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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第2章 幼女、迷子になっても歩き続ける編
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第4話 ティータイムは領主軍とともに



 街に着いて数日、ヴィレッサには小さな悩みがあった。

 不満というほどではない。町長の屋敷で世話になっているので不便もない。

 ただ、街をゆっくりと見て回りたかった。


 敵国との境目とはいえ、一応は帝国の玄関口となっている街だ。それなりに賑わっているし、商店の数も種類も豊富で、娯楽も多い。

 子供らしく遊び回りたい、とは思わないが、商店巡りはしてみたいのだ。

 旅の道具は、ロナとマーヤに任せてある。けれど珍しい物が転がっているかも知れない。異世界知識と合わせて内政無双、なんて可能性もある。


 けれどヴィレッサの姿は目立つ。

 とりわけ『赤狼之加護』を着ていると、一発で正体がバレてしまう。


「吟遊詩人のヤツラめ……」


 恨みがましく目を細めて、ヴィレッサは溜め息を落とした。

 魔物に襲われて危機に陥った街を、一人の魔導士が大活躍して救う―――、

 そんな話を、吟遊詩人たちが見逃すはずはなかったのだ。

 とりわけ耳の早い者は、バルツァール城砦の攻防戦についても詠っていた。


「なぁにが『バルツァールの魔弾』だよ。恥ずかしい二つ名をつけやがって」

『半分は、御自分で名乗ったのでは?』

「うっせえ。まさか広まるとは考えてなかったんだよ」


 そんな不機嫌顔のヴィレッサは、街外れにある修道会を訪れていた。

 モゼルド教会とは異なる、自然に宿る精霊を信仰する修道会は、古くから帝国の各地に広まっている。他の宗教への排斥も少ない、比較的温和な集団だ。

 この街の修道会も、人助けなどの地味な活動を行っている。先日の襲撃事件では負傷者の治療にも一役買っていた。


 それでもやはり人の出入りは少ない。広い礼拝堂もがらんとしている。

 なので、人目を避けてのんびりと過ごすには最適の場所だった。

 もっとも、いまヴィレッサが居るのは、建物の奥にある厨房なのだが。


「お、いい匂いが漂ってきたぜ」


 別段、修道会で配るクッキーが目当てだった訳ではない。

 オーブンの火を真剣に見張っているのも、シスターから頼まれて仕方なくやっているのだ。焼き立てを一番に貰えるとか、そんな言葉に喜んで頷いてもいない。

 お菓子に釣られるような子供ではないのだ。うん。


「婆さ~ん、そろそろ焼き上がったんじゃねえのか?」


 厨房から出て、シスターを呼びに行く。

 静かな建物内では声がよく響く。足音も。

 だけど近づいてきた足音は二つ。シスターとは違う、早足の音も混じっていた。


「ここにおられましたか、ヴィレッサ様。つい先程、アンブロス伯爵が到着されましたので、お呼びに参りました」

「……あ゛?」


 ヴィレッサは頬を歪め、鋭い眼光で兵士を睨む。

 別段、不機嫌になったのではない。

 ただ、少しだけタイミングが悪いと思っただけだ。


「え、あ、あの、なにか失礼をしましたか?」

「……いいや。何も悪くねえ。ああ、悪くねえさ」


 舌打ちしつつ、ヴィレッサは答える。

 修道会を出たのは、じっくりとティータイムを楽しむ時間が過ぎてからだった。







 街の中央には、時折訪れる領主のための屋敷もある。別荘みたいなものだ。

 そこを訪れたヴィレッサは丁重に迎えられ、応接室へと通された。

 アンブロス伯爵は三十歳になったばかり。背が高く、顔付きも体付きもよく引き締まっている。武人然として、無駄な装飾のない黒甲冑も似合っていた。

 短い髭を生やしていて貫禄もある。

 それでいて、厳しいだけの男でもない様子だった。


「まずは礼を言おう。この街を救ってもらい、深く感謝する」

「いや、あたしは勝手に暴れただけだ。それより街の兵士を誉めてやれよ」


 タイミングは悪い奴だが―――という内心は置いておいて、ヴィレッサは一応の礼節をもって挨拶を交わした。

 もう機嫌は悪くない。ちゃんと”頭を冷やす”時間はもらったのだから。


「無論、彼らの働きにも報いるつもりだが……ん? この匂いは修道会の?」

「は? まあ、さっきまで修道会にいたけど……」

「おお、やはりそうか。私も甘い物は好きでな。子供の頃はこっそりと街に出て、シスターの世話にもなったものだ」

「……やらないぞ?」


 腰に下げておいたクッキー入りの小袋を、ヴィレッサは手でそっと隠す。

 アンブロス伯爵は仏頂面を僅かに歪める。少しだけ物欲しげな気配が漂った。

 けれど、ちょうどそこで一人の兵士が駆け込んできた。


「報告します。ギガ・アントの巣に動きがありました」

「む……詳しく話せ。餌取りではないのか?」

「はい。普段は北の森へ餌取りへ向かっていたようですが、今回は東へと数匹が向かっております。小型の、恐らくは偵察役かと」

「到着した途端にこれか……兵を休ませる暇も無いとはな」


 アンブロスは溜め息を落としつつも、表情を引き締めて立ち上がった。


「ヴィレッサ殿、聞いての通りだ。すまないが話は後に……」

「あたしも行くぜ。後詰めくらいには、居ても構わねえだろ?」


 元より、ヴィレッサは街の守りを担っていたのだ。領主軍が到着したとはいえ、その役割が少しくらい延びても問題はない。

 たとえ断られても、勝手に様子を窺うつもりだった。

 もっとも、アンブロスも断る理由はなかったようだが。


「感謝する。本陣に席を用意しよう」

「背の低さが誤魔化せるヤツを頼むぜ」


 アンブロスと並んで、ヴィレッサは屋敷の外へと足を向ける。

 悠然と外套を揺らし、愉しげに頬を緩めて。

 まるで貴族の嗜みである狩りに赴くように、堂々とした足取りだった。






 ギガ・アントは準災害級とされる有名な魔物だ。

 災害級である『黒き悪夢(ナイトメア)』には及ばないが、それが及ぼす被害は同程度と言われている。つまりは、『ひとつの街や村が滅びる程度』だ。

 しかし”準”であるので、ある程度の対処法が確立されている。人の手ではどうしようもない可能性の高いのが災害級、人の手でどうにかなる可能性の高いものが準災害級、という訳だ。


 ギガ・アントへの対処法は、まず第一に巣を潰すこと。

 巣で増殖し、増えたギガ・アントがまた巣を作るので、大元を叩く必要がある。

 厄介なのは数の多さだ。最低でも数百、大きな巣になると数万ものギガ・アントが棲んでいる。それだけの数を一度に相手取ると、国軍でも手を焼かされる。


 なので、広い場所へ誘き出して地道に狩っていくのだ。

 煙を送ったり、水を流し込んだりする手法がよく使われる。今回の場合はモゼルド教会が隠していた香木があるので、それで燻り出す作戦だ。

 基本的には魔術による遠隔攻撃で数を減らしていく。ギガ・アントの数が多く、肉迫されたとしても、あまり巣の遠くまでは追ってこないので後退も難しくない。

 その作戦の第一段階は、まず順調に進んだ。


「あたしは粉々にしちまうから、魔物素材としての価値は下がっちまうけどな」

「そこまで贅沢は言わぬさ。よくやってくれた」


 アンブロス伯爵に労われ、兵士達から喝采を浴びながら、ヴィレッサは本陣へと後退した。

 誘い出したギガ・アントの集団を掃射形態で片付けた後で、だ。

 かなりの数は減らせたはずなので、続きは領主軍へ引き継ぐことになる。


「奴等は夜行性だからな。この後は、朝まで監視する予定だ」

「兵糧攻めってことか?」

「うむ、魔物相手に言い得て妙だがな。しかしその通りだ。奴等も多少は餌を保管する習性があるようだが、数日もあれば、かなり数を減らせるだろう」


 本陣に設置された天幕に入って、アンブロスは嬉しそうに作戦を説明した。

 夕刻から夜に掛けてはギガ・アントの活動時間なので、基本的には手出しせず、巣の内部に足止めをする。餌を取りに行く集団のみを排除し、餓死による数の減少も狙うのだ。

 さらに昼間は燻り出しての攻撃を狙い、積極的に数を減らす。

 そうして巣の中のギガ・アントが僅かになったところで、いよいよ直接に乗り込む。地中深くにいるはずの巨大女王蟻(ギガアント・クィーン)を仕留めるのだ。


「まあ、ヴィレッサ殿はのんびりしてくれて構わん。ここからは我らの仕事だ」

「邪魔するつもりはねえよ。でも、何かあったら呼んでくれよ?」

「うむ。だが子供の睡眠を妨げるのは無粋というものだ」


 すでに陽は落ち、子供は寝る時間になっている。

 ヴィレッサも少々眠気を覚えていたので、アンブロスの言葉に甘えることにした。意識はともかく、体はまだ小さな子供なのだ。


「屋敷に戻られるか? 陣内に天幕も用意させてあるが」

「それじゃあ、こっちで世話になるぜ。万が一って可能性もあるからな」


 兵士の案内に従って、別の天幕へと移動する。

 外に出ると、ロナとマーヤも戦う準備をして待っていた。


「お前たちは、街で待っててもいいんだぜ? あと数日は足止めみてえだしな」

「にゃら、ボスの所に居ても同じニャ」

「一応、従者扱いされてるからね。少しは手伝うわ」


 ロナはいつものように笑いながら、マーヤは肩をすくめて、ヴィレッサの背後を守るように続いた。

 大勢が行き交う陣地の中だが、ヴィレッサが歩くと自然と道が開かれる。

 屈強な兵士が次々と敬礼して道を譲ってくれるのだ。なかなかに壮観だった。


「にゃはは。ボスと一緒だと、みんながペコペコして面白いニャ」

「馬鹿。そういうこと、言うんじゃないわよ」

「ま、違和感はあるよな。急に偉くなったみたいでよ」


 用意された天幕の中は、野営地としてはかなり贅沢だった。寝台があり、食事をするためのテーブルもある。

 ついでに護衛役のつもりなのか、黒馬も外で座っていた。


「それで……あとの戦いは、領主軍が中心になるのかしら?」


 天幕に入って一息吐いたところで、マーヤが帽子を脱ぎながら訊ねてきた。

 ヴィレッサも寝台に腰を降ろしながら頷く。


「犠牲が出るようなら、あたしも戦うって言っといたけどな。でも訓練も兼ねてるみたいだし、面子ってのもあるだろ」


 アンブロスから聞かされた作戦の概要を、ヴィレッサも語って聞かせた。

 慎重派のマーヤだが、一通りの話を聞き終えると、安心したように軽く目を伏せていた。


「さすがは帝国の軍ね。レミディアの方が、魔物が多い分だけ研究は進んでるかも知れないけど……」

「大勢での戦い方になると、やっぱり帝国は得意みたいだニャ」

「アンブロスのおっさんも頼りになりそうだ。指揮官が優秀ってのは大きいぜ」


 実際、ヴィレッサはもう自分の出番は無いと思っている。

 ギガ・アントは確かに厄介な魔物だが、状況さえ整えれば恐れる必要もない。

 強靭な肉体を持つ魔物相手でも、知恵が回る分、人間の方が有利なのだ。


「さすがに、冒険者パーティひとつで一掃、って訳にはいかねえけどな」

「にゃ? 冒険者ニャ?」


 何気ない一言に首を捻られ、あ、とヴィレッサは目を見開く。

 つい異世界の言葉を漏らしてしまった。久々の失敗だ。


「あー……まあ、魔物狩りみてえな連中のことだな。魔物専門じゃなくて、商人の護衛をしたり、住民の依頼で薬草採りに行ったり……」

「ん~、それって何でも屋みたいなものかニャ?」

「なんだか腕の悪い魔物狩りか傭兵が、食い詰めた末の姿みたいね」

「それに、ちっとも冒険してる気がしないニャ」

「生き方そのものが冒険なんじゃない? 地に足をつけられない人はいるものね」


 散々な言われ様に、ヴィレッサは視線を逸らす。

 なんとなく分かっていたが、ファンタジー的な冒険者は、この世界には存在しないらしい。魔物狩りにしても、魔物自体の出没がまばらであるため、広い繋がりを持つようなギルドは作られないのだ。


 危険な魔物は、ほとんどが兵士によって討伐される。他の仕事も、専門家に任せた方が安心と言える。

 そして優秀な剣士や魔術師は、魔物狩り程度では終わらない。

 ほとんどが貴族によって取り立てられる。傭兵として名を上げる者は極僅かだ。


「夢がねえなぁ……」


 呟いて、ヴィレッサは寝台に寝転がった。ぼんやりと白い天幕を眺め上げる。

 別段、冒険者という職業に対して憧れていた訳ではない。

 ただ少しだけ、そういう生き方もあるかなと考えていた。

 魔導士として国に仕えるというのは、どうにも窮屈そうで―――。


「皇帝陛下、か」


 どんな人物なのだろう? 自分は、忠誠を誓う気になれるのだろうか?

 少なくとも、現時点では敵意の方が強い。

 皇帝の迂闊な言葉さえなければ、モゼルド教会が力を持つこともなかった。今回の騒動だって起こらず、犠牲になる者もいなかったのだから。


「アンブロスのおっさんは、どう考えてるんだろうな」


 明日にでも聞いてみよう。

 そう思考を打ち切って、ヴィレッサは目を閉じる。

 旅に慣れた身体は、初めての布団でもすぐに睡眠へと落ちていった。




 ◇ ◇ ◇




 ギガ・アント討伐は順調に進んだ。負傷者も数えるほどだ。

 巣から誘い出し、防護魔術を使う前衛が支えている間に、攻撃魔術によって後衛が殲滅する。単純な戦術だが、実に効率的に狩りを進めていった。


 二日もすると、巣から出てくる蟻の数はほとんどいなくなった。

 その間、ヴィレッサの出番は無かった。最初に数を減らして、戦意を高めただけでも充分に役立てたようだった。


 そして、三日目―――。

 ついに巣の内部へと踏み込むことになった。

 複雑に枝分かれした巣に対して、こちらも複数の部隊を送り込むのだ。そうして一匹残らず、完全に魔物を殲滅していく。


 いよいよ作戦の大詰めなのだが、ここでもヴィレッサの出番は無かった。

 万が一に備えて、アンブロスとともに本陣での留守番だ。

 ヴィレッサも一緒に出撃しようかとも考えた。けれどアンブロスに良い顔をされなかったのだ。

 もしも不測の事態が起こった時、真っ先に行動できるのは本陣にいる者だと言われて、ひとまず納得して腰を落ち着けた。

 それでも、ただ待っているというのは焦れったいものだ。


「おっさんは落ち着いてるな」

「仮にも将だからな。私が慌てては、兵士も不安になる」


 模範的な回答をしてから、アンブロスはにやりと頬を緩めた。


「もっとも、私も前線で剣を振るっている方が性に合っているのだがな」

「はっ、帝国貴族ってのは、血の気が多い奴ばかりなのか?」

「歴史的にもそうだと言えるな。皇帝陛下からして、剣を振れぬ者は認められぬ。継承権争いでさえ、半分以上は決闘での裁定によるものだ」


 冗談で言ったヴィレッサには、その返答は予想外だった。

 武に傾いた国柄であるのは承知していた。しかしまさか、これほどとは。

 だがそれだけに、疑問にも思えてしまう。


「いまの皇帝も、そうなのか?」

「うむ。決闘こそしなかったが、戦場で充分に活躍しておられた」


 過去形で述べて、アンブロスは眉を顰めた。

 短い髭をなぞりながら、ヴィレッサへ思案げな眼差しを向ける。


「そうか。ヴィレッサ殿は、まだ十歳にも達していないのだったな」

「まあ、見た目通りの子供だぜ?」

「その言葉は、些か謙遜が過ぎるだろう」


 ヴィレッサは素直に述べただけだが、アンブロスには違って聞こえたらしい。

 楽しげに咽喉を鳴らす。けれど、すぐに表情を引き締めた。


「そうだな。魔導士として帝国に仕えるならば、知っておくべきか」


 大きな声では言えぬが、と前置きをしてから、アンブロスは神妙に語り出した。


「十年程前からだな。陛下が変わられてしまったのは。切っ掛けは、可愛がっていた公爵家の姪御殿が病に伏せ、それを治療してもらったという話だが……怪しげな占い師や予言者などと称する者を、頻繁に招くようになったのだ」

「……モゼルド教会の布教を許したのも、それが原因か?」

「そう聞いている。いまや相談役となった占い師の言葉に従ったそうだ」


 アンブロスはきつく目蓋を伏せる。忌々しい、と表情で語っていた。

 帝国への忠誠と、理不尽な状況への怒りとが、複雑に絡み合っているのだろう。


「そんな奴、追い出しちまえばいいのに」

「……それは無論、占い師に対しての言葉だな?」

「ん? もちろん、そのつもりだったが……」


 答えてから、ヴィレッサは気づいた。

 アンブロスの手が、腰の剣に伸びようとしていたのだ。

 皇帝も一緒に、などと言ったら、容赦無く斬り掛かられていただろう。

 帝国貴族の忠誠心というのは、ヴィレッサの想像を遥かに越えていた。


「おっさん、そういう時は警告くらいしろよ。大人げねえ」

「大人だからこそ、守らねばならぬものもある」

「そういうもんかね。あたしは、難しいのは嫌いだぜ」


 ひらひらと手を振って話を打ち切る。

 もう少し国内事情について知りたくもあった。けれど下手に突っ込むと薮蛇になりかねない。一応は話の通じるアンブロス伯爵と敵対するのは避けたかった。


 それに、血生臭い話をする気分でもなくなっていた。

 短いながらも穏やかに過ごせたからだろうか。このビッドブルクの街にも、多少とはいえ愛着が生まれていた。

 もうじき去るのだから、どうせなら良い思い出のままで終わりたい。

 まあ、到着した早々に、かなり物騒な出来事もあったのだけど。


「お……なんか騒がしくねえか?」

「うむ。決着がついたようだな」


 天幕の外から兵士達の歓声が響いてくる。

 アンブロスと並んで外に出ると、すぐに伝令の兵士が駆け寄ってきた。


「報告します。巣の最深部にて、突入部隊がギガアント・クイーンと交戦。これを撃破したとのことです」

「よし、よくやった。交戦した部隊は休憩させ、後詰めを出せ」


 兵士は嬉しそうに頭を下げると、また伝令のために駆けていった。

 アンブロスは歓声を上げる兵士達に迎えられながら、新たな指示を出していく。

 ヴィレッサもほっと息を吐いて、緊張を緩めようとした、が―――、


「ん……?」


 足下に微かな揺れを感じた。

 地震か、と首を捻る。さほど慌てなかったのは、地震が多い国で暮らした記憶をおぼろげながらも持っていたからだろうか。

 けれど戦場にいることも思い出して、ヴィレッサは咄嗟に跳び上がった。

 魔力板を作り、空中に立つ。

 直後、地面に大きな穴が開いた。黒々としたギガ・アントが這い上がってくる。


「こいつらっ! 討ち漏らしか!?」

「囲め! 一匹も逃がすな!」


 疑問への返答はなく、代わりにアンブロスの指示が飛んできた。

 周囲の兵士が盾を構える。一拍遅れて、ヴィレッサも魔導銃を抜いた。


『速射形態が最適と判断。このまま空中から殲滅を』

「ああ。すぐに片付けてやる」


 頷くと同時に引き金を弾く。両手に構えた魔導銃から次々と魔弾を降らせ、黒殻の体を撃ち抜いていく。

 穴から出てきたギガ・アントは、ほんの十数匹。

 ヴィレッサの宣言通り、すぐに決着はついた。

 動く魔物がいなくなったのを確認して、アンブロスがまた声を張り上げる。


「徹底して探査魔術で調べろ! 僅かな異常も見逃すな!」


 ほんの数匹を逃がしただけで、ギガ・アントはまた巣を作って増えるらしい。

 ヴィレッサも空中に浮かんだまま、周囲を注意深く見回していった。ディードの索敵能力も使い、取りこぼしがないか確かめていく。


 そうして陽が暮れた頃、ようやく殲滅完了が告げられた。

 ヴィレッサも、今度こそと胸を撫で下ろす。

 自身の手元へ目線を落として、赤白の紐で編まれた腕輪を撫でた。


「……とりあえず、守り通せたよな」


 小さく呟いてから、ヴィレッサは顔を上げて振り返る。

 平原に囲まれた静かな街を眺めて、そっと目を細めていた。




帝国貴族「歴代皇帝陛下の御名前をすべて言え」

一般市民「え、え~と……」

帝国貴族「反逆者だ! 捕らえろ!」

過激派になると、だいたいこんな感じです。

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