→はい
→はい
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・
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「はい」
ぼくは言った。
ユリアさんが、「わたしと結婚してもいいって人、いないかしら?」って言っていたので、「はい」って言ってみた。
「えっ……?」
ユリアさんが、ぎょっとした顔になって、振り返る。
ぼくは、ひらひらと手を振ってみた。
気分的には「やっほー」って感じだが。ぼくは無口な、ないすがい(?)――なので、ちょっとだけ微笑んで、手を振るだけ。
「え? えっと……、カイン君? い、いつから……、そ、そこに?」
聞かれた。ぼくは腕組みをしてかんがえた。
遠い昔のことをかんがえる。
数分前とか、けっこう、ぼくにとっては大昔の出来事。
……たしか。
ユリアさんが、「今年も終わっちゃったわね……」とか言ってたあたりだったっけ?
「あ、あの……、その……、わたくしが、さっきから……、つぶやいていたことは、だから、そのつまり……」
あれ? ユリアさん。
いま「わたくし」って言ったよ? さっきまで「わたし」って言ってたのに。
ああそうか。ひとりだと「わたし」になるのか。それで誰かのまえでは「わたくし」になるんだ。
……でも、なんでだろ?
「ええと……、ええと……、わたくしは、べ、べつに……、結婚に憧れているわけでも、ましてや、なんで人の結婚式執り行っているの、自分が結婚できないのにとか、羨んでいたりするようなことは、決して……。か、神に誓ってもいいですっ!」
ユリアさん。それ神に誓っちゃうと、アウトだと思うよ。
「こ、この場合の誓いはっ! い、戒めです! 自分のできないことを、断固たる決意をもって事実のように言うという用法も、認められています! 経典の第5372頁にも書いてあります! 〝汝、できないことを、やる、って言うのも、いいんじゃね? 神様、それ、カッコいいと思うよ?〟――って! わたくしは、ししし、シスターなんですからっ。詳しいんです!」
そうなんだ。いいんだ。
「でもあのその、あの、さっき、〝はい〟って聞こえてきたんですけど……。言いましたよね? それって、あの、つまり……?」
ああ。うんうん。そうそう。
ユリアさんが〝ケッコン〟してもいい人が、どこかにいないかって悩んでいたから。
「じゃあ、ぜんぶ……? あのほんとにぜんぶ……? 聞いてらした?」
ああ。うん。
たぶんあれで、ぜんぶだよね。
ぼくはもういちど、力強くうなずいた。
→「はい」
ぼくがそう答えたら、ユリアさんは……。
「き……」
……き?
「い……」
……い?
「いーー! やーー! あああああーーーっ!」
クッションが飛んできた。
カゴが飛んできた。
ペンも飛んできた。これちょっと危ない。先端尖ってる。
果物が飛んできた。キャッチして窓枠に置いた。
燭台が飛んできた。これほんとに危ない。角が尖ってる。
もう投げるものがなくなって、ユリアさんが、テーブルをがたがた揺らしにかかっているので、そこらでぼくは退散することにした。
じゃないと本当にテーブルまで投げてきそうだった。
ユリアさんはそのくらい慌てていた。パニックになっていた。
ぼくは一目散に、ぴゅーっと逃げた。
ケッコンの話。うやむやになっちゃったけど……。
ま。いっかー。
でも〝ケッコン〟って、いったい、なんなんだろ?
してみたらわかると思ったんだけどな。
午前中にもう一本更新します!




