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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第5章 幼女、おうちの前を通り過ぎちゃう編
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第7話 帝都攻防、攻める者と守る者


 混乱に陥った帝国軍を遠目に眺めながら、フェリシアは安堵の息を吐いた。

 相変わらず、表情には気弱げな陰が差している。けれど唇を舐める仕草は血を求めているようだった。


「……このまま、皆殺しにできるといいんですけど」


 絶大な信頼を置いていた魔導遺物を無力化されて、帝国軍は完全に勢いを失っている。まだ崩れたのは戦列の一部に過ぎないが、打撃を与えたのは間違いない。

 レミディア軍としては、一気呵成に勝負をつけたいところだった。


「可愛い顔して、怖いこと言ってるわねえ」

「……もう怪我は治ったんですか?」


 戦場を眺めたまま、フェリシアは背後へ問いを投げた。

 そこには複雑な笑みを浮かべるミュリエルが立っていた。いつもの露出の多い服装ではなく、黒マントを羽織って身体を隠している。


「とりあえず、動き回れるくらいにはね。まだ火傷だらけで、みっともないことになってるんだけど」

「ミュリエルさんが追い込まれるなんて、やっぱり帝国は怖いですね」

「ええ。とっても怖いわよ。だから、さっさと帰っちゃわない?」

「……そういう訳にもいきません。陛下の御命令ですから」


 レミディアには飛翔船という新しい技術があり、帝国は国内外の敵への対処で疲弊している。いまこそ攻め入る好機―――。

 インスティウス四世はそう告げて、帝国侵攻の軍を動かした。

 もっとも、そこに宰相ギルアードの影があることは誰もが承知していたが。

 それでも、少なくともフェリシアは、国王の命に従おうと思っている。政治的な問題には関わりたくない。その方がずっと楽だから。


「それに……上手くすれば、これで決着もつきますから」

「まあ確かに、あの”装置”は効果あったわね」


 飛翔船に積まれた新型の魔導装置を、ミュリエルも目にしていた。

 多くの魔導遺物を研究した結果、とある共通点が見つかった。極一部の魔導遺物を除いて、起動中に流れる魔力に一定の波長がある。その波長を乱せば、動いている魔導遺物も力を失ってしまうという訳だ。

 対転移結界と同じように、四つの基点に装置を置き、あらゆる魔導遺物の機能を失わせる。その効果は、いま目の前にある光景が証明していた。


「でも自分たちも使えなくなるって、少し不安じゃない?」

「それはそうですけど……一時のものですから」


 フェリシアが撫でている手首の腕輪も、いまは装飾品としての機能しか持っていない。装置は停止させたが、使えるようになるまではしばしの時間が掛かる。

 だが、その時間を自分たちで決定できる意味は大きい。強大な魔導遺物の力を使えるか、使えないか、望んだ時に切り替えられるのだ。戦場を好きなように設定できる。謂わば、地の利を得ているようなものだろう。

 実際、不意に『断傲剣』を封じられた帝国軍は、大いに狼狽した。


「……もしかして、私を守るために来てくれたんですか?」

「そんなはずないでしょ。重傷だって言ったじゃない」

「重傷でも、まだまだ戦えそうですよね」


 くすりと笑みを零しつつも、フェリシアの目は戦場の様子を捉え続けていた。


 勢いを増したレミディア軍だが、徐々に抑え込まれ始めている。やはり基本的な錬度では、帝国兵の方が上なのだろう。

 しかし埋めきれないほどの差でもない。

 まだ動揺が残っているいまなら、魔導士の投入で戦況は傾く。


「装置の守りは大丈夫なの?」

「はい。対転移装置と同じ配置ですけど、予備もありますから―――っ!」


 その時、戦場中央に眩い光の柱が叩きつけられた。

 強烈な熱を纏った戦術級魔術は、レミディア軍の一部を消滅させる。凄まじい衝撃も振り撒かれて、両軍ともに驚愕で動きが止まってしまった。


 しかし立ち直るのは帝国軍の方が早い。

 素早く陣形を組みなおすと、帝都城門へ向けて突破を図る。


「とてつもない魔術……あれが、エルフィン族の死神ですか?」

「恐らくね。さすがに連発は無理みたいだけど、厄介な相手よね」


 ミュリエルが苦笑混じりに肩をすくめる。その視線の先で、今度は巨大な炎壁が生み出されて、帝国軍の突破を援護していた。

 どうやら帝国軍は籠城策を取るらしい。不測の事態に見舞われて、早期決戦よりも、堅実な戦いを是としたようだ。

 少々アテが外れて、総指揮官であるフェリシアは眉を顰める。


「長い戦いになるかしら……ねえ、やっぱり帰らない?」

「……あの、少しは真面目にやってくれませんか」

「あら、大真面目よ? 女の子と遊ぶ時はいつだってそうだもの」


 艶を含んだミュリエルの眼差しから、フェリシアは顔を背けて逃れた。

 玩具にされるのは嫌いじゃない。

 だけど何もかもを投げ出して遊ぶほどの勇気も持てなかった。


「女の子って言えば、例の『魔弾』は出てきてないのかしら?」

「そういう報告はないですね。まだ西方国境にいるはずですし……」

「ふぅん……西方、ね」

「……勝手に抜け出したりしないでくださいね?」


 返答は期待せずに、戦場へと意識を向けなおす。

 どうやら帝国軍の入城は防げそうになかった。






 ◇ ◇ ◇


 帝国軍を迎え入れた城門が、再び堅く閉じられる。追撃を図ろうとしたレミディア軍は、分厚い炎の壁に阻まれて近づけもしなかった。

 城壁上からも矢や魔術が放たれて、レミディア軍は後退する。

 戦いはひとまず中断されることとなった。


 帝国軍としては、皇帝と主力部隊の帰還を喜ぶべきなのだろう。しかし兵士達は沈んだ面持ちをしている者が多い。帝国の象徴でもある『断傲剣』が起動した時点で、大半の者が勝利を信じていたのだ。

 けれどまだ戦いは続いている。

 信頼が大きかっただけに、それが破られた反動は大きい。


 とはいえ、それを表に出すことが許されない者もいる。


「おかえりなさいませ。無事のご帰還、喜ばしく思います」


 ディアムントを出迎えた皇妃シュテラリーデは、まず祝いの言葉を述べた。

 幾許かの不安は表情に滲んでいるが、ほとんどの者には気づかせない程度のものだ。


「よくぞ帝都を守ってくれた。だが、もう心配は要らぬ」


 応えるディアムントの笑みもやや堅い。周囲の将兵に勇気を与えられるくらいには、本心から勝利を信じてもいるのだが―――。


「まずは軍議を開く。兵には交代で休息を取らせておけ」


 一息吐くこともせず、ディアムントはすぐに指示を飛ばした。

 レミディア軍の突然の侵攻や、魔導遺物の機能停止など、状況は混沌としていて不可解な部分も多い。戦闘が中断している間に、少しでも多くの情報を集め、事態を整理する必要があった。

 会議用の部屋へと足を進めながら、守備に当たっていた騎士に尋ねる。


「西方……いや、東西の国境はどうなっておる?」

「それなのですが……」


 問われた騎士が言いよどむ。報告を躊躇うというよりは、戸惑っている様子だ。

 ともかくも正確な情報を寄こせと、ディアムントは重ねて命じた。


「はっ、申し上げます。現在、敵側の妨害により、魔導通信は行えない状況です。しかし数日前の連絡によれば、東方国境ではレミディア軍と睨み合っており、未だ動けぬ状況にあるようです」

「……そちらに動きは無しか。西方はどうなっておる?」

「はい……魔女ミルドレイアが現れました」

「な、に……!?」


 ディアムントが足を止める。

 付き従っていた騎士やシャロンも、大きく目を見開いて言葉を失っていた。


 魔女ミルドレイア。その名を知らぬ者はいない。

 かつて帝国に攻め入り、多大な被害をもたらした恐るべき災厄だ。一部の領土を汚染して、獣人族やエルフィン族にも怨敵として狙われている。

 この混沌とした状況で、ある意味では最も聞きたくない名前だった。


「ヤツが……魔導国が、またも攻め入ってきたというのか!?」

「い、いえ、それが、すでに討たれたとの報告もございます」

「…………あ゛?」

「詳細はまだ分かりませぬが、その、ヴィレッサ皇女殿下が討ち果たした、と」


 静寂が訪れる。

 石造りの廊下に、風の音ばかりが響いていく。

 数呼吸の間を置いて、最初に我に返ったのはシャロンだった。


「あの子は、また……」


 頭を抱えて溜め息を落とす。

 だけどその口元には笑みも浮かんでいた。これまでの戦いで積もった緊張がすっきりと解けたような、柔らかな微笑みだった。


「陛下、どうやら西方に関しては、これっぽっちの心配も要らないようです」

「……そのようだな」


 ディアムントも苦笑を漏らす。

 ふと虚空へ向けた眼差しには、優しげな色が宿っていた。


「まったく、呆れるほどに頼もしい娘だ。遥か遠方にいても尚、その行動で我らを激励してくれるではないか」

「恐らくは、いまは帝都の異常を察して向かってきているかと」

「で、あろうな。あの娘ならば即断するはずだ」


 和やかな笑声が響く。

 まだ目を白黒させている他の騎士も、なんとなく勢いに押されて表情を緩めていた。


「我らも奮起せねばならぬな。勝利で出迎えてやるとしよう」

「はい。そして今度こそ平穏な時間を……あの子には、まだまだ学んで欲しいことがたくさんありますから」


 シャロンの発言は、臣下としては少々礼を失するものだった。

 けれど咎める者はいない。

 幼い子供を、そして大勢の民を守る―――、

 剣を持つ者として当然の想いを呼び起こされて、ディアムントも、付き従う騎士たちも、素直に頷くばかりだった。




 こうして帰還を果たした帝国軍は、翌日からレミディア軍の侵攻を防ぐべく戦いを再開する。若干の混乱は残っていたものの、皇帝ディアムントが自ら陣頭にも立ったことで、将兵は士気を取り戻して奮戦した。

 しかし、数日後―――、

 大攻勢を仕掛けてきたレミディア軍、そして魔導士により、戦況は大きく傾けられた。



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