→「いいえ」
「なん……、だって?」
その日の朝――。
集計された投票結果を見て、小説家は、愕然となった。
小説家の予想では、投票結果は「はい」となるはずだ。
そんな。親友の彼女を寝取るような結果が選ばれるなんて、予想の外だった。
だが。結果は結果だ。
小説家は、用意してあった「はい」ルートを捨て、「いいえ」ルートを書きはじめた……。
→「いいえ」
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「え? カイン? おまえ……、いま、なんて……」
マイケルはびっくりした顔で立っている。
いいえと言った。「フローラはだめだ」と言うマイケルに、「いいえ」とそう言ったのだ。
「だめだ……、だめだぞ……、フローラは……だめなんだ!」
[いいえ]
「いくら……、いくらおまえでも……、だめなんだーっ!!」
マイケルは、ぶってきた。
ぽかぽかぽかと、ぶってきた。
「おまえがッ! はいと言うまで! ぶつのをやめないッ!」
ぽかぽかぽかぽか。
ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。
あんまり痛くないけど。
でもいっぱい――ぶってきた。
「うわーん!」
こっちが、なんにもしていないのに――。マイケルは、いきなり泣いた。
そしたら、なんでか、3倍くらい――パワーアップした。
ぽかぽかぽかぽかぽか。ぽかぽかぽかぽかぽか。ぽかぽかぽかぽかぽか。
ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。
ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか。
すごく。いっぱい。ぶたれた。
ぶちかえすのは、我慢していたんだけど――。
あんまりいっぱい、ぶたれたので――。
つい、一回だけ、ぶちかえした。
「ぶったー!?」
マイケルは、ぶたれたところを押さえて、信じられないという顔をしている。
「フローラにしか! ぶたれたことないのにッ!」
ぶたれてるんだ。
またぶってきた。
ぽかぽかぽかぽか。――と、いっぱい、ぶってきた。
もうこんどは反撃をしないで、ずっとぶたれていた。
あんまり痛くないし。
ぼくは、マイケルをぶっちゃいけないと思った。一回ぶったのも、あれは、いけなかったと思った。
「なにしてるの!?」
フローラの声がした。
「まいけるを、いじめちゃだめー!」
フローラはマイケルをかばって立った。
腕をおおきく広げて、におうだち。
マイケルはフローラのスカートのうしろに隠れている。
「カイン! まいけるのこと! いじめちゃだめー!
フローラは、すごく強い目で、ぼくのことをにらんでくる。
えっと。ぶたれていたの、ぼくなんだけど。
泣いてたのは、マイケルだけど。
ぼくはその場から立ち去った。
その日は、早めにふとんに入った。
ふとんを引き寄せて。頭まですっぽり入って。ふとんオバケになって。
ずっと考えていた。
せっかくできたトモダチだったけど……。
なくしちゃった……。
もう、もどらないんだな。
そう思った。
◇
つぎの朝がきた。
「カーイーン! あーそーぼー!」
「かーいーんー! あーそーんでー!」
おとこのこと、おんなのこの声が、おもてから響いてきて、ぼくは起こされた。
二人が家のまえで呼んでいる。
二人いっしょに、並んで立って、呼んでいる。
遊びにいこうと誘ってくれる。
外に行くと、ふたりはちょっと気まずそうに――でも、笑ってくれた。
ぼくも笑いかえした。……笑えた、と、思う。
二人はしっかりと手を繋ぎあっていた。
うれしかった。あんなことがあったのに、トモダチのままでいてくれた。
ぼくは思った。
もし、これから……。この二人を引き裂こうとするやつがいたら、ぼくは絶対に許さない。
それがたとえ、魔王であろうと、神であろうと――。
そいつが、泣くまで、ぶつのを、やめない。