ターン55-2「ユリアさんEND」
花嫁の冠を手にした僕は、ユリアさんのところに行ってみた。
教会に行っても、もう誰もいなかったので、ユリアさんの部屋に行ってみた。
ユリアさんは、ちょっと疲れた顔をして、テーブルについていた。
そういえば、ここ数日、ケッコン式ラッシュだったって聞いている。
神官であるユリアさんは、毎日、神父さんと二人でケッコン式を執り行っていたから、それで疲れているんだろうな。
「カインさん……」
ユリアさんが気づいて顔をあげる。僕をみる。
僕は村長さんから渡された「花嫁の冠」を、後ろ手に隠した。
「どう……、されました?」
ユリアさんは、いつもの優しい微笑みを浮かべて、そう聞いた。
「おもてでマイケルさんたち……、踊っていませんか?」
うん。まだ踊っているよね。
いつまで踊っているんだろう。夜までかな?
ユリアさんも、踊らなくていいの?
「わたしは……、いいんです」
ユリアさんは、そう言うと、寂しそうに笑った。
「ちょっと、疲れちゃいましたから……。ここで休んでいます」
ユリアさんが寂しそうにしている理由を、僕は考えてみた。
「カインさんは……、踊って……こられないんですか?」
ユリアさんを一人にしてはおけないよね。
→[はい]
・・・
僕は、踊らないって答えた。
「そうですね……。そういえば、カインさんも……。三日三晩、女神様の話し相手を、されてきたばかりでしたね……」
ユリアさんは笑う。また寂しげな笑顔。
「ねえ、カインさん……。すこしだけ……。わたしの話し相手に、なっていただけますか?」
うん。もちろん。
「えっと……。なんだか……、こうしてあらたまってしまうと、話しづらいものですね……」
ユリアさんは、照れた顔をしばらくしていたけど、
「じつは……、前から、考えていたんですけど……。私、もっと真剣に……、神様のために、生きようかと思うんです」
僕はユリアさんの話を黙って聞いていた。
「もう、こんな歳ですし……。いっそ、このままずっと……、ひとりでいようかなって……。多いんですよ? 神に仕える人のなかには、身も心も捧げている人って……。ほらっ……。神父さまなんかも、そうですよね」
僕はユリアさんの抱えていた問題が、だんだん、わかってきた。
まえにも、ユリアさんは悩んでたっけ。人のケッコン式ばかりやって、自分はケッコンできないことを気にしていたっけ。
「でも、あのっ……。決めてしまう、前に……。カインさんに、相談してみようって……、そう……思っていたんです」
「カインさんは……、どう……、思いますか? 私は……、神様にすべてを捧げるべきでしょうか?」
→[いいえ]
・・・
僕はそう答えた。
悩んでいるんだったら、それは、だめってことだよ。
「ふふっ……。カインさんって……。なにを聞いても……、はいか、いいえしか、言わないんですね。でも……。とてもカインさんらしいです」
無口なナイスガイとも言うらしいよ。
「あの……、カインさん……。ちょっとだけ……、お願いしてもいいですか?」
→[はい]
・・・
「カインさんの持っている、そのかんむり……。それを、すこしでいいですから、かぶらせて……、もらえませんか?」
ん? これ?
僕は後ろ手に持っていた花嫁の冠を出した。
「この三日、たくさんの人の式を行っていて……、いちどだけ、自分もかぶってみたいなぁ……、なんて……」
そこでユリアさんは黙りこんでしまう。
「なんだか、子供みたいですね。……ごめんなさい。やっぱり、いいです……」
→[いいえ]
・・・
僕は「いいえ」っていった。
やめちゃだめだよ。したいことは。しようよ。
「えっ……? かぶれ……って? そう言われるんですか? は、はい……。すいません……。あ、ありがとう……、ございます」
僕はユリアさんの頭に、花嫁の冠をのせた。
「…………」
ユリアさんは照れた顔。そしてほんのりと嬉しそう。
「カインさん、ありがとう……。もう、満足です……。それじゃあ、この冠は、お返し、しますね……」
ユリアさんが、冠を取ろうとしたとき――。
「みーーーたーーーぞーーー」
「きゃっ! し、神父さま……!」
神父さんが戸のところに立っていた。顔半分だけで、こちらを覗いている。
「みーーーたーーーぞーーー」
「もう神父さま。へんな声で……、ふざけないでください」
「いやいや……。わたしはふざけてなんか、いませんよ」
神父さんが言う。部屋の中に入ってくる。
「ユリア……、あなたは神官の身でありながら、結婚という儀式の神聖さを、わかっていませんね?」
「えっ……?」
「花嫁の冠をかぶっていいのは、花嫁になる女性だけです。つまり、言いかえるならば……」
神父さんは、腕を振りあげ、そして、びしりとユリアさんを指差した。
「ひとたび冠をかぶった女性はっ! いかなる理由があろうともっ、ケッコンしなければならないのですっ!」
「そ、そんなっ……!? い、いえでも……、そんな決まりなんて……?」
「おや、わたしの言葉を疑うのですか? あなたは神官。わたしは司祭。わたしには、あなたよりも、深い知識があるのです」
「そ、それは、そうですけど……、で、でも、それとこれとは……」
「さぁ、さぁ……」
「えっ? あっ……、ちょっ――!」
神父さんはユリアさんの背中を押す。
「あっ……、し、神父さま……。お、押さないで……」
神父さんはユリアさんを部屋の外に押しだしていった。
「ほらっ、なにやってるんですか。カインさんもですよ!」
あれ? 僕も?
「あたりまえじゃないですか。ユリアはいったい誰と、ケッコンするっていうんです?」
あー。そっかー。
僕は、とことこと歩いて、ついていった。
ユリアEND