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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第4章 幼女、泣く子の手を引いてあげる編
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第17話 死の山を見下ろしても、魔女は笑う



 魔導国軍本陣には、ほとんど人が配置されていない。かといって手薄でもない。

 周囲には、土くれから作り出されたゴーレムが配置されている。人間の兵士より二回りは大きな体躯をしたゴーレムが十数体、微動だにせずに守りを固めていた。


 無論、そこには魔女ミルドレイアが座している。

 やたらと豪奢な椅子を土から作り出して、テーブルの上には高価な酒も置かれていた。


「ん~、あの国王、お酒の趣味だけは悪くなかったわね。貴方もどう?」

「いえ。有り難い御誘いですが、戦の前ですので……」


 隣で控える第二導師ザンロームが、恭しく頭を垂れる。

 しかし人間らしい動作はそこまでで、すぐにまたゴーレムのように直立不動となった。


「お堅いわねえ。最期かも知れないんだから、楽しめばいいのに」


 最期という言葉に、ザンロームがびくりと肩を揺らす。

 ミルドレイアはけらけらと笑うと、酒を煽り、立ち上がった。


「さて、向こうも攻めてくるみたいだし……こっちも始めちゃおうか」


 緩みきっているようでも、偵察鴉からの映像をしっかりと把握している。

 ミルドレイアは黒銀のマントをはためかせると、全軍に前進を命じた。


 ゆっくりと、互いの軍が距離を詰めていく。

 その様子も、ミルドレイアは本陣にいながら鴉の目を通じて確認していた。


「そうだ。貴方にも教えてあげましょうか?」

「……何のことでしょう?」

骸狂戦士(デス・バーサーカー)の作り方を、よん」


 禁忌とされる化け物の名を告げられて、ザンロームは大きく表情を乱した。

 まさか、と見開いた目で訴える。


 しかしもう、ミルドレイアの興味は別の処に移っていた。元より返答を待つつもりも、会話を楽しむつもりもなかったらしい。

 空中にふわりと浮かび、なにもない前方へと告げる。


「それじゃあ、いってらっしゃい」


 ほどなくして、変化は訪れた。

 魔導国軍の前線部隊から、どよめきが上がる。


 赤黒く、おぞましい化け物が膨れ上がり、屹立しようとしていた。

 前線のさらに先から、地を揺らすほどの足音が響いてくる。

 本陣でも、ザンロームが強張った顔で震える拳を隠していたが―――、


「あははははっ、みんな驚いてる驚いてるぅ!」


 ただ一人、狂乱の魔女だけが、大はしゃぎで喜びの声を上げていた。

 派手に手を叩いて、笑い声を響かせる。


「あんなの、ただの失敗作なのにねぇ。でもまぁ集団戦で使えるのは間違いないわよね。さあさあデスちゃん、生意気な帝国軍を木っ端微塵に―――」


 笑顔のまま、ミルドレイアは硬直する。

 さぁっと顔色が蒼ざめていく。


「ははっ、嘘でしょ。あんな暴力……っ!」


 言葉を切ると、素早く手を振った。

 周囲に青白い光を散らしながら、上空へと猛烈な速度で飛びあがる。


 直後―――閃光が、戦場を駆け抜けた。






 ◇ ◇ ◇


 砲撃形態から放たれた破壊の嵐は、骸狂戦士(デス・バーサーカー)一体を完全に呑み込み、魔導国軍の陣を中央から真っ二つに裂いた。

 光に呑み込まれた者ばかりではない。その周囲でも、竜巻か噴火でも起こったかのように、人も物も関係なく吹き飛ばされる。空高くまで打ち上げられ、地面へと叩きつけられ、原形を留めない姿を晒す者も数え切れないほどだった。


 そして衝撃と轟音が撒き散らされた後には、何も残らない。

 大地に太い爪跡が刻まれ、戦場に愕然とした静寂が訪れた。


 しばしの間を置いて、帝国軍からは歓声が、魔導国軍からは悲鳴が上がる。

 まるでもう勝利したかのような兵士たちを見下ろしながら、ヴィレッサは魔導銃を掲げ、張りのある声を響かせた。


骸狂戦士(デス・バーサーカー)は、あたしが仕留める! 陣形を保て!」


 昂ぶった声を上げていた兵士たちだが、すぐに静まり、武器を構えなおす。

 ヴィレッサも、あらためて戦場を見据えた。


 骸狂戦士(デス・バーサーカー)は残り二体。その二体も、それぞれに片腕と片足が消え去り、巨体が地に伏している。しかし傷痕は醜く蠢いていた。さして間も置かずに回復してしまうだろう。

 魔導国軍も大きな損害を受けている。本陣まで襲った砲撃により、兵士数はすでに半減といったところだ。中央に厚い布陣を敷いていたのも仇となった。


 だが、合成獣(キメラ)部隊はさほど数を減らしていない。与えられた作戦通りの動きなのか、あるいは獣の本能で危機を察したのか、砲撃の直前に左右へと広がっていた。無傷ではないが、まだ戦意も保たれている様子だ。


 いや、戦意というよりも―――、

 命令する主人が生き残っているから、なのだろう。


『あははははっ、さすがは魔弾皇女ちゃんだね! ビックリしちゃったよぉ!』


 戦場全体に、高らかな笑声が響き渡る。

 何かしらの魔術だろう。その声の主、魔女ミルドレイアの姿も上空に確認できた。


『生体反応確認。標的に間違いありません』

「狙撃形態で狙えるか?」

『肯定……いえ、否定です。どうやら隠蔽術式にも長けているようです』


 冷徹な魔導銃からの声に、微かに苛立たしげな色が混じった。

 ヴィレッサも舌打ちをする。


 遥か遠くだが、ミルドレイアの姿が黒い影に包まれ、複数にぶれて見えた。

 狙撃形態で何発か撃てば、当たる可能性もある。けれど時間を稼がれるのは避けたい。まだ、おぞましい化け物が二体も残っているのだ。


 だから―――、


『凄い破壊力だったわねぇ。でも、連発できるのかしらん? それに発動までには時間も掛かるんじゃない? だったらこっちにも打つ手が―――』


 挑発的な言葉を無視して、ヴィレッサは引き金を弾いた。

 破壊の閃光が戦場を貫き、また一体の骸狂戦士(デス・バーサーカー)が消滅する。今度は奥の敵陣まで被害は及ばなかったが、それも計算の内だ。


『ちょっ、ちょっとぉ! こっちの話を聞きなさいよ。ここは私の策略に嵌まって、歯軋りする場面でしょう?』


 そんな場面は要らない。

 もはや言葉を交わす機会も必要ない。

 ただ、殺し合いをするだけ―――。


 そう内心で吐き捨てつつ、ヴィレッサは冷淡に状況を確認する。


「出力六〇%でも、充分に破壊できそうだな」

『肯定。前回のものよりも小型ですからね。余計な損耗は抑えるべきです』

「この威力で、あと何発撃てる?」

『インターバル無しですと、七発で機能障害が発生します。一部の形態が使用不能になりますので、ご注意を』


 砲撃形態は尋常でない破壊力を発揮できるが、その分だけ銃本体にも負荷が掛かる。魔導銃を構成する流体魔鋼が、僅かながら削られるのだ。

 時間を置けば回復する。

 しかし全開で撃てるのは、連続では三発が限界だった。


 この欠点は、ミルドレイアが得意気に告げた通りではある。

 さすがは年の功だと誉めてもいいだろう。

 けれど欠点を見抜いたからといって、その欠点を突けるかどうかは別の問題だ。相手が対策をしてくる前に、さっさと殲滅してしまえばいい。


「まあ、何発も要らねえな」

『肯定。残り一発でも充分です』


 短い遣り取りの間にも、魔導銃の充填は進んでいる。

 慌てふためく魔導国陣地を眺め下ろしつつ、ヴィレッサは狙いを定めた。

 そうして引き金を弾く。


 猛威を振るうはずだった骸狂戦士(デス・バーサーカー)は、戦果のひとつも上げられずに閃光の中へと消え去った。

 再び、帝国軍兵士が歓声を上げる。戦意を漲らせて前進する。


 勢いでは、完全に帝国軍が勝っていたが―――、

 けれどまだ、勝敗を決するには及ばないようだった。


「姫様、お戻りを!」

「ああ……伊達に一国を築いたって訳じゃなさそうだな」


 大きく兵力を削られた魔導国軍だが、どうにか秩序を取り戻し、戦場に踏み留まっていた。混乱は見て取れるが、壊走にはもう一押しが必要なようだ。


 彼らの支えとなっているのは、やはりミルドレイアの存在だろう。

 魔女ミルドレイアが健在である限りは、まだ戦える―――、

 さながら神に縋りつくような想いは、あながち間違いでもなさそうだった。


「まだあんなに隠してやがったのか……よっぽど鴉が好きみてえだな」

『むしろ、絶滅へ追いやっているようにも思えますが』


 ヴィレッサは目を細めて、魔導国軍の後方から沸き上がってきた影を見据えた。

 どうやら首都マジスの城壁に隠れていたらしい。空を黒インクで塗り潰すような鴉の群れが、甲高い奇声を上げながらこちらへと迫ってきていた。


 地上を駆ける合成獣(キメラ)部隊も速度を上げて、帝国軍の左右から押し寄せてくる。

 そしてまた、戦場全体にミルドレイアの得意気な声が響いた。


『ふふん。ほんのちょっぴり計算が狂っちゃったけど、まだまだ私の手駒は尽きてないわよん。陸と空からの連携攻撃に、どこまで耐えられるかしら?』


 いよいよ軍同士の本格的なぶつかり合いが始まるだろう。

 けれどやはり、相手の思惑に乗ってやる義理は無い。

 航空戦力があることは承知していたし、魔弾を避けるほど素早い敵への対策も、ヴィレッサはこれまでの戦闘経験から準備を怠っていなかった。


「何を企もうが、捻じ伏せてやろうじゃねえか」

『了解。拡散形態(ショットガン)へと変形、対空弾頭を装填します』


 青白い光を発しながら、魔導銃が太く長い銃身を備えた形へと変形する。

 小気味良い音を立てて、装填も完了する。


 獲物を捉える眼光とともに、ヴィレッサは太い銃口を上空へと向けた。



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