ターン29「ユリアさんとあそぶ」
午前中の薪割りの仕事をおえて――。
今日は、ぼくは、教会に向かっていた。
ユリアさんのところに遊びに行こうとしていた。
このあいだ。うわさおばさんに言われたのだ。「あんたって、いっつも、マイケルとばっかり遊んでいるね」――と。
べつにそんなわけでもないんだけど、たしかにマイケルと遊ぶことが、いちばん多いかもしれない。
マイケルが誘いにくるからなんだけど。おばさんに言いつけられている、ヤギの乳しぼりの仕事をサボりたいだけなんだけど。
それで――。
うわさおばさんから、「へんな〝ウワサ〟が立っているよ」と言われた。
へんな〝ウワサ〟ってどんな〝ウワサ〟なのか、うわさおばさんは教えてくれなかった。
てゆうか。この村で、うわさの発信源っていったら、ぜったい、うわさおばさんだよね。
どんな「へんなウワサ」かわからないけど、マイケルとばかり遊んでいると変なウワサが立つみたいなので、ほかの子と遊ぶことにした。
昨日はリリーのところに行った。
遊んだ……というよりも、こーひーを淹れてゴハンを作った。
あれは「遊んだ」ことになるのだろーか?
そして今日は、ユリアさんのところに遊びに行こうとしている。
ユリアさんとは、昔は遊んだ覚えがある。
四つ年上のお姉さんなんだけど、ぼくらにつきあって、色々な遊びをしてくれた。四つも年上のお姉さんが、本気を出したら、オニごっこをやっても、すぐに捕まえられてしまうはずだから……。
あれはきっと、手加減してくれていたんだと思う。
ぼくやマイケルは、もう12歳になって――。ユリアさんは体が重たくなったのか、脚は以前よりも遅くなった。
オニごっこは、たぶん、もうできない。ぼくらの側が手加減しなければならない。
マイケルが言うには、「おまえそれ絶対ユリアさんに言うなよ?」って、なるんだけど……。なんでだろう?
最近はユリアさんと遊ぶことはなくなった。「少なくなった」――ではなくて、完全になくなった。
なんでだろ?
ユリアさんは、ぼくらよりも4つ年上だから、いま16歳。
ふつうだと〝ケッコン〟とかして、二人で、同じ家で暮らしているぐらいの年齢。
ん? ちょっと遅い? 15歳くらいで〝ケッコン〟とかしてる? ふつうは?
教会につくと、ぼくは、窓にとりついて、中を覗いた。
――いた。ユリアさんが。
しばらく待っていたが、ユリアさんはこっちを見ない。
そうだよね。いつもマイケルと一緒だから、「ユーリーアー、さーん」と声をかけるのは、マイケルの役目。
そうするとユリアさんは振り返ってくれる。決して嫌そうにではなくて、普通に、笑顔で振り返ってくれるんだけど……。
ぼくは自分で言うのもなんだけど。あまり喋らないほう。
「はい」と「いいえ」だったら自信があるんだけど。それ以外のことを言うのは、ちょっと苦手……なわけでもないんだけど。あんまりしないほう。
……できないんじゃないよ?
小石でもぶつけたら、ユリアさん、気づいてくれるだろうか。
小さな石でも、ぶつけちゃだめだろうか。
マイケル呼んできたほうがいいのかな。
どうしよう?
ぼくが窓枠にとりついて、ずっと考えていると……。
ユリアさんが、はぁ、と、大きなため息をついた。
「はぁ……。今年も終わっちゃったわね……。〝結びの儀〟……」
そういえば、なんだか最近、村は賑やかだった。
〝ケッコン式〟というのが、教会で何回か行われた。ぼくらよりだいぶ上の年のお兄さんとお姉さんとが、〝ケッコン〟とかゆーのをやっていた。
何組も、何回もやってた。
〝ケッコン式〟とゆーのは、聞いたこともないし、よく知らなかったが……。
おいしいご馳走を、みんなで食べる、お祭りみたいなものってカンジで……、たぶん、間違っていないと思う。
うん。間違ってないよ。
そこ……。わりと自信ある。
あと。〝ケッコン式〟では、踊りをする。〝ケッコン〟した二人が主役で、真ん中で踊る。みんなはその周りで、大きな輪を作って踊る。
踊るのは楽しい。
つまり〝ケッコン式〟というのは、食べて踊って、楽しいお祭りで。
〝結びの儀〟っていうのは、その〝ケッコン式〟をまとめて集中的にやることなんだろう。
うん。間違ってないよ。たぶんあってる。
そこ……。わりと自信ある。
「いっぱい。いっぱい。結婚式を執り行ったわよね……」
ユリアさんはそう言った。
うん。いっぱいやったよね。
「はぁ……、人の結婚式ばかり……、はぁ……」
そこでまた、ユリアさんは、大きなため息をもらした。
なんでだろ?
「去年だって……、それから今年だって……、なんでわたしだけ……」
ぼくはユリアさんのひとりごとを、じっと聞いた。
そこにヒントがあるに違いない。
「ま……。まあ、シスターですからっ。〝結びの儀〟のお相手に選ばれたって困ってしまいますしっ。去年だって今年だってっ、村の男性と女性の人数が合っていないのですからっ。女性のほうが1だけ多くて……、だから、誰かがあぶれるのは、仕方のないことだと思うんですけど……。でも村長さんも、なにか一言くらい、相談があってもいいのに……。もうっ」
わるいのは村長さんらしい。
テーブルに肘をついて、深く落ちこんでいるユリアさんは、前に倒れこんでいってしまいそう。
「あれってほんとなのかしら? ユリアちゃんは美人すぎるから避けられちゃうのよー……、って、あの話って……」
ユリアさんが〝びじん〟かどうかは、ぼくには、ちょっと判定できない。
そもそも〝びじん〟って、どんなんか、よくわからない。
「いやだわ。わたしそんなに美人じゃないのよ。ちょっとキツネ目だし……、眉間にすぐ縦皺寄っちゃうし……、そういうときのカオって自分でも怖いくらいだし……」
キツネはわからない。
ユリアさんが怒って、眉間に縦皺を寄せたときのカオは……。
うん。こわいね。
マイケルが言うには、おしっこ、チビっちゃうくらいだよね。
「わたし……、もっと、親しみやすい感じになったほうが……、いいのかしら? シスターだから。あんまり、愛嬌を振りまいていたらいけないと思って……」
ユリアさんは親しみやすいと思うんだけど。
笑顔が優しいと思うんだけど。
「はぁい♡ あたしぃー、ユリアですぅ♡ みんなとー、なかよくー、したいのねー♡ おともだちになってー、くえゆー?」
なんか子供っぽい感じで、ひとりごとが、きた。
「だめね……。これじゃ、頭がわるい子ね……」
ユリアさんは自分でダメ出しをしている。
いまのちょっと、カワイイ感じだったけど?
〝びじん〟はわからないけど、〝かわいい〟は、ちょっとわかる。
うん。ちょっと自信がある。
〝ほっとくとヤバい〟――って感じなのが、〝かわいい〟でいいんだよね?
「ハーイ♡ あたい。ユリア。……おにいさん、ちょっと遊んでいかなーい?」
なんか気さくな感じが、きた。
「だめよ……。これじゃ、あやしい商売の女の人よ……」
そうかなー。
意外性があって、いい感じだと思ったんだけど。
「わたし……、ひょっとして、辞退されていたんじゃないかしら……。結びの儀で結婚する相手って、〝この人と〟っていう希望は聞いてもらえないけど、〝どうしてもこの人はだめ!〟ってほうだと、聞いてもらえるっていうし……。ひょっとして……。もしかして……。わたし……、〝あいつとは絶対ムリ!〟……って、そう言われてたんじゃあ……。去年も……、今年もっ……、2年連続でっ……」
〝ケッコン〟ってあいかわらず、よく、わかんないだけど……。
ユリアさんが〝ムリ!〟ってことは、たぶん、ないんじゃないかな?
一緒に踊るのがムリなわけはないし。一緒に暮らすのもムリなはずないし。
ユリアさん。考えすぎだよ。
ぼくはそう言ってあげたかったが……。「はい」か「いいえ」でないと、ちょっとムリ。
「ああ。主よ……」
ユリアさんは、ついに、祈りはじめた。
「主よ……。わたくしは結婚できるのでしょうか? どこかに、わたしと結婚してもいいって人……、いないかしら……?」
あっ。これ。「はい」か「いいえ」で答えられる質問だ。
「はい」って言ってみますか?
ユリアさんがケッコンする相手を探している。[はい/いいえ]
今回の選択肢の投票場所は、こちらです。
https://twitter.com/araki_shin/status/726395920951070720




