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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第3章 幼女、知らないおじさんに誘われる編
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第9話 双子皇女、準備中

最新の五話中で、サブタイトルにひらがなが一文字しか入っていない事実が判明……!


 ベッドに横たわって、シャロンからの治療術を受ける。骨折までしたのは、ブルド・ボアと戦って以来だ。

 まだそんなに時間は経っていないのに、懐かしい感じがする。

 でも、その時よりも―――、


「ほら、ちゃんと魔力を抑えて。集中しなさい」

「うん……」


 シャロン先生の微笑みが怖い気がする。

 ヴィレッサは少しだけ目を泳がせてから、意識を集中した。

 やがて治療が一段落して、シャロンが疲労混じりの息を吐く。


「ディード、お願いね」

『承知しました』


 短い遣り取りの後、『赤狼之加護』が変形する。袖は通さず羽織った形のまま、ヴィレッサの胴体を柔らかく、でもしっかりと固定していく。


 屋敷へと戻ったヴィレッサは、シャロンに抱えられたまま客間へと運ばれた。

 ひとまずヴィレッサの無事が確認されたので、ゼグードは城へと向かっている。ルヴィスも先程まで付き添ってくれていたが、いまは別室で、ロナとマーヤと一緒に休んでいる。

 すでに陽は落ちて、時刻は夜半へと差しかかろうとしていた。


「やっぱり完治まで十日以上は掛かるわね。大人しくしてなさい」

「うん。もう無茶はしない」

「それと、ひとつ良いことを教えてあげる」


 人差し指を立てて、シャロンはにっこりと微笑んでみせた。

 なんだか嫌な予感がして、ヴィレッサは眉根を寄せてしまう。


「治療術ってね、子供の頃に受けすぎると成長が鈍くなるの」

「え……?」

「下手したら、ずっと小さいまま、なんてこともあるのよ?」


 むう。それはすごく困る。

 小さな体で良いことなんて、小回りが利いたり、隠れるのに好都合だったり、被弾面積が少なかったり―――あれ? 意外と良い部分が多い?

 だけどもし、双子なのにルヴィスばかりが成長したら―――。


「ルヴィスの子供と勘違いされる未来が見えた……」

「そうなりたくなかったら、今度こそ、本当に、もう二度と無茶をしないこと!」


 ヴィレッサは神妙に頷く。

 反省はしている。もう心配は掛けたくない。

 でも、また同じような状況になったら、きっと行動せずにはいられない。

 さすがにこんな騒動は、二度も無いと思いたいけれど。


「はぁ……それで、事情はちゃんと話してくれるのよね?」

「うん。その話なんだけど……」


 シャロンには事実を打ち明けておきたい。

 ルヴィスに対してはどうするか、相談した上で決定したい。

 そうして小さく握った拳を胸に当てると、ヴィレッサは口を開いた。






 一通りの話を終えた。ヴィレッサはまだ横になったままだ。

 ベッド脇にいるシャロンは難しい顔をして、しばし沈黙していた。


「……まさか、皇族だったとはね」


 溜め息にも似た呟きを漏らす。

 だけど優しげに目を細めると、手を伸ばしてヴィレッサの頭を撫でた。


「話してくれて良かったわ。でも、貴方はなにも変わっていない」

「シャロン先生……」

「私にとっては、手の掛かる娘のままよ」


 ヴィレッサは布団を被って顔を隠す。

 嬉しいのだけれど、耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かった。


「それにしても、予想以上に早かったわね」

「? 早かった?」

「貴方たちの出自が判明するのが、ね。平民じゃないとは思っていたわ。貴方たちを置いていったのは、重装備の甲冑を着た騎士たちだったからね」


 双子であり、耳に特徴的な傷がある。添えられた手紙で名前も付けられていた。

 探そうと思えば、身元を探るのに充分な証拠が揃っていた。

 だからこんな日が来るのも、シャロンは覚悟していたという。


「性質の悪い貴族が相手なら、私が追い返そうと思っていたのよ」

「先生は、過激」

「貴方ほどじゃないわよ」


 いずれにしても、そんな実力行使はしなくて済みそうだ。

 本人の意向を第一にすると、次代皇帝であるディアムントが名言してくれている。騒動の事後処理にしばし時間を取られるにしても、村へ帰って落ち着くのも、さほど難しくはないだろう。


 アドラバルドが遺した言葉も大きな支えになる。

 ディアムントとヴィレッサを名指しして、『すべて任せる』と言ったのだ。

 そのまま受け取るならば、ヴィレッサは王権の半分を継承できるということになる。副王としてディアムントと並び立つことも可能だ。

 もちろん、そんな意思は持っていないが―――、

 良くも悪くも、帝国皇帝は無茶を押し通せるのだ。


「それで、ルヴィスにどう話すかだけど……」


 シャロンは真剣な口調で話を切り替える。

 ヴィレッサも、布団から顔を出して耳を傾けた。


「私は、ありのままを告げてもいいと思うわ」

「……大丈夫かな?」

「驚きはするでしょうね。苦労や、思い悩むことも出てくると思う。だけどそれでも、ルヴィスなら事実を知って、自分で選びたがるはずよ」


 シャロンの答えは、ヴィレッサにとっては少々意外だった。

 事実を隠し通すか、曖昧にして伝えるか、あるいは成人してから打ち明ける、といった意見を返してくると予想していた。村での平穏な生活に戻るには、そちらの方が都合が良いはずだ。

 けれど一方で、納得して、安心もできる答えだった。


「私の想像以上にしっかりと育っている。だけど、まだ子供なのも分かってるわ。ルヴィスも、貴方も。だから私がいるのだし……ゼグード様や、それとディアムント殿下も話が通じる人なんでしょう? それなら信じてみるのがいいわ」

「ん……私も支える」

「貴方も、支えられる側よ」


 苦笑して、シャロンはまたヴィレッサの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「とにかく、いまは休みなさい。話は私が進めておくから」


 布団を掛け直してもらって、ヴィレッサは素直に目を閉じる。

 そのまますぐに意識は暗闇へと沈んでいった。







 三日が過ぎて―――、

 ヴィレッサがベッドで大人しくしている間に、事態は動いていた。


 まずなにより、皇帝の崩御が公にされたのが一番の大事だろう。

 しかも自害という、先代皇帝にとっては不名誉な事実まで公表された。下手をすれば帝国の威信を揺るがしかねない。

 貴族も国民も、一時は驚愕と困惑に包まれた。

 だが事の詳細を告げられると、複雑な顔をしながらも納得する者が大半だった。


 皇太子であるディアムントと、これまで存在を秘匿されていた皇女が、治世を乱したアドラバルドに対して『説得』を行った。多少の衝突はあったものの、アドラバルドは己の非を認め、後を託して世を去った―――そういう筋書きだ。


 とりわけディアムントの活躍を褒め称える話が、帝都内では広まっている。

 次期皇帝の評判を上げよう、というのは文官から出た意見だ。しかし大元となった”真実の公表”という方針は、ディアムントが強く望んだ。


 隠し事が嫌い、という性分的な選択ではある。

 しかし同時に、敵国であるレミディアに対する措置という、現実的な判断も含まれていた。

 レミディアがあれこれと暗躍しているのは、帝国でも掴んでいる。そういった搦め手を得意とする相手には、下手な隠し事をすれば付け入られてしまう。不名誉であっても堂々としていれば、貴族の批判など弾き返せるのだ。

 そして、なにより―――、


「この機会に、モゼルド教会の勢力を一掃する」


 そのディアムントの発言に反対する者はいなかった。

 むしろ、待ち侘びていた者ばかりだ。

 皇帝をも惑わした邪教として、モゼルドボディア教を帝国内から殲滅するのだ。信徒の一人すら残さない、と嬉々として意気込む騎士もいた。


 具体的には、各領地に通達を出して、領主軍による実力行使となる。実戦訓練も兼ねて、大領主に近隣領地への出兵も認めれば、小領主の負担は軽減される。

 貴族間での調整にいくらか時間は取られるが、そう難しい問題ではない。


 父親に汚名を着せる形になるのだが、ディアムントは迷いなく決断した。

 恐らく、アドラバルドの評価は後々まで悪いものとして語られるだろう。しかし国内に不穏を招いたのは事実であり、仕方のないことでもある。

 罪人ではなく、皇帝として国葬が行われるだけでも良い結果だと言えた。


「不敬な発言になりますが……思うに、アドラバルド陛下は真面目が過ぎたのではないですかな。皇帝として、何事も自分で背負い込み、結果として目を曇らせてしまったのでしょう。御自身が子宝に恵まれなかった分、不安に駆られる部分も大きかったのでしょうな」

「王は一人では成り立たぬ、か。よく心に刻んでおかねばならぬな」


 突っ走りがちなヴィレッサにしても、なかなか耳に痛い話だった。


 ところで、そんな話を聞かされたのは、皇宮の一室に移ってからのことだ。

 静かに事態の推移を見守るだけなら、ゼグードの屋敷にいてもよかった。しかし怪我の治療のため、皇宮にいた方が多くの治療術師を呼び寄せられた。


 魔術が効き難いヴィレッサのために、何名もの術師が交代で治療に当たるのだ。

 かなりの贅沢な気がして、ヴィレッサも最初は眉を顰めた。

 でも仕方なく受け入れた。シャロンにも睨まれてしまったから。


「このベッドも、大きすぎて落ち着かない」

「まあ確かに、三人並んでも寝られるくらいだものね」


 ちなみに、シャロンは現在、立場としては親衛騎士となっている。ヴィレッサの傍にいるために、ひとまず形式として身分を貰ったのだ。


 近い内に、皇女殿下直属の親衛隊も設立される。

 隊長はゼグード、副隊長にシャロンが内定している。規模としては少数で、辺鄙な開拓村に連れて行かれても文句を言わない人材を集める予定だ。


「開拓を見守るための、小さな砦くらいは建ててもいいかもね」

「村のみんなが驚いたりしない?」

「むしろ、安心してくれるんじゃないかしら。その砦に勤める騎士と、私達が親しくしていれば尚更、ね」


 シャロンがちょっと悪巧みをしているような笑みを零す。

 どうやら任せておけば、丸く治めてくれるらしい。


 ただ、ロナとマーヤは皇宮までは連れてこられなかった。事情を説明した上で、ゼグードの屋敷に留まってもらっている。

 さすがに二人とも恐縮していたし、積極的に貴族と関わるつもりはないらしい。

 もちろん、ウルムス村の住民として歓迎する方針は重ねて伝えてある、が、


「帝国で暮らすのに異論はにゃいけど……でもボス、後でお願いがあるニャ」

「私も大人しくはしてるけど、魔術研究所や図書館へ行く時間が欲しいわ。少し調べてみたい事柄があるの」


 なにやら二人とも考えがあるらしい。

 落ち着いて帝都を巡ってもいないし、自由にしてもらうことにした。

 そして、一番の懸念であったルヴィスだが―――、


「ん~、やっぱりドレスって動き難い!」


 あっさりと事態を受け入れていた。

 まだ仮縫い段階だが、純白のドレスを纏ってスカートの裾をくるりと回してみせる。不満を漏らしながらも、口元には小さな笑みが浮かんでいた。


 無理をしているのかな?、ともヴィレッサには思えた。

 けれどどうも、そういった気遣いによる態度とは違うらしい。


「でも、こんな綺麗な服ってはじめて。村の皆にも見せてあげたいかも」

「うん。とってもよく似合ってる」

「もう! お姉ちゃんだって同じように着飾るんだよ? もっと嬉しそうにしたらいいのに!」


 ちなみに、療養中のヴィレッサは試着を控えている。サイズを測るのも、双子ということでルヴィスに任せていた。

 治療が終わり、母親と再会する際に、初めてのドレス経験をする予定だ。


「ルヴィスは、緊張とかしないの?」

「してるよ。いきなりお母さんとか、皇女とか言われて、すっごい驚きもしたんだから。でも、仕方ないよ」

「仕方ないって、そんなの……」

「だって、私はお姉ちゃんの妹だもん」


 腰に手を当てて、ふふん、とルヴィスは胸を張ってみせた。

 お転婆姫というよりも、むしろ漢らしい仕草に、ヴィレッサは目を見張ってしまう。部屋の隅にいた侍女も、何か言いたげにぱくぱくと唇を揺らしていた。


「もう何が起こっても不思議じゃないもん。だから、楽しむことにしたの」

「……すごいね、ルヴィスは」

「そうだよ。お姉ちゃんの妹だからね」


 また先程の台詞を繰り返して、ルヴィスは悪戯っ子みたいな笑みを零す。

 ううむ。可愛いのに、とっても頼もしく、逞しい。

 いっぱい苦労を掛けてしまった自分の責任だろうか。


「これまでで一番深く反省しないと、いけないかも」

「?」


 ヴィレッサは頭を抱えて呟く。

 情けない姉の様子に小首を傾げながら、ルヴィスはドレスを脱いでいった。

 側仕えの侍女に手伝わせる態度も、実に堂々としたものだった。



ルヴィス、覚悟完了。


次回は母親との再会と、新しい動きにもいける、かな?


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