ターン51「村長さんの話」
僕は村長さんの家に行った。
「あら、いらっしゃーい。村長さん? 上にいらっしゃるわよー」
いつもお菓子をくれるお手伝いさんのお姉さんが、僕を家に入れてくれた。
僕はお姉さんに頭を下げてから、村長さんのいる二階にあがっていった。
「うーむ……。毎年のことじゃが、このリストを作るのは、たいへんじゃのう」
村長さんは、紙とペンを前にして、なんだか、難しい顔。
なにかのリストを作っているっぽい。
男の子と、女の子と、名前の組が、書き連ねられている。
「ふーむ……。つぎはマイケルとフローラか……」
ん? マイケルとフローラの名前が出たね。いま出たよね。
僕は村長さんに近付いた。
「あのふたりは、好きあっておるようじゃから、こりゃ……、ちゃんと引き離しておかないとのう」
ちょ……。
なんで引き離さないとならないの?
好きあっているんだから、一緒にさせてあげようよ。
「よしっ。マイケルの相手は、鍛冶屋のマリオンがよかろう」
村長さんはそう言った。
マリオン×マイケル、と、紙に書く。
「それでフローラのほうの相手じゃが……、ふぅむ……。薪割りのカインあたりで、どうじゃろうか?」
→[いいえ]
僕はそう言った。断固として「いいえ」だ。
「……! わわっ! なんじゃっ、おぬしっ!?」
村長さんはびっくりしている。
「い……、いつから、そこにいたのじゃ!?」
さっきからだよ。
村長さんが、マイケルとフローラを引き離そうとしていたところからだよ。
「な……? なんじゃっ? おぬしの持っておる その斧は……。まっ、まさかその斧でこのわしを……!?」
村長さんは、慌てている。
「ま、ま、ま……、まて、まてっ! はやまっては……。いっ、いかんぞっ! 話せば、わかる! ――と! とにかく! 話をきくのじゃ!」
うん。話してよ。
「わしだって、なにも好きこのんで、恋人同士を引き離しておるのではないのじゃ。これには、ちゃんとしたワケがあるのじゃ。ちと、長い話になってしまうが……。どうじゃ、聞きたいか? ん? んー……?」
→[はい]
「そうじゃろう。そうじゃろうて……。では若いおぬしに、話して聞かせてやるとしようか」
村長さんは椅子を引っ張ってきた。
僕も椅子を勧められたので、村長さんの向かいに座った。
村長さんは僕の前に果物を出してくれた。
おいしそう。だけど手はつけない。
「好きあった者同士が、決して、いっしょにはなれぬという、この村の掟じゃが……」
村長さんは、話しはじめた。
「……じつは、この掟は、昔からあったというわけでは、ないのじゃ」
僕は黙って聞いている。
「何十年か前……。わしが、そう……。ちょうどおまえさんぐらいの年頃じゃった……」
村長さんは、昔を思い出すみたいな顔をしている。
「ぴちぴちとハンサムな、ナイスガイであったころのことじゃ」
うそだぁ。
村長さんは、絶対、昔から、しわくちゃだったに決まってる。
「そのころのこの村は、いまよりも、もうすこし栄えておってな。……というのも、女神のほこらに礼拝をしに来る若者たちのカップルが、あとをたたず、観光名所として、にぎわっておったというわけじゃ」
「女神のほこらというのは、村の西にある、遺跡のことじゃ。いまは立ち入り禁止になっておるから、おまえさんは、はいったことはなかろうが……」
うん。入れなかったんだよね。
まえに探検しようと思ったんだけど、番人のおじさんが、とても強くて、追い返されちゃった。
「昔は……。あそこには、それはそれはお美しい、恋の女神様がいらしたのじゃ。いや……、いまだって、いらっしゃることは、いらっしゃるのじゃが……」
村長さんは言い直した。なんだか言いにくそう。
「恋の女神様は、すべての恋人たちに、祝福をお与えくださる神様じゃ。そのお姿は、まさに神々しいまでの美しさじゃった」
「じゃが……。その美しさが、まずかったのじゃな」
どうして? 綺麗なことは、いいことなんじゃないの?
「どこからか、この地に流れ着いてきた若き魔王が、女神様に、よこしまな想いを抱いてしまったのじゃ」
うん? 魔王? なんかどこかで聞いた名前だよ?
「魔王の強大な力をまえにして、女神様は、すぐ捕らえられてしまった。それからのことじゃ……。恋人たちに、祝福が与えられなくなったのは。そればかりではないぞ。なんと、祝福のかわりに、恋人たちには、呪いがふりかかるようになったのじゃ」
のろい、って、どんなの?
フローラたちも教えてくれなかったんだよね。それ。
「女神様が健在であったころ、恋人たちには〝祝福〟があったのじゃ。五穀豊穣、家内安全、子宝には恵まれ、人間関係は円満になり……と、それはそれは、ありがたいものばかりじゃった」
〝祝福〟のほうは、そういうのなんだね。
「じゃが、すべての祝福は真逆となって働いておる。恋人たちに、〝祝福〟ではなく、〝呪い〟がかけられておるいま、もし恋人同士が、結ばれるようなことがあれば……。畑は枯れ果て、井戸の水は毒をふくみ、赤子は病を持って生まれ……。そして、ひとびとの心には、ぎすぎすした暗いトゲがしのびこむであろう……」
村長さん。声と顔と仕草が怖い。
驚かせようとしたって、だめだからね。
僕。もう子供じゃないんだから。
「……とまあ、こういった理由があって、結びの儀というしきたりは、あるのじゃ。おまえさんがた、若いもんが、色気づいて、カップルとなってしまう前に……。所帯を持たせてしまって、呪いをかけられんように……という、そのための、しきたりじゃ」
カップルって、よくわからないなぁ。
所帯とか〝ケッコン〟とかいうのだって、よくわからないし……。
僕には難しすぎるよ。
「まあ……。マイケルとフローラには、たいへん気の毒じゃが……。これも村のため。ひいては、あのふたりのためでもあるのじゃ。カイン……、わかって、くれるな?」
→[いいえ]
いいえ。
誰がなんといっても、いいえ――だよ。
「おまえさんは、若い。わかれというのも、無理な話じゃろうな……」
村長さんは、ため息をついた。
「さて……。話は、これまでじゃ。もう、帰るがよい……。わしはこのリストを、作らねばならんのでな……」
村長さんは机の上のリストに向かった。
〝ケッコン〟する相手を書いてあるリストだ。
村長さんは、話は終わったとばかりに、仕事に戻っているのだけど……。
僕のほうは、ぜんぜん解決していなかった。
「なんじゃ……、まだおったのか? おお、そうじゃ、そうじゃ、おぬし、暇だったら……、ちと、ウワサおばさんを呼んできてくれんか?」
なんで、うわさおばさん?
「マイケルたちのほかにも、くっつきかけとるカップルが、おるやもしれんからの……。情報収集じゃ」
うわぁ。
……まあ、たしかに、うわさおばさんが、そういうの、いちばん詳しいと思うけど。
これ以上、村長さんにかけあっても、無駄っぽい。
話はわかった。呪いのこともわかった。
これからどうすればいいのかを考えながら、僕が、とぼとぼと帰ろうとすると……。
「これは年寄りの、ひとりごとじゃ……。よいか? ひとりごとじゃぞ、ひとりごとじゃからな……」
村長さんは僕に背中を向けながら、そんなことを話しはじめた。
僕は足を止めて、村長さんの話を聞いた。
「何十年か昔……、魔王に捕らえられてしまった女神様じゃが、いまどうされておるのかは、誰にもわからん。ウワサでは、いまだに魔王のことを拒みつづけておるようじゃ。そこでもし……。もしも、じゃよ……?」
村長さんは、そこで言葉を切って、あらたまった感じで、話しはじめた。
「あくまでも、もしも……、の話じゃが……。誰かがダンジョンへと挑み、魔王を倒してきたのなら……。このしきたりは、すぐにでも、なくなることじゃろうな」
あっ。そうなんだ。
「じゃが……。どんな無謀な若者であっても、魔王のダンジョンに挑もうなどと、思う者はおらんじゃろうな……」
魔王っていう人には、前にあったなぁ。
あの魔族の男の人が、その話に出てくる「魔王」なら、僕、いっぺんあってるよね?
たしかに、すんごい、強そうだった。
戦ってたら、あれ……、ぜったい死んでたよね。
「それとも……。どこかには、おるのじゃろうか。そんな若者が……」
僕はかんがえた。
でも考えてみるまでもないっぽい。
→[はい]
「むう……。なにか聞こえた気もするが、きっと空耳じゃろう」
空耳じゃないって。
村長さん、耳遠くなってる?
「じゃが……、もし……。そんな勇気ある若者がいたなら……、使ってほしいものがある。そこの宝箱に、わしがコツコツと貯めた金が入っておる。あと、それから、わしが昔、魔王のダンジョンに挑んだとき……。その時に使っておった装備もじゃ」
あー……。
僕は困っていた。
あの宝箱かー……。
あれならー、そのー……。
まえ……、開けちゃった……。
ひのきのぼうと、ぬののふくとで、ダンジョンに挑むのは、無謀だと思うよ。
「何年かに一度の結びの儀がくるたびに……、わしはこうして、勇敢なる若者を待っておるのじゃよ。なに……。年寄りのひとりごとじゃよ、何十年か、昔は……、若者であった年寄りの、ひとりごとじゃよ……」
村長さんは、ひとりごとをつぶやいている。ずっとつぶやいている。
僕は聞いてしまってスルーしてゆくのも悪いと思ったので、宝箱を開けて、「ひのきのぼう」と「ぬののふく」とを取り出した。あとお金が……。300Gぐらいあった。
道具屋さんで、これでなにか買えるかな?
僕は村長さんの部屋をあとにして、階段を降りていった。
「カインや……。わしの果たせなかったことを、おまえさんなら、できるやもしれんのぅ……」
階段の途中で、そんな言葉が聞こえてきたけど。
それも「ひとりごと」だろうと思って、聞いてるけど、聞いてないふりをした。
◇
僕はダンジョンに挑むことに決めた。
◇
そして……。
ダンジョンに挑む決意をしたという、うわさは……。
すぐに、村中に広まった。
そして僕は、魔王ダンジョンに挑み――。
キサラ、ユリアさん、ロッカ、マリオン、アネット、リリー……皆の力を借りて、ダンジョンを進み――。
ついに、魔王を倒した。
そして、村には平和がおとずれた。




