第3話 ちいさなおててが守るもの
今回の話とは直接関係しませんが、私TUEEEというのもジャンルとしてあるようですね。
そのジャンルでは、恋愛に関しては嫌がる人もそれなりにいらっしゃるとか。
当作品の恋愛に関しては、とりあえず「ご安心を」としか言えません。あと数話も進めば分かってもらえると思いますが。
まあだいたい、プロローグの雰囲気で間違ってませんから。
柔らかな朝の陽射しが目蓋を刺激している。けれどそんなものではヴィレッサの眠気を打ち払えない。布団を強引に剥がされ、身体を引き起こされても、ヴィレッサはすぐに枕を抱えて寝転がろうとする。
「ほらお姉ちゃん、腕上げて」
「ん~……」
ルヴィスの声に辛うじて反応して素直に腕を上げる。寝間着を脱がされると少しだけ目が覚めてきたので、もそもそと着替えを始めた。
妹に腕を引かれながら部屋を出て、顔を洗って、髪を梳かされる段になってようやく半分ほど目が開いてくる。
「おはよう。八歳になっても、ヴィレッサはお寝坊さんみたいね」
「そうなんです。お姉ちゃんってば、大人になった”じかく”が足りないんですよ」
「うん……私は、変わらず、いい子」
「ふふっ、そうね。まだまだ子供で構わないわよ」
三人は朝食の席に着いて、挨拶と笑顔を交わし合う。
つい昨日、ヴィレッサとルヴィスは八歳になった。正式な誕生日とは言えないのだが、二人がこの修道院で拾われた日を毎年祝っていた。シャロンだけでなく、村人全員からささやかながらもお祝いの言葉や品が贈られていた。
とはいえ、村での長閑な生活に変わりはない。
「ん~……今日も授業で、午後からは森でのお手伝いだっけ?」
「そうだよ。あ、シャロン先生は帝都に行くんですよね?」
「ええ。でも薬を届るだけだから、すぐに帰ってくるわ」
このウルムス村から帝都までは、馬を使っても一ヶ月以上は掛かる長旅となる。商人でさえ訪れる者は少ない。
しかしシャロンは転移魔術を使えるので、帝都への買出しなども頻繁に行っていた。
「帝都かあ。いいなあ、私も早く行ってみたいです」
「十歳になったら連れていってあげるわよ。約束通りに、ね?」
「ん。その時には、私も一緒」
優しい眼差しを向けてきたシャロンに、まだ眠い目を擦っていたヴィレッサは頷く。
この村の子供たちには、十歳になると帝都へ連れていってもらえるという慣例がある。外の世界を知るための授業であり、大人に近づくための儀式みたいなものだ。
ヴィレッサとしても、帝都には多少の興味がある。辺鄙な村とは比べ物にならないほど人も物も溢れていて、運が良ければ『魔導遺物』まで手に入るという。子供の小遣いで買えるとは思えないが、身を守る力として是非にも欲しいものだ。
それに、情報も集めたい。
周辺国に対して圧倒的な国力と軍事力を誇っている帝国だが、どうも最近はキナ臭いと、村を訪れた商人達が口にしていた。
しかし帝都を訪れるためには、ヴィレッサにはひとつ課題が残されていて―――。
「まあともかく、ご飯にしましょう」
シャロンに促されて、ヴィレッサたちは胸の前で静かに手を組む。
日々の糧に感謝しつつ、平穏が続くようにと祈りを奉げた。
◇ ◇ ◇
帝都へと向かうシャロンを見送ってから、ヴィレッサたちは村の近くにある森へと足を運んだ。
新しい家を建てるための手伝いなので、大工の棟梁が先頭に立ち、数名の大人も同行している。それと、棟梁の息子であるカミル少年も張り切っていた。
「いいか、どんな木でも切っていい訳じゃないんだ。どれを切っていいのか、ちゃんと俺の言うことを聞くんだぞ」
「分かってるわよ。森は大切にしろって、シャロン先生にも言われてるもん」
「あとな、ふらふらするなよ。奥に行ったら魔物だっているんだからな」
「ん。大丈夫。前にカミルが迷子になったのも覚えてるから」
容赦無い双子の返答に、カミルは泣き出しそうなほど顔を歪める。ひとつ年上の少年としては、格好良いところを見せたくて仕方なかったのだろう。
けれどヴィレッサもルヴィスも、森には幾度も入っているのだ。木材運びは初めてだが、果実や野草を採るのは手馴れたものだった。
それでもカミルはすぐに立ち直ると、まだ新しい手斧を強く握り締めた。
「と、とにかく、二人を守るのが俺の役目なんだ! 絶対に離れるなよ!」
「分かったってば。あんまりうるさいと、お酒を飲んだおじさんみたいだよ。格好悪い」
ピシリ、と。
カミルが頬を引き攣らせて凍りつく。数歩前を行く棟梁もガクリと肩を揺らした。
言葉の矢で二人を射抜いたルヴィス当人は、そのことに気づいてさえいない。
子供って怖いなあ、とヴィレッサは素知らぬ顔をして足を進めた。
伐採の手伝いと言っても、子供が斧を振るう必要はなかった。
ルヴィスが魔術で作る風の刃は鋭いが、太い生木を切り倒せるほどの威力は出せない。カミルは身体強化術を発動させ、得意気に手斧を振るったが、一本を切り倒したところで魔力切れを起こしていた。
一方、こういった作業に慣れた大人たちは、疲れも見せずに太い木々を素早く倒していく。力を入れる瞬間だけ強化術を発動させたりと、効率の良い魔力の使い方を会得しているのだ。
シャロンの教えの賜物である。
しかしそうでなくとも、帝国民であれば魔術の扱いを覚える機会は多い。火を起こす程度の生活魔術は一般家庭にも普及しているし、身体強化術を使えるのは兵士の最低条件だ。帝国が強兵によって領土を広げた要因のひとつに、誰でも扱えるほど簡単な身体強化術と防護術の発展があった。
より高度な魔術の研究も盛んに行われている。
とにかく魔術が身近にある風土なのだが―――何事にも例外はあった。
「……やっぱり、武器にするのは難しいか」
木の幹に僅かについた傷を見つめて、ヴィレッサは口元を捻じ曲げた。その手には青白く輝く剣が握られている。膨大な魔力を固めて剣の形にしたものだ。
無尽蔵とも言える魔力量を持つヴィレッサだが、まともな魔術はひとつも使えなかった。
強引に魔力を固めて盾や剣を作っても、ちょっと気を抜いただけで消え去ってしまう。盾は軽すぎて衝撃を受け止めるのが難しく、剣の方も包丁以上の役目は果たせそうにない。
だからといってヴィレッサは落ち込んではいない。
なんとかとハサミは使いよう。そんな諺も、ヴィレッサの知識には刻まれているのだ。
「あ……おじさん、ちょっと待って!」
ヴィレッサは高い木の枝に腰掛けていた。しかしあるものを見つけて、新たに木を切り倒そうとしていた棟梁を制止した。
そうして空中に踏み出す。魔力の塊を足場にして、空間を歩けるのだ。こちらも油断すると崩れてしまうのだが、ずっと練習を繰り返し、シャロンから使用の許可も貰っている。
高所から周囲を見渡して魔物などを警戒するのが、ヴィレッサの役割だった。
けれど見つけたのは、魔物よりももっと無害なものだ。
「鳥が巣を作ってる。雛もいるから他の木にしよう」
「おう、よく見つけたな。それじゃ、あっちのヤツにするか」
棟梁が指示を出し、作業を再開する。それからヴィレッサも呼ばれたので地上に降りて、枝を落とすのを手伝う。細い枝くらいなら、軽すぎる魔力剣でもスパスパと切り裂けた。
切り株は地面を泥にして埋めて、最後に皆で揃って自然に感謝を奉げる。
「おい、カミル! なんでテメエが丸太を持とうとしてやがる」
「お、俺だって持てるよ! これくらい……」
「テメエはさっきも魔力切れ起こしてただろうが。大人しく枝を集めてきやがれ」
父親に窘められて、カミルは渋々と従う。ヴィレッサとルヴィスはすでに同じ作業を始めていた。小枝も乾かせば薪になり、冬に向けて必要になる。
大人達は強化術を発動させ、丸太を抱えて運ぼうとしていた、が、
「ん……? おまえら、ちょっと待て」
棟梁が足を止め、森の方へと振り返る。
それに気づいたのは、長年、森と付き合ってきた大工の勘だろう。
見つめる先で、草むらが小さく揺れて―――低い呻り声が響いた。
「っ、魔物か! テメエラ、武器を構えろ!」
直後、草むらから大きな影が飛び出してきた。
幌馬車ほどの大きさのある、口元から鋭利な牙を生やした黒々とした影だ。全員が呆気に取られ、それが巨大な猪の魔物だと理解するのに一呼吸の間を置いてしまった。
「ブルド・ボアだと―――」
驚きながらも真っ先に我に返った棟梁は、カミルを抱えて横に跳んだ。その場所へ巨大な猪が突撃し、通過していく。
もし一瞬でも判断が遅れていたら、カミルは叩き潰されていただろう。
ブルド・ボア―――見た目通り、猪が変異した魔物だ。
魔物とは、野生の動植物が高濃度魔素の影響で凶悪に変わり果てた姿だとされている。謂わば突然変異種という訳だ。だから基本的には個体でしか生まれないが、その個体が繁殖したり、稀に多くの個体が魔物へと変わったりもする。
総じて凶暴で、人を襲う。
目の前に現われたブルド・ボアも、その巨体に似合わない素早い突撃で動くものすべてを叩き潰す。死体を喰らうとも言われている。
しかし森の奥にでも行かなければ遭遇しない魔物のはずだ。以前、村近くに現われたのは十年以上前で、その時はシャロンが倒したと、村の誰かが誇らしげに語っていた。
「こいつは大物だな……おい、テメエラは子供たちを連れて逃げろ!」
「で、ですが棟梁……」
「さっさとしろ! 猪の一匹くらい、俺一人でなんとかしてやる!」
そう短い遣り取りをしている間にも、ブルド・ボアは急停止し、くるりと身を翻した。鋭い眼光で全員を睨みつけ、力を蓄えるように地面を踏み鳴らす。
黒々とした巨体の背後には、突撃の勢いで起こった土煙が竜巻みたいに上がっていた。
ヴィレッサはひとつ大きく息を吸い、思案する。
以前に聞いた話によれば、ブルド・ボアの体には並大抵の刃物では傷すら付けられない。黒々とした毛は針のように硬く、身体強化を使った剣撃でさえ弾き返してしまうのだ。
強力な魔術を使うか、あるいは弱点である額を叩き割るしかない。
この場には、ヴィレッサはもちろん、強力な魔術を使える人間はいない。斧で額に一撃を喰らわせればなんとかなるかも知れないが、それは猛烈な突撃と正面衝突するということだ。無事で済むはずがない。
けれど、突撃を止められれば―――。
「―――よし!」
小さく拳を握って頷くと、ヴィレッサは駆け出した。棟梁を追い越し、ブルド・ボアの正面へと向かう。
「な、何してるの、お姉ちゃん!」
「ばっ、ま、待てっ! 嬢ちゃん!」
ルヴィスと棟梁が声を上げる。
同時に、ブルド・ボアが地面を蹴った。土煙を上げて迫ってくる。
ヴィレッサは恐怖で閉じそうになる目を懸命に見開き、全身から魔力を放った。正面に盾を作り、さらに身体強化術も発動させる。
まともな魔術は使えない―――けれどヴィレッサは、まともじゃない身体強化術なら使えた。
通常の強化術には二つの効果がある。筋力や瞬発力などを強化する効果と、その強化された力で自分自身を傷つけないよう肉体の耐久力を上げる効果だ。
魔力を体内で巡らせるだけで発動できる強化術だが、この二つの効果は上手くバランスが取れるようになっている。”まともな強化術”は、自然と”そうなる”のだ。
けれどヴィレッサが使える強化術はまともではない。
魔素の組み合わせによって魔術は効果を発揮するのだが―――どうやらヴィレッサが持つ魔素には、魔術の効果を打ち消す種類も含まれているらしい。だからどんな魔術も使えずに、自分の力によって打ち消してしまう。
ならば、本来の効果を発揮する魔素だけを体内で巡らせれば?
”打ち消す”魔素を排除するか、休眠状態で抑えられれば?
そう考えたヴィレッサは幾度も試してみたが、上手くはいかなかった。
魔素はとても小さな粒子体だ。例えば大気中に漂う水素や酸素、窒素などを人間の感覚だけで分別するなんて不可能に決まっている。
けれどそんな特殊な魔素と、生まれた時から付き合っていたおかげだろうか。
辛うじて、奇跡的なレベルで、ヴィレッサは無効化魔素の抑制に成功した。
そう、抑制だ。消去や排除ではない。
魔力を体内で巡らせた際に励起状態になる効果魔素と無効化魔素、その比率を、体感で一〇:九程度に抑え込めるのだ。あるいは一〇〇:九九かも知れないが、ともあれ大量の魔力を使えば強化術だけなら発動できる。
無尽蔵の魔力を持つヴィレッサにとって、魔力消費量は問題にならない。普通の人より十倍、あるいは百倍の魔力消費を強いられても疲労すら覚えない。膨大な魔力の制御さえ適えば、いくらでも自身を強化可能なのだ。
問題があるとすれば、ふたつ。
ひとつは、光ってしまうこと。
大量の魔力を奮い起こすために、全身から眩いほどの光を放ってしまう。まるでどこぞの戦闘民族が変身するみたいに。
まあ、そちらは大した問題ではない。ちょっと恥ずかしいだけだ。
問題は、もうひとつの方にある。
身体を巡らせる魔力に含まれる、強化と無効化の魔素はどうにか制御可能になった。けれど自身の耐久度を上げる効果までは制御が追いついていない。
強化と耐久度上昇、この二つの効果を持つ魔素は、ほとんどの人間の体内では同程度の量が作られている。だから魔力を巡らせるだけでバランスの良い強化術が発動するのだ。しかしヴィレッサの場合は、自分でバランスを取らねばならない。
結果―――下手をすれば自身が砕ける、危険な強化術しか使えなかった。
それでもヴィレッサは足を踏み出した。
危険があろうと、相手が恐るべき魔物であろうと、”そうしたい”と思えたから。
「止まれぇ―――っ!」
ヴィレッサが作り出した魔力盾に、真っ直ぐに突き進んできたブルド・ボアが衝突する。まるで巨大な金槌を叩き合わせたような轟音が響き渡った。
衝撃が盾を通して伝わってきて、ヴィレッサの細い腕を震えさせる。
空中で足場にする魔力の塊と同じく、魔力盾もその場所へ固定される。大人が殴ってもビクともしないくらいには、衝撃をやわらげる効果もある。
幼い体も、熊と殴り合えるくらいには強化されているのだ。
しかし突撃を受けた瞬間、盾を支える腕から雷撃を受けたような痛みが伝わってきた。
腕が折れた。
そう悟ったヴィレッサだが、肘を曲げ、全身で衝撃を受け止める。盾に注ぐ魔力も切らさないよう懸命に意識を傾ける。
ずりずりと体が背後へと押される。折れた腕から伝わる痛みも続いている。
歯噛みした瞬間、足からも鈍痛が響いてきた。
それでも、どうにか、辛うじて、突撃を食い止めた。
「ルヴィス! コイツの足元を泥化して!」
「え……? で、でも!」
「私には魔術は効かない! コイツだけだ! だから早く!」
「わ、分かった!」
上擦った声で答えながら、ルヴィスは目の前に魔法陣を浮かべた。
まだ強力な魔術は扱えないルヴィスだが、基礎の魔術は即座に発動できるほどに熟達している。シャロンの指導もあるし、元より才能もあったのだろう。
ブルド・ボアを中心にして青白い光が降り注ぐ。切り株を埋める時にも使った魔術だ。光が降り注いだ地面は泥と化し、ブルド・ボアの動きを鈍らせていく。
黒毛に包まれた脚が埋まったのを確認して、ヴィレッサは盾を解いた。
即座に牙を掴み、暴れるブルド・ボアを力任せに押さえつける。
「おじさん、コイツの頭を狙って!」
「お、おう! 任せろ!」
ヴィレッサの周囲は泥化していない。棟梁は勢いをつけて踏み込むと、思い切り斧を振り下ろした。
甲高い音が響く。金属片と、ほんの僅かに獣の血が飛び散った。
全身を覆う剛毛は額部分は薄くなっているが、それでも並の刃物など弾き返す硬さがある。棟梁は二度、三度と続け様に斧を叩きつけた。
暴れようとする獣を、ヴィレッサが懸命に押さえ、六度目の攻撃で―――、
獣の額に、刃先が大きく食い込んだ。
「わ、ぁ―――!」
直後、ブルド・ボアは咆哮を上げ、一際激しく暴れ始めた。
ヴィレッサの小さな体が地面から浮きかける。なんとか腰を沈め、牙から手を離さずに押さえつけようとしたが、体ごと横に引っ張られた。
泥化した地面に引き込まれ、足を取られてしまう。
「くそっ! ダメだ、嬢ちゃん、手を放して逃げろ!」
そう言われても、もうヴィレッサには逃げる力は残っていない。牙を掴んでいるのも精一杯で、折れた膝が泥に沈んだ。
ブルド・ボアの巨大な頭が迫る。獣臭い息が、綺麗な金髪を揺らした。
その瞬間―――ヴィレッサは強く腕を引き、足を跳ね上げた。
巴投げだ。
ただし限界以上に強化した脚力で、咽喉を狙って蹴りつけた。咄嗟に出た行動だったが、もはや投げというよりも蹴り技に近かった。
魔物とはいえ、生物である以上は咽喉もまた弱点だ。正しく豚みたいな悲鳴を上げたブルド・ボアは、上空高くへと飛ばされる。
小さくなっていく影を見上げながら、ヴィレッサは大の字になって地面へ倒れた。
荒い息を吐き出す。
「はっ……ぁ……はぁ……」
一拍の静寂を置いて、ズゥンと、ブルド・ボアの巨体が頭から落下してきた。
やや離れた位置に落ちた魔物を確認するため、ヴィレッサは身体を起こそうとした。けれど満足に力が入らない。代わりに痛みが全身を貫く。
仕方なく、歯軋りしながら、ヴィレッサは首だけを回した。
周りにいた大人たちも警戒しながら様子を窺う。けれどブルド・ボアは全身をビクビクと痙攣させて泡を吹いていた。どうやら気絶しているらしい。
まだ安心はできないが、ひとまず逃げるだけの時間は稼げたようだ。
「お゛ね゛え゛ち゛ゃ゛~~~ん゛!」
ルヴィスがくしゃくしゃに顔を歪めて駆け寄ってくる。涙と鼻水まで垂らして、ヴィレッサの胸に抱きついた。
鼻水は勘弁して欲しいヴィレッサだったが、抵抗する余力もない。
仕方なく、口元に小さな笑みを浮かべておいた。
「よし、今の内に村へ戻るぞ! 荷物は全部放っておけ!」
皆に指示を出しつつ、棟梁がこちらへ駆けてくる。
あとは任せて大丈夫そうだ。とにかく疲れた。あちこちが痛い。
いまは、少し休ませてもらおう―――。
そうしてヴィレッサは静かに目蓋を伏せ、意識を失った。
女の子なのに、三話目にして満身創痍になる主人公って……(汗
当作品は、幼女に優しい世界を目指しつつ、
ご感想、評価などをお待ちしております。
それと、今日の0時を回ったらもう一話追加します。