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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第4章 幼女、泣く子の手を引いてあげる編
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第3話 幼女三人

ふえるようじょ。


 ヴァーヌ湖城砦の端、城壁の外へとヴィレッサたちは足を運んだ。

 ちょっと試したいことがあった。

 それに、ゆっくり休む時間も必要だと思えた。


「あははははっ! お姉ちゃん、すごいよ、これ!」

「うん、予想以上に、わぁっ!?」


 木製の簡素なソリが、凍った湖の上を勢いよく滑っていく。

 黒馬(メア)がソリを引いて、乗り込んだヴィレッサとルヴィスが歓声を上げていた。

 真っ直ぐに走るばかりでなく、時折曲がったり、跳ねたりする。それでいて怪我をしないよう、加減もしてくれている。

 それでも護衛役であるゼグードやクリシャは、不安げに顔を蒼ざめさせていた。


「姫様、あまり危険な遊びは……」

「そ、そうです! 怪我でもされたら一大事ですよぅ」


 忠告に、嘶きを返しつつ黒馬は駆け続ける。

 ルヴィスが喜んでくれているのだ。止まる理由がない。

 双子が育ったウルムス村は、比較的暖かな地域だった。なので冬の遊びとは縁遠い。初めての遊びに、ルヴィスはすっかり子供らしい表情を見せていた。


「こんなの、よく思いついたね!」

「ほんとは、スキーかスケートがしたかったんだけどね」

「すきぃ? すけぇと?」

「なんでもない。それより、ちゃんと掴まらないと、っ!」


 舌を噛みそうになりながらも、ヴィレッサはルヴィスの体を抱きかかえる。

 『赤狼之加護』を変形させての衝撃緩和も忘れない。


 ひとしきり黒馬(メア)の散歩も兼ねて遊んでから、二人は湖岸で腰を下ろした。人気の無い岸辺には、釣り具や椅子も用意されている。

 ゼグードから餌の付け方などを習いつつ、糸を垂らしていく。


「おっきいの釣れるかな?」

「ルヴィスなら大丈夫。塩焼きにしよう」


 根拠の無い発言だったが、正解だった。

 フナ、ウナギ、エビと、次々と釣り上げていく。

 一方で、ヴィレッサも紫色のカニを釣り上げたが、


「姫様、お下がりを! こやつは―――」


 マッド・クラブと呼ばれる、子牛ほどに大きな魔物だった。

 貴重な釣果だったが、即座に黒馬の蹄で踏み潰された。


「カニ……美味しそうだったのに……」

「残念ですが、毒があります。甲羅は鍛冶師などが使うそうですが」


 ヴィレッサはがっくりと項垂れる。

 どうやら湖に嫌われているらしい。

 だけどルヴィスが笑ってくれたので、良しとすることにした。


 昼食も外で済ませる。渋い顔をしていたゼグードや、困惑顔をしていた料理人も巻き込んで、手近にいた兵士達も呼んで火を囲んだ。塩をまぶして直火焼きにした魚や、串焼きにした肉や野菜も混ぜて、乱暴に齧りつく。


 匂いに釣られたのか、いつの間にかロナが混じっていた。そのロナに連れられる形でマーヤと、元警備隊長のリアルドメイガーも。

 けれど恐縮するリアルドメイガーは、火の近くにも寄ってこない。

 ヴィレッサが串焼きを手渡すと、震えて涙を流しながら齧っていた。


「あれ? あたし、苛めてないよね?」

「喜んでくれてるみたいだし、いいと思うよ」


 ルヴィスも自分で釣った魚の塩焼きを手にして、頬を緩めている。

 野外での食事は旅の間も経験したけれど、こじんまりとしたものだった。大勢で騒ぎながら食べると味も違ってくる。


 デザートに団子が出された。

 ルヴィスが料理人に作らせたそうだ。

 たっぷりと黒蜜をかけた団子を頬張って、ルヴィスは幸せそうに目を細める。


「ふぅ。おなかいっぱい」

「うん。ごちそうさま」


 双子は肩を寄せ合って、芝生に腰を下ろす。

 行儀の悪い行動だが、今日は細かなことには目を瞑るよう、ヴィレッサから言い含めておいた。


「お姉ちゃん、ありがとう」

「なんにもしてないよ?」


 さらりと述べたルヴィスに、ヴィレッサも当り前のように返す。

 そう、感謝される理由なんてない。

 ルヴィスに笑っていて欲しかっただけ。


「でも、気にしてくれたんでしょ? 私が暗い顔してたから」

「大丈夫。シャロン先生なら心配いらない」


 この場にシャロンがいないのは、帝都へと赴いたからだ。

 北方征伐の軍に参加すると言い残して。


 ヴィレッサもルヴィスも賛成しなかったが、反対もできなかった。

 シャロンが戦うのは帝国のためではなく、自分達を守るためだと分かっていたから。


「すぐにまた平和になる。そうしたら、今度こそウルムス村に戻ろう」

「うん……きっと、すぐに帰ってきてくれるよね」


 ルヴィスの頭を優しく撫でながら、ヴィレッサは目を細める。

 ぽかぽかとした陽射しとともに、湖から爽やかな風が吹いてきていた。





 ◇ ◇ ◇



 ミルドレイア魔導国では、貴族の地位はすべて魔術師で占められている。

 高位の魔術を使いこなせなければ、その地位を追われることもある。

 逆に、実力さえあれば血筋は問われない―――、

 そう謳われてはいるが、実態は大きく異なっていた。


 魔術師の力は才能によって大きく左右される。だから国策として才能ある若者を集めてはいるが、その才能は子供の頃に見出され、貴族によって買われる。教育を施されて、貴族を上回るほどの実力をつけても、死ぬまで服従させられる。

 大陸各国の中で、『隷属の首輪』が最も多く使われているのが魔導国だ。


 才能無しと判断された者は、魔術の知識をほとんど得られない。

 努力する手段もなく、奴隷のように働いて一生を終える。

 約五十年前の敗戦以来、そういった体制が敷かれている。


 その小さな村でも、日々の食事にさえ困窮する者ばかりだった。


「うわぁ、プルト、凄い!」


 幼い声の賞讃を浴びて、小さな粘液体(スライム)が誇らしげに震える。黄色い体は器用に跳ね回るが、人の手に乗るほどに小さい。

 その体の上に乗った球根の方が大きいくらいだ。


 泥だらけの両手で球根を受け取ると、レイアは小さなお友達を優しく撫でた。


「ありがとう。あとで、お母さんと一緒に食べよう」


 ぷるぷると、黄色い塊が嬉しそうに震える。

 レイアも笑い返すと、正面へと目を向け直した。


 生い茂った草木を掻き分けて、食べられそうな物や、薪になりそうな木枝を籠に入れていく。背中まで伸びた長い髪が、時折枝に絡まりそうになる。けれどその度に、奇跡みたいに風が吹いて髪を守っていった。


 まだ冬が明けたばかりなので収穫は少ない。けれどこちら側の森には他の村人が滅多に立ち入らないので、どうにか数日分の食事は確保できそうだった。

 その分だけ森は深く、危険もある。

 だけど幼いレイアには、他に食べ物を得る手段を見つけられなかった。


「よし、いっぱい採れたね。そろそろ帰ろう」


 頬についた泥を拭って、レイアは重くなった籠を背負う。迷いそうな深い森だったけれど、プルトが先導して道を教えてくれた。


 息を乱しながらも、どうにか村まで辿り着く。

 夕刻で、他の村人はまだ働いている時間だ。それでも普段は静かな村なのだが、今日は少しだけ違っていた。広場の方になにやら人が集まっている。


 目を向けると、木の棒に括り付けられた小鹿の姿が見て取れた。

 どうやら森の方で収穫があったらしい。


「……よかった。誰も怪我はしてないみたい」


 呟くと、レイアは喧騒を避けるように家へと向かった。

 自分が”忌み子”と呼ばれているのは知っている。意味はよく分からない。

 だけど村の大人に近づくと不快げな顔をされるし、子供からは「あっちにいけ」と言われる。嫌がられるなら、そうしない方がいい。


 きっと、自分がみんなと違うからだ。

 ”みんなが使うような”魔術はまったく使えない。

 ミルドレイア様の子孫なのに、それはきっとよくないことなのだろう。


「ただいま、お母さん!」


 家に入ると、すぐに部屋の奥にあるベッドへと駆け寄る。

 冬に体調を崩した母リュアーヌは、少しだけ元気を取り戻していた。まだ顔色は悪いままだけど、体を起こして縫い物ができるくらいには回復してきている。


「おかえりなさい。危ない目には遭わなかった?」

「大丈夫だよ。プルトも一緒だったし、ね?」


 籠の中に隠れていた黄色い塊が飛び出して、レイアの頭の上に乗っかる。

 ぷるぷると震える様子は、大丈夫だと頷いているみたいだった。


「よかったわ。もうじき夜になるし、火をつけましょうか」

「うん。お母さんは休んでて。お芋も拾えたから、茹でてスープも作るね」


 僅かな薪を暖炉に入れると、レイアはすぐに火を灯した。

 種火はもう残っていなかった。炎の魔術式も描いていない。

 けれど、微かに青白い光が瞬いていた。


 使い古した鍋を手に取ると、そこにもすぐに水が張られる。

 空中で魔力粒が輝いて、水が幾つもの玉となって溢れてきていた。


「レイア。分かってると思うけど、その力は……」

「うん。誰にも見つかっちゃいけないんだよね?」


 頷きながら、鍋を火に掛ける。芋は丁寧に洗ってから、まだ慣れない手つきで切り分けていく。

 少しの塩と芋を混ぜた素朴なスープだ。

 毒がある芽の部分は、プルトに与えると喜んで食べてくれる。

 小さなテーブルに向き合って座り、母子は手を組んで目を伏せた。


「偉大なるミルドレイア様に、祈りと感謝を」

「祈りと感謝を」


 魔女ミルドレイア―――、

 この村の住民、全員がその血を引く者だと聞かされている。

 レイアにとっては曾祖母に当たるらしい。


 魔導国を作り、様々な魔術を生み出し、人々に多大な恩恵を齎した。その偉業は神にも等しく、常に敬愛を忘れてはならない。しかし同時に大いなる罪を犯したのも事実であり、その罰は子孫にまで痛みを与え続けている。


 いまの貴族様は、ミルドレイア様の弟子であり、罪を正そうとした。

 貴族様がいなければ、世界は滅びていただろう。

 だから感謝して、罪が赦されるのを待たなくてはいけない。

 いつか心を洗い清めたミルドレイア様が帰ってくる、その日まで―――。


「今日もちゃんと、いい子にしてたよ!」

「そうね。きっとミルドレイア様も見守っていてくださるわ」


 祈りを奉げてから、二人はスープを口に運ぶ。

 ほとんど味はしないけれど、しっかりと茹でられた芋は柔らかく、温かい。


「お料理も上手になったわね」

「ほんと? お母さんみたいに、もっと美味しい物も作れる?」

「ええ。レイアの誕生日までに元気になって、たくさん教えてあげる」

「やったぁ。私も、お芋とか果物とか、いっぱい採ってくるね」


 小さな拳を握って、レイアは体全体で喜びを表す。

 そんな娘の様子に目を細めながら、リュアーヌは自分の皿を差し出した。


「さ、これも食べなさい」

「え……ダメだよ、まだ半分も食べてないよ」

「いいのよ。今日はレイアが頑張ってくれたから、ご褒美ね」


 穏やかに述べて、大きな芋の欠片をすくい上げる。

 差し出されたスプーンを見て、レイアはやや戸惑いながらも口を開けた。


「ゆっくり噛むのよ」

「うん……はふっ、あのね、とっても美味しいよ」


 ほふほふと口から湯気を上げながら、幼い魔女は無邪気に笑っていた。



この作品の半分は、幼女への優しさでできています。

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