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 教会が運営する孤児院でログナは暮らしている。


 ログナは孤児である。勿論、家名などという大層なものは持っていない。親を知らず、物心ついたときには、既に孤児院にいた。生まれた年が分からないため、おそらく、まだ十にも届いていないであろう少年の経歴はこれっぽっちだけ。


 白に近い銀色の髪に赤い瞳。その異様な容姿から、ログナは他の子供から気味悪がられた。こちらから仲良く接しようとしても、あちらの方が遠ざかっていくのだ。どうすることも出来ない。


 次第に、ログナは他人との距離をおくことにした。それが他人にとって、自分にとっても最善であるからだ。


 そして、いつしか、ログナはひとりぼっちとなった。


 一人では出来ることが限られる。毎日、孤児院の手伝いが終わり、時間が空くと文字の勉強として本を読むか、昼寝をするのが日課である。


 ログナは『夢』を見る。


 やけにはっきりとした内容の夢。まるで、自分がそこにいるかのようだった。その夢は起きても忘れることはなく、覚えていられる。いや、逆だ。その夢は、ログナの脳裏に焼き付いて離れないのだ。


 どれだけ忘れようとしても、どれだけ月日が経ってもその夢はログナの記憶に残り続ける。


 そんな奇妙な夢を、時々、ログナは見てしまうのだ。夢を見始めたのは、いつの頃からだったのかは思い出せない。


 初めは、何だこれはと訝しんだ。しかし、それは現実味を帯びてログナに降り掛かってくる。


 ――自分が読んでいた本がどこかに消える。それを隠したのは、悪戯好きで知られる年上の子供だ。


 そんな内容の夢を見た。そして、その夢を見た三日後に、本が消えた。


 ログナは驚く。夢の内容には、本が隠される場所のことも含まれていた。すぐに、その場所を探せば、夢の通り本はあっさりと見つかった。


 ログナが見た『夢』。それは、未来で起きる出来事を見せているのだった。


 起きた出来事は『夢』の通りだったが、やはり半信半疑のログナである。馬鹿な、そんな事が、と。

 その反面、別にそのような事の一つや二つ起きても不思議ではないという、得心が彼の中にあった。


 だって、自分は他の子供と違い、普通ではないのだから。


 『夢』を見る頻度は、そんなに多いわけではない。気が付けば、いつの間にか『夢』を見ている。まあ、この『夢』も結局は眠って見る夢なのだから、当たり前だろう。『夢』を見て、それが現実に起こるまでの時間は、一時間後の時もあれば、一か月後の場合もあって、よく分からない。


 最初は、『夢』を異様なものとして捉えていたが、時が経てばいつしか、それはログナの存在の一部となっていた。


 恐れや不安はもうない。むしろ、この『夢』は、ログナを守ってくれる存在だ。


 だからこそ、ログナは異端視された。物を知らぬ子供の割には、妙に達観している。知っているはずがないことや知らなくていいことまで、知っているのだ。


 孤児院の子供達は、皆が家族のような気持ちでいるだろう。しかし、動物に備わった直感で感じたかのように、ログナとだけは、打ち解ける者は誰もいなかった。


 噂は外には漏れず、内側だけで広がり、教会や孤児院を運営する大人には、陰でログナを悪魔や禍罪の子供だと言う者まで現れた。


 ログナはその容姿も相まって、腫れ物のように扱われた。


 ログナには家族と呼べる人間がいない。彼自身、別にそれでいいのだと思っていた。


 けれど──それを良しとしない者もいた。

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