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ロリータ・ガンバレット ~魔弾幼女の異世界戦記~  作者: すてるすねこ
第5章 幼女、おうちの前を通り過ぎちゃう編
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第13話 幼女は血路を拓き、御馬番は忠義を貫いた


 一万の軍勢に、百にも満たない数で突撃する。

 ほとんど自殺行為のようなものだ。

 しかしヴィレッサは手綱を握り直しただけで、黒馬の速度をさらに上げた。その鋭利な視線の先には、敵本陣である飛翔船がある。

 つまりは、標的に迫っているということ。


『まだ阻害装置の効果は続いています。やはり、すぐには止められないようです』

「はっ、自分で仕掛けた罠に嵌まったってことか」


 たとえ敵魔導士が出てきたところで、ヴィレッサには蹴散らす選択肢しかない。けれど多少は手こずるだろうことも認識している。

 邪魔が入らない内に、なるべく敵本陣への距離を詰めたいところだ。


「蹴散らせ! 派手に暴れてやれ!」


 声を響かせながら、ヴィレッサは速射形態の引き金を弾いた。続け様に、敵前列の数名を撃ち抜く。敵兵の頭を西瓜のように砕き散らし、胸に大きな風穴を開けた。

 凄惨な死体を見せつけられて、近くにいたレミディア兵が悲鳴を上げる。

 直後に、黒馬が激しく嘶いた。全身から青白い光を放つと、敵陣へ雷撃の雨を降らせる。さらに親衛騎士たちも魔術を放ち、光弾や火球を幾つも叩きつけた。


 一万の軍勢からすれば、僅かな損害が出たに過ぎない。

 しかしほんの一角とはいえ、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されれば、周囲にいた兵士には恐怖が生まれる。そして、恐怖は伝播していく。

 レミディアから反撃として放たれた魔術の雨も、逆に士気を挫くことになった。戦術級の火炎や雷撃魔術が降り注いでも、被害を与えられないどころか、騎兵部隊は怯みもせずに迫ってくるのだ。


『抗魔形態との切り替えは、可能な限りこちらでもサポートします』

「ああ。乱戦になると、なかなか難しいからな」


 魔術の撃ち合いを終えると、いよいよヴィレッサたちは敵戦列へと突撃する。

 本来ならば、槍衾と大盾が待ち構えているところだ。しかし魔弾と魔術を撃ち込まれて、レミディアの戦列は乱れている。立ち直る暇も与えられない。

 ヴィレッサたちは少人数の利も活かして、針の如く、乱れた戦列の穴を狙った。


 最初の激突で数十名が弾き飛ばされる。

 馬蹄で、剣で、槍で、そして魔弾で、次々と命が奪われていく。勢いに乗った騎兵部隊を止める術はなく、屍山血河が作られるのみ―――そう思われた。

 だが、重々しい金属音が響く。

 黒馬が僅かに体勢を崩して、煩わしげに嘶いた。


「っ、重装兵ってやつか!」


 ヴィレッサの前に立ちはだかったのは、ほとんど鉄塊みたいな歩兵の一団だった。全員が身を覆うほど大きな盾を構えて、しかもそれを杭で地面へ打ち込んでいる。身を守る鎧も見るからに重々しい。さらに刻まれた魔術式によって鎧の重量を増し、強化術を施して尚、満足に歩くことさえ出来なくなっている。

 勢いに乗った馬蹄で、一人は踏み潰せた。しかしすぐ後ろにも重装兵が隊列を組んでいて、潰れた死体まで盾として使ったのだ。


『単純な障壁ならば、抗魔形態で踏み潰せたのですが……』

「構わねえ。どうせ、いい的だ!」


 右手に速射形態(オートリボルバー)、左手に暗殺形態(デリンジャー)を構えて、ヴィレッサは獰猛な笑みを浮かべる。勢いは押さえられたが、重装兵はほんの数百名、全員撃ち殺してしまえばいい。


 とはいえ、敵も黙って撃たれてはくれなかった。

 足が止まった騎兵部隊に、左右、そして背後からも敵兵が殺到する。重装兵部隊も、鈍く光る鉄槌を振り上げた。

 そして、数の圧力が襲い掛かる。


「姫様を御守りしろ!」

「あたしに構うな! 一歩でも進め!」


 突き出される剣や槍が、一人、また一人と、親衛騎士の数を減らしていく。

 ヴィレッサは舌打ちを漏らしながらも、次々と引き金を弾く。重装兵を撃ち抜いていった。しかしやはり歩みは遅々としたものだ。

 レミディア兵の突き出した槍が、ついにヴィレッサにも届く距離へと迫る。

 だが、その時―――敵本陣である飛翔船から火の手が上がった。

 悲鳴が上がり、馬蹄の音も響いてくる。

 ヴィレッサたちのものではない。別働隊だ。


 この戦いが始まる前に分かれた親衛騎士八百余りが、帝都近くの森で息を潜めていた。そしていま、敵陣の背後へと回って襲い掛かったのだ。

 近くにヴィレッサがいない状況では、『一騎当千』は完全な力を発揮できない。

 それでも騎馬鎧に溜め込んだ魔力分は活動可能で―――、

 本陣が襲われるという事態は、レミディア軍に少なからぬ動揺を与える。

 ヴィレッサたちを囲う圧力にも、僅かだが乱れが生じた。


『どうやら間に合ったようですね』

「ああ。今の内に、こっちも突っ切る!」


 もはや数名しか残っていない重装兵を睨み、ヴィレッサは引き金を弾く。

 黒馬が嘶き、高々と掲げた前脚を地面へ叩きつけると、衝撃によって敵戦列を吹き飛ばした。







 飛翔船が大きく傾いて、フェリシアは手近な柱にしがみついた。

 同じようにミュリエルも足を踏ん張る。魔導遺物が使えれば、いくらでも自身を支える手段はあった。しかしいまは自力に頼るしかない。

 周囲には護衛の兵士もいるが、さして頼りになるとも思えなかった。


「敵襲……?」


 疑問系で呟きながらも、フェリシアはそれしかないと理解している。

 恐らく、飛翔船を支える柱が圧し折られたのだろう。大きな船体の上に立っているので直接には見えないが、吹き上がった火の手がちらりと見えた。

 ミュリエルも焦りに顔を歪めながらも、事態は把握できているらしい。

 船体から身を乗り出すと、声の上がった方向へ目を向けて、さらに顔色を蒼ざめさせた。


「伏兵が潜んでいたみたいね。しかも……例の甲冑をつけた騎兵部隊よ」

「……こっちが本命ってことですか?」


 信じられない、とフェリシアは息を呑む。

 あろうことか、魔弾皇女は自分を囮として使ったのだ。状況によっては皇帝以上に守られる立場にあるというのに、最も危険な役目を務めてみせた。


 しかも、いまもこの本陣へ迫ろうとしている。

 魔導銃を掲げて。獰猛な、血を求めるような笑みを浮かべながら。


「な、なんなんですか、もう! あれ、仮にも皇女様ですよね!?」

「ほんとにね。私達の陛下にも少しは見習って……いえ、やっぱり嫌よね」


 あまりにも予定外の事態が続いたからだろうか。ミュリエルの口調には、却って余裕が出てきていた。

 とはいえ、むざむざと敵に討たれるのを受け入れられる性格ではない。


「いずれにしても、これが最後の抵抗よ。なんとか抑え込みましょう」

「そう、ですね……あとは……」


 フェリシアが頷いたところで、大きな衝撃が伝わってきた。

 また激しく船体が揺らぐ。甲板も焼くほどの炎が噴き上がってくる。さらには、みしみしと音が響いてきて―――、


「崩れ、る……っ!」


 咄嗟に強化術を発動させる。だが、だからといってどうにもならない。

 船体の破壊に巻き込まれて、二人は空中へ投げ出された。

 派手な破壊音や馬の嘶き、兵士の雄叫びや絶命する声が響く中で、地面へと転がされた。土煙に巻かれて、泥も浴びて、フェリシアとミュリエルは顔を顰める。


 それでもどうにか顔を上げて振り返ると、まず破壊された飛翔船が目に入った。

 残骸をさらに踏み荒らすように騎兵部隊が駆け、レミディア軍兵士を次々と討ち果たしていく。軍旗も炎に巻かれて灰になろうとしていた。

 ほんの一時前まで、レミディア軍は勝者になるはずだった。

 いや、いまでも状況はさして変わっていない。帝都は間違いなく陥ちるはずだ。

 しかし目の前にある光景は、敗軍の様相を描いているようだった。








 対転移結界装置の残骸を確認しつつ、念入りに馬蹄で踏み潰す。

 最低限の役目は果たせたと、リアルドメイガーは安堵の息を吐いた。

 けれどまだ油断はできない。戦場の真っ只中なのだ。ひとまず周囲の状況を確かめようと、他の騎士を従えながら馬首を巡らせた。


 敵本陣でもあった飛翔船は、八百名余りの騎兵部隊が暴れたことで完全に破壊された。大きな残骸がそこかしこに転がっているが、もはや修復よりも新造した方が早いだろう。

 守備についていた小数の敵兵も、ほぼ殲滅しつつある。

 あとは、皇女殿下と合流できればいいのだが―――。


「このような場所に女だと……?」


 残骸の端に、二人の女が立っていた。一方は先端の分かれた鞭を手にしていて、もう一方は武器も持たず、気弱そうな顔をしている。

 リアルドメイガーは眉を顰める。

 女でも戦場に立つ者がいるのは承知している。無論、油断はない。

 慎重に槍を構えたまま問い掛けた。


「貴様ら、何者だ? その鞭はもしや『傀儡裂鞭』のミュリエルか?」


 馬上から厳しい眼光を向ける。

 女二人は、びくりと肩を揺らした。しかし答えようとしない。

 重ねて問い掛けようとして―――直後、リアルドメイガーは槍を振るった。


 金属質の音が響き渡る。

 ミュリエルが振るった鞭を、リアルドメイガーの槍が弾いたのだ。

 さらに同時に、鮮血も散っていた。

 いきなり襲ってきた円刃に、脇に控えていた騎士の一人が腕を飛ばされていた。咄嗟に障壁を張って防御しなければ、他の騎士も斬り刻まれていただろう。


「はぁ、危なかったわ。どうにか私達の魔導遺物も回復したみたいね」


 握った鞭を一振りして、ミュリエルは息を吐く。そうしてあらためてリアルドメイガーへと向き直った。


「そうね、名乗っておくわ。察しの通り、十一位、『傀儡裂鞭』のミュリエルよ」

「えっと……同じく二位、『殲滅輪』のフェリシアです」

「っ……やはり魔導士! しかも十二騎士か!」


 即座に脅威を把握すると、リアルドメイガーは声を上げた。他の兵士と戦っている仲間にも注意を促しつつ、まずは自分に従う数十名の騎士で難敵と対するつもりだった。


「ヴィレッサ皇女殿下の親衛騎士、そして御馬番、リアルドメイガーである! 

十二騎士、その首、貰い受ける!」


 手綱を握り込み、すぐさま馬を突撃させる。

 魔導士相手に受けに回るのは愚策でしかない。ほとんどの魔導遺物には、容易く人の命を奪える力が備わっているのだ。

 だから一気に首を狙う。その判断は、けっして間違っていなかった。

 けれど―――。


「騎兵はもう、見たくもないわ」


 ミュリエルが鞭を振るう。無数に分かれた伸縮自在の鞭は、さながら壁のように束なって突撃する親衛騎士を迎え撃った。

 鎧に守られた騎馬達だが、それでも全身を打ち据えられ、前進を阻まれてしまう。けれど騎士の方はそれだけで済まない。鎧ごと引き裂かれ、無数の裂傷を刻まれて、鮮血で霧を生み出しながら弾き飛ばされた。


 辛うじて鞭から身を守った者も、次々と赤い飛沫を上げて倒れていった。高速で宙を舞う『殲滅輪』は、鞭に気を取られた騎士たちを容赦無く斬り刻んだ。剣や槍で弾こうとしても、刃部分にぶつかれば武器ごと斬られてしまう。魔術障壁で止められるのも、ほんの一呼吸の時間にも満たない。


「が、はぁ……っ!」


 瞬く間に部下の命を奪われて、リアルドメイガー自身も鞭で弾き飛ばされた。

 地面を転げ回り、それでも槍を握って投げつける。しかしその投槍も、円刃で斬り裂かれ、残った穂先も鞭で弾かれた。


「くっ……傷一つ付けられぬとは……」


 屈辱に歯噛みしながらも、リアルドメイガーは腰の剣を抜いて立ち上がる。まだ周囲には動ける騎士が数名残っていて、誰も諦めてはいなかった。

 血に濡れながらも、戦意を滾らせて敵将を睨む。


「この者らは危険だ! ヴィレッサ殿下の御為にも、なんとしても討ち取れ!」


 騎士たちが雄叫びを上げ、一斉に地面を蹴る。

 鬼気迫る決意を感じさせる突撃だったが、フェリシアもミュリエルも表情ひとつ変えなかった。


「はぁ。こう暑苦しい騎士って苦手なのよねぇ」

「そう、ですね……怖いです……」


 再び鞭が、円刃が、次々と死を撒き散らしていく。

 魔術を放つ者もいたが、そちらも『傀儡裂鞭』の魔力吸収によって霧散させられてしまう。剣や槍を投げる者もいたが、やはり届きはしなかった。

 ほんの十数歩の距離が詰められず、騎士たちは一人また一人と倒れ伏した。


「ぐ……っ!」


 リアルドメイガーの眼前にも、高速回転する円刃が迫る。どうにか障壁で防ぎ、その隙に剣で弾いたが、次に襲ってきた鞭によって剣を圧し折られてしまった。

 さらに、首にも鞭は絡みつく。

 咄嗟に鞭を握ったが、それで何ができるという訳でもなかった。

 呼吸する間もなく、首に掛かる圧力は強まって―――、


「……姫様、恩返しもできず、申し訳……」


 諦めかけた時、首に絡んでいた鞭がいきなり断ち切られた。

 いや、撃ち抜かれたのだ。


 地面に転がったリアルドメイガーは、大きく見開いた目をそちらへ向ける。

 聞き慣れた黒馬の嘶き声が響いてくる。

 そして―――、


「おっさん、まだ死ぬのは許しちゃいねえぞ」


 三日月型の笑みを浮かべた幼女が、魔導銃を構えていた。




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