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無知性の凱歌 Revised 1  作者: 宮沢弘
第一章: 始まりと終わり
2/18

1−2: 第-3572日

 この研究所での研究を始めるにあたって、少しばかりまとめておく。

 要素技術は存在している。それは学んだことでもあり、また幾分かは私も貢献したことでもある。つまり、ナノマシンは存在している。自律活動も、あるいは外部との通信による制御も可能だ。高性能になる余地はまだまだある。

 だが、私はその次を目指そうと思う。ナノマシンを基礎とした、組織の構成を。

 幹細胞などによる組織の構成や再建も目指されている。だが、そこに私は疑問を感じる。

 クローンに対して、人間の倫理が疑問を呈した。クローンで生まれた個体は、何者なのか。クローンの組織を移植に使うことは許されるのか。それは魂の座の問題となる。

 次に考えられたのが、大脳を持たないクローンであった。これは別の問題も提起した。技術的な問題であった。そのような培養は可能なのか。そして、魂の座の問題も残っている。その座が脳であるならば、それを奪うことは認められることなのか。

 三つめに考えられたのが、幹細胞からの組織の培養だった。

 このように見ると、倫理の問題は解決へと向いているように見えるかもしれない。だが、私にはそうは思えない。この流れは、生れる者が持っているはずのものを奪っているのではないか。幹細胞などからの培養であれば、そもそも個体は生まれない。選択的に制御した培養だ。だが、幹細胞から生まれ出づる可能性があった者は、どこに消えたのか。

 それは私の倫理に反している。幸い、私はナノマシン技術についてそれなりの知識と技術を持っている。そこから何を目指すかは、簡単な話だ。ナノマシンにより組織を構成し、代替すればいい。課題はナノマシン間での、ある種の通信だ。化学物質によるものであれ、電気的なものであれ。組織を構成し、組織として機能するようにするだけの話だ。

 課題自体は簡単だが、それを実現する方法となると、少しばかり簡単ではない。つまりは、細胞環境を人工的に構築する必要がある。ナノマシンにも用いているものではあるが、つまりはDNA様物質を構築し、またそれが機能する細胞環境の構築が必要だ。何桁か計算の量が増える程度だろう。面倒だが。

 そして、人体との親和性も課題だ。拒否反応が出るのでは意味がない。また、表現によってはセキュリティも課題となるだろう。つまり、奪われて簡単に移植できるようでは、問題が起こりかねない。本来の移植者は拒否反応を起こさず、他の者においては免疫が反応してくれるのが、おそらくは便利なのだろう。そこを検討するには、サンプルとなる細胞が必要だ。本来の移植者から奪う細胞は、最小限としたい。そうでなければ、結局、生まれ出づる者から、何かを奪うことになるだろうから。ちょっとばかり私の口腔からでも犠牲になってもらおう。

 過程において、もし、倫理規定によって引き返せない状態になったら? もう一人私が生まれるのだろうか? いや、それは私ではないというだけだ。そうなったら、それはそれで面白い。それは私とその人の問題だ。他人が口を出す問題ではない。

 だが、そうなると面倒なのは確かだろう。できるだけ前もって、解析と設計、そしてシミュレーションを行なっておこう。あぁ、面倒くさい。頭の中にあるプログラムをそのまま計算機に転写できればいいのに。そっちも考えてみよう。理想としては、ついでにそういう機能を持つ組織を構成できれば、少しは楽だろう。従兄弟のタカから、脳細胞の接続マップを送ってもらおう。この前やはり従兄弟のユウちゃんの結婚式で会った時に、出来上がったと言っていた。もらえるものなのかとも思うが、聞いてみるだけは聞いてみよう。

 そのような補助脳を構築するには、脳の活動のシミュレーションも必要だろうか? そうなると、そのシミュレーションに意識は宿るのだろうか? 作れたら聞いてみよう。意識が宿るのだとしたら、そういう組織のシミュレーションに協力してもらうのも、脳へのインプラントと同様に問題なのだろうか。説得して納得してもらえたなら、かまわないのだろうか。面倒くさいと書いたが、何だか面白そうだ。


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