第7話 悪いのはだいたいあいつら
ファイラット男爵は、帝国貴族の中では変人として知られている。数年前までは西部にそこそこ広い領地を持っていた。これといった問題もなかったのに、いきなりその領地を返上したのだ。
代わりに、ガーゼムの街と近隣の農村を含んだ小さな領地を要求した。
皇帝から預かった領地に対し、ある意味では無礼とも言える行動だ。けれど元の領地よりもずっと狭く、発展もしていない土地だったので簡単に認められた。
領地運営に長けたファイラットの手腕に期待した、という側面もあった。
「この辺りは複数の代官に分けられる土地で、税収も不安定でしたの」
そう語ってくれたのは、ファイラットの一人娘であるエリムだ。
留守にしているというファイラットに代わって、優雅な礼とともにヴィレッサを迎えてくれた。
「定期的に代官が交代するので、統治が安定しないのですわ。ですが、土地自体は悪くないので運営も行い易いと、お父様が語っておられました」
十二歳になったばかりだと述べたエリムだが、その所作は貴族然として落ち着いていた。ふわふわの栗色髪は背中まで伸びていて、煌びやかなドレスもよく似合っている。顔立ちには幼さも残っているが、将来はきっと美人になるだろう。
だけど、根っからのお嬢様とは少々違うらしい。
ヴィレッサと対面して、「え? 子供?」と大きく目を見張った。すぐに取り繕ったが、一瞬だけ素の表情を覗かせていた。
「ファイラット男爵は内政に自信あり、と……んで、そんな父親を自慢するために呼びつけたのか?」
「そ、そういう訳ではありませんわ」
領主屋敷の応接室に通されたヴィレッサは、エリムをじっとりと見つめていた。
簡素な応接室は、庶民にも慕われているという主人の性格を窺わせる。椅子とテーブル、あとは寂しくない程度の調度品しか置かれていない。
ヴィレッサとエリムが向き合って座り、従者は背後に控える形になった。ロナとマーヤも従者という体裁を取っている。旅の仲間だと訂正するのは後回しにした。
ヴィレッサが不機嫌なのは、単純に眠いからだ。
別段、エリムに喧嘩を売るつもりはない。間が悪かっただけ。
でも元より目つきがよろしくないので、睨みつけるみたいになってしまうのだ。
「あ、あの、何か失礼でもしましたかしら?」
「ん? 文句を言うつもりはないぜ」
エリムはまだ十二歳。子供だ。留守にしている父親の代わりを務めるために頑張っているのだろう。突然に訪れた魔導士との面会も、その務めの一環だ。
ヴィレッサも子供だが、意識としては大人なので、それくらいは理解できる。
むしろ、微笑ましく応援したいくらいだ。
「ただ、あたしはちょっと立ち寄っただけだからな」
「お役目の途中だと伺いましたわ」
「ああ。明日には、また南に向かうつもりだ」
だから早く宿屋で寝たいのだけど―――とは、さすがに言わない。
遠慮しただけでなく、エリムの表情が曇ったのが気になった。
「ヴィレッサ様は、北のビッドブルクからいらしたのですよね? では、西へ向かう街道の様子は分かりませんか?」
「帝都へ向かう道だよな? そっちは通ってねえな」
ヴィレッサが首を振ると、エリムは「そうですか」と項垂れた。
やはり何か問題を抱えているらしい。子供らしくない沈んだ表情が、そう語っていた。
旅を急ぎたいヴィレッサも、つい溜め息を漏らしてしまう。
「悩みがあるなら、話くらいは聞くぜ?」
「え? いえ、これはこの領地の問題ですから……」
「だったら最初から尋ねたりするなよ。気になって仕方ねえ。あたしは貴族の事情は知らねえけど、だからこそ好き勝手に動けることもあるぜ?」
まったく事情は分からないが、なんとなくそれっぽいことを言ってみる。
仮にも魔導士だ。頼りになるぞ、と。
偉そうに胸も張っておいた。まあ子供の身なので、傍目には可愛らしい仕草に映っていたかも知れないが。
「ヴィレッサ様は、随分としっかりなさっているのですね」
エリムがくすりと笑みを零す。
「ですが、魔導士の力をお借りするほどではありませんわ。お父様が盗賊団の討伐に向かわれたので、少しだけ不安を覚えていただけですの」
「盗賊団? あたしが捕まえてきたのとは別の奴等か?」
ヴィレッサが引き摺ってきた夜盗は二十名ほどだが、死体になった数も合わせれば倍になる。この街の兵士のみで対応するには、少々骨が折れる規模だろう。
だが、領主が討伐に向かったのはまた別の盗賊団らしい。
「西の街道に出没して、人数は十名から、多くとも二十名程度だそうですわ。こちらの兵は百名足らずですけど、まず安心してよいと聞いております」
「……だったら、すぐに帰ってくるんじゃねえか?」
「はい。予定では明日か明後日にでも……わたくしが心配性なだけなのです」
そこらの盗賊と領主軍では装備も違う。戦力差は人数以上に離れたものになる。ちょっとした散歩みたいなもの、と言ってもいいくらいだ。
それでもやはり父親が戦いへ赴くとなれば、娘としては心配になるのだろう。
それに、家族と会えない時間は寂しいものだから―――。
ヴィレッサは軽く目を伏せる。
胸に手を当てて、湧き上がってきた感情を抑えつけた。
「相手が盗賊団となれば、不意の遭遇もありえるのでしょう?」
「ん? あ、ああ、そうだな」
「しっかりと戦場を設定できるのならば、わたくしもさほど心配はしないのです。ですが、領主として地理を把握していても、今回のような戦いでは不測の事態も起こり得るでしょうから……」
どうやらファイラット男爵は、個人の武勇はさほど優れていないらしい。剣術や魔術に関しては並の騎士と同程度で、軍の指揮を得意としているそうだ。
また少し誇らしげに、エリムはそう語ってくれた。
「軍師タイプってことか。国に一人は欲しい人材だな」
「いつも仰っておられましたわ。戦いの勝敗とは始まる前に決定している、と」
「……そういう戦いばかりだと、楽なんだけどな」
ヴィレッサは口元を捻じ曲げ、自分の経験を思い返す。
いきなり襲われたり、逆に乱入したりした戦いばかりだ。計画通りに進んだ戦いと言えば、唯一、ギガ・アントの巣を囲んだ時くらいだろう。その時にしても、最後には生き残りの突撃に驚かされた。
もっとも、八歳児でそれだけの経験をしているのも異常なのだが―――。
「でも、妙な話だよな」
ふと疑問を覚えて、ヴィレッサはエリムに訊ねる。
「この辺りは、盗賊団の養成でもしてるのか?」
「え……? そ、そのような真似、するはずありませんわ!」
「だよなあ。それにしては、同時期に盗賊団がふたつって多くないのか?」
エリムの言葉を疑う訳ではない。
しかし内政に力を注ぐ領主の下で盗賊団が跋扈する、というのが奇妙な話だ。
貧しい農村ばかりでは生活に困窮する者は多くなる。それでも望んで盗賊になる者は少ない。知恵の働く領主ならば、住民が道を踏み外さずに済むように、何かしらの手は打つはずなのだ。
税を少なくするとか、冬越しのための食料を分け与えるとか。
ほんの少しの希望があれば、盗賊にまで身を落とす者は随分と減るだろう。
そもそも、限界まで追い詰められるほど困窮した領地には見えなかった。
ギラついた目をした者はいたが、村や街自体はさほど荒れていなかったのだ。
あるいは、余所から盗賊団がやって来たというなら説明はつくが―――。
「……その点は、お父様も、わたくしも不思議に思っておりました。ヴィレッサ様が盗賊団を捕まえてきたと聞いて驚かされましたもの」
「あたしが捕まえた奴等については、被害報告とか出てなかったのか?」
「はい。それも驚かされた点ですわ。唐突に盗賊団が突然現れたとしか思えなくて……先月も、収穫期の村を狙った集団がふたつ現れましたの」
「おい、それは明らかに異常だろ」
ヴィレッサは眉間に皺を寄せて、身を乗り出す。
鋭い眼光に晒されたエリムは、小さく肩を縮めた。年相応のびっくり顔を見せたが、すぐに真面目な顔に戻って頷き返す。
「お父様もそう仰っていました。原因は……他領からの嫌がらせ、という可能性は低いそうです。もしも恨まれる理由があったとしても、利益は少ないと。ですから考えられるのは……」
そこまで言って、エリムは躊躇うように口を噤んだ。
治安が乱れているだけでも、領地の恥ずべき問題なのだ。しかも領主ではなく、留守を預かる娘に過ぎない立場では、語れない事柄の方が多い。
当り前の対応。あるいは、出会ったばかりの魔導士を警戒した―――、
どちらでも、ヴィレッサにとってはどうでもよかった。
すでにエリムから目線を外して、思考は別の方向へと向かっていた。不穏な状況の原因に、もしかしたらと思い至ったのだ。
経験則、あるいは憶測だが、口にするのにも躊躇いを覚えない。
不自然で不都合な事態は、だいたい奴等の所為、と断言してよいのだ。
「まさか、モゼルド教会が絡んでるのか?」
「っ……!」
エリムが大きく目を見開く。どうやら図星だったらしい。
またか、あのエセ聖職者ども、とヴィレッサは舌打ちする。
「この街に教会はあるか? ちょっと爆破してくる」
「え、ちょっ……ま、待ってください! 爆破って何ですか!?」
「爆破は爆破だ。安心しろよ、他には被害を出させねえから」
「そういう問題ではありませんわ! というか、もう教会はありませんから!」
椅子から立ち上がったヴィレッサだったが、エリムの懸命な訴えに足を止めた。
だけど、あと少し遅かったら屋敷を飛び出していただろう。
「もう、ってことは、以前には教会が建ってたのか?」
「はい……ですが、半年ほど前に問題を起こしまして……」
「皇帝の言葉を盾に好き勝手、ってことだな?」
ビッドブルクの街での事件を思い返しながら、ヴィレッサは椅子に座り直した。
解決したとはいえ、犠牲者は出たのだ。もしもまたギガ・アントが現われたら、この領地の兵力では全滅は必至だ。
さすがに運ぶのも難しいはずで、二度目はないと思えるが―――、
念の為に、ヴィレッサは事件を説明して忠告もしておく。
「まさか、魔物まで利用するなんて……」
「布教目的だかなんだか知らねえが、あいつらはトコトン腐ってやがる。見掛けたら即座に駆除するくらいで丁度いいぜ」
「そう、ですね……悪知恵も働くようですから……」
教会とヴィレッサは絶対に相容れない。
そうエリムも理解して、ようやく警戒を解いたようだった。逆に言えば、それだけ皇帝の下した布教の許可というのが重かったのだ。
考えをまとめるように項垂れたエリムは、たっぷりと数呼吸の間を置いた。
「始めの内は、教会を建てる土地や税の優遇を求めてきました。領主の権限であれば難しくない内容ですが、お父様はすべて断って、教会の活動を監視しておられましたわ。少しでも甘い顔をすればつけ上がる、と」
「正解だな。隙を見せれば、不正の誘いもしてきたんじゃねえか?」
「ええ……実際、教会と組んで民を苦しめている者もいるようですわ。他の領地に関しても、お父様はよく調べておいででしたから……」
取り込める者は利用して、共に甘い蜜を啜る。
邪魔になる者は排除―――それが、モゼルド教会の手法なのだ。
どんな手段を取ってでも、教会の勢力を広げたいのか。あるいはレミディア国が背後にいて、帝国の混乱を狙っているのか―――。
これまでのヴィレッサは、目の前にいる敵として討ってきただけだった。
しかし何処に行っても蛮行が目立つとなれば、認識を改めざるを得ない。
即ち、確実に殲滅しなければならない敵なのか、と。
「……半年くらい前に、この街からは追い出したんだよな?」
「はい。周辺の村からも。勝手に免税札というものを売って、農民を騙していたのです。関わった者も捕らえましたが、主謀者の半数は逃げられてしまいました」
免税札とは、その名の通り、税の免除を約束する札だ。領主に税を納めるよりも負担が軽くなるとしても、それが偽物では意味がない。
要するに、詐欺によって大勢の農民が苦しめられているということ。
領地経営には詳しくないヴィレッサでも、その深刻さは察せられた。
勝手に税が集められ、それを持ち逃げされたようなものだ。
苦々しげなエリムの表情から察するに、無視できない被害が出たのだろう。領主が補填するにしても限界がある。結果として農民は苦しみ、治安は乱れ、領主への不審にも繋がっていく。
逆に、教会側はそれなりの資金を手に入れたことになる。
その資金を使って、盗賊団を送り込むような嫌がらせをしているのか―――。
「まだ判断できねえ部分が多すぎるな。でも、異常なのは確かだ」
「お父様も充分に警戒するとは仰っていました。ですが、やはり不安なのです」
「さすがに正面から領主に喧嘩売るとは思えねえけどな……」
しかしこちらが百名程度の兵力ならば、状況次第では討たれる可能性もある。
自分が援軍として向かうべきか? それとも街を守っておくべきか?
いずれにしても無視はできない―――そう判断して、ヴィレッサは立ち上がろうとした。
だが、エリムの方が早かった。
「これまでのお話で、ヴィレッサ様が聡明な方だと分かりました」
静かに立ち上がると、一歩退いて、深く頭を下げる。
十二歳の子供とは思えない、優雅な迫力を纏っていた。
「お願いします。どうか、御力をお貸しください」
「……はぁ」
ヴィレッサは溜め息を落とす。ビッドブルクの街でも最初に思ったことだ。
自分には、厄介事を呼ぶ呪いでも掛けられているのではないか―――。
「無効化魔素が、幸運まで打ち消してねえか? どこぞの幻想殺しみてえに」
『有り得ません。非科学的です』
「いや、そもそも魔力って時点で科学じゃねえからな」
『すべての道は科学に通ず、という言葉もありますが?』
「ねえよ! ってか、そんなことはどうでもいいんだ!」
軽口を交わす幼女と魔導銃を、エリムは目をぱちくりさせて見つめていた。
けれどそんな視線を、ヴィレッサはさらりと受け流す。いまはまず、行動の方針を決めるべきだ。
ロナとマーヤにも相談しようかと、背後を振り返った。
「ボス、なんだか妙な気配だニャ」
ヴィレッサが口を開き掛けたところで、ロナがぴくりと狼耳を動かした。珍しく怪訝な顔をして窓辺に寄る。
街で何か起こったのか―――、
そう問い掛けるまでもなく、部屋の外から足音が聞こえた。
「し、失礼します、エリム様……」
礼もそこそこに、一人の兵士が部屋に駆け込んでくる。明らかな動揺を顔に表していて、只事ではないと察せさせた。
エリムも立ち上がって、息を呑みながら兵士の言葉を受ける。
「東門に、大勢の暴徒が……この屋敷まで迫るのも時間の問題かと……」
緊迫した気配が漂う室内で、ヴィレッサは静かに窓の外へ目を向けた。
すでに陽は落ちて暗闇が広がっている。しかし兵士の言葉を裏付けるように、街の東側から赤々とした炎が近づいてきていた。
◇ ◇ ◇
ヴィレッサが領主屋敷を訪れていた頃―――、
街の南門付近、兵士の詰め所で、シャロンとルヴィスは待たされていた。
「遅いわね……」
一応は応接室となっている簡素な部屋の中を、ぐるぐるとシャロンは歩き回っている。見ている方が落ち着かなくなりそうだ。
けれどルヴィスはちょこんと椅子に座ったまま、静かに笑みも浮かべていた。
「先生、大丈夫です。きっとすぐに会えますから」
「ええ。分かってるわ。街に入ったばかりだって言ってたものね。だけど……」
もう一周部屋を巡ってから、シャロンはルヴィスの隣に腰を下ろした。
小さな頭をそっと撫でる。優しい髪の香りを感じながら頬を当てた。
「会ったら、まずはどうしましょうか。いっぱい話したいことがあるわね」
「はい。でもやっぱり、最初はお説教です」
「ふふっ、そうね。あの子ったら”イノシシ姫”のままなんだから」
無茶ばかりして。一人で突っ走って―――。
そんな言葉とともに、村での生活が思い返される。普段はぼうっとして手が掛からないのに、ふとした拍子に驚かせてくれる子供だった。
大人びていて、頭も良いのに、寝ぼすけで。
あまり感情を表さないのに、誰よりも優しくて。
なんでもないことに喜んで、太陽みたいな笑顔も見せてくれて―――。
「ルヴィスと会ったら、泣き出しちゃうかもね」
「お姉ちゃんが……?」
「そうよ。あの子ったら、意外と泣き虫なんだから。ルヴィスは知らないでしょうけど、前に、お昼寝してた時にね……」
秘密の話を聞かせてあげようとしたシャロンだが、いきなり言葉を止めた。
フードの下で長い耳をぴくりと揺らす。眼差しを鋭くする。
「ルヴィス、絶対に私から離れてはダメよ」
「っ……!」
遠くから伝わってくる剣呑な気配を、シャロンは敏感に察していた。
以前、ウルムス村が襲われた時のように鈍ってはいない。常に戦場に在るような鋭敏な感覚を、シャロンは完全に取り戻していた。
ルヴィスを抱き寄せつつ、素早く魔法陣を描く。
魔法陣が弾けて、白く輝く小鳥が数羽、窓から飛び立っていった。
偵察用の魔術だ。まずは不穏な気配の正体を探る。
シャロンの足にしがみついたルヴィスも、尋常ならざる状況を察していた。
「……また、戦いになるの……?」
震えながら問い掛ける。顔色は蒼ざめて、瞳には涙も滲んでいた。
気丈に振る舞っていても、ルヴィスはまだ十歳にもなっていない子供だ。故郷を踏み躙られて、二ヶ月も経っていない。心の傷は当然に残されている。
だからシャロンは寄り添って、肩を抱きながら温もりを伝える。
「大丈夫よ。今度こそ、私が守ってみせるから」
「……うん。私も、頑張る」
震える拳をぎゅっと握ると、ルヴィスは顔を上げた。涙に濡れた瞳の奥に決意を浮かべてみせる。
シャロンは頷き返しながら、別の視界も認識していた。
「どうやら、街に暴徒が押し寄せてきたみたいね」
上空に飛んだ小鳥たちが映像を送ってくれているのだ。東門で火の手が上がり、農具や棍棒を持った民衆と、街の兵士がぶつかり合っているのが見て取れた。
暴徒の数が多く、兵士達は随分と混乱している。
さらに、街の内側からも少数の暴徒が現われて兵士達を襲っている。
よく訓練された兵士達は懸命に対処しているが、趨勢は明らかで―――、
この街は陥ちる。そうシャロンは判断した。
だからといって危機という訳でもない。シャロンにとっては小さな戦いだ。
「まあ、数百名くらいならどうにでもなるわね」
今度こそ、絶対にあの子を守り通してみせる。
いざとなったら、ヴィレッサだけを救って、すべてを焼き尽くしてでも―――。
などとは、ルヴィスも横にいるので口にしない。
けれど探査する限りは強い魔力反応もなく、魔導士がいる様子もない。油断こそできないが、充分に対処可能な状況だと判断できた。
「とりあえず、ここから動きましょうか」
この南門は騒動の現場から離れているが、すでに不穏な気配は近づいている。
程無くして兵士達も気づくはずだ。巻き込まれては自由に動けなくなる。
シャロンはまた別の魔術を発動させると、指先を壁へと向けた。魔力光の輝きとともに、硬い石壁が歪み、さらさらと砂になって消えていく。
「……シャロン先生、控えめに、ね?」
「ええ。この騒動の原因も調べた方がよさそうだものね」
怯えているルヴィスを抱え上げると、シャロンは建物の外へと駆け出す。
一呼吸もしない内に、その姿は闇に紛れていった。
明日も更新する予定です。
これくらいの分量だと、やっぱり2~3日に一度の更新になりそうですね。




