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薪割りスローライフをはじめますか?[はい/いいえ]  作者: 新木伸


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60/111

 →はい

 →はい

 ・

 ・

 ・

「はい」


 ぼくは言った。

 ユリアさんが、「わたしと結婚してもいいって人、いないかしら?」って言っていたので、「はい」って言ってみた。


「えっ……?」


 ユリアさんが、ぎょっとした顔になって、振り返る。

 ぼくは、ひらひらと手を振ってみた。

 気分的には「やっほー」って感じだが。ぼくは無口な、ないすがい(?)――なので、ちょっとだけ微笑んで、手を振るだけ。


「え? えっと……、カイン君? い、いつから……、そ、そこに?」


 聞かれた。ぼくは腕組みをしてかんがえた。

 遠い昔のことをかんがえる。

 数分前とか、けっこう、ぼくにとっては大昔の出来事。


 ……たしか。

 ユリアさんが、「今年も終わっちゃったわね……」とか言ってたあたりだったっけ?


「あ、あの……、その……、わたくしが、さっきから……、つぶやいていたことは、だから、そのつまり……」


 あれ? ユリアさん。

 いま「わたくし」って言ったよ? さっきまで「わたし」って言ってたのに。

 ああそうか。ひとりだと「わたし」になるのか。それで誰かのまえでは「わたくし」になるんだ。

 ……でも、なんでだろ?


「ええと……、ええと……、わたくしは、べ、べつに……、結婚に憧れているわけでも、ましてや、なんで人の結婚式執り行っているの、自分が結婚できないのにとか、羨んでいたりするようなことは、決して……。か、神に誓ってもいいですっ!」


 ユリアさん。それ神に誓っちゃうと、アウトだと思うよ。


「こ、この場合の誓いはっ! い、戒めです! 自分のできないことを、断固たる決意をもって事実のように言うという用法も、認められています! 経典の第5372頁にも書いてあります! 〝汝、できないことを、やる、って言うのも、いいんじゃね? 神様、それ、カッコいいと思うよ?〟――って! わたくしは、ししし、シスターなんですからっ。詳しいんです!」


 そうなんだ。いいんだ。


「でもあのその、あの、さっき、〝はい〟って聞こえてきたんですけど……。言いましたよね? それって、あの、つまり……?」


 ああ。うんうん。そうそう。

 ユリアさんが〝ケッコン〟してもいい人が、どこかにいないかって悩んでいたから。


「じゃあ、ぜんぶ……? あのほんとにぜんぶ……? 聞いてらした?」


 ああ。うん。

 たぶんあれで、ぜんぶだよね。


 ぼくはもういちど、力強くうなずいた。


 →「はい」


 ぼくがそう答えたら、ユリアさんは……。


「き……」


 ……き?


「い……」


 ……い?


「いーー! やーー! あああああーーーっ!」


 クッションが飛んできた。

 カゴが飛んできた。

 ペンも飛んできた。これちょっと危ない。先端尖ってる。

 果物が飛んできた。キャッチして窓枠に置いた。

 燭台が飛んできた。これほんとに危ない。角が尖ってる。


 もう投げるものがなくなって、ユリアさんが、テーブルをがたがた揺らしにかかっているので、そこらでぼくは退散することにした。

 じゃないと本当にテーブルまで投げてきそうだった。


 ユリアさんはそのくらい慌てていた。パニックになっていた。

 ぼくは一目散に、ぴゅーっと逃げた。


 ケッコンの話。うやむやになっちゃったけど……。

 ま。いっかー。


 でも〝ケッコン〟って、いったい、なんなんだろ?

 してみたらわかると思ったんだけどな。

午前中にもう一本更新します!

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