プロローグ
僕は生まれたときから、死ぬ運命だった。
忌み子と呼ばれる存在として生まれてきた僕は、一族から忌み嫌われ、そして、僕の父である九条 雅人に殺される筈だった。
しかし、僕の母である九条 八重に助けられた。
母を愛していた父は、この子を殺さないでほしいと母から懇願され、一族が話し合った結果、僕を牢屋に監禁し、一切、僕を外に出すことを禁止することで僕を生かすことに決めた。
僕がまだ、生まれて一年も経っていない頃だった。
物心がついたときには、自分の世界は暗く狭い牢屋でしかなく、外の世界など全く知らない、ただ運ばれてくる食事を食べ、寝て、起きてを繰り返す人形でしかなかった。
僕もそれを疑問に思わず、ただ受け入れているだけだった。
そんなある日、僕は、僕を世話する優しい母と使用人以外の人と接触することになる。
女の子だ。つぶらで大きくて、何も知らない純粋で無垢な瞳で、牢屋の木材でできた扉越しにこちらを見てくる。
「あなたは誰?」
女の子が訊いてくる。
「…九条 千尋」
ぶっきらぼうに答える僕に対し、女の子は合点があったような表情をしてにこやかに答えた。
「じゃあ、あなたが私の弟なのね。よろしく初めまして。私の名前は九条 千鶴。あなたの双子のお姉ちゃんだよ」
それが、僕と千鶴姉さんの初めての…全ての始まりである出会いだった。