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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第4章 幼女、泣く子の手を引いてあげる編
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第15話 出兵と、それぞれの師弟



 ヴァーヌ湖城砦の門から、大勢の兵士が隊列を組んで出撃していく。

 城砦守備兵からおよそ二万。親衛隊が千五百騎。

 魔女ミルドレイアを討つと聞かされ、緊張した面持ちの者もいる。けれど多くの者は戦意を滾らせて、剣や槍を握る手に力を込めていた。


「ったく、帝国兵ってのは戦好きが多すぎるだろ」

「悪しき魔女を討つとなれば、彼らも歴史に名を刻む勇者となれますからな。奮い立たぬ者はおりますまい。ましてや姫様の指揮下となれば、万が一にも敗北は有り得ませぬ」


 馬を並べているゼグードが誇らしげに語る。お世辞などではなく、本心からそう思っていると、晴れやかな笑顔で示していた。

 ヴィレッサは悪態を吐きながらも、苦笑を零さざるを得ない。


「帰ってきたら、報償を弾まねえといけねえな」

「またルヴィス殿下や文官たちを悩ませることになりますな」

「はっ、爺さんが言えることじゃねえだろ」


 本来ならば、兵を出さずに警戒に務める予定だった。

 それを覆したのは、他ならぬ兵士たちなのだから―――。




 軍議の場で、騎士たちは口を揃えて出兵を唱えた。


「兵の士気は高く、皆一様に怒りを覚えております」

「ミルドレイアを討つ。この一言を待ち侘びておるのです」

「この機会を逃がせば、かの魔女はまた何処かへ逃げ延びるでしょう」

「僭越ながら、某も出兵を具申致します」


 これにはルヴィスも困惑顔をせずにはいられなかった。

 しかも、自分は軍事には疎いからと、兵をまとめる騎士から意見を聞こうとした答えがこれだったのだ。頭から否定する訳にもいかない。

 結局、ゼグードの言葉が決め手となった。


「姫様、国境守護というのは、なにも篭城戦に限ったことではありませぬ。時には打って出ることが最善にもなりまする。慎重かつ臨機応変な対応が肝要なのです」


「ですが、相手は魔女ミルドレイアです。何をしてくるか分かりません」


「なればこそ、敵を知ることは必要でしょう。一当てして撤退するのも可能です。かの魔女に時間を与えるのは、より危険を増すものと考えまする」


 魔女も宣言していた。ヴィレッサを狙う、と。

 その目的は未だに不明だが、城砦に篭もっていても安全とは言い難い。

 こうなってはもう、ルヴィスも出兵を認めざるを得なかった。


「分かりました。ただし、可能な限り犠牲を出さないようにしてください。危険と判断したら、お姉ちゃんが何を言っても撤退させるようお願いします」


 沈んだ表情のルヴィスだったが、そっと安堵も漏らしていた。

 友人(レイア)を助けたい―――、

 その想いは、ヴィレッサと同じだった。




 城門を抜けて、黒馬の上からヴィレッサは背後を振り返る。


「なるべく早く帰って、安心させてやらないとな」


 バルコニーから、ルヴィスが見送りのために姿を見せていた。兵士たちへ向けて微笑みつつ、ヴィレッサと目を合わせて頷く。

 言葉は届かなくとも、気持ちは通じていた。約束も交わす。

 必ず無事で帰ってくる、と。


「帰還する頃には、北方からも吉報が届いておるでしょう」

「そっちもまったく心配してねえよ」


 ゼグードの気遣いに苦笑を帰しつつ、ヴィレッサは横へ視線を向ける。

 自分よりも不安げな顔をしている友人たちがいた。


「ロナもマーヤも、本格的に戦場へ出るのは初めてだよな?」

「言われてみればそうだニャ。でも……にゃぁ?」

「そうね。下手な戦場よりも、ずっと危ない旅をしてきたものね」


 不安はあっても、怯んではいない様子だった。とりわけマーヤは、手にした杖を強く握り締めて、眼鏡では隠しきれない決意を瞳に滾らせている。


 従軍したいと、マーヤから言い出したのだ。

 ミルドレイアに問い質したいことがある、と。


「貴方には……失礼、皇女殿下には、大変感謝しています」

「畏まるなよ。普通に喋ってくれた方がいいぜ」

「……そう。でも、本当に感謝しているの。これまで曖昧になっていたことに、ようやく決着がつきそうなのよ」


 三角帽子を深く被りながら、マーヤはこれから向かう西方へと眼差しを向けた。


 戦場が何処になるのか、まだ正確には分からない。

 野戦になるかも知れないし、森林地帯で奇襲を受ける可能性もある。あるいは、首都マジスまで一気に進むこともあるだろう。


 だが、ある程度の作戦は決まっている。

 ゾエンヌやグロウシス、それに第三導師ブラローンの領地からも兵が合流する予定だ。彼らには、申し出てきた通りに対転移結界を任せることになる。


 それでもミルドレイアを討つのは容易ではない。

 ロナとマーヤには、魔女の逃走を防ぐための部隊に参加してもらう。


「あの人には戦い方も習ったわ。だから、少しは対抗できると思う」

「にゃ! あちしも目一杯頑張ってみるニャ!」

「無理すんなよ。まあ、期待もしてるけどな」


 だけど、とヴィレッサは口元を三日月型に吊り上げる。

 腰の魔導銃をそっと撫でながら。


「あたしが先に仕留めちまっても、恨み言は無しだぜ?」


 こうして帝国軍西方国境部隊は出撃した。

 目指すは魔導国首都マジス、そこにいる魔女ミルドレイアの首である。






 ◇ ◇ ◇


 第三導師ブラローン。

 魔導国を二分する一派の長なのだが、彼には従軍経験がほとんど無かった。領内の巡回や盗賊討伐など、散歩のような戦いしか知らない。


 複雑な魔術強化を施した鉄製の胸当てにも、傷ひとつ付いていない。

 高価な戦闘用ローブも新品同然だ。

 それでも見た目は整うはずなのだが、本人が俯きがちで、膝まで震えさせているのでどうにも様にならない。


 屋敷の一室で戦の準備を整えている間でさえ、不安げな顔を隠せていなかった。

 出撃の命令を待っている兵士たちの方が、まだ幾分か肝が座っているだろう。


「あの皇女殿下様に会って、尻でも蹴り飛ばしてもらいたいねえ」

「や、やめてください。それだけで寿命が縮まりそうですよ」


 ゾエンヌに叱咤されて、ブラローンは杖に寄り掛かるように持つ手を震えさせる。金の片眼鏡がずり落ちたが、気に留めている余裕もなかった。


「それでもまあ、兵の準備だけは整えたようだね。誉めてやるよ」

「はは……僕は命令しただけですけどね。部下に恵まれてます」

「それを分かってるなら充分さね。戦場でも立ってるのが仕事だよ」


 ブラローンとゾエンヌの領地から、合計でおよそ一万の兵が出立する。時間を掛ければもっと多くの戦力も整えられるが、下手に数を増やせば、帝国軍から警戒されるとの判断もあった。

 加えて、グロウシスに協力させるギリギリの兵力とも言える。


「こういう危ない戦いは、グロウシスさんは絶対嫌がると思ってました」

「くくっ、その通りさね。アンタも意外と分かってるじゃないか」


 己の安全を何よりも優先する。グロウシスはそういう男だ。

 だからこそ、魔弾皇女(ヴィレッサ)の脅しが効いたのだろう。

 裏切ったら何処までも追って魔弾をブチ込むと、帰り際に告げられていた。


「哀れにも首輪を付けられた状態さね。それに、今回は糧食や装備の用意だけを任せたからね。あいつの懐もさほど痛まないんだよ」

「そういうものですか? けっこうな出費だとは思いますけど」

「人が残れば、金なんざ幾らでも稼げるんだよ。アンタも覚えておきな」


 胸当てを拳で小突かれる。

 呆気に取られてしまったブラローンだが、大真面目な顔になって頷いた。


「ゾエンヌさん……僕はまだ、教えてもらいたいことがたくさんあります」

「なんだい、急に? 気持ち悪いねえ」

「死なないでくださいよ。その、色々と思うところはあるでしょうが……」


 いまにも泣き出しそうな顔になって、ブラローンは訴える。

 一瞬、ゾエンヌの瞳に複雑な色が宿った。

 哀しそうな、あるいは嬉しそうな。

 ブラローンがその想いを悟るには、まだ多くの年月が必要となりそうだった。


「あの御方は……いや、かつての師匠はね、いつも繰り返して言っていたよ。

いつか究極の魔法を使ったみたい、とね」

「究極、ですか? 想像もつきませんが……」

「簡単さね。いま、アンタが使ってみせたよ」


 かかっ、と笑うと、ゾエンヌはブラローンに背を向けた。

 照れたように頭を掻く。きっと表情も見せたくなかったのだろう。


「人を幸せにする魔法さ。魔術師なら、いつだってそれを追い求めるべきさね」

「……そうですね。僕も、そんな魔術師になりたいです」


 魔術師二人は優しげに笑う。

 そうして肩を並べて足を踏み出した。戦場へと。



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