表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第2章 幼女、迷子になっても歩き続ける編
38/130

第9話 きっとこの手を離さない



 小さな体がくの字に折れる。重い衝撃を受けて空中に投げ出された。

 一瞬、意識が真っ白になるのを感じながら、ヴィレッサはがちりと歯噛みした。

 胸の中心を穿とうとした投槍は、『赤狼之加護』によって受け止められていた。衝撃も痛みも大したものではない。

 槍の穂先が、ほんの少し突き立てられただけ。


 だけど、悔やまずにはいられない。

 ルヴィスに、シャロン先生に、再会できたことは嬉しい。

 ずっと望んでいた。そのために、屍山血河さえ踏み越えると誓ったのだ。

 だというのに、一瞬でも、魔導銃を手放そうとしてしまった。


 理由は恐らく、罪悪感だ。

 見られたくなかった。血に塗れた自分を。

 綺麗なまま、純朴な子供のまま、あの村での生活に戻りたかった。


 ―――そんな半端な覚悟ではなかったはずだ!


 そうだ。自分は望んで殺した。数え切れないほどの死を振り撒いた。

 何だってやってやる。優しくて、温かな、あの場所を取り戻すためならば。

 そう決意したのだ。

 そこに、自分の居場所がなくても構わない。

 だって信じられるから。

 自分が何をしても、許してくれる人がいるのだと。

 どれだけ離れても、自分の半身とは繋がっていられるのだと。

 そして―――、


「ディード!」


 共に歩んでくれる相棒もここに()る。

 がちりと奥歯を噛み合わせつつ、ヴィレッサは魔導銃を握り直した。新たな魔力板を浮かべて、空中で踏み止まる。


「すまねえ。心配かけた」

『否定。謝罪される理由はありません』


 冷静な声が心地良い。思わず、頬を緩めてしまう。


「それはアレか? あたしが心配掛けるのは、いつものことって意味か?」

『いいえ。私がマスターの身を案ずるのは当然の責務ですので』

「はっ。だったら、その責務を少しは軽くしてやるよ」


 さっさと敵を片付けて―――。

 そう口元を吊り上げながら、ヴィレッサは長大な銃身を掲げ直した。

 こちらを見上げて慌てている教会兵の一団を睨む。


 けれど、無用だった。

 照準を定める必要も、引き金に指を当てる必要すら、目の前で消え失せた。

 さながら怒り狂う龍が降臨したかのように、天空からの雷撃が落とされたのだ。一撃で、間違いなく、教会兵は全滅した。

 しかし黒焦げになった死体の存在すら許さなかったのか、追撃に光の柱が降ってくる。膨大な熱と衝撃を伴った極太の光は、地面を抉り、溶かし、そこにあったはずの死体を欠片すら残さずに消滅させた。


 教会兵にとっては、ある意味では幸運だったろう。

 きっと自分達が死んだことすら気づいていない。それほどまでに、徹底的に、正しく完膚なきまでに、完全に殲滅されたのだ。


「んな……」

『敵消滅。完全なオーバーキルです』


 さすがにヴィレッサも頬を引き攣らせてしまう。

 自分も似たような真似をしようとは思っていたが、ここまで凄惨な光景を作り出すつもりはなかった。ディードが言う通り、やりすぎだ。


 でも驚きに混じって、嬉しさも湧き上がってくる。

 誰がこんな真似をしたのか、答えは明らかだったから。


「―――ヴィレッサ!」


 懐かしい呼び声とともに、その答えが飛び込んでくる。ヴィレッサは振り向くと同時に、抱き締められ、そのまま地上へと降ろされた。

 抱き締められたまま、温もりに包まれたまま、顔を上げる。

 ずっと再会したかった人がそこに居た。


「……シャロン先生……」


 震えた声を漏らして、視線を下げる。

 シャロンの脇に、自分と同じように抱えられた、自分と同じ顔があった。


「ルヴィス……っ!」


 ヴィレッサが口を開くと同時に、ルヴィスが突撃してきた。

 小さな体の衝撃を受け止めつつも、ヴィレッサも足から力が抜けて座り込む。


「お姉ちゃん……会いたかった、ずっと、ずっと会いたかったんだからぁっ!」

「……ああ……あたしも……」


 それ以上の言葉は掠れてしまう。

 互いの体を寄せ合い、温もりを交換しながら、くしゃくしゃに顔を歪めた。

 その双子の肩を、シャロンの腕がそっと包み込む。


「……おかえりなさい、ヴィレッサ」

「そうだね。おかえり、お姉ちゃん」

「うん……うん! ただいま!」


 瞳にいっぱいの涙を湛えながら、ヴィレッサは満面の笑みを浮かべた。

 そうして、心地良い安心感に身をゆだねて―――、


「え……?」


 がっくりと崩れ落ちる。

 シャロンとルヴィスが驚きの声を上げて、力の抜けた体を支えた。

 揺すっても、軽く頬を叩いてもヴィレッサは反応しない。

 完全に目を閉じて―――すやすやと、幸せそうな寝息を立てていた。







 ガーゼムの街の騒動はひとまず治まった。

 教会兵が討たれた後、暴徒達は完全に戦意を失くしていたのだ。

 それはそうだろう。あんな派手な爆発やら雷やら光の柱やらを見せつけられて、抵抗しようなんて気力が沸くはずもない。恐怖で錯乱するよりも、唖然呆然としている者が大半だった。

 そうして全員が街の兵士に捕らえられて、いまは尋問を受けている。


 もうヴィレッサが関わる事態ではない。領主であるファイラットか、留守を預かっているエリムか、どちらかが決着をつけるだろう。

 いずれにしても、この街の者が片付ける問題だ。

 だからヴィレッサは、宿屋のベッドで布団を被って丸まっている。


「もう! 夕べは、本当に心配したんだからね!」

「うん……」


 早目に、というか気づいたら眠っていたので、もう目は覚めていた。まだ朝陽が昇って間もない時間だが、起きても良いかな、とも思っている。

 だけど心地良くて、嬉しくて、もうちょっとだけ甘えていたくなる。


「あのまま寝ちゃって、シャロン先生がベッドまで運んでくれたんだよ。その変な赤い服は脱がせられないから放っておくしかなかったし。でも、起きたんだから、まずは顔を洗って。体も拭いた方がいいよ」

「ん……でも、外は寒い」

「起きれば暖かくなるよ。ほら!」


 ルヴィスが腕を引っ張ってくれたので、ヴィレッサはようやく身を起こした。

 腕を引かれるままに部屋を出る。

 まだ少しだけ目蓋は重かったけれど、自然と頬は緩んでいた。


「お姉ちゃん、にやにやしないの」

「ルヴィスだって」

「そ、そんなことないもん!」


 ルヴィスは頬を膨らませて顔を背ける。でも握った手は離さないでいてくれた。

 そうして水場で顔を洗うと、二人で桶を持って部屋に戻った。ヴィレッサは服を脱いで、体を拭きながら、ルヴィスに髪を梳いてもらう。

 幾度かルヴィスの手が止まったのは、新しい櫛の所為ではないだろう。


「お姉ちゃんの髪、痛んでるね」

「旅してたから」

「それでもちゃんと洗わないと……そうだ、今度、洗髪料も作ってみるね」

「ん……植物油とか、使うといいかも」


 作れるかな? 難しそうだけど、作れるといいな。

 上手くすれば、村の復興費も稼げるかも知れない。

 だけどルヴィスがこんなことを言い出すなんて、随分と大人びたような―――。

 そんなことを考えていると、部屋のドアが開けられた。


「おはよう。よかった、二人とも起きてたわね」


 焼き立てパンの香りとともに、シャロンが入ってくる。どうやら二人よりも早く起きて、街まで朝食を買いに行っていたらしい。


「御飯にしましょう。お祝いだから、帝都で評判のパン屋さんまで行ってきたわ」


 違った。街どころか、都まで転移していたらしい。

 さすがはシャロン先生だ、とヴィレッサは目を見張る。


「わぁ、すごい。ふかふかだよ」

「うん。美味しそう」

「ふふっ、卵とベーコンもあるからね。厨房借りて焼いてきましょう」


 促されて、ヴィレッサは手早く着替えを済ませる。

 一瞬だけ迷ったけれど、『赤狼之加護』をしっかりと羽織った。内側に収める形で魔導銃も装備していく。


 シャロンは部屋の出口で待っていてくれた。

 その足元に、ヴィレッサはとてとてと駆け寄って抱きつく。


「シャロン先生……」

「……大丈夫よ。もう離れたりしないから」


 ぽんぽん、と。

 シャロンはヴィレッサの頭を優しく撫でた。


「言ったでしょう。貴方が何をしても、私が許すわ」


 こくりと頷いたヴィレッサは、ゆっくりと体を離す。

 そうして今度は手を繋いだ。シャロンとルヴィスと、二人に挟まれる形で歩く。


「ルヴィス、少しだけ背が伸びた?」

「そうかな。でもきっと、お姉ちゃんも一緒だよ」


 まだ幼い双子は、向け合った笑顔を交わす。

 まるで鏡映しみたいに、その鈴の音のような声まで重なっていった。




かーちゃんの雷(魔術)は恐ろしいのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ