ターン52「おまつり」
「おにいちゃん、おかえりー!」
僕が何日かぶりに村に帰ってくると――。
出迎えてくれたのは、いつも入口のところで遊んでいる坊やだった。
この坊や。村にやってきた人に、「ここはコープ村です(えっへん)」とやるのが得意技。
「あのねあのねっ、いまむらはおまつりなんだよー! おまつりなのっ!」
坊やが言う。
あー。うん。
そうなのかー。
魔王を倒したんだもんなー。おまつりになるよねー。
でもなにか実感がない。
えとね。魔王をね。倒してきたんだけどね。
捕らえられていた、綺麗な女神さまを助け出したのはいいんだけどね……。
女神さまがね、ずーっと、愚痴を言いつづけていてね……。
皆は先に帰ったんだけど。僕だけずっと女神様の愚痴を聞くことになってしまった。
三日三晩くらい、続いてたと思う。たぶんきっと。
数日ぶりに帰ってきたので、なんか、実感が薄い。
でも村が賑やかなのはわかる。
「それからねっ、それからねっ! えへへっ……」
坊やは、まだなにか言いたそうだ。
僕は聞いてあげた。
うん。聞くのは慣れてる。
女神様の愚痴も三日三晩聞いていたわけだし。
「あのねっぼくにねっ、おかあさんができたのー! きれいなおかあさんなのー!」
そうか。よかったね。
そういえば、村中がおまつりだ。結びの儀――はなくなったはずなんだけど。
なんのおまつりなんだろう?
僕は坊やと別れて、村の中を歩いていった。
「うぃーっく……。おやぁ?」
次に出会ったのは、おじさんだ。
道具屋のカウンターの内側で、いつも見かけるおじさんだ。
魔王のダンジョンに挑む冒険のあいだには、色々と、お世話になった。
「やぁやぁ、だれかと思えば……。カインさんじゃぁ、ないですか……」
おじさんは酒瓶を抱えている。酔っ払っているみたい。
「きょうは道具屋は休業ですよ。ええ休業ですとも。こんなおめでたい日に、ああた……、仕事なんて、できるわけ、ないでしょう? うぃーっく……」
すっかり酔っぱらいだった。
おじさんが酒瓶を抱えて、道ばたで寝始めちゃったので、僕は道具屋のおじさんを置いて、また村の中を歩きはじめた。
「やあ、カインじゃないかね。おかえり。……お疲れだったね」
次に出あったのは、宿屋のおじさんだった。
道具屋のおじさんと違って、宿屋のおじさんは酔っ払っていない。宿にいるときと同じで、きりっとしている。
「話は、女の子たちから聞いているよ。女神様のグチを聞かされて、たいへんだったそうじゃないか……」
うん。大変だったけど……。
でも。それより……。
「えっ……? そんなことよりも、村の様子は、どうかしたのか……って?」
うん。そう。
「ああ……。これは結びの儀のお祭りだね。ほんとうはもうすこし、あとのはずだったんだが……」
「え? 結びの儀はなくなったはずだって? ああ……。意に沿わない相手と結婚させられるのは、カインのおかげで、たしかになくなったよ。でも、もともと、この村の風習だったんだ。この時期、皆で一斉に結婚することが、もともとの意味の、〝結びの儀〟だったんだよ。……まあ、若い子たちは、知らないだろうけどね」
ほー。へー。はー。
そうだったんだ。
「そんなわけで、女神様が解放されたお祝いやら……、毎日何組もの結婚式やら……。もう、わけがわからない状態なのさ」
「道具屋の主人なんか……。タダだからって、お酒飲みすぎちゃってさ……。あははははー……」
うん。
あはははー、だったねー。
「さぁて……。それじゃあ、わたしも……、タダ酒を飲みにいくとするかな」
宿屋のおじさんも歩いて行ってしまった。
僕はまた村の中を歩きはじめようと――。
「ああ、そうそう……。忘れるところだった」
おじさんは、くるりと振り返ってきた。
「教会に行ってごらん。マイケルとフローラの結婚式を、いまやっているところだよ……」
えっ? マイケルとフローラ?
「ふたりとも……、カインが帰ってくるのを、ずいぶん待ってたんだがね……。これ以上、順番は延ばせないってことでね……」
そっか。待ってていくれたんだ。
待たせちゃってわるいことしたかな。
「今年のカップルの結婚式は、どうも、あのふたりで……、最後になりそうだね。いまだったら、まだ、間にあうはずだよ。顔をみせてやったら、喜ぶんじゃないかな?」
よかった。間に合いそう。
マイケルとフローラのために頑張って――。その二人の結婚式に出れなかったら、ちょっと残念だよね。
二人が幸せなら、僕はそれでいいんだけど。
やっぱり〝ケッコン〟するところを見てみたいと思うし。
僕は、走り出した。




