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無知性の凱歌 Revised 1  作者: 宮沢弘
第二章: 人権正規化法
9/18

2−4: 第35日

 こちらのアパートに戻って来てから、研究所に置いてあった書籍の整理を続けている。およそ終ったところだ。

 アパートの一部屋には閉架書架を入れてある。思い出せば、これがアパートを選ぶ時に問題になっていたし、基準だった。閉架に納めても床が抜けない。当分の間は、とりあえず閉架書架を納めても床が抜けなければかまわなかったが。今になると、本を納めても抜けないでいてくれないと困る。契約時に見せてもらった重量制限に対して、閉架書架と本を満載したときの推定重量を比べ、大丈夫だとはわかっているものの、いざ一部屋に納めようとすると、不安にはなる。

 まだこれからの雑誌などにも余裕があるだろうと思う。趣味と研究のものも増えるだろうし、結局今も研究所の顧問となっており、それの関係でも増えるだろう。

 ただ、この数日、少しばかり問題が出てきた。始めから十進分類法にでも基づいて並べていたなら、問題にはならなかったかもしれない。いや、それでもやはり問題になっただろうか。

 私の興味に基づいて、関連するものを近くになるように置いていたし、置いている。その結果、十進分類法によっても著者名によっても、配架はバラバラだ。それで困らなかったし、それが便利だった。個人の書庫なのだから、それでかまわなかった。この数日に至るまではだが。

 この数日、納める本を手に取った時、それをどこに納めればいいのかの判断が難しくなっている。一つには、内容がどんなものだったかがどうもピンと来ないことがある。もう一つは、配架のマップが思い浮かび難くなっている。移動式の閉架とは言え、たった一部屋なのにだ。一冊ずつというわけでもないが、書架を動かし、確認しながらでないと、どこに納めたらいいのかが思い浮かび難い。

 だが、と思う。これから書籍にアクセスする際には困難が共なうだろう。書架の間は狭いから何枚にも分ける必要があるだろうが、書架に並んだ背の写真を撮っておこうかと思う。それを合成したものから配架マップを作っておけば、アクセスも楽になるだろう。配架マップは領域認識と文字認識で自動的にできるだろう。表紙の絵やタイポグラフィーが記憶の手掛りにもなるが、ネットから書誌情報に接続すれば、表紙くらいはそちらで見えると思う。

 そこでもう一つ問題が出てきている。そのためのコードが、どうも見え難い。コードらしきものは思い浮かぶが、霞がかかったというのがいいのだろうか、コードがはっきり見えない。あるいは、玄関のドアの覗き穴からコードを覗いている感覚と言えばいいだろうか。全体が見えず、そして見えている部分も歪んでいる。

 研究所にいる間に、そしてそれ以前に書いたコードも、うまく思い出せない。目の前に見えており、入力するのが面倒だと思っていたのは、もう失なわれた能力なのだろうか。失なわれたのだとしたら、それは1/1に対して過剰分のものだったということだろうか。

 配架マップにしても、コードを見るのにしても、「あれが?」と思う。あれが1/1に対して過剰分だったのだろうかと思う。少しばかり不自由な感覚を味わっている。

 もし、先日までの感覚を覚えていられるならという条件がつくが、これから過剰分が充分に制限された場合との違いはどうなるだろう。当たり前と思っていた感覚が、実はそうではなかったというのは面白い感覚だ。正直に言えば、多少の苛立ちと不安はある。というのも、上に書いたように不便なこともあるからであり、また、では二つの感覚の間の違いを比べ、そして書けるのかということもあるからだ。

 そんなことを思いながら、また一冊を手に取り、目次と少しばかり中身を眺め、どこに配架しようかと書架を動かしながら、その間を歩いた。


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