表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力ゼロの色なき少女は、魔法を解きながら居場所を探す  作者: 稲野翔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/7

第7話 手放したくないもの

「……助かった」


最初にそう言ったのはミロだった。へたり込んだまま、胸を押さえている。


「ほんとに死ぬかと思った……」


リオはまだ警戒を解いていなかった。倒れた灰喉鳥の一羽を短剣でつつき、完全に動かないことを確かめてから、ようやく息を吐く。


「巣だな。少なくとも四羽。行商人が襲われたって話も本当らしい」


それから、リオはイレナを見た。


昨日のように、距離を測る目ではなかった。まだ警戒はある。迷いもある。だが、それだけではない。


「お前、魔力は見えないのに、何でそこまでわかる」


イレナは少しだけ迷ってから答えた。


「身体の動きです。喉が膨らむ前に首の筋肉が固くなる。跳ぶ前は脚に先に力が入る。魔法を使う時も、人も魔獣も、何かをする前に必ず身体が動くので」


ミロが目を丸くした。


「そこを見てたの? 僕なんて、魔法が来るとわかった時点で頭が真っ白だったのに」


「私は、その前触れが見えないから」


その言葉のあとに少しだけ沈黙が落ちた。


色なき民。


その事実はやはり空気を変える。隠せばよかったのかもしれない。だが今さら遅い。


リオは石壁にもたれ、しばらく黙っていた。やがて言った。


「……怖くないわけじゃない」


イレナは黙って聞いた。


「色なき民のこと、俺は噂でしか知らなかった。関わるなって、そういう話ばかり聞いてきた。だから昨日も、正直どうすればいいかわからなかった」


リオはそこで視線を逸らし、倒れた灰喉鳥の死骸を見た。


「でも、さっき俺らのことを助けてくれたのは、お前だ」


言葉はそれだけだった。けれど、それ以上に必要なものもなかった。


イレナは小さく息を吐いた。


「……ありがとうございます」


「礼を言われるようなことはしてない」


リオはぶっきらぼうに返して、腰のポーチを探った。その中から、小さな石を一つ取り出す。


淡い青色の色石だった。


「これはやらない。まだお前には使えないだろうしな」


そう言ってから、石をまた戻す。


「ただ、色石の投げ方くらいは、今度教える」


イレナは目を瞬いた。


それはつまり、次も一緒に行く前提の言い方だった。


ミロがにやりと笑う。


「お、リオが珍しく親切」


「うるさい。報告に戻るぞ」


リオはそう言って歩き出した。


だが今度は、荷物を持てとも、そこにいろとも言わなかった。ただ自然に、三人の歩幅が揃う位置にイレナがいた。


帰り道、旧水路を抜けたあたりで風が吹いた。


灰草が揺れ、乾いた匂いが鼻を掠める。


イレナはその中を歩きながら、何度か胸の奥の感覚を確かめた。


名前を呼ばれた。


役に立った。


それだけのことなのに、胸の奥に小さな火が灯ったようだった。


自由都市の門が見えてくる。


灰色の石壁。灰色の空。何も変わっていないはずの景色が、ほんの少しだけ違って見えた。


ギルドで報酬を受け取ったあと、別れ際にリオが足を止めた。


「明後日、また依頼板を見る」


イレナは顔を上げる。


「来るなら遅れるな」


短い言葉。


だが今度は、はっきりと名前が続いた。


「イレナ」


リオはそれだけ言って、先にギルドを出ていった。


ミロがイレナにひらひらと手を振って、その後を追った。


イレナはひとり、その場に立ち尽くした。


首に下がる銅の札は相変わらず軽い。けれど昨日までとは違う重みが、確かにそこにあった。


最底辺の札。色なき民の少女。


それでも、この街のどこかに、自分の立つ場所がほんの少しだけ生まれた気がした。


まだ小さい、消えそうな場所だ。


けれどイレナは、そのかすかな熱を手放したくないと思った。

読んでいただきありがとうございます。

「続きが気になる」「雰囲気が好き」と思っていただけたら、ブックマークや評価、感想、レビューをいただけるととても嬉しいです。

ひとつひとつが執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ