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女って・・・

 かえりたい……

大安売り! 卵1パック50円先着50名様&トイレットペーパー12ロール100円お一人様2つまで!!

 母さんが隣で呪文のようにブツブツとつぶやいている。っていうか朝早くからなぜ僕が開店前のスーパーで大安売りの行列に参加しなければいけないのさ。ちぇっ、とても憂鬱。

 横で鼻息荒くしている母さんに気づかれるか気づかれないかくらいの具合いで1分くらい睨み続けてみたが、母さんの頭の中は開店してから店の中に入るまでのシュミレーションやどういうルートがより最短かつリスクが少ないかを考えることでいっぱいのようだ。

 僕が普段母さんに頭が上がらないのをいいことに、ひたすら召使いのように扱う。

 だいたい卵なんて昨日別のスーパーで安いからって98円で買っていたばかりなのに、悔しいからってこっちのスーパーでも買わなけりゃ損するだろって、その理屈が意味不明。

なんでお前気づかなかったんだって殴られたし。しかも布団たたきで。この母親には理解に苦しむことしばし、全く、だ。

 ぎぃやぁーーーーーーぁーーーーーーーぁーーーーー!!

という歓声とも悲鳴とも言いがたい身震いするほどの大勢の声と共に店の扉は開かれ、命が惜しければ大波に逆らわないのが必須条件だというように体が無意識に順応したため、たくましいマダム達の波に押されまくりあやうく窒息で絶命するかもしれないと一瞬頭によぎるほどだった。

 僕が生死の境目に立たされている最中に、母さんがアメフト選手のように他のマダムにタックルをかましている姿を遠くで見たときは、ちょっと死んで見てもいいかなとも思ってしまった。

絶対骨にいってるだろうってくらい、母さんは全く容赦というものは持ち合わせていないようで。なるほど。日々トレーニングをしていたのはこのためだったのね。

 しかし、自分の身に襲い掛かる危険にはとても慎重になっているのか右手にはどこからか(多分陳列されているワゴンから引っ張りだしてきたんだろうけど)見つけてきたフライパンを持ち攻撃を仕掛けてくる他のマダムから身を守っていた。まるでその姿は血の飛び交う戦場で闘う兵士のようで、とても平穏な主婦を送っているようには見えなかった。

 こんな母から生まれた僕に果たして幸福は巡ってくるのだろうか……

 ふと頭によぎったことだが、母を一人の女性として考えたことは今までなかったが、なぜかこのときの母の姿=全ての女性の真の姿を意味しているようで僕の心は好きな女の子に振られた時のような、何ともいえない複雑な心境になってしまった。 

「おいっ! 早くこっちこい!! てめぇいつまでそこに突っ立ってんだ! ハゲ!」

 あちらでとても女性らしくないお言葉遣いでわたくしのお母さまが叫んでいらっしゃいます。興奮のあまりそうなっているのは分かるけど。でも、たかがスーパーの安売りでここまで人が変わるというのもちょっと……また僕には理解不能。

「母さんさぁ……落ち着きなよ。みっともないじゃんさぁ……」

「お前、この状態で落ち着いてみな! 即あの世行きだろ!」

 うむ。ごもっとも……

って落ち着いてる場合じゃなくて。

「ほら、お前も命が惜しいならば死ぬ気でかかれ! 敵は容赦してくれはしないぞ!」

 何の照れもなく本気でそんなセリフを言うとこらからして、母さんは闘う兵士になりきっているようだった。いや、奥さんどこからどう見ても立派な兵士でございます。

そんな状況を楽しんでいるのだろうか。目的は卵&トイレットペーパーの奪還というところでしょうか。

また、ここぞとばかりに普段からの有り余った自分の力を撒き散らすことができるのだから、目的を達成する以外にまわりの敵兵への攻撃は惜しまないように見えて仕方ない。

 あぁ〜押すわ押すわ、でかい尻もここでは立派な武器じゃないですか! お、今度は平泳ぎ。あの水かきは人間をかき分けるのにも対応してたんですねー。すごいですねー。

戦利品を勝ち取った母さんは僕もちゃきっとレジに並ぶよう命令し、最後の仕上げさえもたかが卵とトイレットペーパーのためにどんなミスも許さないようで。そしてただ頭数のためにだけ、息子を自身の戦にかりたてたんだろう。

 主婦というものは日々このように身を削る思いをしてまで安いものには目がなく、どのような手を使ってでも欲しいものは手に入れたいのだろうか。

その割に、意外と大半の人は安さ上の付き物なのか購入することに満足してしまい、冷蔵庫の中にはまだかまだかと今も舞台の袖で出番を待ち望むも空しく、フレッシュな新人に先越されて主役を持っていかれた者たちがいることを知っているのだろうか。

僕には主婦になれる気がしない。自信がないです。あっぱれです母さん。


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