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薪割りスローライフをはじめますか?[はい/いいえ]  作者: 新木伸


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31/111

ターン15「カエルとアネットとロッカとフローラ」

 マイケルを探して、あちこち歩いた。


 まずユリアさんのところに行った。


「え? カエル……?」


 カエルって聞いた途端、ユリアさんは掃除のホウキを持ったまま硬直してしまった。

 その綺麗な顔に、ぷつぷつぷつ――と、じんましん、じゃなくて、鳥肌が浮かんでゆく。


「し、しらない。かえる。しらないしみてないし、せなかになんて、はいってきてないし」


 鳥肌の浮かんだ顔で、ユリアさんはいつものように微笑みを浮かべる。

 でもなんか。話しかたが変だし。言ってることも変だし。

 さっきのことが、相当、ショックだったんだろうなー、と思って、ぼくはユリアさんのところをあとにした。


 次にマリオンのところを訪ねた。


「カエル?」


 鍛冶の仕事をしていたマリオンは、手を止めて、額を拭うと、ぼくに顔を向けた。

 いま拭ったことで、手袋の煤がついて、顔が汚れちゃったんだけど――言うべきか言わないべきか。


 ぼくは口で言うかわりに、腰に下げてたタオルを、「んっ」とばかりに、押しつけた。


「え? あっ……、その……、あ、ありがと」


 マリオンは顔を拭いた。


「こ、これ……、洗って返すからっ」


 タオルを持っていかれてしまった。なんでなのか。すぐに返してはもらえないらしい。


「……で? カエルだったっけ? さっき、そこの窓のところに一匹いたけど……。うん? 2匹目は来なかったかって? いや? 来てないけど……?」


 マリオンの仕事の邪魔をしては悪いから、ぼくは鍛冶屋をあとにした。

 つぎはリリーのところ。


「え? カエル? ううん? 実験はしてないよ? だって成功したじゃない。成功した実験を、もういっぺんやるほど、ヒマじゃないもの。――いまやっているのはねっ。新しい実験! ――ねえ聞いて聞いてーっ! こんどの発明は、すっごいのよー!?」


 話が長くなりそうだったので、聞かずに、リリーの研究所もあとにした。


 マイケルはどこに行ってしまったんだろう……?

 まさかキサラが心配していたみたいに、猫にでも食べられたちゃったり、していないだろうか……?


 そんなはずはない。

 マイケルは、きっと、たくましく生きている気がする。

 踏まれても囓られても、きっと、図太くたくましく、生きているに違いなく――。


「まてー! 逃げるなー!」


 カエルを探して歩くぼくの耳に、そんな声が聞こえてきた。

 アネットの声だ。


 急いでそっちに行ってみた。広場のあたりで、アネットが弓を構えているのが見える。

 弓矢が狙う先は――。


 地面にいるカエルだった。

 マイケルだ。

 いっぺんカエルになったせいか、カエルの顔がわかるっていうか、そのカエルが他の普通のカエルと違って、マイケルだということが、ぼくには、一発でわかった。


「だめ! だめですよう」


 狩人のアネットに狙われて、危機一髪のカエルを、かばう女の子もいる。


 両手を広げて立ち塞がっているのは――ロッカだ。

 薬草摘みを生業にしている、優しい子だ。


「そこどいて! ロッカ! そいつ! 狩れない!」


 アネットの目は、すっかり〝狩人モード〟になっている。

 彼女の仕事は狩人だ。獲物を狩るのが、彼女の仕事だ。

 村にいる女の子たちのなかでも、彼女はちょっと雰囲気が違っていて……。なんというか。野性味がある感じ。


「この子。――カエルさん。なんか言ってますから! 聞いてあげましょうよ」

「いや。言うわけないし。カエルが話すわけないし」

「言ってます! 言ってるんです!」


 おとなしいロッカが、めずらしく――強い顔と強い声で、そう主張している。


「――ねえ! カインさんも、そう思いますよね!」


 え? あれ? ぼく?

 急に話を振られた。

 ぼくは、こくこくと――うなずいた。


 ロッカの足元にすがりついて、カエル(マイケル)は、たしかに、なにかを喚いている……。

 カエルになっていたせいか、ぼくには、カエル語がわかるみたい。


「ほら! カインさんもそう言ってます! ――聞いてあげましょうよ!」

「うーっ……、まあ、カインが、そう言うなら……」


 アネットも弓を下ろしてくれた。


 ロッカは地面に手をついて、目線をカエルと同じ高さに持っていって――耳を近づけた。

 ロッカは、動物とお話ができる子だった。村のみんなは、誰も、そのことを知っている。


 あー……。

 やめたほうがいいと思うんだけどなー……。


「うんうん。なに? なに? ええと……、え? 〝なんで、おまえは、タイツじゃないんだ〟……って? え?」


 カエルの言葉を聞いているロッカは、きょとんとした顔。

 げこげこ、けろけろと、カエルは陳情を続ける。


「えと、えと……、〝なぜアネットみたいに生足でない! 最期に見るローアングルがタイツだなんてあんまりだ! 生足と生ぱんつとを要求する!〟……って? えっ? えっ? えええっ!?」


 ロッカは目を白黒させている。

 省略すればいいのに、律儀にも、カエルの言葉をそのまま翻訳しちゃっている。


 そういえば、カエル(マイケル)は、ロッカの足元にすがりついていたんだっけ。カエルの視線は地面すれすれだから。そこからだと……。


「こっ……、この! スケベガエルっ!!」


 アネットが弓を構えるなり、矢を放った。

 目にもとまらぬ三連射が、カエルを襲う。


 ――が。

 カエルはひらっと身をかわした。

 ぴょんぴょん跳ねて、逃げてゆく。


「待てーッ!! こらーっ!!」


 アネットが矢をつがえ直して、さらに何連射かを行った。


 しとめた!


 ――と思ったけど、かすっただけ。


 カエルはちょっと怪我をしながらも、ぴょんこぴょんこ、必死に跳ねてゆく。


 カエルが向かう先には――。

 別の女の子――フローラがいた。


 カエルはフローラの足の向こうに身を隠した。


「えっ? えっえっ?」


 いきなり足元に逃げこんできたカエルに、フローラはあわてている。


「フローラ! そこどいて! そのスケベガエル!! ぶっ殺ーす! 皮剥いで唐揚げにしてやるんだから!」

「えっ? えっえっ? ええっ?」


 アネットに言われて、フローラはどこうとするのだが――。カエルはささっと素早く後ろに回り込んでしまう。


 そろそろ言ったほうがいいかな、と、ぼくは思った。

 そのカエルがマイケルだってこと、みんなはまだ、知らないんだよね。

 さっきは止める間もなく、アネットが矢を放っちゃったけど。まさか本当に射っちゃうとは――。


「あ、あの――アネット? なんか? あの? このカエル……助けてあげて?」


 カエルにすがりつかれて、フローラは困ったような顔で、そう言った。


「なんでよ? フローラ、あなた……、カエル、大嫌いだったでしょ?」


「そうだけど……。そうなんだけど……。そのはずなんだけど……」


 足元にいるカエルを、フローラは、じいっと見つめた。

 そして、ゆっくりとしゃがみこむと、手のひらをカエルに向けて差し出した。


 カエルは、ぴょんと跳ねると、おとなしく、フローラの手のうえに乗った。

 目の高さまで、カエルを持ちあげて――

 二人は――一人と一匹は、じいっと見つめあった。


「……マイケル?」


 フローラの桜色のくちびるが、そう――動いた。

 自分でも信じられないという顔で、フローラはカエルを見つめている。

 カエルも、じっとフローラを見つめている。


「なに言ってんのよ、フローラ。――そんなわけないでしょ?」


 アネットが言った。

 アリエナイ、とかいう感じで言っている。


「かして。それかして。――お肉にするんだから。あたしの今日の夕飯なんだから」


 アネットは狩人だった。ワイルドだった。


「あっ――あのあのっ! そのカエルさん――なんだか普通のカエルさんと違うっていうか。いえあのっ――、〝えっち〟って意味じゃなくてっ。そういう意味じゃなくて、なんていうか――」


 ロッカもなにか違和感を感じていたのだろう。

 説明しようとしているが、うまくない。〝あのあの〟ばかりで、ぜんぜん、要領を得ない。


 ぼくは――。


 カエルがマイケルだということを、皆に話しますか?


 [はい/いいえ]

今回の選択肢の投票場所は、こちらです。

https://twitter.com/araki_shin/status/702613292011778049

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