ターン30「ロッカとあそぶ」
「え? ケッコン……って、わかるか、ですか?」
ロッカはきょとんとした顔で、そう聞き返してきた。
かじりかけのクッキーが口元で止まっている。
あのクッキー、いつまでそこにあるのかなー、なんてことを思いつつ、ぼくは自分も何枚目かのクッキーに手を伸ばした。
お茶を飲む。
ロッカの淹れてくれるお茶は、なんか、そこらに生えてる草とか葉っぱを煮出したもの。
村の人たちは飲んでないから、ここに来ないと飲めない。
美味しいかというと、うーん? って感じだけど。なんか、やみつきになる味だった。
ロッカの出してくれるクッキーは、どんぐりクッキーだ。
つくりかたは、森に行けばいくらでも落ちてるドングリを拾ってきて、石で潰して粉にする。それを固めて焼く。焼きあがったら、そこに木の実をトッピングして、できあがり。
これも村だと誰も作ってないから、ロッカのところに来ないと、食べられない。
なんでみんな作らないんだろ。おいしいのに。
ロッカは、ぼくが遊びにくると、いつもこのクッキーを出してくれる。
ぼくが一枚食べて、二枚食べて、何枚か食べるまで、自分はぜったいに手を出さない。今日は五枚目くらいで、ようやく、自分でも一枚を手にとってくれた。
その一枚は、いま半分になったまま、ロッカの口許のあたりで、まだ止まったまま……。
あ……。ようやく、いま、動き出した。
「あの……、えっと……、よくわかんないです。ごめんなさい」
そっかー。ロッカにもわかんないのかー。
だよねー。むずかしいよねー。
「ケッコンした人たちって……、なんか……、一緒に暮らしてますよね?」
うん。暮らしてるよね。
あと一緒に踊ることも、ケッコンっていうらしいんだよね。
「踊りですかぁ。おどり……。いいなぁ」
ロッカは、なんかうらやましそうにそう言った。
そういえば、このあいだ、村でやっていた〝結びの儀〟のときの、連続ケッコン式のときにも、ロッカは、まわりの人の輪の中にいて、踊ってなかったっけ。
一人、ぽつんと、立って、にこにこ笑顔で、ケッコンする人たちを見守っていたっけ。
ぼくは、ロッカに――。
いっしょにあそぼー、踊ってあそぼー、って、誘いに行こうとしたんだけど。
途中で、キサラにつかまっちゃって一緒に踊った。キサラの次はマリオンで。そのつぎはアネットとリリーで……。
ロッカのところまで辿り着く前に、ケッコン式、おわっちゃってた。
あのときは踊れれなかったけど。
ロッカが踊ったことなくて、踊りたいなら、べつにいまでもいいよね。
ロッカ……。おどる?
「え? なんですか? え? ……いま、おどるかって?」
ぼくは、うなずいた。
→「はい」
「えっ? えっ? そんな……、いいですよぅ。わたしなんか」
ロッカはすぐそれを言う。「わたしなんか」って言うんだけど。
この世に「なんか」なんて扱っていい人はいない。
それを教えてあげたいんだけど……。ぼくは口ベタだから。ロッカをおどりに誘った。
立ちあがって、手を差しのべる。
「あの。えっと。……どうしても?」
→「はい」
もちろん、「はい」。ここは「はい」。どうしても「はい」。
ぜったい。おどるよ。
ぼくの決意が伝わったか……。
ロッカは、恥ずかしそうにうつむきながらも、手だけをあげて、ぼくの手に自分の手を重ねてきた。
手を引いて、ロッカを立ちあがらせる。
二人でおどった。
ロッカの木の上のおうちは、あまり広くなくて……、おどるには、ちょっと狭かったけど。
壁の端から壁の端まで、いっぱいに使って、ロッカとおどった。
「あはは……、あはははは!」
ロッカが、笑っている。
いつも遠慮しがちの彼女が、こんなにもはっきり笑うのは、はじめて見た。
ベッドにつまずいても、笑う。
戸棚にぶつかって、物が落ちても、笑う。
ずいぶんおどって、だいぶ疲れて、おたがいに汗びっしょりになって――。
ようやく、おどるのをやめた。
二人で、すっかり冷めちゃったお茶を、ごくごくと飲み干した。
「あ。そうだ。わたし。ケッコンについて――、もうひとつ知ってることがありました!」
額に汗を残した顔で――ロッカは、ぼくにそう言ってきた。
さっきまで激しく動いていたから、息も、ちょっと荒い。
手を前について、ぐっと身を寄せてきて――。
顔をぼくに近づけてきて――。
ロッカは言う。
「ケッコンして、一緒に暮らすと、そのうちコウノトリさんが、赤ちゃん運んできてくれるそうなんです」
ほー。へー。はー。
そうなんだ。
「あと。畑仕事をしている人の場合は、キャベツのなかから現れることもあるそうです。大きなキャベツがあったら、その葉っぱをぱかっと開くと、なかにいるそうで――」
ほー。へー。はー。
そうなんだ。
「でもわたしたちの場合だと、畑仕事やってませんから。コウノトリさんのほうですよね。どこのトリさんのおしごとなのかな……。こんど聞いてみようかな?」
ロッカは動物と話ができる子。
コウノトリとも、もちろん、話せる。
だけど。これまでの人生の疑問が、突然、解決した気分だった。
赤ちゃんって、どこから湧いてくるんだろ、って思ってたけど。
そうなんだー。
ほー。へー。はー。
ロッカって物知りだね。
すごいね。
「そんな……、すごくなんて……。ないです」
ロッカは赤くなると、そう言った。
だけど……。ケッコンについては……。
わかったような、わからないような……?
でも、ロッカに教わったことで、ひとつ、新たな事実が判明した。
ケッコンすると、赤ちゃん育てることになるのか。
なんか大変そうだなー。
赤ちゃんって、口もきけないイキモノだもんなー。
でも5年も育てると、自分で立って歩くし、口も聞くようになるし、仕事だってするよね。ぼくは5歳から薪割りの仕事で自立してたし。マイケル……は、ヤギの乳しぼりさぼりまくりだったけど。いまでもサボってるけど。
赤ちゃんは、5年も育てるとニンゲンになるのか。
5年くらいなら、そんなに大変でもないかな?
「カインさんって……、赤ちゃん……、好きですか?」
ロッカがぼくに聞いてくる。
一緒に暮らすと、赤ちゃんが届くらしい。
ロッカと赤ちゃんを育ててみますか?[はい/いいえ]
今回の選択肢の投票場所は、こちらです。
https://twitter.com/araki_shin/status/726588309380571136
本日は夜10時頃までに、この選択肢の結果のほか、もう1話を、新規に投稿予定です。




