乙女ゲーム脇役親友ですが、ヒロインから主人公の座を乗っ取りました。
______ 最近、あの子の周りに男が集まっている。
あたしがそれに気付いたのは、6月のある雨の日だった。
放課後、あたしの逆ハーメンバーを従えて、そろそろ新しいキャラを迎え入れようかなと考えつつ帰宅しようとした時だった。
昇降口の下駄箱近くで黒髪のクール系イケメンのクラスメイト、黒野渚があの子を守るように黒い笑顔で背に隠し、それをホストみたいな容姿の保健医のフェロモンダダ漏れイケメン青葉、熱血サッカー部部長イケメンの紅原、正義風紀委員長のメガネイケメン緑川、ショタっ子白石が彼女を奪おうと必死になっている。
問題のあの子は、黒野からも逃げようとしてるし。
元からイケメンだから目をつけてたけど、モブだったから攻略対象たちを攻略してから声をかけようと思っていた連中ばっかりだ。
______ 何で?
あたしは、あの子からヒロインの座を乗っ取って、あの子には男なんて雲の上の存在のような男っ気のない生活をしてもらおうと思ってたのに。
…… 何で、あの子ばっかり!
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あたしは、転生者だ。
というのも、この世界はあたしの前世では乙女ゲームであたしはそれの大ファンだった。
個人ルート、逆ハーレムルートの中の蜜月ルート、甘美ルート、すべてをクリアし、1ルートにつき10回くらいプレイした。
2が出る、なんて噂を聞いて、発売日に買おうとしたんだけど。
前世のあたしも今世みたいに当然、可愛かったから、3人いる内の彼氏に殺されちゃったんだよね。
何か、あたしがもう2人と付き合ってるのが気に食わないんだって。
イケメンでもないのに、出しゃばらないでって感じ。お金持ちのお坊ちゃんでお金持ってそうだから、付き合ってあげてたのにさ。
普通、これって感謝されるもんじゃない?
あれじゃ、一生モテなさそうだし、一時の夢でも美少女な彼女がいたんだよ?
まぁ、そういうわけで、あたしはこの世界に転生した。
あたしが転生したキャラは、主人公でもモブでも攻略対象でもなく、主人公の親友キャラの花京院華だった。
攻略対象の情報を教えるような便利キャラではなく、主人公の幼馴染の子野、理事長息子の竜ヶ崎、美術部部員の猪爪ルートだとライバルキャラとして活躍する。
結局、攻略対象は主人公とくっつくんだから全てフられるけどね。
あたしは、ぶっちゃけ主人公よりこっちの方が好きだったから、逆に嬉しかったくらいだ。
花京院華は可愛いけど、主人公は何か、色々とうざいし。ムカつくし。
だけど、どうせ転生するなら主人公になって、男たちを侍らせてチヤホヤされたい。
そこで、あたしの頭には、1つの考えが浮かんだ。
______ 幸いなことに、あたしには名前があって立ち絵があるようなキャラで、モブではない。主人公に1番近いキャラと言ってもいいだろう。
なら、乗っ取っちゃえば良いじゃない。
そう決意したのは、中学1年生の春だった。
高校に入学した。
あたしは、昔とは考えられないくらい可愛くなった。
特別な努力はしてない。だって、高校までにはゲーム通りの容姿になるんだから、努力なんてしなくてもいいんだよ?
入学式を終え、クラスに入って自分の席につくと、入り口あたりで茶髪のイケメンと話している黒髪の女を見つけた。
その子は、イケメンと別れるとあたしの隣の席に座る。
この子だ。
この子がヒロインだ。
ヒロインの霧鷺葵。
原作ではピンク髪ロングの美少女だったけど、現実では黒髪ロング。後で分かったことだけど、遠くから特定の角度で光が当たるとピンクに見えないこともない。
…… ピンク髪なんてウケるー、なんて思ってたけど、それが黒髪じゃ、容姿に関しては言えることないじゃん。
まー、よく考えれば、今まで緑髪青髪赤髪とか変な色の髪の人になんて会ったこともないし、攻略対象で現実にはない髪色の人間もありそうな色に変えられているんだろう。
あの子がやることがないのかそわそわとしているところを見計らい、声をかける。
「はじめまして、花京院華です。葵ちゃん、これからよろしくね!」
満面の笑顔でそう言うと、彼女はうん、と頷いた。
…… あーあ、何にも苦労してそうな顔だ。
こんな無垢な子(笑)の男を寝取ったらどんな顔するかなぁ。逆ハールートか、個人ルート、どっちに行くのかは知らないけど、個人ルートだったらそれこそ、面白いのが見れそう。逆ハールートは、ハーレムの均整をとるために主人公は周りの男たちを仲の良い男友達くらいにしか思ってないからつまらないけど。
「よろしくね、華ちゃん」
これからあんたの主人公の座、乗っ取ってあげる。
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入学3日目。
今日の昼休みは、理事長子息のヤンキー、竜ヶ崎良太との出会いイベントだ。
竜ヶ崎は、見た目は怖くて攻略が面倒くさそうなキャラだが、一旦出会って、それからも何だかんだと面倒を見てやるとすぐに主人公のことを好きになるようなキャラだ。
ファンの間では、そのチョロさからチョロインと呼ばれている。女じゃないんだから、チョロインはないと思うけどねぇ。
4時間目の授業が終わり、あの子に中庭でお昼を食べようと誘う。
ベンチに座り、お弁当箱を開けたところであまり人が入らない林の方から声が聞こえた。
…… 一応あたし、主人公の親友役だからな。あたしから声が聞こえるとか言わなきゃ、ダメなんだろう。
仕方なく不思議そうな表情を作り、首を傾げる。
「あれ…………? 何か、声が…………?」
「あっちの林からだね。…… 華ちゃん、行ってみない?」
ここまでは原作のシナリオ通り。
違うのは、この子の攻略キャラが全部あたしのものになるってことだ。
主人公は、霧鷺葵じゃなく、花京院華になる。
「ヒイッ……!? ごめんなさいごめんなさいもうしませんだからゆる」
「あぁん? お前、今なんつった? 竜ヶ崎さん、どうしますぅ?」
「…… まだだ。まだ足りない」
おーぅ、やってるやってるぅ。
仕方なくあの子の後ろに付いて、林に続く小道を歩く。近くの木の影に隠れると、あたしたちは様子を伺った。
ていうより、あの子が勝手に身を乗り出して見てるだけだけど。
バカじゃないの?
そんなのしたら、悲鳴上げなくてもばれるじゃん。
ばれてナンボだから、いいんだけどさぁ。
「きゃっ!?」
主人公の親友キャラとしての最後の役目を果たしてあげるために、可愛く悲鳴を上げる。
案の定、竜ヶ崎はあたしの悲鳴を聞きつけ、手下のモブ共に指示すると周辺を探させ、あたしたちを見つけ出した。
モブがあたしの腕を掴み、無理矢理竜ヶ崎の前に立たせた。
…… ちょっと、モブ何かがあたしの細くて白い腕、掴んで欲しくないんですけど! あぁ、でも、イケメンだから許すわ。
攻略キャラたちを攻略したら、あたしの逆ハーに入れてあげてもいいかもしれない。
「竜ヶ崎さん、こいつらです」
「……」
竜ヶ崎が見定めるようにあたしたを見下ろす。
何故か、あの子を見る目は優しいのに、あたしを見る目は冷たい。
何で、あの子だけ。
あたしを見なさいよ。
「あなた、バカじゃないの!?」
気付いた時にはそう言ってた。
いや、元々言うつもりだったんだけどね?
でも、ゲーム通りの台詞を言ってるっていうのと、あたしの思ってること。
2つの意味が、混じってる気がする。
「理事長の息子かどうかは知らないけどね、暴力は良くないの。今すぐやめて!」
「ハァ!? お前、竜ヶ崎さんに何を__!」
「______ チッ。面白れーじゃねーか。やめろ」
元は、あの子の台詞だったことを一言一句、間違えずに言ってやる。
ぷっ、あははははっ、あの子のポカーンとした顔が超面白い。
あの子もあたしと同じ様に転生者だとなお、面白いけど、今はどっちかは分からない。
まぁ、あの顔だけでも見れたし、良しとしといてあげる。
「………… 1年A組、花京院華。文句があるならいつでもかかってこい!」
そうだよ。
あたしを見なさいよ。あの子じゃなくて、あたしを。
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それからも、あたしの主人公の座を乗っ取り作戦は順調に進み、攻略キャラとの出会いイベントが終わって2ヶ月。
6月になるころには、あたしは元々あの子の攻略するつもりだったキャラは、完全にあたしのものになっていた。
あたしが狙うのは、逆ハールート、ただそれだけ!
あの子とは、一応、親友を続けてあげている。
主人公役と親友役が変わっただけだから、そんなに変わりないし。
ゲーム中でも、2人は仲良かったし、下手なことしちゃダメだもんね。
ある日、逆ハーメンバー勢ぞろいで帰ろうと校庭に出た。
右手に子野、左手に巳川、右二の腕に竜ヶ崎、左二の腕に狗山、背中を猪爪、右サイド髪を鳥丸、左サイド髪を虎井。
ちょっと、いきなりあたしを囲んで何!?
と思うと、いきなり鳥丸があたしに愛を囁き始めた。
そーゆーのは、2人っきりの時にして欲しいよね。皆の前だとキスとか出来ないじゃん。
表向きは、美形揃いの仲良し集団って感じなんだから。
まぁ、そうしたら、ウブな子野や竜ヶ崎が顔を真っ赤にして、他の逆ハーメンバーたちと争っている。
「やめて、私のために争わないでっ!」
と、言いながらももっと争え争えー!
あたしは誰のものでもないけど、というか、こんな奴らがあたしを自分のもの呼ばわりとかないけど。
1人の美少女を巡ってイケメン共が争うというのはいい。
少女漫画のヒロインとか、早く好きな奴選べよって思いながら読んでたけど、その立場になるとうん、これは選べないわー。
「ごっ、ごめんね、華にこんなところ見せるなんて」
「…… 申し訳ありません。華さんにお見苦しいものを」
子野と狗山を筆頭に逆ハーメンバーたちが次々と謝る。
あたしは、儚げな笑みを浮かべ、気にしないでと言う。
男たちは、あたしの笑顔に今にもとろけそうって感じ。
あたしって、健気で可愛いーっ!
______ そんな時だった。
「っ!?」
ふと上を見上げると、第2校舎の3階の窓からあの子の顔が見えた。
それだけならいい。むしろ、あたしを見てどんなに羨ましがってんだろってもっといちゃついてあげるんだから。
でも、あたしはその隣にいる黒髪の男が気に入らなかった。
黒野渚。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳。
クール系イケメンって言うの? とにかく、人には結構冷たいんだよね。
男友達とは普通に仲良さそうだけど、女の子とは事務的なことしか話してないみたいだし。
ゲームではモブだけど、イケメンだし、攻略キャラを攻略して、完全にコントーロールしたら攻略してやろうと思ってた内の1人だ。
「…… な、んで」
何で、あの子の隣に彼がいるっ!?
あの子には、少なくともこの高校生活の内には男となんて無縁の生活を送るくらい、男から引きなしてやったのに!
何で、何で、あの子の隣に男がいる!
「………… 華、どうした?」
「え? あっ、ごめんね。ちょっと考え事してて」
しばらくぼぅっとしていたのか、猪爪が心配そうにあたしの顔を覗き込む。
危ない、危ない。
こんなんでキレたりして、逆ハーメンバーがどっか行っちゃうなんて、冗談じゃないもん。
あたしは、また笑顔を浮かべると逆ハーメンバーたちと共にしぶしぶ学校を後にする。
本当はもっと見てたかったけど、これ以上ここにいたら怪しまれるし。
明日、また観察してみるかなぁ。
「じゃ、行こっか」
もう1度だけ、と校舎を振り返ると、窓際にいた2人はどんどんと奥の方へ行く。
何故か、あの子は顔を青くすると、入口あたりに走った。
それを、彼は笑顔で引き止め、あの子の腕を掴む。
…… もしかして。
あの子、あたしを妬んであたしの弱味でも握ろうとしてたんじゃない!? それで、密かにあたしを好きな黒野は弱味など握らせるかとあの子を脅した、とか!
うーわー、少しでも、あの子に嫉妬したあたしがバカだった。
そうだよね、あたしそっちのけであの子がイケメンと仲良くなれるわけないじゃん!
だけど。
数秒後。
何故かあの子の腕を掴んだままの黒野は、黒い笑顔で器用に両手をあの子の頬に添える。
そして、何か告げると頬から手を離した。
あの子はほっとしたように息を吐き、教室から出ようとするが____ それをまた黒野が引き止め、慌てて振り向いたあの子は後ろへよろめき、その腕を掴んでいた黒野と共に。
それから、窓からはあの2人の姿は見えなくなった。
何、あれ。
何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ。何あれ!
「華ちゃん?」
「華、どうした。具合が悪いのか?」
「…… 華、保健室に」
「だ、大丈夫だよ! 迷惑かけてごめんね、歩くん、司くん、遣都くん! 皆も」
………… 明日からあの子を見張らなくっちゃ。
あたしは、逆ハーメンバーに笑顔を振り向きながら、そんなことを思った。
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「おはよう、葵ちゃん」
「おはよう、華ちゃん……」
翌日、家まで迎えに来させた子野と共に登校し、教室へと入る。
既に登校していた隣の席のあの子に声をかけると、疲れたような返事が返ってきた。
…… やっぱり昨日、黒野と何かあったよね。
あんなイケメン、あんた何かが近付いて良い相手じゃない。
あたしは、さりげなく探りを入れることにする。
「葵ちゃん、どうしたのー? 疲れてるみたいだけど、寝不足?」
「え…… 寝不足、そうか寝不足なのか…… うん、まあ、寝不足と言えば寝不足かな」
寝不足と言えば寝不足って何よ。
そんなあの子のつぶやきに少しイラつきながら、もう少し具体的なことを聞き出そうとする。
「そうなんだぁ。でも、何か寝不足だけには見えないよ。本当にどうしたの? あっ、もしかして彼氏でも出来たっ!?」
あたしは、あんたに彼氏何て一生作らせたくないけど。
このこの、と肘でつつきながら茶化すように聞いた。
「あはは、華ちゃん、私に彼氏なんて出来るわけないよ。いや、本当に寝不足なだけだから」
「…… ふーん、そっか」
これ以上、この子は喋らない。
後で、逆ハーメンバーでも使って調べさせるか。
あたしは、また作り笑顔を浮かべると、席に着いた。
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「よう、霧鷺! この前はタオル貸してくれてありがとな! これ、返すぜ!」
「…… はい? いや、紅原先輩。これ、差し上げるって言いましたよね。返していただかなくて結構だったんですけど……」
次の時間が移動教室だったため、あの子と廊下を歩いていると前から紅と茶が混じったような髪色の男が歩いて来た。
確か、サッカー部の部長で彼が入部してからはサッカー部は無敗だとか。
気さくなイケメンで、モブだけど攻略対象を攻略したらあたしの逆ハー入りを控えている男の1人だ。
「っ!? …… ん? あれ、葵ちゃん、紅原先輩と知り合いなの?」
「えーと、ああ、まあ、一応。というより、この前校庭歩いてたら居残り練習してて、タオルなくしたって言ってたからあげただけ…… って、だから良いです、差し上げます! 返さなくて大丈夫です、むしろ返さないで下さいって!」
「だから、オレ、こういうのはちゃんとしておかないと気が済まないんだって! ちゃんと洗濯してあるから大丈夫だぞ! ………… ん、って、え、君、オレのこと知ってんの?」
紅原、くっつくな!
あたしは、曖昧な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと紅原とあの子の間に入った。
「知ってますよー、紅原先輩、有名ですから。何でも、サッカー部の救世主、だとか!」
「あっはっは、そりゃあ照れるなぁっ………… っ、ちょ、ちょい待て霧鷺!」
「ごめん、華ちゃん、先行くね!」
軽くボディタッチをすると、紅原は照れたように頬をかく。
…… そうだよ、ちょっと知り合ったのがあたしより早かったってだけで、紅原だっていつかあたしに恋をする。
だけど、何故かあたしたちが話しているのを良いことにあの子はさっさと教室に行こうとダッシュする。
それに気付いた紅原は、あの子を追うようにしてあたしの前から姿を消した。
____ 何で。
「こんにちは、葵さん。お怪我は治りましたか?」
「ああ、霧鷺君か。この前は手伝い、ありがとう」
「やっほー、葵ちゃんっ! はい、僕がお菓子あげるっ!」
それから、あの子と一緒に行動していると、様々なイケメンに遭遇した。
フェロモンダダ漏れイケメン青葉、正義風紀委員長緑川、ショタっ子白石。
それが、全部あの子と知り合いなのだ。
あの子は早く会話を終わらせようと必死なみたいだけど、イケメンたちはそれを許さない。
何でよ、何であの子なのよ。
あの子より、あたしを見てよ。
あたしの方が可愛いじゃん。あたしの方がキスだって上手いよ? あたしの方が凄いよ。
____ 何で、あの子なの?
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「さあ、お昼だね、華ちゃん! ということで、梅雨だから最近は教室で食べていたお弁当だけど、今日は誰も来ないようなここから離れた空き教室でご飯を食べようか! 早く行かないと空き教室が取られるからね! ダッシュで行こう、ダッシュで!」
「ちょっと待とうか、霧鷺さん?」
4時間目の授業が終わり、スクールバッグからお弁当を取り出そうとするとあの子がいつもじゃ信じられないくらいの早さであたしに駆け寄る。
どっちかと言えば、普段はあたしが誘ってあげてるのに、今日は何なの。
あたしがお弁当を持ったのを見ると、急いで教室から出ようとする。
だけど、それはあの子の肩へ手を置いた黒野によって封じられた。
「ひっ! …… く、黒野君、どうしたの?」
「ちょっと、霧鷺さんに用があって。花京院さん、今日はお昼、巳川先輩か鳥丸先輩とでも食べててくれないかな?」
「えっ、ちょっ、うわあああっ!」
昨日見た、黒い笑顔を浮かべた黒野はあたしの承諾も聞かずにあの子の腕を掴み、どこかへ引きずって行く。
あたしは、去って行く2人の背中を見ると、笑顔を浮かべ、お弁当を机に置いたのだった。
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黒野とあの子が向かった先は、昨日と同じ空き教室だった。
え? 何であたしがそんなこと知ってるかって?
決まってるじゃない、尾行してるの。
あの子は中々口を割らなさそうだし、あたしの男と女が仲良くしてるなんて許せないし。
「ねえ、霧鷺さん。聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
「な、何かな黒野君……」
幸いなことに、教室がある廊下には誰もいなくて、あたしはドアの前にしゃがんで聞き耳を立てた。
中からは、若干声のトーンが下がった黒野の声とそれとは反対に上ずっているあの子の声が聞こえてくる。
「何で、紅原先輩、青葉先生、緑川先輩、白石君と仲良くなってるのかな? 紅原先輩にタオルなんて何で貸したの? 青葉先生に名前覚えられるくらいに保健室行ってるの? 風紀委員会の仕事、手伝ったの? 白石君にお菓子もらうくらいになってるの? 昨日の忠告、聞いたよね?」
「い、いやいや、言い訳みたく聞こえるだろうけど、紅原先輩は校庭通ったら、居残りで練習してて、調度通った私にタオルないかって声かけてきたから渡しただけで! 声までかけられて、持ってるのに渡さないって言うのは人としてどうかと思って! だから、フラグちゃんと折ったよ。タオルあげるって言ったよ、私。怪我したら保健室に行くのは当たり前の行為であって、1回しか行ってないし、風紀委員会も紅原先輩と同じく困って手伝ってくれって言われただけで! 白石君は、いきなりぶつかって、それからは会うたび抱きつかれているだけであって、私はフラグからは逃れている!」
「言い訳みたく聞こえる、か。あれ、何で霧鷺さんは俺に言い訳しなきゃいけないのかな?」
「い、いや、それは質問されたから答えただけで、言い訳みたくって言うのは不可抗力と言うか! まあ、とにかくこれで聞きたいこととやらは終わりだよね、というわけで私はこれで!」
まずい、見つかるっ!?
あたしは、隣の空き教室へ逃げようとするが、次に聞こえた言葉で固まった。
「葵」
「…… は?」
あの子もあたしと同じだったようで、ドアを開けようとしたところを黒野に捕まったらしい。
部屋の奥へと引きずられるようたようで、あたしはドアの前までゆっくりと戻った。
「ちょっと待とうか、黒野君。何で私の名前を呼ぶのかな?」
「これくらいしないと、あの人たちには分からないから。あ、それとも葵にも分からせてあげようか? そうだ、今から昨日の続きする? 」
「き、昨日っ!? …… 黒野君、私はレーティングCまでのゲームしかプレイしないことにしてるんだよ。だから、DとZに足を突っ込みそうなものは絶対にやりたくない」
「昨日は葵から誘ってきたのにねー」
「誘ってないから、つまづいて腕をつかんでいた黒野君もろとも床に転んだだけだから」
「人はそれを押し倒した、と言うんだよ葵? 昨日は未遂に終わったけど、せっかく顔が近かったんだからしちゃえば良かったね」
「あははー、黒野君は冗談が上手いねー。…… いや、やめて下さい、黒野君本当にどうしたの!? 昨日とのキャラの違いが凄いよ!?」
…… 見えなくなったのは、押し倒したんだ。
腐ってもヒロインって言うこと? だから、この子は天然で押し倒しイベントなんて出来るの? あたしは、いちいち計画しなきゃ出来なかったのに。
て言うか、ねぇ、この光景、何なの?
まるで、黒野があの子を好きなみたいじゃん。
ありえない。ありえない。ありえないよ。
あたしは、こんなの絶対に認めないよ? イケメンは、全部、あたしのものなんだよ?
今さら、ヒロインとか、ないんだよ?
この世界の主人公は、あたしなの。
あたしがヒロイン乗っ取ったんだよ。
だから、あたしが主人公なんだよ?
ただの親友____ ううん、モブが、主人公と同じなんて、許されるわけがないんだよ?
だから、教えてあけるんだ。
「ねえ、葵ちゃん」
「何? 華ちゃん」
放課後。
あたしは、黒野があの子に話しかける前に声をかけた。
「____ ちょっと、いいかな?」
ヒロインは、あたしだって言うことを。