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王道ファンタジーを目指します。
不定期更新です。
色鮮やかなステンドグラスを通して、麗らかな昼前の日差しが教会の礼拝堂内に差し込む。
神聖なその場にはしかし、祈りを捧げる者は誰もいない。さして広くもなく、随分と年季が入って所々痛んできていたが、それでもそこは荘厳な静けさをまとい、侵し難い聖域としての役割を果たし続けていた。
だが、その閑散とした光景は、どこか寂しげに思えて、自らが仰ぐ主に忘れ去られてしまったかのような、そんな不安な気持ちにかき立てられる。
その息苦しい沈黙を破るかのように、一つ暢気で規則的な息づかいが聞こえてきた。
その礼拝堂内には、幼い少年がいた。固定された長椅子のひとつに体を預けて、心地よさそうに夢の中に浸っているところだった。
歳はまだ二桁には届かないだろう。儚げな雰囲気をまとう、妙に浮き世離れした印象を与える少年だった。線の細い女児かと見まがうほどに中性的な顔つき。白絹のごとく柔らかな銀髪は、光に反射して光り輝いたように見える。
次第に日は高く昇って、礼拝堂内に差し込む光は強さを増していく。
じりじりと日差しに照らされた少年は眉をしかめ、名残惜しそうにしながらもゆっくりと瞼を開けた。微睡みより目を覚ましたその双眸はまるで鮮血を垂らしたかのように赤く、瞬きを繰り返すその二つの瞳は妖しい魅力に満ちていた。眠気を飛ばすかのように頭を振り、気怠げな表情を浮かべて欠伸をする様はどこか大人びたような印象を受ける。
特異な容姿の少年だ。浮き世離れしたその姿は幽鬼を彷彿とさせる。
「――そろそろかな」
少年は透き通った声音で独り呟いた。
何気無しに耳を澄ませば、教会の入り口から微かに男女が言葉を交わす声が聞こえてくる。
少年は体をほぐすかのように一つ大きく背伸びをすると、長椅子から立ち上がって声の主たちの元へと向かった。