第14話 軽量型極式魔導装衣『赤狼之加護』
無限魔力を持つ者のために作られた、『極式』魔導遺物―――、
その秘められた力は従来の魔導遺物を超越している。
燃料となる魔力の供給量を考慮に入れなくてよいのだから、性能が上がるのは当然だろう。例えば燃費効率を優先した環境に優しい車と、ひたすらに速度を求めた競技用の車では、どちらが上なのか?
求めるところが違うとはいえ、制限は無い方が良いに決まっている。
ヴィレッサが手にした『万魔流転』も、それひとつで、使い方次第では十万の軍勢すら蹴散らせる性能を備えていた。
そして、もうひとつ―――。
「なんにしても『万魔流転』ってのは言い難いな。イメージも悪いぜ」
『数千年の歴史ある名前を全否定ですか。驚嘆です』
「歴史って、ほとんどの時間は眠ってたんだろ? 偉そうに言えることかよ」
『事実を述べたまでです』
まだ死体が転がる研究室の奥で、ヴィレッサはいくつもの箱を引っ繰り返していた。貴重な古代遺産やら資料やらが散乱するが、構ってはいられない。
もうひとつの『極式』魔導遺物があると、『万魔流転』が教えてくれたのだ。
「ん~、パンデミック……いまいちだな。ディードでいいか」
『……もしや、私の呼び名ですか?』
「悪くねえだろ? 少なくとも、舌は噛まねえで済みそうだ」
『もはや原形を留めていないようですが』
「いいんだよ、こういうのは響きが大切だ。一文字は合ってる……っと」
目当ての品を見つけて、ヴィレッサは言葉を止めた。
魔導銃が収められていたのと似た銀色の箱だ。留め金を外すと、中には真っ赤な外套が丁寧に折り畳まれた状態で置かれていた。
『彼女が軽量型極式魔導装衣、『赤狼之加護』です』
「こいつも、喋るのか?」
『否定します。私との併用が前提ですので、擬似人格は備わっておりません。ですので、彼女の機能補助も私が受け持ちます』
「要するに、おまえのオプションパーツみてえなもんか」
ともかくも試してみようと、ヴィレッサは外套に袖を通す。子供の身では裾を引きずるはずだったが、魔力を通した途端に『赤狼之加護』は変形した。
袖や裾の長さだけでなく、一部が分離して、ショートパンツやグローブ、靴にまで変化して全身を包んだ。驚きはしたものの不快感はない。すっぽりと頭を覆ったフードも、視界を遮らないよう調整されていた。
『私自身は攻撃能力に特化しています。対して彼女は防御、物理保護を担当します。この時代の刀剣類ならば、およそ切断は不可能でしょう』
「そいつは心強いが、衝撃なんかはどうなる?」
『熊に殴られても痒い程度です』
なるほど。いまならブルド・ボアとも殴り合えそうだ。
柔らかな着心地も悪くない。むしろ快適なくらいだ、が、
「……? このフードからか? なんか音楽が聞こえるんだが……」
『戦闘時の精神安定効果を狙っております。収録曲は約八百万曲です』
「むしろ集中が乱されそうだぞ。これ、アニソンだよな?」
『ご心配せずとも、他人には聞こえません。指向性音響システムを搭載しております』
「無駄に高性能だな、おい」
しかし、そういう問題ではないのだが―――。
まあいい。疑問は後に回そう。あまり時間の余裕もない。そもそも死体の転がる部屋で呑気に会話するなど、それこそ精神に異常をきたしそうだ。
ヴィレッサはひとつ息を吐くと、あらためて両手に魔導銃を握った。
「それじゃ、そろそろ行くとするか」
部屋の窓へ目を向ける。建物の中央、三階にある研究室からは、停泊している飛翔船の姿も見て取れた。
相手に損害を与え、同時に騒動を起こすには良い標的だろう。
「脱出劇ってのは、派手にいくもんだよな?」
『肯定。砲撃形態へと移行します』
あるいはそれは、虐殺形態とも呼ぶべき姿だ。
破壊の化身となった相棒を手に、ヴィレッサは愛らしい狂笑を浮かべた。
赤頭巾って、親切な狼が幼女を守ってくれる話でしたよね?




