第11話 帝都攻防、そして……幼女突撃!
かなり増量中。
そして今回、実は100回目の更新です。
記念すべき回にこの話が来るとは、なにやら運命的なものを感じてしまいます。
血の匂いが漂う街路の真ん中で、一同は愕然として沈黙していた。
帝国軍でも精鋭である親衛騎士が、戦場で冷静さを失う危険性を知らないはずがない。死地に飛び込むことすら恐れない彼らが動揺するほど、目の前にあるのは受け入れ難い事実だった。
魔導銃『万魔流転』―――、
いくつもの戦場を駆け、蹂躙してきたその規格外の戦闘能力は、この場の誰もが承知していた。さらには意思を持ち、ヴィレッサにとって無二の戦友であることも近くにいる親衛騎士には伝わっている。
帝都城壁が崩される苦境にあっても、彼らは勝利を疑っていなかった。
その心を支えていたのは、やはり幼い手に握られている一丁の魔導銃だ。
しかしいま、勝利を約束する銀色の輝きは見る影もなく、黒々と歪んですぐにも崩れ去ってしまいそうだった。
「申し訳ありませぬ!」
沈黙を破ったのはゼグードだ。馬を降りると、地面に膝をついて謝罪を述べる。
「某が奴を仕留めきれなかったために、姫様とディード殿にも傷を負わせてしまい申した。この失態の責めは、如何ようにも―――」
「黙れ」
ヴィレッサは冷ややかに言葉を遮った。
しかしゼグードを責めるつもりはない。失態と言うならば、反撃を許したヴィレッサ自身にある。咄嗟に引き金を止めていれば、こんな痛手を受けずに済んだのだ。
あるいは、それを理解しているからゼグードは頭を下げたのかも知れない。
ゼグードが失態を受け止めれば、ヴィレッサが勝利した事実は傷つかない。
そうして揺らぎかけた士気を保とうとしたのだろう。
だが、そんな面倒くさい筋書きは要らない。
傷の一つや二つ、笑い飛ばしてしまえばいいのだ。
「大した問題じゃねえ。そうだろ?」
『……肯定です。多少の時間は掛かりますが、修復可能です』
普段よりもやや声量を上げて、魔導銃は答えた。
おお、と周囲の騎士たちは安堵の声を漏らす。
だが―――実際には、かなり深刻な事態だと、ヴィレッサの頭に流れ込んできた情報が告げていた。
二丁に分かれた速射形態の内、一方の機能はほぼ停止している。修復には数日間を要する見込みで、その間は他の形態への変形ができない。使用可能なのは速射形態の残り一丁と、袖口に隠してある暗殺形態のみだ。
最低限、身を守る武器にはなるだろう。
しかし大勢のレミディア軍兵士、それに魔導士を相手取るには心許ない。例えば『傀儡裂鞭』が操る巨大ゴーレムと対すれば、速射形態では倒しきれない可能性が高い。
ヴィレッサ自身も負傷している。魔導銃が破裂した際に、間近で衝撃を受けた指には幾つもの裂傷が刻まれていた。『赤狼之加護』を変形させて巻きつけ、応急措置としたが、引き金に指を当てただけでも痛みが走った。
他にも、不安要素を挙げればキリがないが―――。
「さっさと立てよ。老いぼれを背負っていくほど、あたしは優しくねえぞ?」
「……この身が朽ちるまでお供いたします」
ヴィレッサは三日月型の笑みを浮かべると、好きにしろ、と息を吐いた。
ゼグードが立ち上がるのを横目に、黒く焦げた魔導銃を腰に収める。
ちょうどそこで、足下に震動が伝わってきた。穴が開いた南側城壁の辺りからだ。見上げると、城壁から頭を覗かせる巨大ゴーレムの姿があった。
しかも三体。どうやら一気に押し込むつもりらしい。
舌打ちを漏らしたヴィレッサは、すぐに応援に駆けつけようとした。けれどそう思い通りにもさせてもくれないようだ。
『マスター、こちらにも来ます。『殲滅輪』です』
「っ……あの円盤か!」
こんな時に―――、
つい弱気な発言をしそうになったが、咽喉元で堪える。
振り返ると、上空で群れている小さな影が見えた。数は百ほどだろう。拡散形態ならばまとめて撃ち落せるが、速射形態ではひとつずつ潰すのも難しい。
かといって放っておけば、一般兵士の被害が増えるばかりだ。
レミディア軍に勢いを与えれば、今度こそ帝都は陥落してしまう。
「奴等の好きにさせるな! 叩き落とせ!」
ヴィレッサは素早く指示を飛ばして、百名余りの親衛騎士とともに近くにあった広場へと移動した。すぐさま円陣を組んで上空を睨む。
片手には速射形態の残り一丁、もう一方の手には暗殺形態を握った。
空から迫る円刃の群れは、大きく散開していた。四方から一斉に攻撃するつもりなのだろう。しばし滞空して殺気を撒き散らす。
ヴィレッサも僅かに身体を強張らせて―――、
「っ―――!」
円刃が動こうとした直後、上空に閃光が走った。
横薙ぎに放たれた雷撃が、滞空していた円刃を一掃する。黒く焦げ、感電した人間のように動きを止めた刃どもは、次々と落下していった。
強力な雷撃魔術―――それを放ったのが誰なのか、すぐに分かった。
「ヴィレッサ! よかった、無事ね」
「シャロン先生!」
銀髪をたなびかせて浮かぶ姿を見て、ヴィレッサはつい子供みたいな声を上げてしまった。
戦場にいるのだと思い出して、表情を引き締めなおそうとする。
でも、そんな必要はなかった。
すぐにシャロンの胸に抱き締められたから。
「本当に無事でよかった……会いたかったわ」
「うん……あたしも、会いたかった」
優しい温もりに包まれて、ヴィレッサは静かに目蓋を伏せる。
まだ危地にいる事態に変わりはない。
でもほんの一時だけ、優しさに甘えさせてもらうことにした。
シャロンと再会した後、ヴィレッサたちは街路を引き返していた。
黒馬にシャロンも同乗して、走りながら戦況を伝え合う。
東側城壁を守っていたシャロンだが、そちらの攻勢は止まっていた。代わりに、城壁が破れた南側に敵兵が集中してきているのだ。それを察したシャロンも、援護に向かってきたという訳だ。
もちろんヴィレッサの安否を確かめたいというのもあったのだが。
ただ、その顔色には疲労も滲んでいる。
かつて『怨霊槍』と対峙した時のように、魔力切れを起こしかけていた。
ともあれ、ディアムントとも合流して、今後の方策を決めねばならない。最悪の事態にも備える必要がある。
だからヴィレッサは、背後にいるシャロンへそっと告げた。
「いざとなったら、先生はルヴィスを守ってあげて」
「……なにを言ってるの?」
「あたしは大丈夫。今度は一人じゃないから」
「だから、なにを―――」
大きな破壊音が響いてきて、シャロンの声を打ち消す。
そちらへ目を向けると、また巨大ゴーレムが城壁を崩していた。そのゴーレムを守るように、無数の円刃も周囲を飛んでいる。雄叫びも聞こえてきて、勢いに乗ったレミディア兵が流れ込んでくるのが分かった。
隣で馬を走らせているゼグードが、忌々しげに呻り声を漏らす。
ヴィレッサは魔導銃を強く握ると、低い声で訊ねた。
「爺さん、帝都は陥ちるか?」
「……口惜しいですが、敵の勢いは止まらぬかと」
そうか、とヴィレッサは短く応じる。
やがて街路の奥で陣形を組む帝国兵の一団が見えてきた。しかしすでに戦闘を始めている。街路を埋め尽くすほどのレミディア兵に押し込まれて、ディアムントも自ら剣を振るっていた。
恐らく、ヴィレッサが戻ってくるまで耐えるつもりだったのだろう。
敵兵の一人を斬り伏せると、ディアムントは振り向いてヴィレッサと目を合わせた。一拍の間を置いて、苦々しげに歯噛みしながら顔を伏せる。
まるで、己の不甲斐なさを謝るように。
しかしまたすぐに顔を上げると、大声で告げた。
「城まで退く! 最後まで戦う者は、我に従え!」
いま兵が退けば、城下街はレミディアの兵士に蹂躙される。住民は避難させているとはいえ、城壁から離れた区域にまとめているだけなのだ。きっと数え切れないほどの犠牲が出る。
守るべき民を敵前に晒してしまう―――、
それは即ち、帝国軍の敗北を意味していた。
城へと戻ったディアムントは、休む間もなく部下へ指示を飛ばした。城壁などに残った守備兵に、最後の命令を伝えねばならない。
民を守れ。だが無駄に死ぬな、と。
そうして玉座へと腰を下ろしたが、その瞳にはまだ戦意が溢れていた。
「逃げねえのかよ?」
ヴィレッサも鋭利な眼光を向けながら訊ねてみる。
だが、返答は分かりきっていた。
「愚問だな。敵に囲まれ、何処に逃げるというのだ?」
「どっかに隠してあるんだろ、皇族専用の脱出路みてえなのがよ?」
城と言えば、定番の備えのはずだ。ヴィレッサはまだ知らなかったが、教えられる暇がなかっただけだと思っていた。
けれどディアムントは一笑に付して首を振った。
「他国では知らぬ。だが、バルトラント皇帝は逃げぬ」
「……つまり、脱出路も用意してねえのか?」
「当然だ。最期の一時まで戦い抜いてみせよう」
ディアムントは傲然と笑う。迷いなど欠片も無いように。
だが、その膝の上にある拳は血が滲むほどに握り締められていた。
屈辱と、悔恨と、様々な感情が胸には渦巻いているのだろう。
「シャロン、貴様には頼みがある」
「皇妃様と、そしてヴィレッサのことですね?」
「そうだ。二人をなんとしても逃がしてくれ。我が親衛隊も其方に預けよう」
「……承知致しました。最善を尽くしましょう」
二人の遣り取りを聞きながら、ヴィレッサは壁際の小窓へ目を向けた。
城下から耳障りな喧騒が響いてくる。城壁を崩した巨大ゴーレムに、勇敢な兵士が取り付いているのが見えた。兵士はゴーレムの頭を斬り崩したが、次の瞬間には背後から迫ってきた『殲滅輪』によって、自らの首を跳ねられていた。
そんな戦闘が、そこかしこで繰り広げられている。
とりわけ住民が避難した区画では、帝国軍とレミディア軍が入り混じって、老若男女すべてが血に染まっていた。
レミディア軍は完全に勢いに乗り、獲物をたいらげながら迫ってくる。
城壁を守るために分散していた帝国軍では、もはや対抗しきれない。
やがてこの城も、街や住民と同じように蹂躙されるだろう。
それはもはや避けられそうにない。
「はっ、最ッ高の地獄だぜ、畜生どもが」
吐き捨て、室内へ目を移す。あるいは目を逸らしたかったのかも知れない。
それ以上見ていたら、駆け出したい衝動を抑え込めそうになかったから。
ヴィレッサがこの帝都で過ごした時間は短い。それでも穏やかに、楽しそうに過ごす住民たちの顔を見てきた。
黒馬に乗って散歩に行こうとすると、大勢の子供たちが集まってきた。お忍びで出会った串焼き屋台の店主は、ヴィレッサの正体を知ると面白いくらいに蒼ざめた顔をして、だけどまた気さくに話してくれた。皇女らしい衣装を作ってくれた服飾店の娘は、服に無頓着なヴィレッサに対して、正面から意見をぶつけてくれた。
ふと目を閉じると、彼らの顔が目蓋に浮かんできそうだった。
しかしヴィレッサは頭を振って、思考を切り替える。
まだ、やるべきことがある。むざむざと敗北してやるつもりはない。
「……この城の門も、長くはもたねえか」
いまも攻め入ろうとするレミディア軍兵士の声が聞こえてくる。城門に大槌を打ち付けている音も響いてきた。
「奴等が散らばるまで、時間を稼ぎたかったがな……」
呟くと、ヴィレッサは玉座へと歩み寄った。
思えば、親子らしい会話など一度もしていない。
最後の機会になるかも知れないのだから、少しくらいは―――、
そう思ったのだが、どうにも上手く言葉が出て来なかった。
「いよいよお迎えが来そうだぜ、愚王陛下様よ?」
つい、憎まれ口を叩いてしまう。
ディアムントも眉根を寄せて、威圧的な眼差しを返してきた。
「ふん。礼儀をわきまえぬ逆臣を先に討ってもよいのだぞ?」
「はっ、恐怖で気が触れたか? 敵味方の区別もつかねえのかよ」
「誰にも従わぬ貴様が、味方だと?」
「ああ。当然だろ。嫌だって言われても味方してやるぜ」
ヴィレッサは笑声を零す。
少々予定とは違った会話になってしまったが、こちらの方が”らしい”とも思えた。
だからもう充分―――そう頷いて、シャロンへ目配せをする。
ディアムントの横に控えていたシャロンが、静かに歩み寄り、その肩に手を置いた。
「失礼いたします」
「っ、なにを―――!?」
青白い光が走る。
咄嗟にディアムントは腰を浮かせたが、遅かった。
全身を痺れさせ、意識を奪う魔術だ。ここに来るまでにシャロンと打ち合わせておいた。こうでもしなければ最後まで戦い抜くだろうから、と。
剣を抜こうとした親衛騎士もいたが、そちらはヴィレッサが制止する。
そうしてまだ歯軋りして意識を繋ぎ止めているディアムントに、ヴィレッサは静かに告げた。
「逃げる時間くらい稼いでやる。いつか地獄で、たっぷりと感謝しろよ」
「……また、私に……娘を見殺しにしろと言うのか……」
沈みかける意識の中で、ディアムントも事情を察したのだろう。
シャロンならば、転移術で数百名を脱出させられる。ディアムントとシュテラリーデを連れて、ヴァーヌ湖城砦まで逃れてもらえば、戦力の立て直しもできる。魔力が続く限り繰り返せば、もっと大勢の者を救えるはずだ。
無論、他の転移術師を頼る手段もあるが―――、
いずれにせよ、そこにヴィレッサは含まれない。
どうしたって魔術を無効化してしまうのだ。道連れを増やすつもりもない。
だからこそ戦いを続けるのだ。
シャロンが脱出するためには、レミディア軍の対転移結界が邪魔になる。敵本陣と、他に三箇所の基点となる装置の内、どれかひとつでも壊さなければいけない。
「攻めに意識が傾いて、敵陣が広がってる今が好機だ。あたしの騎兵隊なら一気に貫ける。テメエらは、帝国皇帝を守り通せ」
手短な説明に、ディアムントの親衛騎士たちは一様に黙り込んだ。
最も危険な役割を皇女殿下に任せることになるのだ。頷けるはずがない。
けれど他に策もなく、声を上げて反対する者はいなかった。
「それじゃ、後は任せた―――」
「ヴィレッサ!」
玉座の間を出ようとしたヴィレッサだが、その背中にシャロンの声が当たった。
無視できず、足を止めてしまう。
「必ず、絶対に、無事に帰ってきなさい。いつまででも待っているわ。私も、ルヴィスも……そして貴方の、本当のお父さんとお母さんも」
「……うん、約束する」
振り返らぬまま、ヴィレッサは力強く頷いた。
そうして今度こそ歩み出す。
真っ赤な外套をたなびかせて、迷いのない足取りで玉座の間を後にした。
「父親、か……」
廊下で一人になったところで、ヴィレッサは呟いた。
その小さな声は血生臭い喧騒に掻き消されてしまったけれど、口元には嬉しそうな笑みが残っていた。
『あの方は、この帝国よりもマスターを守ろうとしていましたね』
「そうか? どうでもいいぜ」
それよりも、と腰に手を当てる。
外套の上から、傷ついた相棒をそっと撫でた。
「怪我の具合はどうだ?」
『現在、修復率23%……このような時に力になれず、申し訳ありません』
「謝るな。十発も撃てれば充分だ」
苦笑を零してから、すぐに顔を上げる。表情を引き締めた。
もはや城内にはほとんど兵士が残っていない。手の空いている者は、城門で最後の抵抗をしているのだ。
喧騒は響いてくるのに、廊下には奇妙な静けさも同居している。
ヴィレッサは規則正しい足音を響かせながら、中庭へと向かった。
親衛隊には、装備を整えつつ休息を取るように命じてある。逃げて構わないとも告げておいたが、あまり期待はしていなかった。
そしてヴィレッサの期待を裏切り、すでに全員が隊列を組んで待ち構えていた。
「お待ちしておりました、姫様。我ら百八名、何処までもご同行致します」
「はっ、ろくでもねえ奴等だな。一人くらい逃げ出しやがれ」
「いかに姫様のご要望とて、それは無理というもの。我ら全員、姫様に惚れ込んでおりますからな」
珍しく冗談めかして、ゼグードが大声で応じる。他の騎士たちも揃って笑声を上げて同意を示した。
「ったく、本当に救いようがねえ戦闘狂どもだぜ」
悪態を吐きながらも、ヴィレッサの口元は緩んでいた。
全員と向き合う形で正面に立つと、一人一人の顔を確認していく。
ゆっくりとフードを下げてから、腕を振り上げ、高らかに告げた。
「―――これより、敵本陣に突撃する!」
騎士達も頷き、雄叫びで応じる。
ヴィレッサは獰猛な笑みを浮かべたまま、その雄叫びに負けないほどの声を響かせた。
「神の威を借る豚どもに教えてやれ! 我ら帝国の牙は、肥えただけの肉など容易く貫くのだと! ヤツラは狼の前に差し出された獲物に過ぎないのだと!」
騎士達は剣を掲げ、槍を突き上げる。
そこにはやはり迷いも躊躇いも無い。すでに死を覚悟している。
たとえ百万の軍勢を前にしようと、息絶える瞬間まで戦い続けるだろう。
ほんの微かな、勝利の可能性を信じて。
「……メア、おまえにも苦労を掛けっ放しだな」
目を細めると、ヴィレッサは横に控えていた黒馬へと歩み寄った。
黒馬は嬉しそうに嘶く。そっと撫でてやると、甘えるみたいに顔を寄せてきた。
「この戦いが終わったら、何処か思いっきり走れる場所に行くか。ルヴィスと、シャロン先生も一緒に。今度はもっと温かいところがいいかもな」
嘶きながら、黒馬は膝を折って身を屈めた。
ヴィレッサも頷くと、慣れた動作でその背に跳び乗る。
他の騎士たちも一斉に馬に跨って、整然と後に続いた。
城門までゆっくりと馬を進めると、懸命に戦い続けている兵士たちへ開門を指示する。驚く兵士もいたが、ヴィレッサが直接に命じると素直に従った。
しばしの時を待つ。
ヴィレッサはふと思いついて、隣にいるゼグードへ悪戯っ子みたいな笑みを向けた。
「こんな時にピッタリの、一度言ってみたかった台詞がある」
「ほう。どのような台詞ですかな?」
ゼグードは興味深げに問い返してきたが、ヴィレッサは答えなかった。
そうしている間に、城門が開かれる。
すぐさまレミディア兵が雪崩を打って飛び込んできた。その顔は勝利に浮かれ、瞳は欲望を滾らせている。
だが彼らは、一瞬後には後悔させられる。
死と恐怖に見舞われて。
先頭を切って入ってきたレミディア兵を迎えたのは、逃げ惑う哀れな獲物ではなく、凶悪な黒馬の蹄だった。唖然とする顔を叩き潰すと、黒馬はそのまま兵士の列を踏み荒らしながら突進する。
他の騎士も続き、死の暴風を巻き起こした。
槍を振るって敵兵の頭を砕く。剣で首を跳ねる。次々と死を生み出し、地面を赤々と染め、断末摩の悲鳴で街路を埋め尽くしていく。
そんな中で、ヴィレッサは雄々しく叫び上げた。
「死ぬには良い日だぁっ!」
狂笑を浮かべる幼女を先頭に、勢いを増した騎兵隊は突き進む。
狙うは敵本陣。
そこにある、微かな勝利の可能性を掴むために。




