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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第2章 幼女、迷子になっても歩き続ける編
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第5話 帝都の壁は魔弾を阻む

ちょっと男比率高めの回。でも幼女の出番もあります。

 バルツァール城砦攻防戦より、およそ十日―――。

 ゼグード・アインツェント侯爵は帝都へと帰参した。


 帝都エウィドグラードは、大陸の東西を結ぶ交易路の中心地であり、百万以上の住民が暮らしている。都市を守る高い城壁には、複雑な防護魔術も施されていて、かつて西方からの大軍に囲まれた際にも一兵の侵入すら許さなかった。

 周囲の街道は安全が保障され、大勢の商人が行き交う。商人だけでなく、傭兵や吟遊詩人、一旗上げようと夢を抱く若者なども帝都を目指してくる。

 歴史と文化に支えられ、規律と自由が混じり合う都市だ。


 そこに響く喧騒は、ゼグードにとっては実に懐かしいものだった。

 しかしいまは、郷愁に浸っている暇はない。

 皇帝直筆の命令書には、『直ちに帰参せよ』と記されていた。そのために貴重な転移魔術師を危険な国境地帯へ送ってきたのだ。

 だがレミディア軍の完全な撤退を確認するまで、ゼグードは城砦に留まった。

 大きな打撃を与えて追い払ったとはいえ、レミディア軍にはまだ十万以上の兵力が残されていたのだ。対する防衛戦力は二万を割り込んでいる。もしも再侵攻を受ければ、『不滅骸鎧(ゼル・ガラフ)』の力に頼らず撃退するのは不可能だった。


 本来ならば、一ヶ月は様子を見たいところだった。

 どうにか十日で収めたのは、多くの偵察部隊を放ち、国境を越えてまで情報を集めたからだ。危険も伴ったが、ひとまず再侵攻はないものと判断できた。

 可能な限りの最善を尽くしたと言える。


 しかし勅命に背いたと咎められれば、ゼグードは反論しないつもりだった。

 厳罰を受ける覚悟も固めて、謁見の間へと赴き、膝をついた。

 玉座にいる皇帝と、その背後の壁に掲げられた『断傲剣ルギフェルド』に対し、深々と頭を垂れる。


「よくぞ帰った」


 短くとも充分な威圧の込められた声が、静かな空間に響き渡った。

 バルトラント帝国皇帝、アドラバルド三世は鋭い眼光でゼグードを見据える。

 年齢は五十を超え、頭髪には白いものが混じっているが、屈強な体格は衰えていない。玉座に居るよりも、馬上で剣を振るっている方が似合う。顔付きも精悍で、並の戦士ならば対峙しただけで萎縮してしまうだろう。

 威風堂々。武を第一とする帝国、その玉座を制する風格を備えている。

 しかしその碧色の瞳の奥には、狂気じみた色も見え隠れしていた。


「まずは大儀であった。レミディア軍二十万を討ち払ったそうだな」

「はっ……しかし、某の手柄ではございませぬ」

「いや、すべて其方の働きによるものだ。『魔弾』などという魔導士は、帝国には存在せぬ」


 その言葉に、ゼグードは眉を顰めずにはいられなかった。

 バルツァール城砦での戦いについては、詳細が伝わっているはずだ。ゼグードが自らの口で報告したのだ。


 無論、『魔弾』に関しても事細かに語っていた。

 だというのに、何故、存在しないなどと言うのか?

 功績を認めないだけではない?

 あれほどの魔導士を野に放ったままにしておく理由があると?

 疑問を口にしようとしたゼグードだが、それはアドラバルドによって遮られた。


「其方の働きは見事だ。だが、失策もあったな?」

「……後背を突かれ、『重剛槍』のナイルポルトをはじめ、多くの兵を失いました。確かに我が失策によるものです」

「うむ。残念なことだ」


 頬杖を突きながら、アドラバルドは鷹揚に頷く。

 言葉とは裏腹に、死者を悼むような表情は窺えなかった。どうやらアドラバルドにとって、この話の流れは事前に決めてあったものらしい。


 だが玉座の脇に立つ宰相は、元より不健康そうな顔をさらに蒼ざめさせている。

 周囲に立つ護衛の騎士も、僅かに不安げな表情を覗かせる者もいた。

 唯一人、広間の隅にいる藍色のローブを纏った男だけが微かな笑みを浮かべていた。相談役という肩書きを持つ、元占い師である男だ。


 その相談役の悪評を、ゼグードも聞き及んでいた。

 もしや、この怪しげな男が陛下に何かを吹き込んだのか―――。

 そんな危惧を覚えたゼグードだが、疑念を口に出すのは憚られた。

 皇帝への直言も許された立場であっても、いまは、叱責を受けるつもりで膝をついているのだ。


「バルツァールは不落でなくてはならぬ。一時とはいえ、その城壁を破られるなど、帝国の威信を揺るがす失態だ。其方の功績を以っても、これは打ち消せぬ」

「はっ、如何ような処罰も受ける所存です」

「ならば、東方守護の任を解く」


 その一言は、雷鳴のような衝撃をもって広間の空気を震えさせた。

 宰相も、発言を許されていない護衛騎士も、まじまじと目を見開く。

 長年の敵国であるレミディアに対して、ゼグードと『不滅骸鎧』は絶対の防壁として機能していた。その任を解くとは、国境を危険に晒すことに他ならない。


 しかし当のゼグードは、静かに頭を垂れただけだった。

 すでに老齢であり、此度の失敗も合わせればこういった事態もあると、覚悟していたのだ。むしろ部下にまで責が及ばなかったので、安堵したほどだ。


「しばし謹慎するがよい。後の沙汰は、また日をあらためて報せる」

「是非もありませぬ。ですが、陛下に問いたい疑がございます」

「……申してみよ」


 ほんの僅かに、アドラバルドの声が揺らいだ。その瞳も。

 まるで己の内にある狂気を抑え込もうとしているかのようだった。


「某が預からせていただいた『不滅骸鎧』のことにございます。あれは発動だけならば、適合者をさほど選びませぬ。しかし使いこなすとなれば、それなりの統率力が必要とされるのも事実。後任は、どなたになるのでしょう?」

「……すでに決めておる。其方が案ずることではない」

「は……しかし、事は国境の安全に関わること―――」

「くどい! 謹慎を命じたのだ。直ちに退出せよ!」


 謁見の間に、野太い声が響き渡る。気の弱い宰相が肩を縮めるほどだった。

 しかし尚も、ゼグードは食い下がる。


「もうひとつ、『魔弾』についてもお聞かせくだされ。何故ヴィレッサ殿を……」

「黙れと命じたのだ! 二度と、その名を口にするな!」


 にべもなく言い捨て、アドラバルドは広間の出口を指差した。

 陛下はいったい何を意図しておられるのか―――、

 そう問い質したい衝動に駆られたゼグードだが、臣下としての立場がそれを押し留めた。

 きつく唇を噛み、深々と頭を下げる。

 そうしてもうアドラバルドと目を合わせることもなく、謁見の間を後にした。


「……果たして、これでよかったのか……」


 城内の廊下を歩みながら、ふと呟く。

 しかし頭を振って否定する。臣下として、勅命に従うのは当然なのだ。

 だが、帝国の安定を思えば―――。


「ゼグード」


 背後から掛けられた声に、ゼグードは姿勢を正す。それはもう身体に染み付いた動作だった。

 振り返り、念の為に相手の顔を確認し、頭を垂れる。


「ディアムント殿下、ご無沙汰しております」

「うむ。あれこれと問題はあったようだが、こうして会えたのは嬉しいぞ」


 親しげに歩み寄ると、ディアムントはゼグードの肩を叩いた。

 しかし朗らかに緩んでいた顔を唐突に引き締めた。小声で告げる。


「後程、おぬしの家に伺わせてもらう」


 ゼグードは僅かに眉を揺らす。

 しかし何も問い返しはせず、その場では無難な挨拶をして立ち去った。






 アドラバルド三世は厳格な皇帝として知られている。近年は悪評も流れているが、即位当初は、質実剛健かつ公正な言動で臣下の忠誠を得ていた。

 礼節を重んじ、形式にも拘る、ある意味では生真面目すぎる性格でもあった。

 しかし臣下の声にも耳を傾け、大過なく政務をこなしていた。


 唯一つ、後取りに関する問題があった。結婚も即位も早かったアドラバルドだが、二十代の半ばを過ぎても子に恵まれなかったのだ。それなりの数の側室も迎えたのだが、なかなか吉報は齎されなかった。

 そうしてようやく生まれた子が、ディアムントである。

 十五歳で初陣を経験し、一千の騎兵を率いて戦果を上げた。正式な皇太子としても認められ、妻も迎え、次代の皇帝として期待を受けている。

 現在は二十八歳。鍛え上げられた身体付きは、戦士としても申し分ない。


「殿下は、本当に立派になられましたな」


 そのディアムントへ軽い礼をしつつ、室内へと案内する。

 帝都中心部にある屋敷へ足を運んだのは、主人であるゼグードにしても久々のことだった。妻には病気で先立たれたが、息子や孫は健在で、その息子の妻が屋敷を管理してくれている。急な客人への対応も、さほど困りはしなかった。

 もっとも相手が相手なので、公的な訪問となればまた違ったのだろうが。


「しかし、お忍びの趣味は治せなかったようですな」


 質素な外套を脱いだディアムントに席を勧めて、ゼグードは苦笑を零した。

 それを受けて、ディアムントも気さくな口調を返す。


「治すつもりもない。最近、転移術も覚えたのだぞ」

「それは、また……側仕えの者の悲鳴が聞こえるようですぞ」

「まだ短い距離しか跳べぬがな。もはや、誰も俺を止められぬ」


 芝居掛かった台詞だった。ただの友人同士ならば笑い飛ばして終わりだ。

 しかしディアムントの瞳には、一瞬だけ鋭いものが宿った。

 ディアムントに剣を教えたのはゼグードである。幼少の頃から仕え、その表情の癖なども見抜いていた。


「誰かに止められるような、何か”大事”を考えておられるのですか?」

「さほどのことではない。だが、其方の助力を得たい」

「もはや引退間際の老いぼれに、何ができるとも思えませぬが」


 否定混じりの言葉を返しつつも、ゼグードは静かに頷いていた。

 皇太子であるディアムントからの命であれば、元より断るはずもない。それでも単純に受け入れられなかったのは、不穏な気配を察したからだ。


「おまえの『不滅骸鎧』、後継は誰がよいと思う?」


 ディアムントはいきなり話題を逸らした。

 どうやら”大事”については、まだ詳しく話すつもりはないらしい。

 ゼグードも追及しなかった。こちらの話にも興味がない訳ではない。


「事は帝国の威信にも関わること。某が口にするのは控えるべきかと。無論、目を掛けている者はおりましたが……」

「ビショッフ家の三男ではどうだ?」

「……は?」


 思わず、ゼグードは間の抜けた声を返してしまった。

 ビショッフ家と言われても、どのような者だったか―――、

 どうにか記憶の蓋をこじ開けて思い出す。


「たしか、典礼大臣の派閥に、そのような者がおりましたな」

「うむ。小さな仕事をソツなくこなす、文官の家柄だ」

「……その三男が、何か特別な功績でも挙げたと?」

「いいや。”星占い”により、帝国を支える運命にあるのだそうだ」


 ゼグードは眩暈すら覚えて沈黙した。

 まさか、なにを馬鹿な、ふざけているのか―――、

 相手が皇族でなければ、そう声を荒げていただろう。


「完全に占い師どもの言いなり、という訳でもないのだがな。おまえに国境守護を任せておけば災厄になる、との言葉にも、これまでは抗っていた。だが落城の危機に陥り、しかもそこを救ったのが『魔弾』というのが悪かったのだ」

「某の力不足ですな……しかし、『魔弾』の活躍が拙いというのは……?」

「……それだけ、父上が心を病んでいるということだ」


 言葉を濁して、ディアムントは頭を振る。

 その表情には憔悴が滲んでいたが、眼光は獣のように鋭かった。


「俺は帝国を守らねばならん。たとえ親であろうとも、敵となれば……」

「殿下、それ以上は!」


 椅子から腰を浮かせて、ゼグードは制止の声を上げた。

 直接に叛意の言葉を聞けば、いくら皇子相手でも咎めぬ訳にはいかない。

 ゼグードは、まだ、アドラバルド三世に忠誠を誓っているのだ。

 ディアムントも性急な答えは求めず、静かに話を止めた。


「そうだな……今日は、おまえが鍛えた兵について尋ねに来ただけだ」

「バルツァール城砦の兵に関してですかな?」

「うむ。帝都にいる兵は精強ではあるが、実戦から遠ざかりがちであろう? 定期的に交代はしているが、それをより積極的に行い、国境部隊の経験を帝都の兵にも活かそうという考えだ。教導のため、まずは一千ほどの部隊を呼び寄せる」

「……その教導部隊を、某に選別しろと仰せですかな?」


 神妙に問い返すゼグードに、ディアムントは真剣な顔で頷いた。


「教導には俺の親衛隊も加わる。北部の魔物狩りなどにも向かう予定だ」


 つまりは、ディアムント指揮下の兵力を増強しようという計画だ。

 いざという時のために―――。

 そう察したゼグードだが、表向きは断る理由がない。謹慎中ではあるが、ディアムントが選んだ兵が、たまたまゼグードの推薦したい者と同じになるだけだ。


「承知致しました。謹慎中で暇ですからな。部下の思い出に浸りながら、私記でも綴るとしましょう」

「すまんな。こういった小細工は、おまえは苦手だと分かっているのだが」


 ほんの軽く、会釈するようにディアムントは頭を下げた。

 ゼグードは何も言わずに首を振る。

 皇族が臣下に頭を下げるべきではない、と忠言するところだったかも知れない。

 けれど同時に、この御方ならば良き皇帝になられる、とも思えたのだ。


「なに、殿下の剣ほど、某の剣は素直ではありませぬからな」

「剣の腕ならば、俺も磨き続けているぞ。もはや誰にも負けるつもりはない」

「そういえば、どこぞの高貴な方が、身分を隠して剣術大会に出られたという噂もありましたな」

「む……そうだな。その者はきっと、若さ故に先走ったのであろうな」


 気まずそうに目線を逸らしたディアムントだが、その口元は緩んでいる。

 ゼグードも苦笑を零しつつ、懐かしさも覚えて目を細めた。


「ところで……もうひとつ、聞きたいことがあったのだ」


 話を区切ると、ディアムントはやや躊躇い混じりに切り出した。


「『魔弾』に関してだ。確かにヴィレッサと名乗ったのだな? 金色の髪で、そして双子でもある、と」


 やや違和感のある訊ね方だった。

 まるで、以前からヴィレッサという個人を知っているような―――。

 しかしひとまず疑問は置いて、ゼグードは自分の見た事実を語っていった。


「子供の魔導士など、なかなかに信じられますまい。ましてや敵国から一人で脱出してきたなど……ですがあの子は、すでに覚悟を持った戦士でしたな」

「いや、おまえの言葉を疑いはせぬ。しかし……そうか、戦士、か」


 ディアムントは複雑に口元を歪める。

 その瞳には感慨のような、あるいは悲嘆のような、絡み合った感情が覗いていた。


「他に、何か気づいたことはないか?」

「そうですな……ああ、彼女につけた治療術師がひとつ気になることを」

「っ、治療だと? 戦いで負傷したのか!?」

「いえ、軽いものです。放っておいても治る程度でしたが、念の為に」

「そうか、それは良かった……話を続けてくれ」


 心底から安堵した様子で、ディアムントは椅子に座り直す。

 ゼグードの疑問はますます深くなった。それでも話を続けたのは、ディアムントに促された、というばかりではない。

 訊ねてはいけないような、ある種の不安も胸に生まれた。


「彼女の耳に、酷い傷痕があったそうです。剣で斬られたような、あるいは火傷を負ったようなものだったと」

「……そうか。分かった」


 深く息を吐いて、ディアムントは目蓋を伏せた。

 室内を沈黙が支配する。

 ゼグードが知る限り、ディアムントは即断即決を旨としている。帝国武人の血を濃く受け継ぎ、戦場で必要とされる決断力を生まれながらに持っているのだ。

 そのディアムントが迷うような沈黙をするのは、実に珍しいことだった。


「……あの子は、とある高貴な家に生まれた者だ」


 やがてディアムントは口を開いた。重々しく告げる。

 ゼグードはまだ沈黙していた。

 耳を塞ぎたい衝動にも駆られた。しかし皇族であるディアムントが語ろうとしているのだ。拒絶などできるはずもない。


「大陸に覇を唱え、君臨できるほどの血を引いている」

「っ、それは……!」

「これを表沙汰にするかどうかは、まだ分からん。しかし俺自身は、あの子には、ただ幸せになってもらいたいと思っている」


 その言葉は、心からの願いでもあったのだろう。

 けれどゼグードは何も答えられない。

 事実を受け止めるだけで精一杯で、皺の寄った顔を深く歪めていた。




 ◇ ◇ ◇




 平原の北側へ目を向けると、街の姿はほとんど見えなくなっている。

 人々の喧騒や、仕事熱心な兵士達、親切な町長、修道会で焼いたお菓子―――、

 短い間に起こった出来事を思い返して、ヴィレッサはそっと目を細めた。


「なんか、あっという間だったなあ」


 十日以上は滞在していたのに、過ぎてみれば短く感じられる。

 街を出る際には、アンブロス伯爵や町長をはじめ、大勢が見送ってくれた。もう何日か滞在してはどうかと、引き留めてもくれたのだ。

 紐細工を贈ってくれた親子も、街の門まで挨拶に出向いてくれていた。


「食料や水もたっぷり貰えたニャ。ほんと、いい人達ばかりだったニャぁ」

「伯爵様なんて、護衛に小隊までつけようとしてくれたものね」


 護衛は丁重に断ったけれど、しっかりと感謝は伝えておいた。

 貴族らしく真面目すぎる部分もあるが、領民を大切にしている―――、

 そんな伯爵と良い関係を築けたのは、ヴィレッサにとっても嬉しいことだ。

 ロナとマーヤも、幾人かの兵士とは打ち解けていたようだ。最初は恐れられていた黒馬(メア)も、街の名物みたいな扱いになり、子供たちに懐かれてもいた。


「いつかまた、遊びに来るかも知れねえな」


 後ろ髪引かれる想いを断ち切り、正面へと向き直る。

 南へと続いている街道の先を見据えて、ヴィレッサは黒馬の上で姿勢を正した。

 いまはまだ、のんびりとはしていられない。

 足を止めた分も取り戻して、一刻も早く、ルヴィスやシャロンと再会したい。


「それじゃ、少しだけ飛ばすぜ?」

「了解ニャ。この子も鍛えて、いつかメアを追い越せるようにするニャ」

「どこまで無謀な夢見てるのよ……」


 黒馬の後を追って、ロナとマーヤも馬の速度を上げる。

 久しぶりの風を切る感覚に、ヴィレッサは子供みたいな笑みを浮かべた。

 頬に当たる冷たい感触すら心地良い。

 冬を告げる灰色の風も、力強い馬蹄の音に吹き飛ばされていった。




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