く。 0/100%>
うん、やっぱりな。って言葉しか出てこないな。ってか、普通にバッテリーも使えるのか。0%って事はどの道すぐには使えないな。魔力を注いでいけば数字は上がるんだろうけど。さっき試し打ちした時になんとなく感じは掴んだから、後でやってみよう。
よし!街へ向けて道を進むとしよう!
………はぁ、お腹空いた………………。