第6話 魔弾幼女と魔法幼女
ちょっと短めです。
天を焦がすほどに巨大な炎の壁が沸き上がる。
さらに、雷撃が落ちる。竜巻が風の刃を撒き散らす。
地面が割れ、無数の光弾が正確に的を射抜き、砕き散らして―――。
練兵場で行われた”実験”を、一同は息を呑んで見つめていた。
「……この子、とんでもないわ」
教官役となったマーヤが呆れた声を漏らす。
ルヴィスや、ゼグードをはじめとした騎士たちも真剣な表情をしていた。
もちろん、ヴィレッサも静かに事態を見守っていた。
ぽりぽりと、焼き菓子を齧りながら。
「うん、すごいね。レイアも食べる?」
「あ、ありがとう。このお菓子も、とっても美味しい」
綺麗な皿を囲んで、ヴィレッサとレイアは笑顔を向け合う。
周囲から困惑混じりの溜め息が漏れた。
「えっと、続きを話してもいいかしら?」
「要するに、レイアは魔女としての才能があるってこと?」
「まあ、端的に言っちゃうとその通りね……私なんて比べ物にならないくらい」
ずり落ちかけた眼鏡の位置を直して、マーヤはやれやれと首を振った。
切っ掛けは、やはりヴィレッサの一言だ。
レイアを女王として即位させる―――。
他国の王を傀儡とする手法は、この世界でも一応は知られている。けれど容易に叶うことではないし、国境守護の任を越えている。そもそも一介の村娘を王位に就けるという発想からして尋常ではない。
誰もが渋い顔をして、畏れながら、と反対を表明した。
まあヴィレッサとしても思いつきを口にしただけだ。ちゃんと周囲の意見に耳を貸す姿勢だって取れる。
そのままであれば、思いつきは形にならずに消えていっただろう。
けれど、反対意見のひとつにレイアが反応した。
「嘘なんかじゃない! 私も、お母さんも、ミルドレイア様の子孫だもん!」
厳しい顔をした騎士相手に、レイアは昂然と睨み返した。
だから、という訳ではない。しかし切っ掛けにはなった。
レイアが魔導国の兵に追われていたのは事実なのだ。騎士に逆らったにしても、追っ手の数は多かった。もっと別の理由があってもおかしくない。
もしや、本当にミルドレイアの血を引く者を隠していたのでは?
そんな万が一の可能性を考えて、ひとまず魔術の腕前を見せて貰った。
結果は、皆を唖然とさせるに充分だった。
戦術級、あるいは戦略級にも匹敵する魔術を、レイアは次々と披露してみせた。
「ここは魔力が溢れてるから、もっと色々できるよ」
「ん……? 魔力が多いの?」
「ヴィレッサちゃんから溢れてる。気づいてなかったの?」
「……魔力が多い自覚はあるけどね」
どうやら意識せずとも、ヴィレッサは魔力を撒き散らしているらしい。
光を発するほどではないが、体内の魔素が溢れているのだろう。
ふと、懸念が生まれる。
何かしら周囲への影響もあるのではないか、と。
魔素の濃い場所では魔物が生まれやすいと聞くし、魔力災害という事例もある。だけど細かな部分までは知らないし―――、
「まあ、あとでシャロン先生にでも聞いてみよう」
困った時のシャロン先生頼みだ。
そう思考を打ち切ると、ヴィレッサは横へ視線を向けた。
マーヤが話の続きをしたそうに、眼鏡を上げ直す動作を繰り返していた。
「正直言って、私に教えられることは無いわ。魔素を直接に扱うという点では同じでも、私と彼女ではモノが違う。例えるなら……私がしてるのは子供の積み木遊びで、彼女は精緻な彫刻といったところかしら」
「使える魔術の幅が広い、ってことかな?」
「桁違いにね。それこそ魔女ミルドレイアのように、何でも出来そうよ」
専門家の言葉に、周囲の騎士達がざわつく。
ただの村娘だと思っていた相手が、王族の血を引く可能性が出てきたのだ。他国の者とはいえ、驚かずにはいられない。
でも、当の本人であるレイアは単純に喜んでいた。
「やっぱり、私はミルドレイア様の子孫なんだね!」
「そう、ね……その可能性は高くなったわ」
マーヤは三角帽子を目深に被って言葉を濁す。迂闊な発言を避けたのだろう。
ヴィレッサも少しだけ表情を引き締める。
女の子を助けただけ、という単純な話ではなくなってしまった。ヴィレッサには血統や身分を重んじる気持ちは薄いが、周りの人々はそうではないのだ。
他国の王族を匿っている。
それは、深刻な争いの火種になりかねない。
あるいは、帝国の領土を広げる駒として利用する手もある。
魔女ミルドレイアは大罪人として各国から追われているが、逆に言えば、それだけ影響力の大きな存在なのだ。
こちらから喧嘩を売るなど、ヴィレッサは望んでいないのだが―――。
「ん~……レイアは、どうしたい?」
「どう、って言われても……」
「いきなり大変な事態になって、混乱してるとは思う。でも、これからどうしたいのか、考えてくれないかな?」
友人になったばかりの少女に、ヴィレッサは穏やかに訊ねてみる。
事態がどう動くにせよ、”それ”が最も大切だろう。
レイアの意思を無視して泣かせるような真似は、けっしてしたくなかった。
「私は……領主様に、ううん、ホデールに謝らせたい。あいつが、お母さんに戦いをさせようとした。それで……お母さんは、殺された!」
許せない、とレイアは拳を握る。
つい先程まで滲んでいた困惑は消えて、強い眼差しでヴィレッサへ訴える。
「もう逃げない。お母さんのためにも、これからの私のためにも、ガツンと言ってやらなくちゃいけないんだ」
レイアの足下で、粘液体も意気込むように跳ねてみせた。どうやら主人に何処までも付き合うつもりらしい。
ならば、とヴィレッサも頷く。
すぐにでも魔導国へ乗り込みたいところだった、が―――。
「ちょっと待って、二人とも!」
「姫様、何卒、しばしのご辛抱を」
ルヴィスとゼグードから制止が入った。
さすがに、いきなり兵を率いて侵攻する訳にもいかない。レイアの処遇に関しても、この場で決めるには難しい案件らしい。
「まずは魔導国の状況を調べてから。絶対に悪いようにはしないから、ね?」
「ディアムント陛下にも事情を伝えるべきでしょう。いずれにせよ、北方征伐が終わるまでは、迂闊に動くべきではないかと」
二人に反対されては、ヴィレッサも押し留まるより他に無い。
勝手はしないよう、留守にしているシャロンからもきつく言われているのだ。
「レイア、ちょっとだけ待ってもらっていい?」
「うん、気にしないで。私一人でも行くつもりだったから」
「あ、それだったら、あたしたちだけでこっそりと様子を……」
「それもダメ! 二人とも、大人しくしてて!」
ルヴィスに睨まれて、二人は揃って肩を縮める。
結局、しばらくは城砦に留まることが決まったのだが―――。
数日後、魔導国からの侵攻軍が、ヴァーヌ湖城砦へ迫ってくるのが確認された。




